ですが、今回はお詫びがあります。前回の後書きで『次は最終回の予定です』と言っていましたが、書きたいものを色々詰め込んだ結果、エピローグは次回になります。予告詐欺になってしまい、本当に申し訳ありません……。
今回は、今まで以上の独自設定があります。また、劇場版での激しい戦闘シーンは殆どありません。ご了承ください。
撃破判定を受けたIS-2の中で、プラウダ高校の副隊長であるノンナは、静かに回収班を待っていた。雨が装甲を打つ音が車内に響く。
彼女は大洗連合チームの『ひまわり中隊』に配属されていたのだが、カール自走臼砲の砲撃による陣形の崩壊と、大学選抜チームの戦車であるパーシングの猛攻を受けた。その時に、『ひまわり中隊』の副隊長を務めるカチューシャが危機に陥ってしまった。
自身の高校では隊長であるカチューシャ。自分が最も信頼している彼女を、撃破されるわけにはいかない。だから、クラーラも含めた多くの同志たちが囮になった。……自分自身も。
「カチューシャ隊長は、上手く逃げ切れたでしょうか……」
通信手を務める生徒が、心配そうな声で呟く。案じているのは逃がした隊長たちのこと。プラウダ高校の戦車はもう、カチューシャの乗るT-34/85しか居ないのだ。
「大丈夫です。カチューシャには、私たち以外にも頼れる仲間がいます。何せ、カチューシャ本人が認めている方々です。私たちは、今はただ信じましょう」
「はいっ! ……あ、戦車道連盟の方から、通信です」
ちょうど良いタイミングで、回収班からの通信が届いた。
≪こちら、戦車道連盟回収スタッフです。そちらに怪我をした選手は居ますか?≫
「こちらはIS-2。えっと、こちらに怪我人は……」
「大丈夫です。全員、打撲もしてません」
「はい、全員怪我はありません」
≪了解しました。戦車を回収しますので、直ちに降車をお願いします≫
「分かりました。さぁ、皆さん。降りましょう。雨具をしっかり着てください」
ノンナが、戦車内に常備されている雨合羽を全員に渡す。全員が着込んだのを確認すると、戦車から降りた。
降りて見てみると、自分が撃破した大学選抜チームの選手も、連盟スタッフの指示を受けながら選手用の回収車へ乗り込んでいる。ノンナも乗り込むと、トラックの中にはクラーラやニーナと言った同志が、先に座っていた。
「副隊長、こっちさどうぞ」
「ありがとうございます、ニーナさん」
少しだけ詰めて座る分を確保してくれた、KV-2の搭乗員であるニーナに礼を言いつつ、彼女の隣に座った。
すると、ある人物がトラックに入ってくる。
「お疲れ様、みんな」
それは、カナエと共に回収班を任されていたユキだった。手に持っているお盆には沢山の紙コップがあり、その中にホットココアが注がれている。雨で冷えた体には丁度良いだろう。
だが、彼女がどういう人物かを知っているが故に、クールな性格であるノンナも驚きを隠せなかった。
「寮長さん! なしてここに!?」
自分の言いたいことを、ニーナが代弁してくれた。
そう。ユキは、プラウダ高校の学生寮の寮長なのだ。ノンナも入学したばかりの頃はお世話になったし、今でもお世話になっている。
「寮長さん。それは黒森峰のパンツァージャケットですよね? 何で……」
「私の母校は、元々は黒森峰。このジャケットは、気合いを入れるため」
淡々と答えながらも、生徒たちにココアを配るユキ。選手たちは礼を言いながらも、どこか緊張している。
無理もない。自分達の住む寮の管理人が、まさかボランティアスタッフとして参加してるとは思わなかったのだから。
「みんな、よく頑張った。普通なら混乱して壊滅してもおかしくなかったのを、貴女たちは防いだ」
「寮長さん……」
ノンナは、言葉にこそしていなかったが、内心は悔しさで一杯だった。まだまだカチューシャを支えられたのではないか。最善の方法があったのではないか。そのような気持ちが心を満たしていた。
だが、目の前の小柄な寮長は、自分達の行動を褒めてくれた。普通なら、戦力が激減したことに対して叱責を受けても仕方がないというのに。
「ユキ。戦車の回収、完了したぜ。そっちはどうだ?」
「ん。選手全員、負傷無し。こっちも移動できる」
「分かった。本部の方に伝えといてくれ。ウチは先に戦車を運ぶから」
「分かった。……それじゃ、みんな。観客席で隊長たちを見守ってて。本当に、お疲れ様」
そう告げると、ユキは降りて行ってしまった。その様子を見届けると、クラーラが声をかけてきた。
「寮長が来てるのは、予想外でした」
「そうですね……。落ち着いたら、お礼をしなければ」
そう言うと、ノンナはココアを口にする。
体にも、悔しかった心にも染み渡る温かさだった。
石橋付近で、アイコは目の前の『作品』を見上げる。
カール自走臼砲。自分自身が手掛け、そして大洗連合チームを苦しませてしまった元凶。
「まさか、本当に撃破するとはな……」
その元凶が、今は撃破判定の白旗を上げている。撃破したのは、大洗連合『どんぐり小隊』のヘッツァーだ。アンツィオ高校の豆戦車であるC.V.33 カルロ・ベローチェに乗り上げて、そのままジャンプ。カールの砲口に一撃を叩き込んで撃破したのだ。その戦法に、アイコは思わず唖然としたものだ。
「アイコさん。カールが大きすぎて、回収ができません!」
スタッフの一人が声をあげる。その巨大さ故に、普段は戦車を乗せているトレーラーに乗せることは出来ない。牽引車も今回は持ってきていなかった。
「分かった。じゃあ、移動できる程度まで修理しよう」
「えっ!? ここで、ですか!?」
「幸い、大きな破損は無い。中身を直せばすぐに動かせる。そっちの、BT-42を頼むよ」
「了解です!」
他のスタッフが駆け回る中、アイコは工具を手に修理を始める。本当は装填システム等の動作不良も確かめるべきだが、今はこのデカブツを移動させるのが優先だ。
「しかし、奇怪な運命というのがあるものだな」
速く、それでいて正確な作業をしながら呟く。思い浮かぶのは、履帯が無くなっても走り続け、片輪走行までやってのけたBT-42。継続高校の保有戦車だ。
実は、あの戦車も彼女が手掛けた『作品』だ。クリスティー式サスペンションは、本来は長時間かけて行われるものだが、短時間で出来るように施したのだ。
彼女の仕事は改造屋。だからこそ、俗に言う「魔改造」というのもお手の物なのである。
「よし、動かせるな。こっちはOKだ!」
「こちらも戦車と選手、どちらも回収完了です!」
「カールは私が動かす。トラックの方を頼む」
「分かりました!」
カールを動かしながら、アイコはポツリと呟く。
「……回収に手間が掛かるとなると、カール自走臼砲は戦車道では使えないな」
戦車道連盟と文科省に、そのような内容の報告書を送ろう。アイコはそう思いながらカールを動かした。
「ポルシェティーガー、回収しました!」
「そのパーシング整備終わったか!? 終わったなら移動してくれ!」
「誰か手を貸してくれ! こいつ派手に損傷してやがる!」
試合が後半戦になりつつある頃、整備スタッフたちの間では大声での掛け合いが行われていた。
いくら社会人チームを撃破している大学選抜チームとは言え、大洗連合は強豪校の集まり。選抜チームも多くの戦車が撃破されていた。
「クッソォ! フラッグ戦なら楽なのに!」
「文句言うな! アタシ達の仕事は、戦車たちを直してやることだ! 口よりも手を動かせ!」
「これ程ゴタゴタしてたら口数も多くなりますよ、姐さん!」
殲滅戦というルールに対して文句を吐きつつも、りほ達は手を動かすのを止めない。
今回は、どちらかのチームが全滅するまで終わらない。両チーム合わせて60両もあり、最高59両もの戦車をスタッフ達は直さないといけないのだ。
「しかし、さすが愛理寿ちゃんだ。あっという間に撃破車両を増やすとはね……」
西住流と肩を並べる流派、島田流。その娘である島田 愛理寿は、13歳でありながら大学選抜チームの隊長なのだ。
りほ自身も、派遣整備士として、そして西住流と島田流との付き合いの関係で彼女に会ったことがある。と言っても、最初の出会いは愛理寿が赤ん坊の頃だ。整備に訪れたとしても顔を合わせる事が少ないため、とうの本人は覚えていないだろう。
「負けてらんないよ! お前ら! 整備士としての意地を見せてやれ!」
『『『『はいっ!!』』』』
どんな戦車も完璧な状態にする。それが彼女たちの信念だ。だから腕が疲れようが、足がガクガクと震えようが、りほ達は手を動かし、整備エリア内を走り回る。
そんな時だ。回収された選手たちに飲み物を配布していたミチコが、慌てて整備エリアに入ってきた。走ってきたのか、息が荒い。
「りほ! た、大変だよ!」
「どうしたんだいミチコ。まずは息を整えな」
「そんな暇があるか! 残りの戦車は大洗連合が2両、選抜チームが4両だ! しかも、一気に勝負を決めるみたいだぜ!」
「何っ!?」
いよいよ最終局面に入ったようだ。一瞬、まだ撃破されていない姪たちのことが頭に浮かんだ。だが……
「……いや、アタシはここにいる」
「はぁっ!? 何言ってんだよ! あんたの姪が戦ってるんだぞ!?」
「だからこそだ! ここが今のアタシの戦場だ! ……二人が戦ってるのに、アタシが抜けられるかよ」
「でも!」
「くどいぞミチコ! テメェはそれでもハヤブサ隊かぁ!!」
りほの怒号に、ミチコは体が竦む。そして理解した。りほは本当は応援に向かいたいのだ。現に、整備を続ける彼女は工具を持つ手を動かしながら、口も小さく動かしてブツブツと呟いている。
「頑張れ、まほちゃん……。頑張れ、みほちゃん……。頑張れ……!」
ミチコはその様子に涙ぐみそうになりながらも、すぐに顔を振って表情を戻す。
「……分かった。私は選手の飲み物の補充に行ってくる!」
いつもの大声でりほにそう伝えると、ミチコは整備エリアから走って出て行った。
まほの乗るティーガーⅠが、みほの乗るⅣ号戦車を撃つ。しかし、それは実弾ではない。
「っ! 空砲!」
愛理寿が気付いた時にはもう遅い。彼女のセンチュリオンが砲撃するも、Ⅳ号の履帯に命中。その間にⅣ号が、激突と同時に砲撃する。
一瞬訪れる沈黙。ほぼ同時に上がる、撃破判定である白旗。審判は残存車両の確認に入る。
《大学選抜チーム、残存数0! 大洗女子学園チーム、残存数1!》
《よって、大洗女子学園チームの勝利!》
その音声に、りほ達の動きが止まる。状況を理解するのに数秒。そして……
『『『うおぉぉぉぉぉぉぉ!!』』』
整備エリア内は、顔が油まみれであるにも関わらずハグをする者、手を取り合って喜ぶ者であふれ返った。
「りほ」
「リーダー……」
りほが振り返ると、そこにはアイコを始めとするハヤブサ隊の仲間たちがいた。
「やったな、りほ!」
ミチコが眩しいほどの笑みを見せる。その目尻にはうっすらと涙が。
「高校生のみんな、とても良い戦いをしていた」
ユキは相変わらず淡々とした喋り方だが、声のトーンと表情から、喜びの感情が見て取れる。
「最高だったぜ! ウチ、今日ここに来て良かったよ!」
カナエも、ミチコと同じくらい眩しい笑みを浮かべている。白い歯が見えるその笑みが、彼女の喜びや楽しさを表現していた。
「今年は全国大会といい、今回といい、素晴らしい戦いばかりだな」
アイコはクールな笑みを浮かべながらも、戦いを賞賛する。
そんなメンバーの様子にりほは笑う。そして、パンパンと大きく手を鳴らした。
「さぁ、みんな! 残りの戦車も回収して、とっとと直すよ! 中途半端な仕事は許さないからね!」
『『『『はいっ!!』』』』
スタッフたちが笑顔で、片手に持った工具を掲げて返事する。
りほは、みほ達に会いに行きたい衝動を抑えつつ、最後の仕事にとりかかった。
読んでいただき、ありがとうございました。
次回こそ、エピローグです。