本当に、ありがとうございます!
今回はサブタイトルの通り、りほの過去です。戦車知識が無いに等しいため、おかしい点があると思います。指摘してくだされば幸いです。
歌声が聞こえたら、無線を切れ
ハヤブサが見えたら、すぐ逃げろ
軍歌を響かせ、奴らは来る
奴らの名前はハヤブサ隊
黒森峰の、はぐれ者
熊本県、某所。セミの鳴き声が響く中、みほは地元に来ていた。転校手続きの書類に、親からの判子が必要だからだ。
さすが西住流と言わんばかりの豪邸の門前で、みほは中に入るのを躊躇っていた。何せ急に廃校が決まり、急に転校手続きの書類を書かなければいけないのだ。母親に連絡を入れる暇すら無かった。
「(連絡もなしに急に来たんじゃ、ビックリするかな……)」
「みほ」
なかなか決心がつかないでいた所へ、声をかけられた。
そこには、夏休みで帰省していた姉の姿があった。
「お姉ちゃん」
「突然来るなんて何かあったのか? それに、りほ姉さんはどうした?」
「う、うん。あのね……」
「お嬢様?」
みほが理由を話そうとしたとき、女性の声が聞こえた。
彼女の名前は菊代。西住家の家政婦である。
「お帰りなさいませ」
「……うん。ただいま、菊代さん」
ペコリと頭を下げる彼女に、みほは微笑みながら、そう返した。
「大洗が廃校……。口約束は確約ではない……」
居間に、重苦しい空気が流れている。まほとみほは冷や汗をダラダラと流す。
2人の目の前には、背筋をピンと伸ばして正座をしているしほの姿があった。最初こそ突然の帰省に驚かれたものの、優しい笑みで「お帰りなさい」と言ってくれた。だが、帰省の根本的な理由を知った途端に今のような空気になった。
怒ってる。絶対に怒ってる。2人は早く逃げ出したかった。
「……ひとまず、この書類に私の名前を書いて、判子を押せば良いのね」
「う、うん。ごめんなさいお母さん。突然こんな……」
「謝らなくて良いわ。それにしても、戦車道プロリーグを考えている文科省が優勝校を廃校にするなど、何て愚かな……」
いつも書類作業をしてるからなのか、慣れた手付きで記名場所にしほの名前を書き、ポンと判子を押した。
「あの、お母さん」
「何かしら? まだ必要な書類があるの?」
「ううん、そうじゃないの。りほお姉ちゃんについてなんだけど……」
「りほの事?」
「りほお姉ちゃん、黒森峰のパンツァージャケットを着たの」
「っ!?」
しほが、目を見開いて驚く。指の力が抜け、ペンが音を立てて倒れた。
「りほ姉さんが? りほ姉さんは戦車道をやってない筈だぞ?」
「私もそう思ってた。でも、サンダースの人から渡されたのを、りほお姉ちゃんは着たの。『久しぶりだ』って言いながら」
「みほ。そのジャケットは、まさか……」
「うん。ハヤブサのマークだった」
しほの問いに答えるみほ。その瞬間、まほも驚いたような顔になる。
「まさか……りほ姉さんが、そんな……!」
「お母さん。りほお姉ちゃんって……」
ハヤブサ隊なの?
「……………………」
しほは目を瞑って、黙りこむ。しばらくして、目を開けた。
「話したら、りほは嫌がるかもしれないと思って、ずっと話さないでいた。けれど、貴女たちなら話しても大丈夫かもしれないわね」
しほの口から、りほの過去が語られた。
それは、しほが黒森峰女学園の二年生になる年だった。一つ年下の妹も、姉の姿を追うかのように入学してきた。彼女は戦車が好きな女の子だった。戦車道チームに入るのは、しほにとっては予想通りだった。
黒森峰は、西住流の影響を強く受けている。その戦い方は力強いものがあるが、一方で想定外の事が起こると一気に崩れてしまう脆さがあった。
りほは、縛られるのを嫌った。Ⅲ号戦車に乗っていた他の4人も、同じような人間だった。
だから彼女たちは、事あるごとに当時の三年生隊長に意見を具申していた。だが、当時はまだ生徒間の上下関係が厳しかった時代。受け入れられる筈が無かった。
それ故か、彼女たちは独断行動を繰り返した。無線を繋げば、返ってくるのは『パンツァー・リート』の大合唱。ドイツ戦車でどうやってるんだと聞きたくなるほどの大爆走。隊長の指示を無視しての、相手への奇襲攻撃。他のチームメイトが混乱することも、多々あった。
だが、相手からすれば、今までの黒森峰の動きと全く違う。黒森峰への対策プランが一気に崩れてしまい、立ち直ろうとした隙を突かれて撃破されるなんて事もあった。当時の相手チームからしたら、りほたちのハヤブサマークは恐怖の対象だった。
だからこそ、彼女たちは恐れられたのだ。『ハヤブサ隊』と……。
しかし、いくら相手を撃破しているとは言え、チームワークを乱し指示も無視するというのは、問題行動でしか無かった。
故に彼女たちは、一年にも満たず除隊処分となった。
それだけでは無い。りほは、当時の家元(まほとみほにとって祖母にあたる人物)から呼び出しを受けた。
『お前を西住流から破門する。戦車に乗って戦うことは、二度と許さない』
勘当とならなかっただけ、まだマシだったかもしれない。しかし、りほは二度と戦場に戻る事は無かった。
「私は、りほを庇うことで自分も破門されるのではと恐れていた……。私は、妹を守れなかった、駄目な姉なの……」
まほとみほは、言葉が出なかった。黒森峰でのハヤブサ隊とはチームワークを乱すという意味合いが強く、2人は反面教師として覚えていたのだ。
まさか、叔母がそのメンバーだったとは、信じられなかった。
「だけれど、この話には続きがあるの」
「「え?」」
しほは、りほにすがり付き泣いていた。口から出るのは謝罪の言葉ばかり。
『ごめんなさい……! 本当にごめんなさい、りほ……!』
『止めてくれよ姉さん、かえって惨めになっちまう』
『それでもお願い……謝らせて…………お願いよ……!』
りほの制服を掴む力が強くなり、床にはポタポタと涙が落ちる。
『私は貴女から戦車を奪った……! 戦車が好きな貴女から奪ってしまった……!』
『いや、これは自業自得だよ。……うん。今思えば、アタシは馬鹿だった』
しほが謝罪すれば、りほは遠回しに『姉さんは悪くない』と返す。2人の会話は押し問答と化していた。
これに折れたのは、りほである。
『だぁぁもう! 分かったから! 分かったから離してくれ! もう夜遅いんだし!』
無理やり引き剥がされるような形で、2人は別れてしまった。それ以降の数日間、しほは気まずくて彼女に声をかけることが出来なかった。
しかし、ある日の事。隊長から整備班の紹介があった。戦車も多く保有している黒森峰では、整備班として戦車道チームに所属している者もいる。
たが、時期としては少々遅い気がした。心なしか隊長も疲れているような顔をしている。
『あー……。今日から新しく整備班に編入された生徒たちを紹介する』
『…………っ!?』
何と、そこに並んでいたのは、ハヤブサ隊の5人だったのだ。
全員が驚く中、5人の自己紹介が進み、それが終わると彼女たちは整備班の場所へ走っていった。
最初こそ、除隊された恨みとしてわざと戦車を整備不良にするのではと恐れられたが、その心配はむしろ不要だった。
『りほぉ! ドライバー持ってこい!』
『はい!』
『ミチコぉ! テメェはバールとレンチの区別もつかねぇのか!』
『すいません! すぐに取り替えます!』
黒森峰の整備班たちは、「己の整備が黒森峰の勝敗に掛かっている」という責任を持っている。その理念を叩き込むためか、りほたちは厳しく指導を受けていた。
今のりほの整備へのこだわりは、実はこの指導から来ているのだ。
練習を終えて解散となった時間帯に、しほはりほの元へ訪れた。なぜ整備班として戻ってきたのか。戦車に乗ることは許さないと言われたはずだ(整備を終えた後、調子を確かめるために試運転をする事があるのだ)。
そう問い詰めると、彼女はニカッと笑ってこう言った。
『母さんは、戦車に乗って戦うことを許さないって言ったんだろ? だったら、
しほは唖然とした。言葉の隙を突いて、妹は戦車を取り戻したのだ。普通ならば除隊や破門が立て続けに起こり、立ち直るのは難しい筈。だというのにどれほど強靭な精神なのか。
「(りほ……。強靭な精神を持つ貴女こそ、西住流にふさわしいのかもしれない……)」
後にハヤブサ隊のメンバーは、優秀な整備員として、新たに加入してくる整備員たちにとって憧れの存在となった。
例え戦いにおいての汚名が残ったとしても、彼女たちは笑って受け流し、最後はそれぞれの道を歩んでいったのだ。
「そして、りほは今、戦車道連盟所属の派遣整備士を勤めているの」
「す、凄い……! りほ姉さんの見る目が変わりそうだ!」
まほが目を輝かせている間、みほはふと思い出した。
りほが言っていた「大人の戦い」。戦車に乗って戦う事では無いだろう。では、何か?
「(分からない。分からないけど、ハヤブサ隊の人たちが集まりそうな予感がする……!)」
厳しい境遇を乗り越えたハヤブサ隊。りほと、ミチコと呼ばれた女性は判った。
残り3人は一体どんな人なのか。みほは気になって仕方がなかった。
読んでくださり、ありがとうございました。
次回は、残りのハヤブサ隊メンバーを出す予定です。