「おーおー頭に『
「そりゃそうでしょうよ……」
「なん……いや、は……?」
京子と幸を見て、勇人の思考は混乱し、考えが纏まらない。脳裏に響くタギツヒメの声も、今の勇人には届いていなかった。
「つーかジジイ、電話したんだから出ろよ。勇人と
「……持ってきてない。あんなよくわからんモノ、急に爆発したら困る」
「しねーよ中華製じゃあるまいし。ったく……江戸時代ジジイめ」
ふい、と顔を逸らすシキに京子は青筋を浮かべるが、そういえばと言って続ける。
「ちゃんと確認したのか?」
「…………」
「してねーんだな。お前が『本当に藤森姓なのか確認したい』って言うからこんな回りくどい手順で襲撃することになったんだが?
確認兼
「──なに?」
京子の言葉に、勇人の思考がようやく元に戻る。それとなくハンドサインで、どさくさに連れてこられていた結芽と沙耶香を下がらせつつ、朧月夜を握り直して立ち上がると詰め寄った。
「俺の名前を確認? じゃあ顔を見るなり襲ってきたのはなんだったんだ?」
「オイ」
「反省してる」
「ったく。……あのな勇人、ここに藤森センセの遺書──っつーか、とある書類がある」
「…………」
スパンとシキの頭をひっ叩くと、京子は懐から取り出した封筒を勇人の方へと器用に投げ渡す。以前に『それ』を奪われていた結芽が横で凄まじい表情を京子に向けているが、その事には気がつかないまま、勇人は中身を閲覧した。
「──これは、家系図……?」
「藤森勇人」
「…………なんだよ」
「お前は、
「……厳密には先生が俺に名字を使わせてくれてるってだけだが、それがなんなんだ?」
「それを読めば、俺の言いたいことがわかる」
シキはそれだけ言うと、四つ腕を縮めて黙り込む。はぐらかす言い方に小さく舌を鳴らしてから書類の中身である家系図を見た勇人は──確認すると同時に絶句した。
「────は?」
「俺の名字は『星月』だが、それは結婚してから変えた名字でな。元の名前は──
紙から顔を上げてシキを見る勇人は、
「俺の姉が刀使だったんだ……お前には最初から、御刀を使う素質があったんだよ。──
「……なんの冗談「──藤森
シキは勇人の言葉に被せて言うと、その視線を家系図の書類に移す。勇人も釣られて家系図を見ると──その上の方に、言われた名前と同じ名前の人物が存在していた。
「渚は俺の姉だ。その下……最近の血筋の辺りに、お前の知ってる名前も必ずあるだろう」
「…………」
「お前が俺との間に血の繋がりがあるのなら、そりゃあ
家系図を上から一人ずつ確認する勇人にそう言うシキに、ふーんと鼻を鳴らして京子が問う。
「じゃあ場合によっては勇人以外の男も御刀を使えるのか?」
「そうだな。まあ、御刀の大半は『少女の神秘性』という概念的な部分がないと力を引き出せないないわけだが……アレには娘の血肉と月の隕鉄が混ざってるからその限りではないんだろう」
「御刀はロリコン……ってこと!?」
「とんでもない俗物じゃないですか」
「ろり……? ……そうなんじゃないか?」
──若者言葉か。と京子と幸の方を見ながら小首を傾げるシキだったが、おもむろに息を呑んだ勇人にちらりと視線を向けた。
「居たようだな」
「藤森……
「誰だ?」
「藤森センセの名前」
勇人が指を置いた所にあった名前の側に書かれている、『祖父』の文字。その下にある夫婦の名前を辿り──その更に下に、飽きるほど見てきた、
「──俺は……先生の孫で……シキと血の繋がりがある……血縁者、なのか」
先生と呼び慕っていた男と眼前の荒魂と勇人の間にある、血縁者という繋がり。それを今になって嘘だと否定しようにも、勇人の頭は既に、その事実に納得してしまっていた。
「ふむ。潮時だな」
「……御刀、取らないんですか?」
「血縁者でもない、力も引き出せない、ということならお前たちを連れてくる前にそうしていたが……どうやらアイツは
「そう、ですか」
どこかホッとした様子で返す幸に、シキは無表情ながらも目尻を緩める。
「そこで気ぃ遣えるなら最初から話し合いでどうにかしろポンコツジジイ」
「その部分が頭から抜けてただけだ」
「…………ボケが進んでねぇかお前」
「あ?」
シキからでは見上げる形になるため、京子の苦虫を噛み潰したような顔は見えなかった。その言葉に疑問を覚えながらも、シキは四つ腕の一つに握らせていた小太刀──【黄落】を構える。
「……ふん。──警備隊と刀使が来る頃か、確認も終えたし今日のところは帰るぞ」
「あいよ。そんじゃな、勇人とガキども」
「もう来んなー!」
「んははは、またそのうち来るわ」
「……きょーちゃん、ゆき」
ぐしゃりと紙を握り締めて、勇人はシキの四つ腕を掴む二人を見る。
しかし三人はまばたきよりも早くその場から姿を消し、勇人たちは、遅れて到着した警備隊たちに無事を確かめられるのだった。
──後日、引退した折神紫に代わり、正式に立場を引き継いで当主となった折神朱音が作業している局長室で、勇人は心底疲れたようにソファに寝転がりだらけていた。
「──というわけです」
「そうでしたか……お疲れ様です」
「ねえ勇人さん、藤森先生と実は家族だった~っていうのは……嫌だったりするの?」
テーブルを挟んで勇人の向かいに座っていた二人──可奈美と姫和のうち、年の瀬の一件から僅かに髪が伸びた可奈美が問いかけた。
「いや、そういうんじゃなくて……なんというか……複雑? 色々とありすぎてもう頭がぐちゃぐちゃなんだよ。そりゃ死んだと思ってた昔の孤児仲間が二人も生きてたのは良かったし、俺に血の繋がりのある誰かが居たことも、それが先生本人だったことも良かったさ」
「……いっぺんに起こりすぎて、整理できていないのか。その気持ちはわからんでもない」
長い髪をポニーテールにしている姫和が、同情的な目を勇人に向ける。母に関わる因縁に長年苦しめられてきていたからこそ、勇人の抱える複雑な状況を察するのだろう。
「しかし、奴等の使う御刀は厄介極まるな。まさか四季四刀の全てに特殊能力があるとは」
「俺の朧月夜の『ノロを吸収し
「えーっと……『電気を纏っての高速移動』と、『御刀の分身とその操作』と、『瞬間移動』と、『重さの増減』だっけ」
手元の資料を捲って、可奈美が確認するように言う。勇人および結芽と沙耶香が戦闘した際に確認した能力を纏めたその資料をテーブルに起き直し、彼女はうーんと唸った。
「電気は姫和ちゃんの静電気モードと同じだから対処はわかるけど……御刀の分身とか瞬間移動とか重さの変化はわかりづらいなぁ」
「静電気モード……」
「もうちょいマシな名前付けてあげなよ」
「そうそう。カッコいいので頼むぜ」
「しょうがないなぁ────ん?」
突然割り込んできた第三者ならぬ四者の声に、可奈美が疑問符を浮かべて顔を上げる。
声の主を探って起き上がった勇人もまた──背後からずしりとのし掛かる何者かに反応した。
「──きょーちゃん?」
「よっ。またそのうち来るって言ったろ?
「……昨日の今日で来るやつがあるか」
驚いている可奈美と咄嗟に小烏丸の鞘を掴む姫和を前に、勇人は顔を後ろに向ける。
病的なまでの白い髪を後ろでひと房に纏めた女性──剣崎京子が、自分によりかかるようにしてソファの後ろに立っているのを確認して、勇人は悩みの種の襲来に重いため息をついていた。