今回から劇場版です。アニメ本編、および劇場版のネタバレが含まれますので、ご注意下さい。
りほの戦い
夕焼けの中、りほは笑顔で生徒たちを見送る。
「西住整備長! 今回は我々の戦車にも修理を施してくださり、ありがとうございました!」
ハキハキとした声で頭を勢い良く下げる生徒は、知波単学園の隊長である西 絹代。頭を下げる彼女に、りほは苦笑しながら頭を上げるように言う。
「良いって良いって。大洗の子達との共闘なんだから、派遣整備士のアタシが協力するのは当たり前だよ。出来れば突撃を控えてくれると、スタッフ達も駆け回らないんだがねぇ」
「うぅ……。申し訳ありません……」
「まぁ、今回学んだことを次に活かせば良いさ。頑張りな」
「はいっ!」
絹代を見送った後、りほは道具の片付けに入る。
今回は大忙しだった。大洗女子学園の優勝を記念して、エキシビションマッチが開催されたのだ。聖グロリアーナ女学院とプラウダ高校の2校と、大洗と知波単学園の2校。それぞれがタッグを組んでの戦いは、それは激しいものだった。
特に知波単学園の戦車は、伝統である突撃をかましてくるものだから、撃破される度に回収班を出さないといけない。さすがのりほも、てんてこ舞いだった。
だが、連盟から派遣された多くのスタッフの協力もあり、どの学校の戦車も無事に帰す事が出来た。
愛用の工具箱に道具を入れ終えて、作業着から着替え終わった。その時だった。携帯が鳴ったのは。
「もしもし? ……あぁみほちゃん。どうしたの? そろそろアタシも帰るけど」
《りほお姉ちゃん……どうしよう……!》
「……何があったんだい?」
みほが泣きそうな声をしていた。すぐに表情を切り替える。周りのスタッフ達も怪訝な顔になった。
《大洗女子学園の…………廃校が決まったって……》
「なにっ!?」
そこから、りほは詳しく話を聞く。しばらくしてから電話を切った。
「姐さん。何があったんスか?」
「……大洗の廃校が決まり、学園が封鎖されてるそうだ」
「えっ!?」
周りが騒がしくなる。
「おかしいじゃないっスか! 確か、全国大会で優勝すれば存続になるはずでしょう!?」
「……口約束は、確約に入らないってよ」
「何だよそれ……! クソが!」
この場にいる全員が怒りを
「カチコミ行きましょう、姐さん!」
「そうですよ! こんなの、許されるはずがねぇ!」
「姐さんの敵は、私たちの敵っス!」
男女構わず、多くのスタッフが工具などを手にする。
「止めな!!」
だが、それはりほの声で制止される。
「姐さん……」
「もし変な行動を起こせば、学園艦の住人の再就職は斡旋しないそうだ」
「なっ……!」
「脅迫かよ!」
「そこへ戦車道連盟に所属してるアタシたちが大規模な行動を起こせば、間違いなく巻き添えが起こる! ……今は大人しく従うしか無い」
普段は勝ち気なりほにしては珍しい、弱気な態度だった。
「……姐さんは、どうするんですか」
「荷造りをして、翌日には荷物を残して退艦だそうだ。戦車も、文科省の預かりになる」
「あの子たちから、何もかも奪うってのかよ! クソッタレ!」
「だから、アタシも退去の準備をしないといけない。……ごめんよ。先に行かせてもらう」
スタッフ達が見る先輩の後ろ姿は、とても寂しい姿だった。
「これで良し、と」
「りほお姉ちゃん。こっちも終わったよ」
「お疲れ様。少し休憩しよっか」
「うん」
みほと生活を共にしてきた部屋には、段ボールの山が出来ている。2人で笑いながらご飯を食べた部屋も、今は殺風景なものになっていた。
「本当に……無くなっちゃうんだね」
「そのようだね……」
部屋を見渡すみほが、寂しげに呟く。すると、りほに抱きついてきた。
「嫌だよぉ……。みんなの場所が無くなるなんて、嫌だよぉ……!」
肩を震わせて、泣いていた。無理もない。今までの頑張りを否定されたのだ。仲間との居場所を守るために戦ったというのに、大人げない理由で無かったことにされたのだから。
りほは、大洗に来てから泣くことの無かったみほの頭を撫でながら、もう片方の手で抱き寄せて、存分に泣かせてやる。
だが、その心は、文科省に対しての激しい怒りに満ちていた。
泣き止んだ後、りほは姪の背中を押した。
「折角だ。戦車たちに挨拶してきな」
「りほお姉ちゃん……」
「アタシは、段ボールに入れてない物が無かったか確かめてから、戦車たちの様子を見に行くよ。ほら、行っておいで!」
「……ありがとう!」
みほは急いで学園の方へ向かった。それを見届けたりほは、携帯を手にする。
「遅くなって悪いね。立て込んでてさ」
《ようやく出やがったな! 大洗での件は、もうネット上で大騒ぎになってるよ》
「で、何度も電話をかけてきて何の用だい、ミチコ」
電話の相手は、サンダースでホットドック屋をやっている元戦友のミチコだ。
りほの口は、獰猛な笑みを浮かべている。
《そちらの戦車を、サンダースで預かることにした!》
「へえ? そりゃ大胆なことするねぇ。誰の考えだい?」
《向こうの生徒会長さんだ。こっちの隊長は、張り切ってスーパーギャラクシーの手配をしている》
「……やっべ。もしかしたら姪を慰めてる間に通知来てたかもしれねぇな」
実際に、ミチコから来た複数の通知のうち数件は、生徒会からの物が混じっていた。
《今そっちに向かってる! 早く学園に来な!》
「……あ? ミチコが向かってるってどういう事だ! おい! ……切りやがった」
りほの返事を待つこともなく、電話は切られる。首を傾げながらも、学園の方へ向かった。
大洗女子学園の校庭。りほがそこへ向かうと、カメさんチームを除くメンバーが集まっていた。
「あ、班長さん!」
ウサギさんチームの車長である梓が、りほに気付いて声をかける。気付いた他の生徒たちも、りほに駆け寄る。
「みんなも集まってたんだね」
「班長さん。やっぱり、私たちの戦車は無くなっちゃうんですか?」
カモさんチームのみどり子が、心配そうな顔をしている。周りは寂しげな雰囲気に包まれていた。
「そんな訳無いだろ!」
「……え?」
「アタシの仲間がやって来るさ! 空を見な!」
みほ達が空を見上げると……巨大な輸送機がこちらに向かっていた。
「C-5Mスーパーギャラクシーですよ!」
優花里が興奮気味に、その輸送機の名前を言う。
着陸したスーパーギャラクシーには、サンダースの文字があった。
りほは、学園へ向かう途中、生徒会からのメールを読んでいた。文科省には紛失届を出し、戦車はサンダースに預けるという内容である。ミチコの言った通りだった。
すると、スーパーギャラクシーから、戦車道チームの隊長のケイが降りてきた。しかし、どこか不思議そうな顔をして。
「何でホットドックショップのお姉さんまで?」
「大洗には戦友がいるからねぇ」
「戦友、ですか?」
ナオミやアリサも不思議そうな顔をする中、ミチコだけが戦友に手を振って駆け寄る。
「りほ! 来てやったぜ!」
「ミチコぉ! まさか本当に来るとはなぁ!」
2人してハイタッチするのを、一同はポカンと見ている。
「あの人って、大会の時にいたメカニックよね?」
「お知り合い、でしょうか」
サンダースの3人が不思議そうに見て、
「あの人、ホットドッグ売ってた人じゃない?」
「でも、何でホットドッグ屋さんと班長さんが?」
大洗の生徒たちも、不思議そうに見ていた。
「にしてもお前、その格好……」
ミチコの服装は、いつもの料理エプロンを着けた姿では無かった。
彼女が着ているのは……黒森峰のパンツァージャケットだったのである。
「大洗廃校の件について、色んな所から怒りの声が上がってる。だったら戦ってやろうって、『リーダー』が言ったのさ!」
「リーダーが!?」
「あんたの分もあるよ! ほら!」
ミチコが投げ渡したのは、りほもかつて着ていたパンツァージャケット。背中には、空を羽ばたくハヤブサの姿が描かれている。わざわざ作り直したのだろう。サイズもぴったりだった。
「……まさか、また着ることになるとはねぇ」
ジャケットを着る。その仕草に、周りから「おおっ!」と声が出る。
パンツァージャケットを着たりほは、一段と凛々しく見えた。彼女は、未だにポカンとしているみほを見る。
「みほちゃん」
「りほお姉ちゃん、戦車道はやったこと無いって言ってたよね……?」
「ごめんよ。嘘ついてて」
「……りほお姉ちゃんも、戦うの?」
「大人の戦い、かな。このハヤブサは、気合い入れるためさ」
「りほお姉ちゃん……」
「……アタシが居なくても、大丈夫だね?」
「……うん! 私には、みんながいるから!」
「よく言った! それでこそだ!」
ギューッ!とみほを抱きしめると、すぐに解放する。
「さぁ、みんな! 急いで積み込みな! 向こうでアタシがしっかり見といてやるからね!」
『『『『『はいっ!!』』』』』
戦車が次々とスーパーギャラクシーに積み込まれていく。ミチコとりほが監督として見守りながら、話し合う。
「聖グロの隊長さん、確かダージリンだっけ? 彼女が何かをしようとしているそうだ」
「へぇ、彼女が……。リーダーからの情報かい?」
「あぁ。リーダーは今、継続にいるみたいだよ」
「さっすが改造屋、足が速い。あらゆる場所を旅してるだけあるよ」
戦車が全て積み込まれた。スーパーギャラクシーに、りほも乗り込む。
「すぐにお届けするから、待ってておくれよ!」
「移動先が分かったら、教えてね!」
「しっかり届けてあげるから」
「ありがとうございます!」
スーパーギャラクシーが離陸する。その後ろ姿を見つめながら、みほは一人呟いた。
「あのハヤブサのマーク……ひょっとして…………」
ありがとうございました。
次回の投稿がいつになるか未定ですが、内容としては、りほの過去にしようかと思います。