西住しほの妹、その名はりほ   作:G大佐

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今回は少し短めです。時系列としては、サンダース戦です。


りほと戦友

 サンダース大学付属高校。そこは、生徒数がとても多いマンモス校であり、戦車の保有数全国一を誇る学校である。生徒たちはとてもフレンドリーで、使っている戦車も相まって、アメリカンスタイルな学校とも言えるだろう。

 そんなサンダースの生徒の間で、誰もが必ず訪れるというホットドック屋がある。

 挟んでいるのはソーセージのみというシンプルなホットドックで、ケチャップとマスタードはセルフサービス。ドリンクはコーラかマウンテン〇ューの二つで、サイズは基本的に日本サイズのS~Lだが、言ってくれればアメリカンサイズにしてくれるというサービス付きだ。

 

 そんなホットドック屋の店主は、今日も上機嫌に鼻歌を歌いながら、移動販売車にホットドック用のパンを積み込む。

 

「~♪ ~~♪」

 

 しかし、彼女が歌っているのは『アメリカ野砲隊マーチ』でも『リパブリック讃歌』でも、ましてや『ジョニーが凱旋するとき』でも『星条旗よ永遠なれ』でもない。

 ドイツ軍歌の『パンツァー・リート』である。

 

「「「「待てぇぇぇぇぇ!!」」」」

「んぁ?」

 

 複数の生徒の声が聞こえ、思わず振り返る。その瞬間、癖毛のある生徒とぶつかりそうになる。

 

「うおっ、とっとっ!?」

「す、すいませーん!」

 

 転ばないように動いたため、茶色いお下げが揺れる。

 何とかバランスを取れた頃には、サンダースの制服を着た癖毛の生徒はそのまま走り去ってしまった。思わずポカンとなる。

 

「何だったんだい、あれは……」

「逃がすなぁ!」

「追えー!」

「あっ」

 

 先程の女子を追っているであろう複数の生徒が走ってきた。しかし、タイミングが悪かった。思いっきりぶつかり、ぶちまけられるパン。生徒たちは通り過ぎようとするが、何かにぶつかった事に気付いて一旦止まり、恐る恐る振り返る。

 

 そこには、怒髪天を衝くという言葉がふさわしい程に怒っている店主の姿があった。生徒たちの顔が青ざめる。

 

「テメエらぁぁぁぁぁぁ!!」

「「「「ヒィィィィィ!」」」」

 

 

 

 

 

 

 第63回全国戦車道高校生大会。サンダース大学付属高校と県立大洗女子学園との戦い。試合会場の観客席に、2人の女子がいた。2人とも黒森峰女学園の制服を着ている。

 

「サンダースが10両に対して、大洗は5両……。隊長。副隊ちょ……みほは勝てるでしょうか」

「大多数の者がサンダースの勝利を予想してるだろう。だが、全国大会ではフラッグ戦だ。逆転もあり得る」

 

 みほが勝てるのかと尋ねた女子は、逸見エリカ。黒森峰の副隊長だ。それに答えたのは西住まほ。黒森峰の隊長であり、みほの姉である。

 

「大洗に転校したときは戦車道を止めてしまうのかと心配しましたが、続けてくれて何よりです」

「そうだな。戦車喫茶で見かけたが、友人たちと仲良くやれているようだ」

「もっとも、りほさんまで大洗にいるとは思いませんでしたが」

「……そうだな」

 

 抽選会の後、まほ達は息抜きもかねて戦車喫茶ルクレールへ訪れていた。そこで偶然にも妹を見かけたのだが、チームメイトと思われる数名と楽しげに話をしていたので、声をかけることを止めたのだ。

 実は、りほも大洗にいるという事を、まほは知っていた。母から教えてもらい、その時にみほが戦車道を続けている事も知ったのだ。エリカは、大洗戦車道チームの整備班の名簿を見て、ようやくりほの事を知ったようだが。

 

「りほ姉さんは、どんな相手でも戦車を万全な状態にする。例え相手に身内が居ようとも、贔屓しないで整備をする」

「だからこそ、多くの高校から依頼が来るんですね。去年私たちの所に来てくれたのは、本当に幸運でした」

 

 エリカの言葉にまほは頷くと、2人は試合の開始時間を待った。

 

 

 

 

 

 

 その頃、試合会場の近くで、サンダースの店主はホットドックを売っていた。

 店を訪れる生徒や観客の数が減ってきたので、試合開始が近いのだろう。そろそろ閉めるかと思い始めた、その時だった。

 

「ホットドック一本おくれ。ドリンクはコーラのSサイズ」

 

 その声に、驚いて振り返った。そこには、かつての「戦友」がいたからだ。

 

「りほ!?」

「や、ミチコ」

 

 ふと、店主ミチコの脳裏に、青春の日々が思い浮かんだ。

 荒んでいた高校時代。日頃の鬱憤を、りほと「アイツ」と一緒に戦車を乗り回して晴らしていた。とても短い間だったが、本当に楽しかった。

 卒業してからの進路で、自分は「黒森峰のソーセージをもっと広める!」と意気込んでいた。今ではこうやって、ホットドック屋の店主になっている。だが、自分の店を持つことで忙しくなり、交換した連絡先へ電話をかけることは全く無かった。

 だからこそ、目の前の戦友が来てくれた事が嬉しい。

 

「あんた、大洗に居たのかい……」

「専属って訳ではないさ。大洗を優先するだけで、他校からのメンテナンスの依頼とかにも行っているよ」

 

 ミチコは、黒森峰のソーセージを焼きながら、あの癖毛生徒を思い出していた。なるほど。どうやらあの子は潜入して情報収集をしていたようだ。おおかた、潜入がバレて他の生徒に追いかけられていたのだろう。思わずクスクスと笑ってしまう。

 

「どうしたんだい?」

「いや、思い出し笑いさ」

 

 良い具合に焼けたら、パンに挟む。我ながら良い出来だ。

 

「はい、300円だよ」

「相変わらずホットドック作るのが上手いな」

「だろぉ? ケチャップはアンツィオ高校の物を使ってるんだぜ?」

「そいつぁ、ますます美味そうだ」

 

 100円玉を三枚渡すと、りほは自分の場所へ向かって歩き出す。ミチコは店を閉める準備をする。

 ふと、ミチコはりほに向かって大声で叫んだ。

 

「りほぉ! サンダースの生徒は、私にとって娘みたいなもんだ! だから言う! うちの娘たちは強いぜ!」

 

 歩みを止めると、りほは振り返って叫んだ。

 

「大洗も、いい子たちばかりだよ! 今年は面白くなるぞ!」

 

 2人同時に不敵な笑みを浮かべると、再び自分の場所へ歩き始めた。

 お互いに、あの頃の性格は変わってないようだ。




読んでくださり、ありがとうございます。

次回も投稿するかは、まだ未定です。
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