【完結】神刀ノ巫女   作:兼六園

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前夜

「いえ、間違ってませんよ?」

「なんで居るんだよ」

「シキさんの【黄落】で」

「ワープはズルじゃない?」

 

 廊下に視線を左右させてから、勇人は部屋に入って後ろ手に鍵を掛ける。

 眼前で自分を見上げて微笑を浮かべる少女──九条(くじょう)(みゆき)は、敵の前線基地に忍び込んでいるようなものである現状に対して、あまり危機感を抱いていないようだった。

 

「……もしかして行ったことがなくても座標が合っていればそこにワープできるのか?」

「ええ、そうですよ。まあ……これを盗みなどの悪事には使っていない、とだけ」

「さいで」

 

 ──九条幸。同い年だが生まれが数週間早いからとやたらと姉ぶるヤツ。箸より重いものは持てないひ弱。……()()()、と脳裏で思考を纏めながら、勇人は対面に座る。

 

 万が一を考えていつでも朧月夜を抜けるように傍らに置きつつ、視線を向けた先でソファにちょこんと座る幸の言葉を待った。

 

「や~~、ちょっと見ない間にゆうくんも立派になっちゃって。あれやこれやとやってるうちに大荒魂を倒した英雄ですよ、英雄」

「わざわざ世間話をしに来たのか?」

「あは。そうしたかったんですけれどねぇ……単刀直入に言いますと、シキさんの寿命が近いです。思っていたよりも時間がありません」

「────」

 

 ──ですので、と言って幸は続ける。

 

「昨日の今日で申し訳ありませんが、早いうちに戦いましょう。二日後の昼、御前試合決勝のあの舞台に、ゆうくんと──貴方が選んだ刀使を二人だけ、合わせて三人で待っていてください」

「……他に誰かが居るとわかった場合は?」

「そのときは誰にも見つけられないような遠くに逃げて、()()()()()()()()()が死んだあとに、『再結合した大荒魂シキ』を適当な街に放ちます」

「お前今とんでもないテロ予告したな」

「こちらとしてもそんなことはしたくありません。……信じていますよ、ゆうくん」

 

 そう言い終えると、幸はおもむろに立ち上がり窓に近づく。そんな彼女に、勇人は問いかけた。

 

「ゆき、お前、どうやって帰るんだ?」

「行きは直接ここに。そして帰りは…………徒歩です。走ります」「えぇ……」

 

 隠していたローブを纏いフードで頭まで覆い隠すと、重いため息をついてから言う。

 

「タギツヒメを見ていたでしょうからわかると思いますが、私たちの体って()()()()()してるんですよね。夜だと物凄い目立つからこうして隠さないといけないんです」

「──大変だな」

「まったくですよ」

 

 あーはーは、と乾いた笑い声を上げながら、幸は開けた窓から外へと飛び降りていった。闇夜に紛れるように走り去る背中を見送って、勇人はポツリと独りごちる。

 

「お前、微妙に発光してたな。そういえば」

『うるさい』

「……そういえば、荒魂人間なのに、あいつらって携帯端末(スペクトラムファインダー)には反応しないんだな」

『反応したのは戦っていた時だけ……だったな。ふむ、なるほど』

「なにかわかったのか?」

『──そのうち話す』

「なんだよ勿体ぶって」

 

 それから反応を示さなくなった幻聴(タギツヒメ)に対してやれやれと頭を振って、勇人は体を伸ばしながら独り言を続けた。

 

「可奈美たちには明日話すか……疲れたし、今日は早めに寝────」

 

 窓を閉めてベッドへと足を運ぼうとした勇人は、不意に聞こえてきたノックに絶句する。

 

「…………んんんもぉぉぉおお……っ!!!」

 

 顔を両手で覆いながら、くぐもった叫び声を出す。一拍置いて先程の幸に負けず劣らずのため息をつくと、改めて扉を開けた。

 

「はい」

「藤森。少しいいだろうか」

「…………紫さま?」

 

 スンとした表情の勇人が開けた扉の前に立っていたのは、前当主・折神紫だった。

 

「どうした、もしや先客が居たか?」

「いえさっき帰りました」

 

 

 

 

 

 ──カチャリと紅茶の入ったカップを置いて一息つきながら、紫は勇人の言葉を聞き終えた。

 つい先程まで幸が居たことは伏せつつ、シキとの戦いが二日後に控えていることと──朧月夜との繋がりが途切れ掛けていることを明かす。

 

「……そうか。お前も、刀使を辞める時期だったか。19歳まで続けられていたのは幸運か──いや、或いは、この時にシキと戦うために延命させられていたか……だな」

「朧月夜はある意味でシキの娘ですし、止めて欲しいと思って唯一の血縁者である俺に力を与えたのだと考えるのが自然でしょうねえ」

 

 背もたれに体を預けて天井を見上げる勇人は、視線を下げて目の前の紫を見据える。

 

「藤森先生……いや、藤森篤さんは、自分と俺とシキに繋がりがあることを知っていた。だから紫さまに俺を保護させつつ、妖刀と呼ばれていた頃の朧月夜を手元に置かせたかった」

「……だろうな。誤算があったとすれば、彼が頼った私がタギツヒメだったことだろう」

「どうでしょう、アイツもなんだかんだ俺で家族ごっこをやってた節はありますし、あの人の選択は決して悪くはなかったと思いますよ」

 

 無意識に蒼い片目の目尻に指を這わせる勇人は、ふっと口角を緩めて紫に言う。

 

「俺がシキを倒して、ノロを回収して、刀使としての最後の仕事を終えて引退。これ以上ないくらい分かりやすい目標で助かるくらいですよ」

「……ふっ、そうか」

「連れていく刀使も可奈美と姫和以外にはありえない。あとは二日後を待つだけで、正直やることがないまであるんですよお母さん」

「お母さんはやめろ」

 

 立場上は親と言っても過言ではない紫だが、部下としての付き合いの方が長いせいで、()()呼ばれることには慣れていない。そんな紫は、少しして、思い出したように声をあげた。

 

「どうかしましたか」

「……お前と衛藤、十条は立派な戦力として日本各地に遠征させていることが多いな」

「──あ゛」

「二日後までの間に任務が詰まっている。スケジュールを考えると……明日までに片付ければ三人を纏めることは出来そうだが……」

「他の人に割り振るのは」

「おそらく無理だ」

「ですよねえ~」

 

 

 

 ──俺がやるしかないのか。勇人のその呟きに対しこくりと頷く紫を見て、彼はただただ静かに、天井を仰ぎ見ることしか出来なかった。

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