西住しほの妹、その名はりほ   作:G大佐

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とうとう、お気に入り件数が90件突破……! ここまで急激に伸びるとは思いませんでした。
本当にありがとうございます!

今回は、りほの仲間たちが登場します。
時系列としては、みほ達が殲滅戦を告げられる前のあたりです。


りほの逆鱗

 りほは、車を走らせて試合会場へ向かっていた。と言うのも、大洗存続を賭けた試合が決まったからだ。

 

「まさか、大学選抜チームと試合とはねぇ」

 

 助手席に座るのは、かつて『ハヤブサ隊』で砲手を務めていたミチコだ。預かっていた戦車をりほと共に大洗戦車道チームへ返した後、残りのメンバーとも合流し、共に行動している。

 

「しかも隊長は島田流の娘。つまりこの試合は、西住流との対決になる」

 

 りほの後ろの席から声をかけた女性は、メンバーの中で一番小柄だ。少し淡々とした喋り方をするこの女性の名は、ユキ。『ハヤブサ隊』では通信手を担当していた。

 

「だけど、相手が何であろうとウチたちが出来ることをする! そうだろう、リーダー?」

 

 後ろの席のうち中央に座る女性。ユキが最も小柄ならば、彼女は最も大柄だ。彼女の名前はカナエ。『ハヤブサ隊』では装填手を担当。チームでは、ミチコと並んでムードメーカーでもある。

 

「そうだな。昔はバカをやりまくった私たちだが……大人となった以上、私たちに出来る戦いをしよう」

 

 ミチコの後ろの席に座る、リーダーと呼ばれている女性。彼女が『ハヤブサ隊』の車長。名はアイコ。今回の件でメンバーを集合させた人物でもある。

 

「今回ばかりは、アタシの特権を使わせてもらったよ。リーダー達も会場のスタッフとして働けるように、頼んでおいた」

「ありがとう、りほ。だが良いのか? 私たちは連盟のスタッフの仕事に関しては素人だぞ」

「心配すんなリーダー。それぞれに出来る仕事が必ずあるからね。それに、ほんの少し年月経ったからってそう簡単にチームワークが崩れないのが、アタシ達『ハヤブサ隊』だろ?」

「ふっ、そうだったな」

 

 彼女たちの戦い。それは、政府に対してカチコミを行うことではない。

 

「黒森峰、サンダース、プラウダ、聖グロリアーナ、アンツィオ、継続に知波単……。これらの精鋭が今、大洗への短期転校手続きを済ませて、会場に向かっている」

「ウチらは、連盟のスタッフと共にみんなのサポート。そうだろう?」

「そうだ。しかも、プロリーグの戦いに合わせて、30両の戦車で戦うことになる」

「私たちはもう、直接戦車で戦うことは無い。だけど子供たちを支える行動自体が、私たちにとっての戦いになる。そうだろ、りほ?」

「そうさ。だけど、最初に考えたのはリーダーさ。褒めるならリーダーだよ。こうやって、また集まることも出来たんだからね」

 

 自分たちの戦いは、戦車に乗る少女たちを支えることである。りほがそう言うと、アイコ達は笑った。

 

 思えば、昔は「全てが敵」と言わんばかりの目付きをしていた。そんな自分たちが、今では後輩たちに笑みを浮かべ、様々な側面から支える立場になるとは思いもしなかった。

 

「私たちも、少しは変われてるって事かな」

 

 アイコのそんな呟きをよそに、りほの運転する車は会場へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 会場の中に設けられた、整備班・回収班の控え室。そこは今、騒がしくなっていた。

 

「殲滅戦、だと!?」

 

 カナエが、文科省役人と戦車道連盟理事長から告げられた試合内容に驚く。

 

 戦車道での戦いには、2つの試合形式かある。1つは全国大会でのルールにもなっている『フラッグ戦』。これは、フラッグ車となった戦車を撃破すれば勝ちというルールだ。これの面白い所は、他の車両を撃破する必要が無いため、逆転劇が起こる事が多いのだ。実際に、大洗女子学園はその逆転劇を多く見せてきた。

 一方で『殲滅戦』とは、名前の通り全ての戦車を撃破しないといけない。1両で複数撃破する実力であれば、逆転も狙えるだろう。だが、まだ他校からの援軍が来てない大洗からすれば、このルールはあまりにも厳しすぎるのだ。

 

「既にプロリーグの基本ルールが、30両の殲滅戦に固まりつつあるらしい……」

 

 理事長の児玉 七郎が、申し訳なさそうな顔で理由を告げる。

 

「貴様、その事を大洗に伝えたのだろうな?」

 

 アイコが、掴みかからんとする勢いで役人に詰め寄る。

 

「これから伝えます。まずはスタッフの皆さんに伝えるべきかと思いまして」

「今更あの子達に伝えるってのか!? ふざけんじゃねえ!」

 

 ミチコが怒鳴る。周りからも批難の声が上がるが、役人は気にも留めない。

 

「プロリーグの基本ルールに合わせると言ったのは、大洗の生徒会長です。書類にもサインをもらっています」

「くそっ……!」

「では、我々は試合ルールを大洗の皆さんにも伝えてきますので、失礼します。……あぁ、そうそう」

 

 出ていこうとした役人は、りほを見て告げる。

 

「間違っても、相手チームが不利になるような整備はしないでくださいよ?」

 

 その瞬間、役人の体が持ち上がった。りほが彼の胸倉を掴んだからだ。

 

「テメエ、今なんて言った……? 選抜チームが不利になるような整備をするな、だと……?」

 

 

「ふざけんじゃねえぞ!!!」

 

 

 空気がビリビリと震える。彼は今、りほの逆鱗に触れたのだ。

 

「アタシ達は、戦車に乗る多くの人間の期待を背負ってる! 確かに姪っ子達が心配さ。だけどね! それでアタシが贔屓すると言ったら大間違いだ! どんな奴が乗ってる戦車だろうが、完璧に動かせるように整備する! それがアタシ達の信条ってもんだ!」

 

 乱暴に役人を解放する。彼は咳き込んで少し息を整えた後に何か言い返そうとしたが、出来なかった。スタッフたちの気迫に圧されていたからである。

 

 カナエが口を開く。

 

「お偉いさんよぉ……。ここでは口の利き方に気を付けな」

 

 カナエを始め、多くの人間が拳の骨を鳴らしたり、工具を片手にいつでもリンチ出来る態勢になっていた。

 その様子に冷や汗をダラダラと流しながら、彼は控え室から逃げるように退室した。他のスタッフ達は彼の背中を見送りつつ、中指を立てていた。

 

「……すまない。何も力になれなくて」

 

 七郎が、りほに深く頭を下げる。りほはその姿に慌ててしまう。

 

「い、いや、謝らないでくださいよ! むしろアタシは感謝しかありません! 昔の仲間をボランティアスタッフとして認めてくれて」

「いや、私も理事長としてもっと強く出るべきだった……。大洗の子達には、申し訳ない事をした……」

「……大丈夫です、理事長」

「え?」

「彼女たちには、大会や練習試合を通じて得た仲間たちがいますから!」

 

 りほのその笑みは、大洗の生徒たちを信じて疑わない、輝かしいものだった。




読んでいただき、ありがとうございます。
一応、ここにハヤブサ隊のメンバーをまとめておきます。

車長:アイコ
装填手:カナエ
砲手:ミチコ
通信手:ユキ
操縦手:りほ

この5人が、ハヤブサ隊のメンバーです。
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