「うわああぁっ!!」
ナキは叫び声をあげながら、目の前の妖獣と化した熊へと向かっていく。地を蹴り一足飛びに相手に向かいながら剣を振り上げた。
すると、熊の口からそれを押し返すかのような大音量の雄叫びが響いた。低く濁り、それでいて重みさえあるかのような狂暴な咆哮が大気を震わせる。
そして突如、向かい合っていた熊の体が、むくむくと膨れ上がる。
「わっ……!」
ナキが短い悲鳴をあげ、とっさに足を止める。口をポカンと開けたまま表情が固まり、その視線は徐々に上へと向いていく。
熊が後ろ足を踏ん張り、まっすぐ立ち上がったのだ。ナキの倍以上もある体長が視界を塞ぐような勢いで立ちはだかり、ギョロリと光る獣の目で見下ろしてくる。
立ち上がるのは、自分を大きく見せるための有名な熊の威嚇だった。ナキも知識として知ってはいたが、いざ目の当たりにしてみると丸で鬼に相対した小人のような心境だった。直立して両手を広げた熊の影にすっぽりと呑まれながら、ナキは上を向いたまま呆然としてその場に立ちすくむ。
「グオアァ!」
熊がまた短く吠え、右腕を振り上げた。ナキがその吠え声でハッと我に返った刹那、振り上げられた右腕が頭上に迫ってきていた。
ナキは間一髪で飛びのき、それを回避する。直後、鉤爪の生えた手が熊の体ごとのしかかるように振り下ろされ、鈍重な衝撃音を辺りに響かせた。地面は鉤爪が食い込み深くえぐり取られ、粉々になった苔や土が宙を舞う。
ナキがその威力に驚く暇もなく、熊はもう片方の腕を振り下ろす。今度も四肢を砕かれそうな重い一撃。一瞬、首を両断すべく迫りくるギロチンを連想した。しかし、本能的にすんでのところでそれを回避する。
「…………っ!」
かすめた鼻先がヒリヒリと痛む。避けたそばから足が震えてよろけそうになる。それでもナキはまだ立ち向かう意思を失わずにいた。
曲がりなりにも、敵の攻撃を二度も避けた事。それがもしかしたらという希望に繋がっていた。たとえ半妖であっても、自分も天狗の一員なのだ。このまま粘り続けていれば、もしかしたら勝てるかもしれない。
そんな事を焦燥する頭の隅で考えていた矢先、反撃のチャンスがめぐってきた。両腕を振り下ろして四つ足の姿勢に戻った熊。突進力は立ち上がった状態よりはるかに強いが、体高が低い今なら頭上からの攻撃には弱いはず。ナキは熊の姿を一目見て、そう踏んだ。
「やあっ!」
ナキは覚悟の一声をあげ、高く跳躍する。熊の背中が見える位置まで飛び、そのまま垂直に近い角度で落ちながら剣を振り下ろす。狙うは熊の首。元々軽いナキの剣は一瞬で素早く首筋に向かっていく。
しかし、獲物に触れる寸前で、その刃は突然ピタリと止まる。獲物が抵抗した訳ではない。熊は自分に向けられた剣に警戒心を露にしながら、鋭くナキをにらみつけ、あわてたように身構えている。
問題はナキであった。あと十数センチ腕を動かせば刃が食い込むという状況で、彼は剣を途中まで振るった姿勢のまま、何故か熊のかたわらに浮かんで固まっていたのだ。
ナキの視線は、ある一点から離れない。目を見開いて、まばたきもせずに見つめている先は、ついさっき斬ろうとした熊の目があった。警戒し、今にも飛びかかりそうなほど凶暴な視線とぶつかったまま、ナキは言葉を失っていた。
ふっ、とナキの視線が動き、熊の直前で止まっている剣へと向く。
ぎらり、と光る銀色の刃。ナキはその光に見覚えがあった。包丁だ。いつも台所で肉や魚を切るのに使っていたもの。
しかし、生きているものに使った事はなかった。食べ物は天狗社会で取引するもので間に合わせていた。少なくとも死ぬ瞬間を見た覚えも、殺した覚えもない。
ただ、死骸ならば見た覚えがある。時々山道に転がり、肉を漁られ虫にたかられ、腐って干からびるにまかせる、動かなくなった獣。
――もし自分が剣を振るえば、この熊もそうなるのだろうか。このたくましい体から血が噴き出し、獰猛な光をたたえていた瞳はほの暗く宙を見つめて動かない。あの死骸の目と同じになるのだろうか。
ナキはそんな思考にかられ、息を呑み、細かく震えだした。生きたものを殺す。その重圧を前にして、彼は踏ん切りをつけられなかった。そしてその瞬間、相手が自分を敵視している妖獣だという事を、同時に忘れてしまっていた。
熊の片腕が、ナキを払いのけるようにして振り回された。上の空だったナキは反応が間に合わず、その一撃をまともに食らう。
バキィッ、と金属を叩いた音がして、剣と盾が弾き飛ばされる。いかに戦闘用といっても、非力な半妖のための軽い装備ではひとたまりもない。武器と防具が紙くずのように宙を舞い、ナキは丸腰となってしまう。そこでもう一撃が飛び、ナキは受け身すら取れず、数メートル後方の木に背を打ちつけた。
「かっ……はっ……」
ナキの喉から、声にならない声が絞り出される。背骨に脳を揺らすかのような衝撃が走り、あえなく地面にうつ伏せに倒れ伏してしまう。頭がズキズキと痛み、思考がまとまらない。四肢は力を失い、立ち上がろうとしても手のひらが雑草を撫でるばかり。
地べたに顔をつけ、ぜぇぜぇと荒い息を吐くナキの、半分が地面に埋まった視界が暗くなる。ぼんやりと霞む目を凝らすと、あの妖獣の足と鋭い爪が見える。
ああ、熊が近づいてきているのだ。ナキは朦朧とした意識の中でそう思った。このまま動かない体を押さえ込まれ、あの爪と牙で刻まれて肉にされてしまう。そんな末路を想像する間、視界の映像がスローモーションになる。一歩、また一歩と熊が迫るのを眺めながら、やがてナキは諦め、目をゆっくり閉じた。
しかし、目の前が暗転した、次の瞬間。
突如、ズドオォッ、と圧迫感のある轟音が鼓膜を揺らした。ナキが驚いて目を開けると、さっきまで自分に迫っていた熊が何故かよろめいている。
「グオオォ!」
熊は腹立たしげに
ナキがその風に戸惑っていると、続けざまに矢のように素早い何者かが、ナキの視界に飛び込むや熊へとぶつかった。両者の間に目のくらむような光が一瞬走る。
ナキはぶつかった誰かを凝視する。それは椛だった。彼女が背負っていた大剣を抜き、熊に斬りかかっている。大剣は妖気が流れているのか白く淡い光を発しながら、熊の爪とせり合い火花を散らしている。
「ガアァッ!!」
やがて熊の方が押し負け、妖気をまとった剣が振り下ろされた。熊は悲痛な声をあげ、背中を何度も打ちつけて地面を転がる。背中が土についた分だけ、血の跡が点々と続いた。
熊はもつれながらも立ち上がると、突然の横やりに驚いたのか、一目散に逃げていった。胸のあたりから、ボタボタと血が垂れていた。
「あ……」
ナキがうつ伏せの状態のまま、小さな声をあげた。地面についた血の跡と、その跡が続く先を地に立って見つめている椛との間で、視線をさ迷わせていた。
椛の白い服には、飛び散った鮮血が赤い斑点となってにじんでいた。手に持つ剣からはつたった血が滴となって落ち、足元に小さく血だまりができる。
しかし、椛は動揺する様子を見せず、じっと熊が逃げる様子を見送っていた。
ナキは、目の前の光景にしばし言葉を失っていた。知り合いが妖獣と命のやりとりをする、張り詰めた緊張感が周囲に残る。にも関わらず、取り乱さずに敵が去るのを見届けている椛。その姿がナキには少し怖く見えた。
「ナキ!」
椛がナキの方へ振り向き、駆け寄ってくる。ナキは見慣れたはずの椛の姿を見て、一瞬だけ肩を震わせた。彼女の手や頬にも血がついている。
今さっき妖獣に傷を負わせたのを、なんとも思っていないのだろうか。自身に手を差しのべてくる椛をぼんやりと見ながら、寝そべったナキはそんな事を考えた。椛の表情は、頬についた血液など意中にないかのように心配一色だった。
「…………」
「…………ナキ? どうしたんです? まさかケガでも……」
ナキは疑念が解けぬまま、じっと押し黙っていた。その様子を見た椛は眉をひそめ、手を取って助け起こしてくる。
その時、触れあった手の感触から、ナキはふとある事に気づいた。
(椛さん……震えてる?)
熊に果敢に斬りかかり、退散させた椛。しかし握ったその手からは、かすかな震えが感じられた。顔へと視線を向けると、椛は口をきつく結び、こわばった表情をしている。
「椛さん?」
立ち上がったナキが、そう口に出した直後。
「ナキ君! 大丈夫ですか!?」
「へっ?」
不意に横から新たな誰かの声が聞こえ、ナキはあわてて振り向く。途端に、目をしばたかせて上空から急接近してきた文と目が合った。
「文さん……なんでここに?」
「なんでって、あなたが遅いから探してたんですよ。椛に引っ張られて」
「……あ」
口をとがらせてそう言われ、ナキはようやく土嚢を運ぶ途中だった事を思い出す。同時に、椛が斬りかかる直前の突風が文の攻撃だったのだと思い当たった。
「す、すみません! 運んでる途中でリヤカー倒しちゃって……」
「今はいいんですよ、そんな事。それより傷を気にしなさい」
ナキが慌てるのをさえぎり、椛は彼の前に屈みこんで殴られた腹の辺りをじっと見ていた。爪のおかげで着物は派手にやぶれていたが、勢いよく吹っ飛んだせいか、幸い浅い傷にとどまっていた。
「……お腹は大丈夫なようですね。あとその鼻血は……」
「ああいえ、これは熊とは関係ないんです」
いまだ鉄臭さの残る鼻をぬぐいながら、ナキは作り笑いを浮かべる。「烏天狗さんたちに絡まれて」とはちょっと言い出しかねた。
「にしても、熊に一人で立ち向かうなんて無茶ですよー。金太郎じゃないんですから」
その時、文がからうように言った。暗い気持ちを押し隠すナキやしつこくケガを気にかける椛の内心に気づいていないのか、口調はきわめて軽かった。あるいは気づいたからこその冗談なのかもしれないが。
「戦うにしても狐とか……いっそリスあたりどうです? いくらナキ君でも、剣でスパァーッと……」
「! だ、ダメですよそんなの!!」
文が笑いながらそう言いかけた時、ナキは突然はじかれたように大声を張り上げた。文が驚いて目をぱちくりしだすと、ナキは自分が叫んだ事に気づき、気まずそうに首をちぢめた。
二人がしばし黙りこんだところで、椛が小さく咳払いをする。ちらとナキの方へ視線を送るその目つきは、何かを察しているようだった。
「……とにかく、ここを離れましょう。文さん、一足先に大天狗様に報告をお願いします。この付近に近寄らないようにと」
「えーと、分かりました。それじゃ」
結局ナキが顔色を変えた理由の分からないまま、文は飛び立っていった。途中で一度だけ、振り返って不思議そうな顔をしていた。
「ナキ、肩貸しますよ。歩けますか」
「い、いいですよ……。おかまいなく」
「遠慮しないで。なにせ死にそうだったんですから」
躊躇するナキにかまわず、椛はするりと肩を組んで歩き出す。ナキはすぐ隣に椛がいる事にしばし顔を赤くしていたが、ある事に気づいて後ろを振り返り、こう尋ねた。
「あ、あの。運んだ荷物そのままですよ。あと剣とか……」
「いいですから。気にしちゃダメです。とにかく今は離れないと」
彼の問いを素早くさえぎり、椛はナキを引っ張るように歩いていく。熊は好奇心や執着心が強く、一度興味を持ったものはしつこく追いかけ回す習性がある。そのため、熊が一旦姿を消しても、なるべく何も拾わずに逃げた方がいい、というのが基本的な対処法である。椛は、その事をよく知っていた。
ナキもそれを知ってはいたが、与えられた仕事をさんざんにし、熊からも敗走しかできない自分の姿に、情けなさがこみ上げていた。
いつ戻るか分からない熊を警戒して緊張した面持ちの椛。仕事を置き去りにして引かれるまま、晴れやかでない面持ちのナキ。しかし、いくら危険を知っていても、空へと飛ぶことはしなかった。それが飛行が苦手なナキへの配慮ゆえだと、彼は口で言われなくともよく知っていた。
両者が無言で歩いていくうちに、また滝の音が聞こえてきた。椛はそこまで来てようやく少し離れられたと安心したのか、いくぶん表情をやわらげる。そして、隣でうつむいているナキにこう言った。
「……落ち込む事はありませんよ」
「え?」
「動物を殺すのは、そう軽い事ではありません」
椛の口から出た言葉が唐突だったので、ナキはきょとんとした顔で戸惑っていた。そんな彼を横目に見て、椛はおだやかな口調で言う。
「熊でも生きていますからね……。狐や、リスも。平気な顔では戦えません」
「あの、その。椛さん?」
「私の顔、怖かったでしょう?」
やや怪訝そうに口を挟んでいたナキだったが、いざ振り向いて正面から目を合わせられると、つい言葉に詰まってしまった。
椛の顔が怖かった――。それは実際、図星だった。自分を助けてくれたのだ、そのために巨大な妖獣に立ち向かってくれたのだ……と、頭では理解していても、あの鮮血を浴びながら熊と冷徹に向かい合っていた姿を、忘れる事はできない。
ナキはその時の映像を思い出し、ついに問いには答えずに目をそむけた。椛は切なげに笑みを浮かべ、山道に目を落として言った。
「あの熊、どうも妖獣になりかけてましたよね」
「そう、ですね」
「……あのまま放っておけば知恵をつけていくでしょう。早めに駆除しなければなりません」
「……駆除……」
ナキはハッと顔を上げ、すがるような目で椛を見る。椛は視線を交わすと首を横に振り、目を合わせながら言った。
「野生の熊からして脅威なうえ、万が一天狗や河童の味をおぼえてしまえば、更に厄介な敵となるでしょう。やるしかないんです」
「…………」
ナキはその冷静な理屈を聞いて動揺をあらわにしたが、反論はできずにまた目を逸らした。
自分だって最初は熊を殺そうとした。放置してはおけないのは十分わかっている。それでも、感情ではどうしても認めたくなかった。
それを見ていた椛は、態度は責めずに今度は努めて明るく笑って言う。
「ナキにやれなんて言ってませんよ」
「それは、でも」
「いいんですよ。無理しなくていい。そういうのは出来る者がやればいいんです」
抗弁しようとするナキに、椛は力強く頷いてみせる。その目には虚偽の色が全く見えなかった。彼女の服に残る血の跡が、今は覚悟を象徴するかのように見えた。
「あなたは優しすぎるくらいに優しい。それも良いことなんですよ。自信を持ちなさい」
励ましの言葉を聞くうちに、ナキの表情からもだんだんと卑屈さが抜けていく。
同時に、滝の音がする方角から、見知った者の大声が聞こえてきた。
「こらーっ! そこサボるなっての! 機械は家に帰ってからいじれ!」
「拾ったジャンクは独り占めしない! 誰が捨てたか分からないからね、山の共有財産にするよ」
「喉かわいた? 水飲みたい? 私も! でも我慢して!」
続けざまに響いてくる激の声に、二人はポカンと木々の向こうを眺めていた。
「この声……」
「にとりですね。意外とリーダーシップあるんですよ、あの子」
椛は表情をやわらげて言った。ナキがまた卑屈な笑みで頭をかく。
「見習わなきゃな……」
「またそんな事言って。ナキにだって向いている役割がありますよ。まだハッキリと分かっていないだけです」
「そんなものですかね」
肩を落とすナキの背中を、椛はパシパシと叩いた。やれやれ、とわざとらしく口に出しながら椛がなんとなく辺りを見回した時、彼女は不意に、まるで子猫のように飛びのいた。
「きゃああっ!!」
「いてっ!?」
甲高い悲鳴とともにナキは派手にその場に放り出され、尻もちをつく。目をしばたかせながらキョロキョロと視線を巡らせると、まるで熊に立ち向かった姿が嘘のような、顔面蒼白にしてかち合う牙も指し示す指も全身を余すところなく震わせている椛が目に入った。
ナキは素早く跳ね起き、尻についた泥もそのままに拳を握った。いざとなれば自分が身一つで彼女を守らねばと、彼は緊張しつつ身構える。
しかし、椛の指さす方向にいくら目をこらしても、異様なものは見当たらない。茂みを切り開き、木々の中に線を書いたように細い、いつも通りの山道があるだけだ。
とうとうナキは痺れを切らして「何がいるんです」と問いかけた。椛は何度もつかえながら言った。
「あ、あ……あれ、です。あれ。ホラ」
「あれ……? って……」
注意深くその様子を観察するうち、どうやら椛の指さす先は、地面の、茂みの中あたりらしいと、ナキは気づいた。そして改めてその場所へ目をこらす。
そして、ついに小さい動く生き物を見つけた。大人の腕くらいの長さで、太さは親指程度。手足はなく、地べたをにょろにょろと這う……。そう、蛇である。
「あれって……」
「ち、近寄ったら危ないですよ! 毒を持っていたらどうするんですか! 戻ってきてください!!」
そろそろと近寄っていくナキの後ろで、涙まじりの声になりながら椛が引き止めるのが聞こえる。毒を警戒するのは一理あるが、大蛇じゃあるまいし遠目に見ただけであれだけ怖がるのは内心ほかの理由があるのだろう、とナキは思った。
一歩、二歩と進み、ナキは蛇を見下ろしながらしゃがみこんだ。人に慣れているのか、蛇は牙を剥く様子もなく、みょーんと音がしそうな呑気さで茂みを行ったり来たりしている。
体は青緑色で、そばで見るとけっこうな大型だった。それを確かめるとナキは立ちあがり、いまだ一歩も近づこうとせず立ちすくんでいる椛へ向き直ると、笑いながら言った。
「大丈夫ですよ! この子ただのアオダイショウです! 滅多に噛みません!」
それを聞いて、ようやく椛は肩をすぼめつつ忍び足で近づいてきた。ナキはその間、一応チラチラと足元に注意を払っていたが、椛が隣に来るまでの間にアオダイショウは十メートルほど遠くの木の根本に隠れてしまっていた。
「ほ、本当に大丈夫でしょうか……」
「平気ですって。あの種は大人しいし、毒もありません。弱い、とまで言えます」
「へぇ……」
ナキはそう言って肩をすくめ、椛の方を見た。恐怖が抜けきらない椛の表情にクスリと笑ってから、彼はアオダイショウが去っていった方角を見る。
「あんな子でも、詳しく知ればすごい部分もありますよ。慣れればカッコよく見えてきますし」
「…………」
ナキがおだやかにそう話すのを聞いて、椛は次第にキョトンとした顔になった。しばらくしてその視線に気づき振り向いたナキの顔には、なぜか若干照れが浮かんでいた。
椛はその顔を見て珍しくニヤリとした笑みを浮かべる。
「な、なんです?」
「ナキ……それもしかして、自分に言ってます?」
「み、見習おうってだけですよ。まずは先にアオダイショウをと」
「ええ、それがいいです」
椛が屈託なく微笑むと、ナキはむず痒そうな顔をして一人で歩き出した。途中で、石につまづいて転びそうになり、椛に助けられていた。