「俺は3000文字程度の後日談を書こうとしたら、いつの間にか倍以上の後日談と短編が出来ていた」
な…何を言っているのか、わからねーと思うが、俺も何をしてるのかわからなかった…。
というわけで長くなりました。三つに分けて投稿します。
正直日記で誤魔化せない分、描写下手くそ過ぎて詰まんないかも知れませんが、その時は読まなくてもまあ大丈夫です。
暇潰しになればそれ以上の喜びはありません。
「……葉月。勝負、しよっか」
始まりはそんな小さな一声だった。
葉月が初めてゲームをしたその日、大乱闘を謳うテレビゲームで真緒が無双したせいか、即座にトランプやボードゲーム大会に移行した時のこと。取り敢えず三人で出来る物を遊び尽くし、御染がトイレ休憩を求めて部屋を出ると、真緒がそう提案してきた。
「いいよ。何する?」
「……スピード」
そう言う真緒の手にはトランプが握られていた。コンビニで売ってるような一般的なプラスチック製のトランプ。先程まで大富豪で使われていたそれを、真緒は黒と赤の絵柄で分けていく。
スピード。
一般的な『遊び』をこの年齢まで知ることの無かった葉月でもルールは理解できている。山札から引いてストックしたカードを、場に出ているカードと数が続くように置いていき、最終的にカードを捌ききった方の勝ち。神蔵家のローカルルールがあったとしても大筋はきっとそれで間違いない。
だからこそ、葉月は軽い気持ちで了承した。
「……普通にやるんじゃ、つまんない、から。なにか、賭け、よっか」
「別に良いけど何賭けるの? 土地とか?」
「……ぶるじょわじーは、これだから……」
「冗談よ。父様ならまだしも、私が自由に使える資産なんて大したものじゃないもの」
葉月の軽い冗談に、真緒がつまらなそうに息を吐く。
そんな真緒に少し機嫌を損ねた葉月は、催促するように、
「それで、何賭けるの?」
「……兄さんと1日デート権」
刹那。
静かな覇気がリビングを支配した。
「……へぇ」
普段の作られた笑みは一瞬にして消え去り、葉月の目尻が楽しげに吊り上げる。獲物を見つけた獣の眼とは違う──格上に挑戦する勝負師の眼光。
「……ルールは普通のスピード。黒と赤で、勝負する。ジョーカーは、なし」
そんな葉月の眼を受けても、真緒は顔色を変えずに両手を差し出した。右手に握られたのは黒、左手に握られたのは赤の山札。
さっさと取れと言わんばかりに差し出された葉月は、それでも楽しげに左手の──ハートのクイーンが先頭の山札を取った。
「ストックできるカードは、4枚。もしその中に、続き番号があったら、重ねて山札を引いても、いい」
山札をシャッフルした真緒は、そう滔々と続けながら山札の上から4枚のカードを机に並べる。そこに見つけた6と7のカードを重ねると、山札からもう一枚を捲って並べた。
「……理解、できた?」
「そんなの分かってるわよ──で、デート権ってどういうこと? そんな機会があったとしても、真緒ちゃんが私にわざわざ言う必要なんて無いわよね?」
話を聞いた時点で、既に頭の中に十数通りの勝ち方を予想していた葉月は、惚けた真緒にそう質問をした。
1日デート権──額面通り受けとるなら、1日御染とデートできる権利の事だろう。その話に食い付かない葉月では無いが、それでも疑問があった。
そもそもそんなことを葉月に話しても、真緒にメリットが無い。葉月は既に御染との会話からここ一週間の予定をある程度熟知していたが、それでも毎日自宅で顔を合わせる真緒には情報量で劣る。葉月の知らない御染の予定を、真緒が共に過ごすことは容易い。
だからこそ、どこか面倒そうに賭けを提案してきた真緒に違和感があった。
「……今週末、白夜が家に帰るって」
「白夜ちゃんの実家って……神輿の家に? でも白夜ちゃんって……」
『神輿』。
呪いを生業とする家系であり悪名高き災いの家。非合法な実験や倫理を無視した兵器開発を続けていると噂され、けれど表向きは日本政府に貢献していることから迫害されることなく──場合によっては『神楽坂』と同じ『四家』の内に含まれて『五家』の一角と評されることすらある。
だからこそ、葉月が白夜を知った時は驚き、そして事情を聞いて同情した。噂は噂ではなかったのだと。
「……ケリ、つけたいって」
「ケリをつけるって……潰しに行くってこと?」
「んっ……だから、負けた方が、付き添い」
真緒はそう言うと、少し顔を背けた。その顔には仄かに恥ずかしげな赤と、もどかしげな表情があったことを葉月は見逃さなかった。
──ああ、なるほど。
つまるところ彼女は、
真緒と白夜、白雪はどこか波長があったらしく、年長の真緒が何かと世話を焼いている事があった。退院してから神輿家を半ば家出している白夜を、猫の姿で匿ったり自分の部屋を貸していたりするほど、真緒は彼女たちの事を気に入っていた。
だからこそ、実家に戻り自分の過去と対面する覚悟を決めた白夜に力を貸したくて、この勝負を仕掛けた。
葉月が勝てば、真緒が白夜に付いていく。
真緒が勝てば、葉月が白夜に付いていく。
──いじらしいなぁ。
行動は素直なくせに、言葉が遠回しな真緒らしい姿だ。
微笑ましいものを見るように笑う葉月に気が付くと、真緒はムッとしたように睨みながら姿勢を正した。
「……あんまり舐めてると、
──その言葉に、弛緩していた葉月の体が強ばった。
底冷えするほどに冷たい気迫と恐怖。
人としての本能が逃げろと警告するほど強い畏怖の波動が、真緒を中心として解き放たれる。一瞬の放出が空気を揺らし、ビリビリと大気を震わせ窓ガラスが軋む。
魔王──人間よりも格上の、星から産まれた真なる生命体。曰く『大陸を
自分よりも、格上との勝負。
それこそ葉月が心の中で欲し、そして御染に与えられた運命に違いない。
流れるようにシャッフルをしつつ、葉月は身体強化の魔法を発動する。腕の間接と指先に加速魔法。状態を維持するために正座した下半身とカーペットの座標を固定し、魔力で編んだ極小の糸で指先を覆う。ヤモリの手のひらのように小さく
「……『その瞳は鷹のように』」
小さく囁いた詠唱。
蒼く色付いた瞳が写すのはトランプの絵柄。
詠唱を簡略化した『透視魔法』も加えた複数の魔法の同時発動に、葉月は一筋の冷や汗でもって堪えた。
けれど──
そもそもスピードというゲームにおいて速さは絶対の有利だ。相手よりも速くカードを重ねるという行程を延々と繰り返すだけのゲーム故に、その行動を
……けど、策はある。
カチャリ、と。
扉を開く音と共に御染がリビングに入ってくる。張り詰めた雰囲気の二人を遠巻きに観察しながらソファに座ると、寄ってきた白猫──恐らくは白雪を膝に乗せて二人の様子を伺った。
言葉を無くとも、ゲームの審判をするという意思表示だろう。葉月は心の中で感謝しながらも、それでも真緒から眼を離さない。
──示し合わせは無く。
──されど同時に動く両者の右手。
それが、最初の合図。
「「スピード」」
ゆっくりと山札の一枚目をめくり、目の前に最初の二枚のカードが出された。
──その時には既に遅い。
残像を残して既に二枚目を重ねた真緒の盤面に歯噛みしながらも、葉月はカードを重ねる。山札をめくり表を見ずに動かした彼女の右手は──
そして葉月は、ここにいたって確信を得た。
……間違いない。真緒ちゃんは──
葉月が真緒と闘ったあの夜。
あまりの死闘に夜が明け朝を迎え、がむしゃらすぎて柄にもなく結論づけることが叶わなかった真緒の強さの秘密。魔法による強化なしで音速を優に越え──なのに
──難しいことは何もなかった。真緒は、魔王は
恐らくは地球のあらゆる法則──重力も空気抵抗も摩擦も、そして人の生み出す魔法や地球の気象すらも、彼女は無効化している。音速を越えて腕を振るっても、大気を揺るがすことはなく──恐らくは揺るがすことも出来るだろうが──葉月が幾ら真緒に魔法を掛けようとしても無効化され、さらに言えばこちらの硬化魔法も意味を成さない。だからこそ周りに気負わずに全力を出すことも出来る。
確かに葉月も魔法を用いることで音速に至ることは難しくない。けれどその状態でトランプを引いて場に出すという繊細な作業を透視を含めた幾つもの魔法と並列して行うことは出来ないし、そもそもその速度で腕を振ればカードは圧縮された空気で動いてしまう。
透視魔法によって引いたカードを確認する手間は省けても、カードを引いて確認してから場に出している真緒より──二手遅い。葉月が一枚カードを出した時には、真緒は既に三枚を重ねている。
単純に、速さが足りない。
本気を出さずとも音速の壁を乗り越える彼女とは、既に生きている
……それでも。
葉月は思考を止めない。葉月は届かぬ星に手を伸ばしながら、待ち続ける。現在も真緒の濁流のような力業をいなしながらも知恵を振り絞り続けていた。
……追い縋るッ!!
元より下克上狙い。力の差は歴然とし、それでも討ち果たし──大判狂わせを狙う狩人に他ならず。
沸騰するように湯だった頭をそれでも回し、白くなる目の前を覚悟で捩じ伏せる。呼吸を忘れかけた肺に、全身の細胞を動かすために無理矢理酸素を送った。
加速度的に減り続ける真緒の山札を見ながら──それでも思考を止めずに手を動かし──待ち続ける。
それは正真正銘、ただの意地。
何処にでもいる、負けず嫌いの女の姿だった。
そして。
ピタリと。
両者の、手が止まる。
時間にして数秒、あまりにも濃厚なスピードは十を数える前に決着が付いた。
通常スピードというゲームにおいて、出せるカードが存在せず場が仕切り直しになることが殆どだが、この試合においてカードが止まることは数瞬たりともなかった。
まるで──作為的にカードを動かしていたかのように、両者の持ち札は両極端だった。
葉月の山札は──残り十二枚とストックが二枚の合計十四枚。
そして真緒の山札は──ゼロ。
それでも、驚きに眼を開いたのは、真緒の方だった。
「……そもそも、速さで勝負なんか、してないのよっ」
頬を伝う幾つもの汗を拭うこともせず、それでも勝ち誇ったように笑みを浮かべる。視線の先は真緒。正確には彼女の握るただ一枚のカード──スペードのキング。
「速さで勝てないなら、頭で勝負する──つまりは
そう声を出しながら、葉月は山札を捲る。
一枚目を捲って場に出す。真緒は出せない。
二枚目を捲って場に出す。真緒は出せない。
三枚目を四枚目と重ねてストックし、五枚目は元あった二枚と重ねられた。六枚目を場に出し七枚目を捲ると、今度はストックの六枚が一つに纏まる。続く八枚目から十枚目は示し会わせたように続き番号が場に出され、そして十一枚目と十二枚目をストックに重ねると、葉月の持ち札は一つの束になった。
合計で八枚──一番上にハートのクイーンを重ねた束を、葉月は場に出した。そうして彼女の持ち札はゼロになる。
全ては、このための布石。
両者の山札のカードを全て覗ける彼女にとって、終わり方を考えるのは当然の帰結であり……その誘導もまた当然のこと。
真緒が自分の都合の良い方向に動くようカードを出して誘導──あたかも間に合わなかった風を装いながら真緒の持ち札と山札の調整を行い、一番最後に
その計画を考えれば、あとは単純な絵合わせに過ぎない。
なるほど、確かに事は単純だった──そこに至るまでの道程があまりにも人間離れしていたことを除けば。
敏捷を増加させる加速魔法、足場を固定する硬化魔法、指にかけた糸の生成に、山札を覗くための透視魔法。そしてこの必勝の策を成らせるために回した知恵の数々に──一流の魔法使いも唸らせるほどの戦闘、いや戦術魔法のセンス。
息が切れ、頭が湯だり、視線の先がチカチカと明滅し、満身創痍になるほどの数秒は葉月にとってあまりにも長い戦いだった。
「……私の、負け」
ポツリと。
小さく囁かれた声が何だか遠くて、けれど少しだけ嬉しそうに笑う真緒の顔がふらつく視界に見えた。
それは白夜に付いて行くことへの安堵か、あるいは自分に追い縋る何者かを待ちわびていたが故の感激か。
ゆっくりとスペードのキングを出した真緒を見届けた葉月は、高鳴る胸を抑えつけて立ち上がる。
辛勝、それでも勝利。
だからこそ──あぁ、勝者は勝者らしく勝鬨をあげるものだ。
そんなことを思いながら葉月は振り返り、自分の思い人に満面の笑みを向けた。
「御染さん──今度の週末、一緒に出掛けませんか?」
副題
『魔王と魔法使いのスピード勝負』
神楽坂葉月
今回の主役。今作二回目の戦闘シーン。
人外ではないが大概おかしい子。機転と発想の力だけなら潤を凌ぐ。今回初めて詠唱したが、あんまり魔法使いという感じではない。
基本的に負けず嫌いなので、負けたままでは終わらない。意地があるんだよ、女の子だからね。
神蔵真緒
今回の主役。脳筋系魔王。
一応手加減したが自分を負かす存在にココロガオドル。もう何回か遊べるドン!
ゲーム風に言うなら物理攻撃物理防御カンスト、デバフ無効、敵の防御バフ無効、ダメージ計算は強制的に物理防御で判定、俺ルール持ちのどう考えても負けイベ。
神蔵御染
今作の主役。(セリフなんか)ないです。
うわーすげー、とか思いながら見てる。ちなみにこのあと皆でババ抜きした。
次は明後日くらいに投稿。
GWに間に合わせたかった……。