またもやオリキャラ登場になります。
今回の話は、最終章の前の話になります。若干のネタバレを含みますので、最終章の1話をまだ観てない方はご注意ください。
あと遅れましたが、オレンジペコちゃん、誕生日おめでとう!
りほと聖女
季節は秋。風も冷たく感じ始める頃、りほは戦車喫茶『ルクレール』でコーヒーを飲んでいた。
しかし、着ているのはいつもの作業着ではない。黒い女性用のスーツだ。
「ふぅ……」
手元に置いてあった書類を手にする。そこには『無限軌道杯の開催について』と書かれていた。
無限軌道杯とは、簡単に言えば戦車道の冬季大会である。しかし毎年行われてるわけでは無く、今回はなんと20年ぶりの復活となるのだ。文科省が戦車道のプロリーグ開催などに躍起になってる上、今年は大洗女子学園の活躍もあって、マイナーな競技と言われていた戦車道はメジャーになりつつある。冬季大会の開催は当然なのかもしれない。
りほは、戦車道連盟所属の派遣整備士である。どのような学校であれ、依頼があればその学校の戦車の修理や整備へ駆け付けるのが仕事だ。さらに、大会スタッフとして参加校の戦車を整備する仕事もある。だから彼女も、無限軌道杯に関する会議に出席したのだ。
「相席、よろしいかしら?」
「ん?」
ふと女性の声が聞こえたので顔を上げると、高級そうなコートに身を包んだ美しい女性がいた。彼女のことを見た瞬間、りほは思い出した。
「おやおや、『聖女』さまじゃないか」
「その呼び方は止めてくださる? 私にはマリアという名前があるのよ」
「そうだったのかい? まぁ座りなよ」
りほと向かい合うように座るマリア。彼女は紅茶と戦車の形をしたショートケーキを頼んだ。りほはコーヒーのお代わりを頼む。
「『あの時』以来ね。ハヤブサ隊のりほ」
「そうだな」
「私が隊長になった年から、貴女たちは戦場に現れなくなった。一年間、黒森峰と戦ったチームを恐れさせたハヤブサ隊……。どうして一年でいなくなったの?」
「当時の隊長からの命令だったのさ。チームワークを乱すだけじゃなく指示も聞かないなら戦わせないって。母さんにも破門を言い渡されたしな」
「そんな! 貴女たちのハヤブサは、描かれていた翼は、自由を求める翼でしょう!?」
「おいおい、BC自由学園のOGがそんな口調で良いのかい?」
りほは思い出す。雨の中、自分たちを取り囲む戦車たち。その中心に立ってこちらを狩人の目で見つめるマリアを。
マリアも思い出す。5両以上の戦車に囲まれてるにも関わらず、狂犬のような目つきでこちらを睨むハヤブサ隊の5人を。
「伝統や教えは大切だ。だが度が過ぎれば足枷になっちまう。……それと同じだよ。自由も度が過ぎれば無法になっちまう。あたし達は……無法になっちまった。だから翼を失った。自業自得さ」
「……貴女はそれで良いの?」
「今はそれぞれの道を歩んでる。みんな、満足してるさ。それに……あの大学選抜との戦いで、あたし達の翼は『導く翼』になれた。そう思ってるよ」
大洗の存続を賭けた、大学選抜チームとの戦い。その時は多くの高校生たちが不安を見せていた。だが自分たちがハヤブサ隊のパンツァージャケットを着たことで、自分だけでなく他の人々にも気合を入れられたと、りほは思っている。
「……そう。弱くなったと思い込んでいたけれど、それは間違いだったようね。変わってない、いや、自身の役目を見つけて強くなってるわ」
「そう見えてるなら、素直に嬉しいねぇ」
「……今年の無限軌道杯、娘も出るわ。もしかしたら、大洗と戦うかもしれないわね」
「その娘さんは隊長かい?」
「えぇ。自慢の娘よ」
「ふふっ、そうかい」
コーヒーを飲み終える。そろそろ学園艦への定期便に乗らないといけない。
「じゃあ、また会えたらな。マリア」
「えぇ、またどこかで。りほさん」
互いに名前で呼び、別れる。
BC自由学園OG、マリア。旧BC高校と旧自由学園の対立が始まったばかりの頃、「ハヤブサ隊こそが共通の敵」と叫び、協同作戦を成功させた『聖女』。そして、りほ達ハヤブサ隊に、初めて黒星を与えた人物である。
読んでいただき、ありがとうございました。