ガラガラと崩れる瓦礫。それを退かした勇人は、刃の竜に潰されて写シを剥がされた生身に突き刺さった御刀の分身を引き抜く。
「あっだだだだいでででででっ」
『手慣れたものだな』
「手慣れたくねぇよこんなの……今日で最後だ最後。決着……つけるぞ……!」
肩とヘソの横辺りに刺さったそれを抜いて、朧月夜の力で傷を塞ぎ、再度写シを張って天井の穴から離れる。すると、一拍遅れてダンッと肩甲骨から四つ腕を生やしたシキが落ちてきた。
「…………ふぅ」
「お疲れのようだな。お互い、まるで寿命間近で全力疾走でもしてるみたいだ」
視線を落として深く呼吸をするシキにそう言って、ぎしりと強く柄を握る勇人。
シキもまた、顔を上げて、小太刀──【黄落】を握る腕の一本を除いた三本に【薫風】とその分身、合わせて三振りを握らせて構える。
「タギツヒメ、ダメージは朧月夜で治せる。脳の負担は考えるな、演算の限界を引き上げて、シキの四刀流と分身剣の動きを全部見せろ」
『……死ぬぞ』
「そのつもりは無い」
断言する勇人に、頭の中の
シキはその会話を聞き終えると、少しずつ呼吸を深く長くし、目尻を細め、チリチリと敵意を高めて行く。そして、カランと瓦礫が落ちた。
「────!!」
刹那、高速で振り回される四つ腕を、勇人は迅移を絡めた動きで捌く。
一つを刃で迎撃し、そのままもう一つを柄頭で叩き、一つを足で蹴り上げた瓦礫にぶつけ、下から伸びてきた【黄落】を握る腕を踏んで、わざと撥ね飛ばされるようにして宙を舞う。
『分身が来るぞ』
「ぐ、っ、了解」
ズキリと頭に走る痛みを無視して、瞳を通して映る
『合図で八幡力を起動しろ』
「わかってる……!」
刀使の基礎能力──怪力を発生させる八幡力。大きく分類して5段階まで存在するうち、その最大である5段階八幡力は、起動時間が
ゆえにタイミングを演算し、発動を朧月夜で無理やり行う。写シでなければとっくに頭部が茹であがり出血しかねない負担が掛かりつつも、勇人の視界は極度の集中からスローになる。
甲殻類のような装甲の隙間を視界に入れ、振りかぶった朧月夜が半ばまで空中を切り裂き、その刀身が僅かな隙間に接触する寸前──
『──今だ!』
「八幡力ッ!!」
「…………っ」
──ドンッ!! という破砕音。
ノロで出来たその装甲のような腕が砕け、伸びた真ん中から切断され、勢い余って握られていた【黄落】が先端の手からこぼれ落ちる。
『【黄落】を使え! シキと同じように、朧月夜を通してノロの負の神性を利用しろ!』
「……! させるかっ!」
タギツヒメの声は、当然だがシキには聞こえていない。けれども勇人が空中を回転して舞う【黄落】に手を伸ばす様子を見て、何をするつもりかを即座に悟って数秒前に受け流された残りの腕三本をしならせて体を引き裂かんとする。
「──うぉおおッ!」
「届か、せるか──!」
朧月夜を握る右手とは反対の手に、【黄落】が滑り込むように収まる。【薫風】と分身を握る三本の腕のその手にある刀身が勇人の体に迫り、その身を切り裂く────ことはなく。
「俺の、勝ちだ」
勇人は、そう言ってシキの眼前にワープすると、朧月夜を胸に突き刺す。
刀身が背中から飛び出し、血のように、鮮やかなノロが噴き出す。左手の【黄落】で今度はシキ諸とも折神家の本殿白州に戻ると、ずるりと朧月夜を引き抜き体を横たわらせる。
「ごぼ……が……み、ごと」
振り返ったその視線の先では、可奈美と姫和が立っていて──その足元に、倒れ伏す京子と幸の姿がある。勇人たちの気配を察知してそちらへと顔を向けた二人は、彼の勝利を喜ぶかのように、遠くからでもわかるくらいの笑みを浮かべた。
──数分前、本殿白州にて、四人の激突はついに終わりを見せる。
「──ぬ、ぐ、くそっ、こいつやりづれぇ!」
「そりゃあ、姫和ちゃんで慣れてるからねっ」
橙の雷光の尾を引いて高速移動する京子だが、その攻撃は全て可奈美に防がれる。
天性の観察眼──『見る』ことにおいて、可奈美の才は他の追随を許さない。
「おぶぇっ」
「──生身は斬れないなら、峰打ちをすればいい……と、姫和ちゃん! そっちは?」
「もう終わった」
「あががががが!!?」
器用に切っ先両刃である小烏丸の鍔側の峰を肩に押し当てて雷神による電気を流し込む姫和は、容赦なく幸の体を感電させていた。
「……あーあー、相手が変わるだけでこんなあっさり負けちまうのか」
「それはそうだろう。高速で動けるお前はともかく、
脇腹を押さえて仰向けに倒れる京子は、ため息をつきながらもしかしどこか清々しい、憑き物が晴れたような表情で青空を見上げる。
「さて……あとは勇人とジジイの決着を待つだけか──お、噂をすれば」
顔を横に向けると、その視線の先に、シキの胸から朧月夜を引き抜く勇人の姿があった。
可奈美と姫和がそちらを見て、それから勝利を確信して笑みを浮かべる。
「勇人──勝ったようだな」
「うんっ、あっちに行こ……あ、肩貸そうか?」
「たのんまーす」
「すみません私も……体が、し、痺れ……」
「……やりすぎたか」
可奈美が京子を、姫和が幸を支えて立たせ、勇人とシキの元に向かう。京子たちの表情が暗く沈んでいることには、気づかないまま。