【完結】神刀ノ巫女   作:兼六園

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四季編
春雷


 ──年の瀬に起こった世界が終わるか否かの瀬戸際の戦い。その際に、三人の刀使が隠世の果てに消えてから約四ヶ月。

 

「今日も平和だねぇ~っと」

 

 公園のベンチに腰掛ける青年は、缶コーヒーを啜りながらそう呟く。

 青年──藤森勇人は晴れた青空を見上げて、当時の夜空を思い返しながら言う。

 

「青い空、白い雲、相変わらず出現する荒魂、情報が全く集まらない大荒魂シキ……うーむ、四捨五入して実質平和とも言える」

『馬鹿か貴様』

「…………あーあぁ」

『ため息のつきすぎで、もはや逃げる幸せその物が無くなっていそうだな』

「そうだな」

 

 脳裏に響く少女の声に、勇人は何度目かのため息をついてから言った。

 

「──これで消えたはずの大荒魂(タギツヒメ)の幻聴が聞こえてさえ来なければ文句無しなんだけどな」

 

 ()()()()を画面を消した端末の反射で確認しながらぼやく勇人に、声の主──隠世の果てでノロとして吸収、消滅した筈のタギツヒメが返した。

 

『無茶を言うな。我とてなぜ貴様の頭の中に居るのかなど皆目検討もつかん』

「片目だけ蒼いと中二病だし、突然聞こえてくる幻聴に反応すればイカれてると思われる。俺がいったいなにをしたって言うんだ」

『我を取り込んでおいてなんの影響もないと思ったのは浅慮だと言わざるを得ないな。御刀越しなら問題ないだろうと油断した貴様が悪い』

「わっはっは、正論を言いなさる」

 

 辺りに人影が少ないからこそ堂々と幻聴(タギツヒメ)を相手に会話を交わせているが、これが知り合いの傍での行動なら間違いなく『隠世の果てでなにかあったのか』と疑われることだろう。そして、事実であるからこそ質が悪かった。

 

「あれから二ヶ月……合わせて半年経過したのに影も形もない。もしかして大荒魂シキってもう死んでるんじゃないか?」

『……仮にそうだとして、問題はそれだけではあるまい。皐月夜見から聞かされただろう、年の瀬より以前に、秋田の孤児院跡地で我のような白い刀使に襲撃された──と』

「大荒魂は……複数居るのか?」

『居はするだろうが、表に現れて暴れるような奴がこう短い期間にポンポン出てきてたまるか』

「だよなあ」

 

 飲み終えた缶コーヒーを手元で玩ぶ勇人は、ううんと悩むように唸り声をあげる。

 

「まあなんとかなるか。そんじゃあ、機動隊本部にでも行くか。親衛隊改め特別遊撃隊のリーダーになった薫を煽ってやろう」

『貴様そのうち刺されるぞ』

「さんざん俺を切り刻んだ奴のセリフか──」

 

 呆れた表情で立ち上がる勇人だったが、最後まで言い切る前に、眼前に()()()()()人物に意識を向ける。コートを着込み、目深にフードを被っているその人物は、身長と輪郭から少女であると確認できた。

 

「どちらさん? 悪いけどサインはお断り──「お前、タギツヒメのノロを取り込んだのか」

『──っ! 藤森勇人!』

 

 遮るようにそう言った少女の言葉に反応して、タギツヒメは声を荒らげる。

 

「……噂をすればなんとやら、か。まさかずっと探してた奴が向こうから来てくれるとは」

「──()()()を渡せ。そうすれば、殺さないでおいてやる」

 

 少女は頭を振ってフードを取りながら、そう言って勇人に言葉を投げ掛ける。

 白い髪にオレンジの瞳、そして病的なまでに色白の肌が、彼女が人間ではない証拠だった。

 

「大荒魂シキ──いや、刀匠・星月式だな。娘ってのは……俺の朧月夜のことか」

 

 隠世の浅瀬に仕込んでいた御刀・朧月夜を取り出す勇人。それを見て、シキは表情を変えないながらも、その声に怒気を含ませる。

 

「お前のものではない、俺の娘だ。なぜ男が適合できているのかは知らんが、返す気が無いなら……殺してから奪うだけだ」

「話し合いで解決できない?」

『無理だな』

「そこをなんとか」

『我を相手に値切るな』

 

 小声でタギツヒメと会話をする勇人を前に、シキは身をよじってコートを脱ぐ。すると、その体の異常さに勇人は驚愕して目を見開いた。

 

「……なんだ、そりゃ」

 

 ──シキの両腕が、付け根から指先まで存在していなかったのだ。

 まるで『元から無かった』かのように断面には滑らかな皮膚が存在し、華奢な体格と合わさって神秘性と畏怖が同時に表れている。

 

「構えろ、せめて剣士として死なせてやる」

 

 そして、シキがそう言うやいなや、彼女の背中──肩甲骨の辺りから4本の腕が伸びた。荒魂の甲殻のような黒い物体の隙間からは、鮮やかなオレンジの流体がマグマのように流れている。

 

「──【薫風】」

 

 シキは続けてそう言い、腕の代わりとして現れた『それ』のうちの一本に、虚空から現れた一振りの御刀を握らせる。

 勇人やかつての折神紫(タギツヒメ)と同じように隠世の浅瀬に仕込んでいたのだろう御刀を構えると──

 

「…………は?」

「死ね」

 

 ──その御刀が、シキの真上で数えるのも馬鹿らしくなるくらいの量に()()する。そして全ての御刀の切っ先が勇人に向くと、一拍置いて、凄まじい速度で降り注いだ。

 

 

 

 

 

 ──数分前、機動隊本部の廊下を歩く燕結芽は、隣を追従する糸見沙耶香に愚痴をこぼす。

 

「ねー沙耶香ちゃーん、今日もう仕事無いの暇なんですけど~」

「仕事がないのは荒魂が減って平和な証拠。悪いことではない」

「そうだけどさぁ、暇なものは暇なのー。隠世の果てから帰って来たおにーさんとか可奈美おねーさんと立ち合いしたいのにぃ」

「勇人はともかく、可奈美と姫和はこっちに戻ってくると言っていた。たぶん、このあと何度か立ち会う時間はあると思う」

「ほんとっ!?」

 

 あやすように言う沙耶香に、結芽は飛び上がらんばかりに気分を高揚させる。

 ──言わない方が良かった、かも。と独りごちる沙耶香だったが、不意に感じ取った気配に、結芽と同時にその方向へと反応した。

 

「──誰?」

「侵入者、かな?」

 

 コートとフードで体と顔を隠す二人の人物。そんな二人が()()()()()ことに、沙耶香は村正を構えながらも疑問を覚えた。

 

「……侵入者なら、おかしい。どうして()()()()()()()()()?」

「──そりゃそうだろ。アタシらは、たった今ここに来たんだからな」

 

 沙耶香の疑問に、あろうことか侵入者のうち背の高い方が答えた。そう返しながらコートを脱ぎ去る侵入者に──結芽は見覚えがある。

 

「──あー! あの時襲いかかってきた奴!」

「おいおい失礼な小娘だな。アタシには剣崎(けんざき)京子(きょうこ)っつーれっきとした名前があるんだよ」

「……人間……?」

「どっちかっつーと……半人間半荒魂? 荒魂モドキというか……荒魂人間というか」

 

 要領を得ない説明に眉をひそめる沙耶香と結芽は、京子と名乗る女性が、横に立っている少女に小突かれる様子を見ていた。

 

「なにベラベラと情報を明かしてるんですか。私たちの目的、忘れてません?」

「おう、おう。忘れてねえよ」

 

「目的ぃ?」

 

 にっかり青江を抜きながらそう呟く結芽に、京子はあっけらかんと答える。

 

「──ジジイが勇人から御刀を奪うまでおめーらの足止めするっていう目的だよ」

「へぇ……やってみなよ」

「結芽。油断は禁物、ここまで堂々としているからには、出来るだけの実力がある」

「その通り。──【春雷】」

「はぁ……。──【綿雪】」

 

 京子と少女は、そう言ってそれぞれが手元に御刀を呼び出す。バチリと鮮やかなオレンジの雷を纏って、京子は獰猛に笑った。

 

 

 

「こっから先は、まばたき厳禁だぜ?」

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