【完結】神刀ノ巫女   作:兼六園

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益子の提案

 

 

 

ゴウゴウと空気を切り裂いて、高速で回転する大太刀が三人に迫る。 最初に気が付いた勇人が、御刀を抜いて二人の前に立った。

 

「なに、それ……っ!?」

「は――――不味い、勇人! 受けるな!」

「もう遅い! 上に流すから写シ張っとけ!」

 

 

数歩前に出て、縦に回転しながら迫る大太刀に自身の御刀を水平に構えて向けると、()()()()()()()()()()()

 

二人の目に映るその『紅』は、蠱惑的でどこか妖しく、妙に惹き付けられる輝きを放っていた。

 

写シを張るために御刀を抜く最中の出来事だった為に分からなかったが、もし姫和が旧式スペクトラムファインダーを出していたらきっと、凄まじい反応を見せるノロを拝めたことだろう。

 

 

()()は無理、()()だとずれたら潰れる…………上にいなすには――――ああ、()()か。」

 

 

ぶつぶつと何かを小声で呟く勇人は不意に構えを変え、大太刀に対して御刀を叩き付けた。

 

瞬間的に言葉にすることも出来ない衝撃が全身を駆け抜けるが、順手から逆手に持ち方を変えると、受け止めていた自身の御刀の刃先を蹴りあげて大太刀の軌道を斜め上後方へと逸らす。

 

「うご、ごごっ……手が痺れる……っ!」

「なんて無茶を……。」

「今の御刀、もしかして御前試合の―――!?」

「どうした可奈美――――なんだ貴様っ!」

 

「えっ、なに? 姫和?」

 

 

手が痺れを訴える勇人の背後で聞こえた声が途切れ、不思議に思い振り返る。 だが、その視線の先に可奈美と姫和は居なかった。

 

「えぇ……?」

『ねねーっ!』

「はい?」

 

 

大太刀を弾いた方向から聞こえてきた奇妙な鳴き声がし、面を上げたその先を見やる。

 

――――さも当然のように、先程と同じように、凄まじい速度で大太刀が帰って来た。

 

「おあーーーーーっ!!?」

 

 

叫びながらも、どうにか今度は、手にダメージが入らないように()()()()()受け流す。

 

 

ガゴォ――――ン、と。

 

まるで鐘でも突いたかのような金属音が鳴り響き、ブーメランよろしくな軌道で飛び交う大太刀は、やがて振り返った勇人の数メートル後方に立つ少女の近くに突き刺さった。

 

「すげーなお前。」

「―――あ、舞衣ちゃんに負けた娘だ。」

「即座に煽ってくんじゃねぇよ。」

 

 

眉を潜めながら大太刀を引き抜き、峰を肩に置いて支える少女――――益子薫は、傍らに空間の(ひず)みから現れた生物を漂わせる。

 

「なにその……ゆるキャラみたいなの。」

「ねねだ。 オレのペット。」

『ねねっ!?』

 

「いや嘘でしょ、俺の御刀に反応出るのが遅かったけど荒魂じゃんか。」

「おう、そうだ。 でも良い荒魂なんだよ、益子家に関わってから穢れが無くなったらしい。」

 

『ねーねっ! ねっねー!』

「うわっ、なんだよもう……。」

 

 

ねねと言われ、ねねと鳴く生物は、勇人の周りをふよふよと漂い、やがて頭に降りる。 不思議と気に入られたらしい勇人は、ねねの見た目に様々な動物の要素が混じっている事に気付く。

 

「キメラ……いや、(ぬえ)か。」

「モデルはそれだな。 つーか、ねねが男に懐くなんて珍しいんだが……。」

「へぇ、そうなの?」

『……ねね?』

 

 

良く見えないが、髪に掴まっているのだろうねねに目線を向ける。 ねねは、知らんとばかりに疑問系の鳴き声を返した。

 

「って、そうじゃねえや。 なんで急に襲ってきたんだよ、可奈美と姫和はどこ行った?」

 

「あー、今頃エレンと戦ってんだろ。 ちょいと確かめてこいとお達しでな、あんたらをオレらん所に迎えても大丈夫かのテストしろってさ。」

「…………は?」

 

「どうせ後で他の二人にもするから説明は後で良いか? なんかもう面倒くさくなってきた。 あーあ、帰ってBlu-ray BOX一気見してぇ。」

 

 

完全にやる気が削ぎ落ちた薫は己の写シを解く。 『悪人じゃない(ねねが懐いている)』なら生身の刀使を斬ることは無いだろ、と考えていたのだ。

 

「君は……面倒くさがりだね?」

「ったりめーだろ、そもそも、お前らが逃げたせいでこちとら暫く折神家のあの場所から身動き出来なかったんだぞ。 責任取れこの野郎。」

「―――示談(おはなし)で勘弁してくれますかね。」

「示談……示談ねぇ。」

 

 

顎に指を当てて思案する薫は、分かりやすくニヤリと笑い、悪い笑みを浮かべた。

 

「おい、エレン達と合流するときに仲良し小好(こよ)しじゃ怪しまれる。 適当に戦ってるフリでもしながら向かおうぜ?」

 

「…………うわぁ。」

 

 

勇人の目線が、やけに心臓深くへと突き刺さった気がした薫だった。 薫と感覚を共有しているねねが呆れたのも、当然だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木々の間をすり抜ける白い残像。

 

高速で迫り来る二つの残像を迎え撃つ金髪の少女は、前からの刺突を柄で受け止め、背後からの袈裟斬りを、己の体を黄金に染めて弾いた。

 

 

金剛身(こんごうしん)

 

ほんの数秒間、肉体を硬化させる事が出来る刀使の能力である。

 

使える者は数居るが得手不得手があり、エレンは金剛身が得意な部類だった。

 

「―――ふっふーん、この程度デスカ?」

 

「こいつ…………巧い。」

「姫和ちゃんと試合で戦った時は……手加減してたの……!?」

 

「アー、いえ? まあこちらにも色々とあるんデスヨ。 それにしても薫はまだ戦っているんデショウカ、やけに遅いデスケド。」

 

 

都合、十と数分。

 

それだけあっても、未だ姫和と可奈美の二人掛かりでも尚、眼前の刀使――――古波蔵エレンを仕留めるに至らないでいた。

 

荒魂との戦いが本分である刀使にしては、まるで対人戦に重きを置いているかのように、エレンは剣を人に向ける事に躊躇いが無い。

 

「ふん、あいつはしぶといからな。 それに大太刀使い一人に任せて、負けるとは思わないのか?」

「いえいえ、うちの薫は強いノデ。」

 

「……舞衣ちゃんに沙耶香ちゃん、今度は長船の二人なんて……変な縁だね、姫和ちゃん。」

「嫌な縁だ。」

 

 

小声で話す可奈美に、姫和は鼻で笑いながら返す。 そうやって話しつつもエレンへの警戒を怠らない二人に、エレンは悪印象を抱けなかった。

 

「(強さは上々、度胸もあって、油断も無ければ慢心もしない。 サナ先生が好きそうな人たちデスネェ~。)」

 

 

思わず口角が緩みそうになるが、今は()()()である。 まだ敵役を演じていなければならない以上、優しい顔はNGだろう。

 

「さあ、第二ラウンドと行き―――およ?」

 

 

エレンが自身の御刀・越前康継を八双の構えで掲げ、タイ捨流独特の構えにて両足を肩幅に広げる。 しかし、二人に迅移で突撃しようとした刹那、三人の間に何かが吹き飛んできた。

 

「なんだ!?」

「だ、誰……え゛っ」

 

 

地面をバウンドして上手いこと姫和達の足元に落ちてきたのは、脳が揺れたのか目の焦点が定まっていない勇人だった。 そして、勇人が飛んできた方から、肩に祢々切丸を担いだ薫が現れる。

 

「―――待たせたな。」

「遅いデスヨ薫! 予定ギリギリじゃないデスカ!」

「あぁ…………そいつが想定よりしぶとくてな。」

 

 

眼球だけを右往左往させ、一瞬言葉を詰まらせた薫はそう言い訳する。

 

まさか談合して戦ったフリをしてた、とはとてもじゃないがエレンには言えない。 何故なら長船の学長にチクられるから。

 

 

薫は知る由も無いが、エレンが直前の会話で勇人のしぶとさを姫和から説かれていた為に、薫を疑う者は幸運にも誰一人としていない。

 

「勇人さーん、大丈夫……には見えないけど、生きてるよね……?」

「…………死んでまーす。」

「よし、放っておけ。 これで二対二だ。」

 

「あいつの扱い雑じゃね……?」

「ヒエラルキーが見えマシタねぇ。」

『ねねぇ……。』

 

 

雑に見捨てながらも勇人の前に立ち、姫和は薫とエレンを阻む。 素直じゃないなぁ、と言いながら、可奈美も同じように姫和と並ぶ。

 

「我々にはやるべき事がある。 これ以上邪魔立てするなら、容赦はしない。」

「穏やかじゃないデスネェ、でしたらその……もうちょっと待ってくれマセンカ?」

「へっ?」

「えっと、あと5秒ホド……。」

 

 

可奈美のすっとんきょうな声の直後。

 

露骨な時間稼ぎの後に、エレンたちの背後に何かが降ってきたかと思えば、地面に突き刺さって土煙を巻き上げた。

 

「く、うぉ……っ!?」

「今度はなんなの!?」

 

 

爆風にも近しいそれを間近で浴びて視界を塞がれた姫和と可奈美は、咄嗟に腕で顔を守る。

 

不意に何かを思い付いた姫和は、可奈美の耳元で言った。

 

「可奈美! ――――――。」

「―――わかった!」

 

 

 

「お色直し完了デース!」

「アーマード薫、見参……って、あ?」

 

 

土煙が晴れ、姿を現した二人は、対荒魂殲滅用スーツ―――通称S装備(ストームアーマー)を身に纏っていた。 三人に対して明らかな過剰戦力だが、これは威嚇と()()を兼ねての行動である。

 

――――だが、当の三人は居なかった。

 

 

尤も、当然だろう。

 

可奈美達から二人が見えないのと同じように、二人からすれば三人も見えていない。 これ以上ないと言える逃げる為のチャンスであったのだ。

 

 

「おぉい!! 主役メカの活躍シーンだろうがよぉーーーっ!!」

 

 

――――そんな、悲痛にも程がある叫びが森の中に木霊していた。

 

 

 






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