【完結】神刀ノ巫女   作:兼六園

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刃竜

「大人しく投降しろ、それ以上は死ぬぞ!」

「……はっ、お優しいねえ英雄様は」

 

 小烏丸を突き付ける姫和に、京子はバチバチと戦意を剥き出しにした電気を纏いながら返す。ジャケットを肩の動きで手短に脱ぎ、【春雷】を握り直す彼女は袖や裾の隙間から炭化した皮膚を覗かせながらも汗を垂らして言う。

 

「死ぬはずだった命を拾われて、その恩を返す。その過程で死んだとしても、そりゃあ『仕方なかった』ってやつでしかねえ。延長戦(ボーナスタイム)の使い時が、偶然、今だったんだよ」

「……剣崎京子……っ」

「そんな顔すんなっつの。ああ、生身の人間を斬るのが嫌って言いたいなら安心しろ、アタシらの人間要素は3割くらいしかねぇから」

 

 からからと笑う京子に対し、姫和は歯を軋ませる程に噛み締める。

 それは生身は斬れないというだけでなく、()()()()()()()()()勇人の知り合いを斬ってもいいのか、という葛藤を含んでいた。

 

「──姫和ちゃん!」

「っ、可奈美……」

 

 ガキィンと甲高い金属音を奏でて、人影が京子の横に飛んでくる。それを追いかけてきた可奈美が姫和の隣に立ち、二人に向け千鳥を構えた。

 

「お、ゆき~」

「きょーちゃん、なんでそう追い詰めるような言動をとるんですか」

「軟派な奴には勇人を任せられねぇし……」

「小姑」

「!?」

 

 まぶたを細めて短くそう呟いた幸に、京子は驚愕の表情で固まった。その漫才を横目に、可奈美は姫和におもむろに言う。

 

「姫和ちゃん、この人たち、写シを張ってない。たぶん体内のノロ……負の神性を使って無理やり利用してるんだと思う」

「わかってる。わかっているが……」

「──姫和ちゃん、姫和ちゃんが斬れないって思ってる理由、わからない?」

「なに……?」

 

 ちらりと視線を向けて、可奈美は小さく笑みを浮かべると、あっけらかんと返した。

 

「知り合いが死んだら、勇人さんが悲しんじゃう。そう思っちゃったんだよね」

「────」

「ならさ、簡単だよ。死なせないようにしながら勝てばいい。だって倒さなきゃいけないのはシキだけだもん、二人を殺す必要は無いよ」

 

 わざわざ京子と幸に聞こえるように言いながら、可奈美はにっと笑う。

 ()()()()()()()()()と察した姫和は、呆れたように薄く笑みを浮かべて雷神(タケミカヅチ)を起動する。

 

「やる気があって大変結構。だがまあ、どうせ死ぬなら勝って死にてぇよなあ?」

「なんで私も死ぬみたいな流れになってるんですかね……別に一蓮托生でも構いませんが」

 

 さらりとそう言って、橙の電気を纏う京子と並んで【綿雪】を構え直す幸。

 恩を返すために死ぬことも勘定に入れて戦う京子と、勇人の家族でもある彼女を死なせるわけにはいかない姫和たち。

 

 目的も理由もバラバラの四人の戦闘は、佳境へと入って行くのだった。

 

 

 

 

 

 ──同時刻、建設途中のコンクリートが剥き出しになっているマンションの中で、勇人は大荒魂シキの猛攻に防戦一方であった。

 

『──右から、二秒後……跳べ!』

「く、ぉおっ!?」

 

 たんったんっと跳ねるように逃げていたその直後にだんっ、と踏み込んで跳躍した勇人の真下を、無数の無機質な御刀の群れが通り過ぎる。

 濁流のようなそれらが通り過ぎたあとのコンクリートの床に着地して、勇人は脳裏に響くタギツヒメの声に反応した。

 

『おい、早く写シを張り直せ』

「無茶言うなよ……この状況で一回解いてもう一回張り直すとか難しいって」

『だったら一旦隠れろ』

「じゃあ隠れようとする度に俺がサボテンみたいになる演算結果(みらい)を見せるのやめろよ!?」

『そのお陰で死んでいないんだろうが』

 

 

 

 

 ──あ、ありがた迷惑……。と呟いて、写シの()()()()()()()()まま片足だけで立ち上がる。

 

「……はあ、お早いご到着で」

 

 ふと視線を移せば、その先には肩甲骨辺りから荒魂の甲殻のような装甲の四つ腕を生やしているシキが立っていた。

 ブブブブ、と空中に無数の御刀の分身が生まれる光景を見て、勇人は口を開く。

 

「──写シ張り直したいから5秒待ってくれ」

「断る」

「ですよねぇ!」

『────、下だ、床を砕け!』

 

 ひゅんと【薫風】の分身が殺到するのと、勇人が指示通りに床へと朧月夜を叩きつけるのは、ほぼ同時だった。

 人ひとりがかろうじて滑り込める大きさの穴を穿ち、下の階へと落下する勇人は、着地からすぐその場を離れて壁に隠れる。

 

「あれなんなんすか」

『あれ、とは』

「【薫風】、だったか。あれの分身能力は常軌を逸してるぞ。姫和の雷神(タケミカヅチ)はまあ……いいとして、本当に『刀使がいつか到達しうる階層の隠世の能力』で一括りにしていいのか?」

 

 片腕片足の取れた写シを張り直す勇人に、脳裏でタギツヒメが言葉を返す。

 

『恐らくあれの本来の使い方は、あの『御刀の形状を模した金属に限りなく近い性質の神力由来の模造品』を操作して荒魂を縫い止めたりするためにあるのだろう』

「……それを大荒魂クラスの大量のノロとそれによる負の神性で使うと()()()()のか」

『我と今のお前の龍眼もそうだな。【薫風】の能力もだが、演算能力が大荒魂と人間では雲泥の差ゆえに、発揮できるスペックが違う』

「嫌になるぜ……ったく」

 

 疲労を見せつつ、よっこいしょ、と掛け声を口にしながら立ち上がる勇人だったが──ふと、その体に纏う写シが明滅し始めた。

 

「なん……な、ん、うおぉっ!?」

『どうした』

「あっなっ──体が電池切れ寸前の懐中電灯みたいに点滅してる!?」

『…………ふっ』

「笑ってんじゃねえよ!」

 

 チカチカと、写シが剥がれそうで剥がれない状態。朧月夜との繋がりが途切れかけていると察して、勇人は指の関節で峰をコツコツ叩く。

 

「ちょっ、朧月夜! もうちょっと頑張って! ここを乗り切るだけでいいから!」

『御刀を応援する刀使……』

 

 呆れた声色を向けられながらも、やがて体に写シが正常に張り直され、ふぅと焦りを見せた勇人は額の汗を拭う動きを取る。

 

「──遊びは終わりだ」

 

 その直後、真後ろに【黄落】でワープしてきたシキが現れ、四つ腕の内の一つで勇人の背中を掴みながら再度ワープしその場から消えた。

 一瞬景色が歪み、そのあとに目に映ったのは、シキと()()()()()

 

「なっ……空中!? まずい、姿勢がっ」

 

 首を曲げて背後を見れば、その先には無機質な建設途中のアパートの屋上部分。

 ワープで空中に投げ出された勇人は、真上で【薫風】の力を行使するシキを捉え──シキの更に上空(うしろ)で大量の分身剣が生成され、集まり、束ねられ、形を成して行くのを捉える。

 

刃竜(じんりゅう)

 

 それは、刀で形成された()()()

 

「おいちょっと待てそれは無しだ────」

 

 竜が蠢くと、勇人の脳裏を掠めた嫌な予感通りに、身動きのできない自身の体へとそれが降ってくる。焼け石に水でしかない防御も意味が無く、凄まじい質量に押し潰されながら、アパートの屋上を突き破って一階へと落ちていった。

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