お久しぶりです(5月3日現在)
累の車で現場から離れる勇人たち五人。 助手席に座り杖のように自身の御刀の柄頭を手のひらで押さえ、先を足元に差し込む勇人は、村正を姫和に任せて沙耶香と会話していた。
「―――で、なんだっけ。」
「……どうして、貴方は強いの?」
「俺が強いとか冗談、沙耶香ちゃんの無念無想が欠点だらけだからそう見えるだけだよ。」
「……欠点?」
そ、欠点。 と言って、ミラー越しに沙耶香を見ながら、勇人は人差し指を立てる。
「欠点その一、動きが単調。 良くも悪くも速いだけ。 だから俺ごときを倒すのに七秒も掛かるんだよ、真希とか結芽なら三秒も掛からん。」
「それは誇って良いことなのか……?」
呟くような姫和の声を聞こえないふりをしつつ、続けて中指を立てる勇人。
「欠点その二、なにも考えてない。 無念無想の特性上仕方ない事だけど、刀使として戦うなら、ちゃんと自分で考えて剣を握った方がいい。」
「……自分で、考えて。」
「――あーっと。 いい感じに話してる所悪いんだけど、君らそろそろ降りた方が良いかも。」
緩やかにブレーキを掛けて車を止める累。 フロントガラスの先で、警察の検問取り締まりが行われていることに気が付いた。
「そうだな。 というか、こいつはどうするんだ? まさか連れていくとは言うまい。」
「……私は任務に失敗した。 窓も割ってしまった。 警察に、話さないと。」
淡々とした声色で沙耶香は言う。 ハンドルを握りながら、累は苦笑をこぼした。
「律儀だなぁ、私の部屋を滅茶苦茶にした割には。 そんじゃあ私と一緒に行きましょうか。 どっちにしろ事情聴取されるだろうし、逃げるよりは自首した方が印象良いでしょ。」
「高津のおばちゃんカンカンだろうな…………あ、そうだ。 おーい沙耶香ちゃん。」
「……なに?」
車から降りた勇人と姫和、そして可奈美の三人。 姫和から村正を渡された沙耶香は、勇人に声を掛けられそちらを向く。
窓から顔を出した沙耶香に、勇人が耳打ちをする。 少しして、小首を傾げながらも沙耶香が頷いたのを後ろで姫和たちは見ていた。
「勇人さん、何を話したんですか?」
「んー……内緒。」
「えーっ」
「さっさと行くぞ。」
姫和が先を走り、可奈美と勇人が運転席の累に頭を下げた。 ひらひらと手を振って返した累と後ろに座る沙耶香は、今頃警察がごった返しているだろうマンションへと戻って行く。
夜道の車が走らない道路の脇を走る三人は、無言で検問から離れる。 ふと気になった可奈美が、姫和に目的地を聞いた。
「ねえ姫和ちゃん、何処に向かってるの?」
「石廊崎を目指す。 そこで待ち合わせている。」
「こっからだと遠いな、あとでタクシー呼ぶか。」
「ああ、だが一先ずはここを離れるぞ。」
「そうだね……それにしても、累さんと沙耶香ちゃん大丈夫かなぁ……?」
「累さんは被害者だけど、逃亡者を匿ったことがバレたら数日はお縄だろうな。」
そう言いながら走る勇人。 累の不運がこれからも続くことを、三人は知らない。
◆
長距離をタクシーで移動し、霧が濃くなってきたなか、サービスエリアで降りた勇人等は冷えた空気に僅かに身震いさせていた。
「ここからは徒歩で行くか、タクシーは目立つ。 欲を言えば干してたパーカーだけでも持っていきたかったんだけどな。」
「糸見沙耶香に真っ二つにされたがな。」
「あはは…………姫和ちゃん? どうしたの?」
「……可奈美。」
一歩後ろから二人を見ていた可奈美に、姫和は振り返りながら言った。
「お前は、どうするんだ。」
「えっ……な、なにが?」
「私を助けて、勇人を助けて。 それで、これからも私たちと共に戦うのか?」
「そんなの、当然だよ。」
「私のやることは大荒魂の討伐だ。 しかし、それは大荒魂に扮した折神紫を斬ることにもなる。 お前は人斬りの犯罪に加担しようと言うのか。」
「――――それ、は……。」
「ちょっと意地悪だぞ、姫和。」
「お前は黙っていろ。」
「はい。」
間に割って入ろうとした勇人を一喝して黙らせると、横を通り過ぎて、姫和は瞬時に小烏丸を抜刀して可奈美に斬りかかる。
「っ―――!?」
「……温いな。 それに、軽い。」
咄嗟に千鳥で受け止めたとはいえ、突然の行動に可奈美は驚きながらも焦った顔色で姫和を見る。 一瞬、それが捨て犬の瞳にも思えて目を逸らしそうになるが、姫和は吐き捨てるように言うと小烏丸を鞘に納めた。
「人斬りを守ろうなんてしなくていい、お前の剣は守る剣だ。 荒魂から人を守れば良いんだ。 二度は言わん、帰れ。」
「…………ゃだ」
「―――なんだ?」
だらりと千鳥を握る右手を下げ、顔をも俯かせる可奈美。 ぽつりと呟いたぼやきに姫和が耳を傾けると、目尻に涙を浮かべた顔を上げて慟哭のように叫んだ。
「やだ! 絶対帰らない!」
「なっ―――子供か!」
「子供ですー! それに姫和ちゃんは人斬りなんかじゃないもん! 姫和ちゃんを人斬りなんかにはさせないもん!」
「…………は?」
視界の端で笑うのを堪えている勇人を横目に収めながらも、姫和は頬を膨らませてあからさまに怒っている可奈美に怒鳴られる。
「私の剣が『守る剣』なら、姫和ちゃんを守る! 紫様……の中の荒魂だけを斬らせて、それ以外は斬らせない! だから私も一緒に行くの!!」
「ここに来てそんなワガママを……!?」
泣きそうに――――と言うよりは、もう泣いている可奈美と、その反応が想定外でどうすれば良いのかわからない姫和。 二人の挙動を眺めていた勇人は、くつくつと喉を鳴らして笑いつつハンカチを可奈美の顔に押し付けた。
「むぐっ」
「いやぁ、面白い。 姫和ぃ、可奈美は想像してたより頑固みたいだな?」
「勇人……わ、笑うな馬鹿者!」
「三人で行けば良いだけだろ? どっちにしろ、ここから帰そうとしたらめっちゃ金掛かるし。」
「切実な理由だな……。」
呆れたような、諦めたような。
しかし、口の端は確かに上がっていて、帰そうとしたのが単なる親切心からというのは簡単にわかった。 ――――その隣で可奈美がハンカチで鼻をかんでいたが。
「びーーーーーっ」
「あ゛ーーー!?」
大慌てで可奈美の肩をガクガク揺する勇人と我関せずの姫和。 目線を明後日の方向に向けながらベトベトのハンカチを返す可奈美。
「馬鹿野郎! お前、このっ……馬鹿野郎!」
「だって、渡されたしいいのかなって……。」
そんな和気藹々とした空気を眺めている目線が二つ――――と、
「――――なーにやってんだあいつら。」
「さぁ? でも、楽しそうデスヨ。」
「これからもっと楽しいことになるけどな。 あーめんどくせぇ、なんでオレが確かめなきゃならんのだ。
小学生と同等の背丈をした少女が、背中に巨大な御刀を携えて独りごちる。
対して、豊満な胸を支えるように腕を組む金髪の少女はいつもの様子の少女に返した。
「それについてはあの二人が忙しいのと、私たちがあの――――ユート、デシタカ? 彼以外の二人の戦いを見て、体験しているからデショウ。」
「
「人を顔じゃなくて胸で識別するのはやめた方がいいデスヨ、
さぁて、と言って誤魔化す薫。 首を鳴らして己の大太刀・祢々切丸を固定している専用器具からそれを外すと、身体に写シを張る。
「そんじゃ、先ずは一発ドデカイの行くか。」
「お願いしマスネ。」
『ねっねー!』
虚空から突如聞こえてきた謎の鳴き声。 慣れた顔で、薫は声の主に指示を飛ばした。
「ねねはあいつらの後ろに回り込め、オレがぶん投げたらパスしろ。 エレンはぺったんこと美濃関のを引き離せ、野郎はオレが相手する。」
「了解デース!」
『ねねっ!』
薫が言い終えるや否や、エレンは薫と同じく写シを張りタイミングを計る。
空間に発生した透明な
「人の仕事増やしてんじゃねぇぞオラァ!」
―――全力を以て三人目掛けて投擲した。
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