ランキングにやたら長いこと居座っててビビりました。はい。
今回はほのぼの回。
またの名を伏線ばらまき回とも。
暇潰しに読んでやってください。
※yelm01さん、fire-catさん、ヤマシロ=サンさん、秋ウサギさん、かにさんさん。
誤字報告ありがとうございます。
△月a日
祝、退院!
春を少し過ぎ、桜が散った頃にやっと退院である。入院期間は3ヶ月くらいだけど、じっとしている時間が長かったからもっと長く感じた。新手のスタンド攻撃かと思っ......このネタ前にも書いたな。
家に帰ると妹と潤が玄関で待っててくれていた。久しぶりに会ったわけではないけど、なんだかちょっと感動してしまった。真緒なんか抱きついてきたし。寂しかったんだろうな。
退院祝いに潤がちらし寿司を作ってくれていて、更に準備の途中でお祝いに来てくれた葉月ちゃんや白夜ちゃんも交えて皆で食べることになった。何だか急に大所帯になって夕飯足りるかな、と思ったけど何とかなった。……まさか潤がこれを見越していたなど、このリハクの目をもってしてもミヌケナカッタ。
それにしても、何故皆が我が家の場所を知っていたのか不思議だったが、妹が教えたらしい。たまに遊びに来るのだとか。成長したなぁ。
遅くならないうちに三人を返して暫くすると、白雪が庭の窓の所にいた。どうやら病院から着いてきてしまったらしい。
だったら仕方ない。よし、今日からウチの子だ。
だって可愛いし。撫でさせてくれるし。家まで着いてくるならもうウチの子ですね間違いない。
……首輪とか、エサとかトイレの砂とか用意しないと。週末に買いに行こう。
△月b日
久しぶりに妹と並んで駅まで歩いた。行き先違うし電車代かかるけど、たまにはこういうのも良いと思う。
何だか懐かしくなって手を繋いでしまった。俺が高校の時もこうして歩いたっけ。真緒も少し嬉しそうだった。
そして久しぶりの大学だが……なんと留年は免れていた。いや、実際は入院中に潤から知らされてたけどね。
一年の時は真面目に講義出てたし、補習はしないけど講義についていけて先生の手伝いをするなら単位くれるらしい。やったね。
やはり日頃の行いが良かったな。正直留年は嫌だったので本当に感謝である。潤は普通に卒業するだろうから、留年してたら笑われるところだった。
……なんか雑用要員にされてる気がするけど、まあいっか。背に腹は代えられない。
△月c日
今日は妹と料理の練習である。
実は真緒は料理......というか家事が苦手だ。手先は器用な方なんだが、どうにも感覚でやってしまったり強引に終わらせようとするので失敗が多い。楽器は上手いんだけどなぁ。
とりあえず卵料理をいくつか。卵焼き、スクランブルエッグ、そしてプレーンオムレツに挑戦。少し焦げたがまずまずである。料理はスタッフ(俺)が美味しくいただきました。
俺の入院中は潤が世話してたみたいだから、これを期に頑張ってほしい。真緒は渋ってたけど、料理は将来きっと必要だ。ちょっと早い花嫁修行だと思ってほしい。
俺も、ずっと一緒にいられるわけじゃないだろうからね。真緒が結婚……ちょっと想像しにくいけど、真緒ならきっと良い人が見つかるに違いない。
△月d日
休みの日なので白雪の首輪とかを買いに駅前に行くと、白夜ちゃんとばったり出くわした。凄い偶然である。
折角なので一緒に来るか誘うと何だか嬉しそうに付いてきてくれた。猫好きなんだろうか、今度触りに来てと誘っておいた。
けど、首輪を自分に着けてみようとするのはちょっとどうかと思う。ファッションにしてはパンク過ぎませんかねえ(困惑)。そもそも猫用じゃ短いと思うし、なんか店員さんの視線が痛いから止めて。やべぇ奴だと思われてるよ絶対。
あと猫トイレは絶対必要です。白夜ちゃんは元ノラなら外で済ますなんて言うけど、猫ちゃんにとって安心できる家にしたいならトイレは必須。『月刊モフモフにゃんにゃん』にも書いてある。
なんか赤くなりながら否定されたけど、ここは譲れない。ペットを飼う上でトイレ事情は軽視できないのだ。
△月e日
朝御飯を食べてテレビを見ていると白雪が帰ってきた。昨日は家に帰ってこなかったので心配したが、元気そうで何よりである。
というわけで昨日買った首輪を装着。赤い首輪に綺麗な鈴……何だかサザエさんに出てくる猫みたいになったけど、白雪は黒よりは赤の方が映える気がする。うん、美人さんだ。
そして猫砂の上に乗せて見たのだが……少し具合を確かめると箱から出て俺の膝に居座ってしまった。気に入らなかったのか聞くと、にゃーんと声が返ってきた。
……ちょっと高いの選んだんだけどなぁ。
△月h日
大学の教授に頼まれてサークルの活動を手伝うことになったんだが……何故に麻雀?
いや、面子が足りなかったってどういうことだよ。学生のサークル活動なのに何で先生が面子集めてるんですか、と聞いてみたら暇潰しらしい。たまに遊びに来るけど部員が二人なので一人誘いたかったそうだ。それで良いのか大学教授。
とりあえず何度か対局したら総合で二位だった。麻雀は漫画で興味あったからルール調べていたのでそこそこ健闘できた。点数計算できないけど。
一位は部長の前髪君、三位は部員のツインテールちゃん、四位が教授である。
教授……駆け引き弱すぎです。
△月i日
家に葉月ちゃんが遊びに来たのでゲームをすることになった。友達が来たらとりあえず大乱闘、この家の規則である。今日作った。
驚くことに葉月ちゃんはテレビゲームをするのは初めてらしい。なん……だと……とか思ったけど、そういえば葉月ちゃんの家はお金持ちだった。厳しい家なんだなぁ。
ちなみに大乱闘は妹がダントツ。見てからジャストガード余裕でしたは妹の言葉である。
何度やっても勝負にならないのでその後はトランプに移行すると、特にスピードは真緒と葉月ちゃんで熾烈な戦いが繰り広げられていた。なんかレベルが違ったので俺はソファで白雪を撫でていることにした。この子ほんまサラサラやで。
結局僅差で葉月ちゃんが勝ったらしい。ガッツポーズを決めた後、休日に買い物に付き合って欲しいと頼まれた。とりあえず息整えてから話そう?
これはもしやデートかと思ったが、まあ普通に荷物持ちだろう。暇なので了承しておいた。
△月k日
今日は葉月ちゃんとお買い物である。予想よりも大人っぽい葉月ちゃんの登場に、少しドキッとしたのは内緒である。妹の友達にドキドキしちゃうお兄ちゃんとか漫画の中でしか許されないからね。いつもより大人だねと誉めておいたけど、何だか恥ずかしそうにしていた。
最初は映画を見た後、ゆっくりご飯を食べてショッピングをした。服の感想とか俺に求められて、気の効いた言葉を絞り出すのは中々難しかったが何とか頑張った。なんか最後の方とか悩みすぎて恥ずかしいこと言っていたような気もする。ここでも店員さんの目が痛かった。
それにしても……やっぱりこれはデートでは? とか思って帰ったら妹にデートじゃないと断言された。コイツ……直接俺の脳内を……!?
ちなみに妹は妹で遊びに行ってきたのだとか。何でも白夜ちゃんの家らしい。迷惑掛けてないか聞いたら、目を背けられた。
え、マジで何かやったの?
△月l日
今日も教授に誘われて麻雀をした。リベンジらしい。
今回は三位だったので少し悔しい。そして一位と四位は変わらず……あまりにも教授に運が無さすぎるんだよなぁ。
折角なので前髪君と話してみると、暗そうな見た目によらず社交的な人だった。ツインテールちゃんとは幼なじみで、二人で麻雀サークルを作ったは良いが、部員に恵まれていないらしい。暇なら誘ってくれと言うと嬉しそうにしていた。
ちなみに趣味は旅に出ることでよく海外に行くらしい……が、地元に帰ってからの記憶がいつも曖昧で、気付いたらツインテールちゃんの家でお世話になっていることが多いとのこと。
それは病院に行った方が良いのでは?
△月o日
今日は妹に誘われて部活用品の買い出しを手伝った。楽器の手入れ用の物とか、金管用のマウスピースは部費で買うという話で、妹の高校の吹奏楽部は強豪なので部員が多いので、副部長の真緒がまとめて買ってるらしい。普通買い出しって一年とかがやるのでは? と聞くと電車にも乗ったことのない箱入り娘にはもっと簡単な事から学ばせているとのこと。お嬢様学校スゴいなぁ。
口では面倒だとか言ってるけど、顔はどこか嬉しそうだった。気負うことはない、自分の『好き』に従いなさい……(ケムリクサ民)
そういえば何の楽器を担当しているのか聞いてみると、幾つか出来るが担当はユーフォニアムらしい。顧問の先生は粘着イケメン悪魔とか渾名付けられてたりしないか聞くと、普通のおばちゃん先生とのこと。まあミッション系の女子高に男の先生とか居なさそうだもんね。
△月p日
今日は潤と大学帰りに遊びに行くことになった。大学の周りを適当に歩き、目についた本屋で幾つか本を買った。我輩は猫である、って有名だけどあんまり読んだことある人いないんじゃないかなぁ。
潤も気になった本を何冊かレジに持っていっていた。何か見たこと無いような哲学書と科学関係の雑誌と少女漫画だ。店員さんの苦笑いを堪えるような笑み……俺じゃなくても見逃さないね。
その後はカラオケで暇を潰し、次の休日に家に遊びに来ることを約束をした。クックッ……細工は流々、後は仕掛けを御覧じろってな。
それにしても、入院してたからか随分久しぶりに潤と遊びに出掛けた気がする。高校の時は良く遊んだものだが……宇宙人見つけに行こうと誘ったら微妙な顔をされたのが未だに忘れられない。
くそぅ、あの時の俺はどうかしてたんだよ。それもこれもハルヒが面白かったのが悪い。
△月s日
さて、昨日は日記を書く前に寝てしまったので、今回は昨日と今日の事を書こうと思う。
昨日は潤の誕生日パーティーを開いた。何を隠そう前回家に遊びに来るよう誘ったのも、昨日までやたら外出が多かったりしたのも、全てはこのための伏線……もとい布石だったのだ。
葉月ちゃんや白夜ちゃんにも準備を手伝ってもらい、ひそかに準備を進めていた。病院で会ってからマメに連絡を取り合っている俺に抜かりはない。二人も潤とは仲良くしてるみたいで、快くサプライズを手伝ってくれた。友達の輪はこうして広がっていくんだな……ちょっと感動したわ。
勿論妹も一緒だ。でも吹奏楽部の練習ドタキャンするのは止めなさい。風邪引いたって嘘ついたろ友達から心配の電話来たぞ。
そんなこんなで潤が家に入った瞬間にクラッカーで出迎えると、アイツはキョトンとした顔で驚いていた。リアクションが薄いが、まあこんなものだろう。潤が自分の誕生日忘れるなんてあり得ないだろうし、思ってたより盛大に祝われて困ってるだけだ。
チョコレートケーキを用意して集合写真を撮影。ケーキを食べてからプレゼントを渡したらゲーム大会だ。我が家では誕生日にゲーム大会をする。これは真緒が家に来てからの伝統である。
五人いるから桃鉄もドカポンも出来ない? よろしいならば大乱闘だ。SPなら8人まで対戦できるからみんなも買え(ダイマ)。
さすがの妹も五人でやるとなるとお得意のジャストガードが難しいようで、中々熱い戦いが出来た。もっと言えば四人で妹をフルボッコしたとも言える。泣くなよ……悪かったって。
その後はトランプやらボードゲームやらで遊び倒した。外に出て遊びに出掛けたりはしない。雨降ってるんだもん。色々計画考えて来たんだが……まあ皆退屈していないみたいで何よりである。
そして気付いたら朝だった。話を聞くと疲れてソファで寝てたのでそのままにしていたらしい。起こしてくれても良かったんだけどなぁ。
女子陣はそのまま妹の部屋でお泊まり会をしたそうだ。お兄ちゃん初耳なんだけど。別に良いけどちょっと寂しい……俺も男友達と遊びたい、って思ったけどもしかして俺男友達いないんじゃね? 潤も女だし、あんまり気にしたことないけど。
……いや、ちょっと嘘ついた。パジャマ姿はちょっと可愛いなって思った。恥ずかしいから絶対言わないけどな。
そういえば皆と朝御飯食べてた時に潤から、やっぱり五年もかからないかもと言われた。
入院してた時の話か? 真緒も葉月ちゃんも、もう普通に仲良いんだけど。それとも何か別の話?
△月v日
今日は白夜ちゃんのお父さんと会った。真面目で穏やかな人だったけど、昔から目が見えないそうだ。奥さんも先に亡くなってしまったらしいし、白夜ちゃんの家は大変そうだ。
お父さんには挨拶をして、白夜ちゃんには困ったら何時でも言ってくれと話しておいた。入院してた分、のびのび生きて欲しい。
そういえば妹が何か迷惑をかけてないか聞くと、困ったように笑っていた。な、何かしたんですか?
△月w日
白雪が猫トイレを使ってくれない。
外でしているなら良いが、便秘だと病院に行くことになる。取り敢えずお腹を撫でていると、妹が構ってオーラを出して近づいて来た。真緒がお兄ちゃん離れしなくてちょっと心配ですよ……年頃の妹って兄のこと嫌いなモノなのでは?
お願いだから耳噛むの止めてくれ。普通に痛いから。
△月x日
突然だが、金欠だ。
最近よく外に出て遊んでいたせいかお金が無い。両親から生活費は振り込まれてるけど、大学の学費は奨学金借りて自分で返済しろと言われてるし、元々俺に入ってくる金は少な目のお小遣いだけだ。
バイトするか……前にやってた所は入院したときに止めちゃったし。今度はレストランとかに手を出してみるべきか。キッチンとかやらせて貰えれば、料理のレパートリーが増えるかもしれないし。
──静謐な夜だった。
しとしとと降る
──静謐な夜だった。
弱々しい雨に濡れて徐々に色を変えていく
四人掛けの大きな黒いソファに座りながら、シンとした家のリビングから窓越しに外に顔を向ける姿はどこか無機質で──まるで何かを観察しているようにも見える。
そのあり方は人形のようにも──ともすれば監視カメラのように、頑なだった。
「伝達系の魔法……それも意味不明なくらい回りくどいですね。
「そう面倒なモノでもないよ。それにこれは実験みたいな物でね。こうでもしないと、あの子達は自分が人間だってことを忘れちゃいそうだから。僕もたまに忘れそうになるもん」
不意に聞こえた女の声に、けれど潤は動じずに答えた。
潤は瞬きすらしなかった顔を件の女性に向ける。すでにそこにあったのは妙齢の女の顔で、人形のように無機質な顔はどこにも無かった。柔らかに笑う彼女を見て──その姿が自らが懸想する青年に似ていて──『神楽坂葉月』は苦笑した。
恋人同士はどこか似てくるものだという迷信を信じた覚えは無いが、葉月にとってあの笑みは大きな溝のように思えてしまう。
越えられない壁。埋められない距離。
葉月よりも三年は長く御染と一緒にいた潤に、葉月はどこか畏敬の念を感じざるを得なかった。
「……寝ないんですか? 御染さんが疲れて寝ちゃったから、今日は早く寝ようだなんて提案したのは潤先輩じゃないですか」
「はは、ごめんね。何だか懐かしくなってさ。御染の寝顔みてたら──なんか起きてたくなっちゃった」
そう言う潤の顔は、あまりにも『女の子』だった。
嬉しそうで、幸せそうで、堪らないと言わんばかりに頬を赤くする彼女の顔を、葉月は怪訝な顔で見詰めた。
(……聞いてた印象とまるで違うじゃない)
葉月が御染を調べるに当たって、その親友たる石動潤の存在も多少なりとも調べがついていた……が、今ではその報告が嘘であったと言いたくなるほどに、『石動潤』というイメージと眼前の少女の印象は大きく違っていた。
──ロボット。
それが高校時代を石動潤と共に過ごしたクラスメイトの誰もが彼女に抱いた印象とのこと。
淡々とした物言いと極めて論理的な話し方。誰に対しても何に対しても興味が無さそうな立ち居振舞い。
彼女が自ら話を切り出すことは希であり、返すことも──御染が話しかけた時以外は希だという。無視することは無いが、関心を見せる素振りすらない。事務的で無感動で、まるで既に考えられていたかのように話す姿はさながら機械のようだったと。
確かに葉月が御染と出会ってから暫くして、彼の病室で潤と初めて顔を会わせた時はその印象は変わらなかった。ただ少し、聞いていたよりも人間らしさがあった、という程度の違いだけ。
けれど葉月には、今の潤が普通の女の子にしか見えなかった。
華奢な手つきも、呼吸に震える唇も、緩やかに弧を描く目尻も、仄かに赤く色づいた頬さえも。
普通の、恋する女の顔にしか見えない。
そう見えてしまうのは──葉月が好いている青年が、現在進行形で彼女に
二人の女同士の会話の間にいながらソファの片側に足を乗せ、潤に頭を預けて『神蔵御染』は眠っていた。少しだけ疲れの見える……けれど安心したように眠る青年がそこにはいた。
葉月はソファまで歩き、彼に顔を近付ける。何も知らない呑気な顔に少しだけ腹が立ちそうだが、あまりにも無防備な寝顔は案外可愛らしかった。
「……代わる?」
「………………………………いえ、今度起きているときにしますよ。ちゃんと自分で、お願いさせてみせます」
「そっか。頼もしい限りだよ」
魅力的な提案に、長考を伴った末にプライドで乗りきった葉月に潤は優しく笑った。その顔には、どこか楽しそうな──期待するような色が透けていた。
葉月は潤の隣、御染の体とは反対側の隙間に座ると、何でもない風に口を開く。世間話でもするかのように、話の口火を切った。
「それで──結局のところ、潤先輩って
今は自身の寝室で、白夜/白雪と並んで寝ている真緒の言っていたことを思い出しながら葉月はそう問う。潤は少し困ったように笑うと、
「それについては説明がしにくいんだよね。僕の
「『情報存在』?」
「そう。実体の無い情報だけの存在でありながら、自身の回りのありとあらゆる情報を収集する機能を持った存在。命も無ければ触れられもしない、けれど確かな自我とある程度の取捨選択のできる程度の知能を持ち合わせた不確かなモノ……真緒ちゃんは宇宙人だって言ってたけど、今の僕からすれば『情報存在』は電波とか、もしくは実体の無い粘菌に相当する存在だ」
「……質量もないのに、情報を収集する存在? エネルギーとかどうなってるんですかそれ、物理法則ガン無視じゃないですか」
「君の例えは科学的だね。とても魔法使いとは思えない着眼点だ」
「魔法も科学みたいなものですよ。色んな法則から、使えるところを引っ張ってくれば答えが出る……出力のための機械が人間の体や魔法陣とかになったってだけです」
機械でも魔法使えますけどね、と最後に付け加える葉月に潤は小さく笑った。
真緒や潤を超常の存在だと考える彼女も、十分にこちら側であることをきっと自覚していない。自分よりも上がいると理解したことで、相対的に自分の能力を過小評価し過ぎているのかもしれない。
それでも挑戦的な瞳で次の話を期待するように潤を見る姿は、ベッドでお伽噺をねだる子供のようにも見える。
(……御染の好きそうな子だなぁ)
好きなことと大切な物が多い友人を思いだし、膝の上に乗った彼の頭に手を当てる。責めるように彼の頬を指でつついても、間抜けな顔が変な顔になるだけで──そしてそれだけで何だか面白くなさそうにこちらを見る葉月は、やはり御染の好きそうな子だ。
行動派で好奇心が旺盛、理知的だけど嫉妬深い。
自分を振り回してくれる人をどこかで望んでいる──物語の主人公が何かに巻き込まれるように、ここではないどこかを望んでいるくせに、日常から離れたくないと思っている御染にはちょうど良い女の子だ。
「さて、話を戻そっか。『情報存在』だった僕は、ある時地球を見つけた。どこの星にも無い物質と密度……生命体というあまりにも情報に富んだ存在を見つけた僕は地球に足を下ろしたんだ。その時に一人の人間の情報を収集して──そのまま同化しちゃってね」
「……それが『石動潤』だった?」
「君が思っているよりも、人間は大きな……容量の『重い』生き物だ。複雑で柔軟、多様性に優れて情報の密度が高い。そのせいか『情報存在』の方がその肉体に
あながち間違いじゃないから色々と難儀する、と潤は一度言葉を区切った。
「
「……色々と突っ込みどころはありますが、取り敢えず言わせてもらえるなら……何でそんな口調に?」
「彼と会ってから漫画とかに影響されてね。それに御染の好みに合わせてたりもする」
「その辺ちょっと詳しく」
「僕の正体はこれくらいだよ。思っていたより大した物じゃ無いだろう?」
「いえ色々と規格外ですよ……あっ、ってことはさっき通信していたのってまさか『情報存在』のお仲間さん?」
「いや、『情報存在』は僕の認識する限り僕だけだよ。彼らは……なんて言えば良いのかな。遺伝子情報的には僕と御染の子供なんだけど」
「──はあ!?」
「いや、DNAのベースに僕と彼のを使っただけで、僕が個人的に創った子達だよ。出力媒体として体を手に入れたことで、『情報存在』としての機能が拡張されてね。情報の創造と改竄が可能になったから、
「……………………えっ、それ0から1を産み出したってこと? 何それ意味わかんない」
「何であれ実体を持つ物質は、必ず情報を保持している。それがどんな材質であるか、もしくはどれくらいの大きさなのか、あるいはどういう用途で使うものなのか。そういった物質の持つ『概念』を『情報存在』は解析して集積する……今までは出力のための機関が無かったけど、ここにいる僕は『概念』から物質を創造出来るようになっただけの話だよ。葉月ちゃんもさっき言ってたじゃないか、
「……理屈っぽく言ってますけど、それ設計図の紙を素材にパソコン造るくらい馬鹿な理論ですよ」
「鉛から金を作るような人達に言われたくないなー」
「否定はしませんけど、一応言っておくと黄金錬成にも準備とか儀式とか面倒なことが色々とあるんですよ? そもそも金を作るよりも準備の方がお金がかかりますし手間も割りに合わないくらい面倒だったり……遠回りにも程があるんで誰もやりたがらないですし」
「なら僕のやってることは遠回りの最たるモノだよ。子供が欲しいなら御染とセックスすればいいもん」
「せっ……!? た、確かにそうですけど……」
「まあ、今はちょっと事情があって世界を回ってもらってるんだけど……全部終わったら、御染に紹介しないとなぁ」
「ずっと、聞いておきたいと思ってたことがあるんです……潤さんも真緒ちゃんも、どうして御染さんに自分の正体を明かさないんですか?」
弛緩していた空気を引き締めるように神妙な面持ちで葉月はそう切り出した。先ほどと一転して真剣な表情を見せる葉月に、潤は目線を合わせて、
「そうだね……理由は大きく分けて二つ。まず一つは、知らないなら知る必要なんて無いからだよ。事実御染は真緒ちゃんと暮らし初めてからも、僕と一緒にいた高校三年間で僕達の正体に気付くことも、不都合なことも何もなかった」
「
潤の言葉を、葉月は間違っていると断定した。
そもそも葉月が御染に自分の──自分が魔法使いであることを隠しているのは、潤や真緒がそうしているからというのが大きな理由だ。そして御染の事を家族以上に好いていて、そして異性として愛してるだろう潤が、今話した事を理由に正体を隠しているとは思えない。
嫌われたくない以上に、知って欲しいと願う『女の子』の気持ちを葉月は知っているから。
だからこそ、葉月は潤から視線を外さない。
本命の理由があるのだろうと言いたげに。
「……葉月ちゃんは、御染を好きになった時どう思った?」
「好っ……まあ、その。や、優しい人だなぁとか……私のために怒ってくれたのは、凄い嬉しかったですし」
「運命を感じた、とか?」
「…………何ですか、馬鹿にしてるんですか? 良いですよーべつにー自分でもちょっと夢見がち過ぎだなぁ、とか思ってますからー」
「そんなに拗ねないでよ。馬鹿になんかしてないし……多分みんなそう思ってるだろうから」
その言葉に、少しだけ引っ掛かる物があった。
勘と言うには弱く、確信と呼ぶには強すぎる……虫の知らせとでも言うべきナニカを、葉月は感じた。
「………………
「……葉月ちゃんなら引っ掛かると思ってたよ。うん、多分……いや確実に全員だと思うけど、きっとみんな御染に運命を感じているんだと思う。白夜ちゃんも白雪も、真緒ちゃんも同じような事を言ってた」
例えばそれは、イルカが同族間で電波のやり取りをしてコミュニケーションを取るような、余人には理解しえない感覚。
共鳴、とでも言えば良いのか。
共感、の方が正しいかもしれない。
「御染が入院する前くらいまでは確信が持てなかった。『情報存在』としての機能を何億回と使って
けれど、と潤は言葉を区切る。
「彼の右目を見て、確信が持てたよ」
「右目って……あの赤くなった? でもあれは事故での出血とかが原因の症状なんじゃ……」
「──怪我なんてしてないんだ」
「えっ?」
「御染は目なんて怪我してない。事故の時に圧迫したわけでも、内出血を起こしたわけでも、ましてや後天的な色素欠乏に陥ったわけでもない。彼の右目は、本来左目と同じく
そして。
「そしてどうも普通の人には何も異常も無く黒く見えているらしい。彼のカルテを拝借したけど、右目の異常はどこにも記載は無かった……医者のメモにも、走り書き程度の痕跡すら、彼の右目に関する事は何もなかった」
ふと、葉月は顔を下へと向ける。
潤の膝を枕に眠る青年の寝顔を見ながら、右目に触れる。割れ物を扱うように瞼を軽くなぞっても、そこには震えるように動く眼球があるようにしか見えなかった。
「さっき伝達魔法で子供達から世界中の事を伝えて貰ってたんだ。ここ数年で増加し始めていた地球の龍脈──星の魔力が、今年から励起してる。まるで外部から刺激されたみたいにね」
イギリスのロンドン。
ギリシャのオリュンポス。
中央アジアのチベット高原。
北アメリカのロサンゼルス。
アフリカの南サヘル。
南極大陸の中央。
そして日本の東京。
既に確認されているだけで七つ。
そして、恐らくはそれ以上の場所で何かが起こっている。
「世界が、動き始めたんだ」
──静謐な夜だった。
いつの間にか降っていた雨が止み、耳が痛くなるほどに静かな夜がリビングを支配していた。
葉月は驚きのあまりに目を見開いていた。
話を聞いただけの、漠然とした圧倒感。
それが只の杞憂で終わるわけがないことは、二人には理解できていた。
「……世界が、動く」
「あぁ、そしてそこにはきっと御染が関係してる。この一連の出来事の中心ではないにしろ、きっとその一端を握ってる……だから御染には話さないのさ。御染が何も知らないこと……それすらも何かの予兆なのかも知れないからね」
ふう、と。
一肺に残っていた空気を吐いた潤は、御染の体が動かないように抑えながら立ち上がる。後ろで髪を纏めていたシュシュを優しく取ると、ブラウンの長髪が流れるようにほどけていく。
「長く話し過ぎちゃったね……早く寝ないと、明日が起きられなくなっちゃう」
「そう、ですね……」
「難しく考える必要はないさ。もうきっと誰も止められないし止める必要もない。僕達には来るべきナニカに備えておくことくらいしか、ね」
潤の言葉に葉月は小さく首肯し、立ち上がる。
胸の内に
なんだか場違いというか、雰囲気違いとも言うべき寝顔に苦笑する。
──ただの寝顔を見詰めただけで安心しそうになるのは、惚れた弱味か。
(……考えても、仕方ないか)
思考を振り払うように頭を動かすと、二階へと繋がる廊下へと向かう。そこで待っていた潤と並んで階段を登って、真緒の部屋に入ると二人は倒れるように並んだ布団へと寝そべり、瞼を閉じる。
静かな夜が、幕を閉じた。
「……ねぇ、もうちょっとだけ話さない?」
「……何を話すんですか?」
「実は僕、恋バナってしたことないんだ。真緒ちゃんは恥ずかしがって、そういうことしたがらないから」
「宇宙人も恋バナしたいものなんですね……というか、私御染さんのことしか好きになったことないですよ?」
「僕もだから安心してよ……じゃあまずはどこら辺が好きになったのかとか……」
「わ、私が先ですか? ……ちゃ、ちゃんと潤先輩も話してくださいよ……」
「わかってるわかってるって……」
「……何、話してるの?」
「おっ、真緒ちゃん起きた?」
「ちなみに私も起きてますよ。3分位前から」
『…………わたしもおなじく』
「あれ、白雪が表に出てきてる……白夜ちゃん眠いんじゃない?」
『…………いけます。ちょーいけます。びゃくや、ねむくないです』
「仕方ないなぁもう……十分くらいだけだよ?」
副題
『それはきっと、運命が扉を叩く音』
石動潤
今回の主役。電波系宇宙人?
長門というよりは佐々木、そして発想はデビルーク星人。真緒と並んで今作屈指の設定がヤバイやつ。そしてエボルトは関係ない。
主人公と同じく大学二年生。誕生日パーティー開かれたボードゲーム大会ではスコットランドヤードで無双した。
神楽坂葉月
今回の主役。今回も主人公より主人公してる。
01では結構高飛車だったが、ヒロイン勢ではぶっちぎりで常識人。魔王相手にトランプのスピードで熱いファイトをするくらいには負けず嫌い。
高校二年生の十六才だが、実は真緒が同い年だということに驚いた。潤へのプレゼントはブランド物のシャープペンシル。
神蔵真緒
サブ1。妹は最強を物理で知らしめる女の子。
何気に芸術派だが、家事はできない。現在絶賛花嫁修行中だが、本人は主人公から離れるつもりは無いしどちらかと言うと花嫁は主人公だと思う。
高校二年生だが身長低いので中学生に間違えられる。潤へのプレゼントはお気に入りのチョコレート。
神輿白夜
サブ2。最近ちょっと社交的になった。
人と猫との常識に心が揺れ動き、ちょっとモラルハザードを起こしてる。首輪をつけられたことを喜んだものの、さすがにトイレシーンはNGらしい。
年齢的には中学三年生で、最近父親(?)に勉強を教えて貰ってる。潤へのプレゼントは白雪と連盟で黒猫の貯金箱。
白雪
サブ3。若干潤と喋り方が被ってる。
実はヒロイン勢では一番不健全。白夜の常識が揺らいでる影響で最近御染に頭を撫でられただけで腰に力が入らなくなるらしい。元猫なのでトイレは肯定派。
年齢不詳。潤へのプレゼントは白夜と連盟で黒猫の貯金箱。
神蔵御染
今作の主人公。友達の友達を友達にする友達。
親しい人の誕生日とか記念日は大体覚えてるし大なり小なり祝ってくれる。実際に友達にいると凄い嬉しい。
大学二年生の留年神回避(ご都合主義)。潤へのプレゼントは特製ブックカバー三点セット。ちなみに去年はシュシュを手作りしてあげた。
次回は後日談的なやつを。内容は、
『魔王と魔法使いのスピード勝負』
『白夜ちゃんの里帰り~神輿本家崩壊~』
『世界龍脈調査・南極編』
の三本を予定してます。
もしかしたら変わるかもですが、ゆるって待ってて下さい。