折神家、本殿白州。そこに残された姫和と可奈美、そして京子と幸。
四人は声に出すでもなく、しかし示し合わせたかのように、全く同時に抜刀していた。
「──タケミカヅチ」
「──【春雷】」
即座に姫和と京子はそれぞれが蒼と橙の雷を纏い、姿が消えたと錯覚する速度で光の尾を引きながら疾走する。観客席や白州を縦横無尽に駆けずり回る二人を余所に、可奈美と幸は千鳥と綿雪を構えてジリジリと互いに距離を縮めていた。
「勇人さんとシキはどこに行ったの」
「……さて、『暴れても問題ない場所に移動する』とは言っていましたが、それが何処かまでは説明してくれませんでしたので」
「……なんだか説明不足過ぎない?」
「ええ、まあ、はい。否定はしません」
ふい、と視線を逸らして呆れ気味にため息をこぼす幸。釣られて苦笑を浮かべた可奈美は────幸の小太刀を握る手がヒュンとぶれるのを捉えて千鳥を構える。
「づ……!」
「惜しい」
視線を逸らしてその先を
「もう既に特別遊撃隊の……あの子供達から情報は聞いているでしょう。私の御刀【綿雪】は、重さを変えることが出来ます」
「──振るときは軽く、当てるときは重く。言うのは簡単だけど……」
「その辺は慣れですよ」
あっけらかんとそう言いながら、幸は綿雪を振りかぶって可奈美に肉薄。
目で追うのも困難な軌道に、可奈美は一瞬だけ発動する迅移を思考速度の加速に利用して、綿雪の刀身に千鳥を合わせる。
ガンッ! ガンッ!! とおおよそ刀がぶつかり合っているとは思えない重低音が響き、剣戟の速度は徐々に増す。順手、逆手、右手から放り投げた綿雪を左手でキャッチして突き、かわされるのを見越してタックルのようにぶつかる。
咄嗟に受け止めようとした可奈美は、幸──が握る綿雪の重量操作により重さが加わったその体当たりで後方へと押し出された。
「うわっわわわっ……と…………?」
「流石は英雄。このくらいは対応しますか」
「────」
「おや、この呼ばれ方は嫌でしたか?」
「ううん、そうじゃ、なくて」
可奈美はなにか違和感を覚えたようで、眉を潜めてそう返す。自分の体と、幸の体を交互に見て、それからおもむろに問いかけた。
「ねえ、貴女ってもしかして──」
──同時刻、蒼と橙の雷を交差させるように幾度も衝突する二人。姫和が小烏丸から矢のように電気を飛ばすと、京子は砂利を蹴り上げて一発を落とし、残りを体を斜めに逸らして避ける。
姿勢を戻した体をパリパリと帯電させながら、京子は
「──ふ、ぅ……。アタシは流石にそういうの出来ねえんだよなぁ。ズルいぞー」
「知るか。能力の系統は同じなんだ、貴様にセンスが無いだけだろう」
「辛辣だなあ、もしかしてまだ彼女扱いしたことに怒ってんのか?」
「うるさい」
ピクリと眉を跳ねさせて、姫和は被せるように返す。京子もまたくつくつと喉を鳴らすように笑い、それから続けて彼女に問われる。
「……お前たちは、なぜシキの味方をする? 放っておけば人間として死に、荒魂として復活するとわかっているのなら、どうして我々に協力せず敵対の道を選んだ」
「んー、まあ~、そうだなぁ」
とぼけるような声色でそう返し、一拍置いてから、京子はさらりと言った。
「──恩人だから」
その声と表情だけは本心を語っていて、姫和は思わず斬りかかろうとした動きを止める。
「あのまま死んでたかもしれなかったんだ、多少人間を辞めることになっちまったが……助けられたのなら、恩は返さねえとな?」
「言わんとしていることは、理解できる」
「ま、アタシとしちゃあここで負けて死ぬのも仕方ないとは思ってるんだけどなぁ、お姉ちゃん的には勇人にゃ幸せになってほしくてな」
「そうか」
「もうちょいお話ししようぜ?」
──時間稼ぎをされている。
そんな直感が姫和の脳裏を過り、
「はぁ……キツい」
ぽつりと小声で呟きながら、京子もまた橙の電気を迸らせて対応する。
龍眼による未来視は出来なくなってはいるが、姫和の雷神は禍神になっていた当時に負けず劣らずの出力をしていた。
京子の【春雷】による電気もまた、姫和のモノと同じ系統の能力。御刀による能力か刀使が引き出す能力かで違いはあれど、根っ子は同じなのだ。だが、どこかおかしい。
「────」
姫和の脳裏にちらつく違和感。京子の焦りと、時間稼ぎをするような会話。
ただの疲労で片付けていいのかと思いつつ、自身と同等の速度を出せる相手であることに変わりはないため、油断は出来ない。
──それから都合数回打ち合い、春雷で小烏丸を受け流し、返す刀で逆袈裟に振り上げる動きを避け、再度返すように受け流された姿勢のまま峰側の刃を向けて振り抜く。
「っ──おっ、と、と」
雷で強化された速度を辛うじて避けきった京子だったが──その疲労はわかりやすいまでに積み重なり、流れる汗は電気の熱に蒸発する。
「……どうしたぁ、かかってこいよ」
「貴様、なぜそこまで疲れている」
「あん? こっちにも色々あんだよ……」
からからと笑う京子は、春雷を握り直して電気を流そうとして、体勢を崩して苦しんだ。
「──ァ、ぐ、ぅ」
「……なんだ……どうした!?」
「なん、でもねぇ……っ」
胸を押さえて刀を杖のように地面に刺す京子を前に、姫和は流石に驚愕する。
そして、その体を冷静に観察して、姫和はようやく京子に対する違和感に気づいた。
「……写シを張っていない……?」
その体が、写シに変換されていない。電気と荒魂人間特有の微量な発光のせいでわかりづらかったが、京子の体には、刀使の必須技能である身代わり──写シが張られていなかったのだ。
姫和はふと、荒唐無稽に近い、しかし真実なのだろうという確信めいた質問をする。
「……剣崎京子。お前たちはおそらく……体内のノロという負の神性で、御刀を半ば無理やり起動しているのだろう」
口で荒く呼吸する京子は、そのまま横目で姫和を見る。何も言えない状況だが、表情を歪ませて笑う動きが答えになっていた。
「お前たちは、厳密には刀使ではないんだ。電気を纏う能力を写シではなく生身で使って、耐えられるわけがないだろう……!」
姫和は、ちらりと見えた首もとの炭化した皮膚を見て、苦い表情でそう言った。