【完結】神刀ノ巫女   作:兼六園

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綿雪

 京子は我が物顔で空いてるカップにティーポットから紅茶を注ぐと、反射的に()()()を演算して慌てて起き上がった勇人の上半身があった辺りにドカッと座り込む。

 

 スティックシュガーを4本纏めて開け、紅茶にザラザラと入れながら彼女は口を開く。

 

「んで、質問は?」

「色々あるけど……まず、きょーちゃんとゆきが生きていた理由が知りたい。ここが引っ掛かったままだとどうにもモヤモヤする」

「それもそうか」

「……待て、勇人」

「姫和?」

 

 紅茶を一口啜る京子が答えようとすると、それを姫和が止める。座り直しはしたものの、警戒はやめずに小烏丸を手にしたまま、眉を潜める姫和は京子に問いかけた。

 

「お前は本当に勇人の当時の知り合いなのか」

「信じられねーってか?」

「当然だ、お前からはファインダーを通して荒魂と同じ反応が出ている。それにその見た目──印象だけならタギツヒメと同じだ」

 

 京子は「そうかぁ?」と言って身をよじる。それから一拍置いて、おもむろに勇人を見た。

 

「じゃあなんか質問してみ」

「えー…………当時七歳の俺に起きた不幸とは?」

「七歳……小1の頃か。確か孤児院で飼ってた年寄りの猫が、お前のベッドで粗相したやつだろ? お前がおねしょしたと疑われたやつ」

「──正解。あれのせいで二週間くらいからかわれたのまだ覚えてるからな」

「くくっ、あれほんとに面白かったな」

 

「────?」

 

 そう言った京子の横で、背もたれと体で隠しながら勇人は端末でメッセージを飛ばす。

 

【話を聞き出します。警備隊と刀使は呼ばないでください、気配を察知されたら逃げられる】

 

 受け取った折神朱音がそれとなく机の上に置いたまま画面を開くと、その内容にまぶたを細める。ちらりと勇人を見るが、返ってきたのは『信用しろ』と言わんばかりのまばたきだった。

 

 

「勇人、哀れだな」

「なんか可愛いかも」

「……はい第二問。その老猫の種類と名前は?」

 

 姫和と可奈美の小声に反応しながらも、勇人は更に続ける。京子は考え込むそぶりを見せると、過去を思い返すように遠い目をして言う。

 

「珍しいオスの三毛猫だったよな。老衰で死んで、木の下に埋めた。名前は──おこげ」

「…………ああ、そうだ」

「まだ疑うかァ?」

「いや。……姫和、大丈夫だ。こいつは俺の知ってる剣崎京子だよ」

 

 勇人にそう言われ、姫和は仕方ないと言いたげに重くため息をつくと言葉を返す。

 

「──勇人が信じるなら、私も信じよう。だがその思いを踏みにじるような真似をすれば、私はその荒魂人間を斬る」

「お前の彼女こわ~~」

「……私は彼女じゃない」

「え?」

「なんで可奈美が反応した?」

 

 信じられないものを見るかのような表情で姫和と勇人に交互に顔を向ける可奈美。

 その顔の意味を理解できないまま、勇人は改めて京子に質問した。

 

「それで、あの時いったい何が起きたんだ」

「んー……そうだなぁ、10……いやもう11年前か。あの日、勇人と藤森センセが買い物に出掛けてから少しして、孤児院に──()()が入ってきたんだよ。それも三人」

「────は?」

「全員クスリでもやってたらしくてなぁ、目の焦点合ってないし話も通じないしで、あの時は大変だったな。アタシら子供は恐怖で動けないし、スタッフは子供を守らないといけない」

 

 ──で、グサリ。自分の腹を指で突きながら、京子はあっけらかんと言う。

 

「アタシとゆきは最後に刺されて、まだ息があったんだ。そんで強盗が逃げたあと、そこに現れたのがジジイ……大荒魂シキだった」

「何故そこに……いや、そうか。シキはその時から『藤森』を探していたのか」

 

 姫和がそう言うと、京子は頷く。

 

「それからジジイは、アタシとゆきに失った血の分のノロを分け与えた。適合しなかったら死んでたんだろうが、アタシらの体は偶然にもノロを受け入れちまったワケだ」

「じゃあ京子さんは……荒魂なの?」

「さあ? 知らねえよ前例なんかないし。言うなれば……半人半荒魂か? まあ体内のノロは7割くらいを占めてるけどな。二人揃って出血多量で死ぬ寸前だったし」

 

 可奈美の疑問をバッサリと切り捨てる京子。そんな彼女に、勇人は気になったことを聞いた。

 

「きょーちゃん、二人が生きていたなら、どうして当時の警察は()()()()()()()()ことになんの疑問も抱かなかったんだ?」

「ああ、その辺は情報伏せられてんのか。……そりゃそうか、ジジイの証拠隠滅のやり方、流石にちょっとグロすぎたし」

「なに?」

 

 眉を潜めた勇人に、メッセージを見て以降ずっと静観していた朱音が口を開いた。

 

「……勇人さん、当時の事件現場は『まるで荒魂の仕業のようだった』と、舞草の拠点で当事者のあなたは言いましたね」

「──言いましたよ」

「遺体をバラバラにされた猟奇殺人事件として処理された当時の現場の状況を、勇人さんは、詳しく覚えていますか?」

「……いえ」

 

 朱音の言葉に、勇人は視線を斜めに上げながら、記憶を想起させて答える。その隣で、京子は紅茶を飲み干してからふと言った。

 

「覚えてないのも仕方ねえよ。当時のこいつは八歳だ、遺体が原形を留めていないくらいグチャグチャだったのを覚えてられるワケ無いわ」

「……現場を荒らしたのはシキで、死体を破壊したのもシキだったのか」

「そうだ。アタシとゆきを連れ出すためにはそうするしかなかったんだよ。DNA……血は残ってるが死体は全部グチャグチャ。

 警察が優秀でも、あの場でこう考えるやつなんか居やしない。──本当に数は合ってるのか? ……なんて、そんなこと考えるやつは居ない」

 

 

 

 そう言い切って、当事者の一人である京子は、誤魔化すように目を逸らすと続ける。

 

「そこまでやったジジイの本来の目的を教えてやる。アイツはな……もうじき死ぬ」

「……なんだって?」

「──大荒魂シキは死にかけてる。その前に、お前に殺して欲しいんだよ、勇人」

 

 そう言った京子に、勇人の頭はただ、疑問から来る困惑に包まれていた。

 

「……なんで???」

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