けものフレンズ 軈テ星ガ降ル。   作:ヒトアマゾン

33 / 69
Ep.32「生きて」

〜4時間後〜

 

 

夕陽が沈み、月の光がサバンナを照らしていた。

 

光太郎「やっと…まともに動け……うぅ…」

 

ボス「……再起動二、成功シマシタ。…光太郎、マダ動イチャダメダヨ。」

 

光太郎「けど…早く2人を助けないと…」

 

光太郎の顔には、焦りの色が見えていた。

 

ボス「光太郎、君ノ身体ハ、サンドスター 二ヨッテ、何トカ動ケテイル状態ナンダ。無闇二サンドスター ヲ消費シタラ…」

 

光太郎「ニホニホとルペラがピンチなんだよ…何があっても護り通すって、約束したんだよ。ごめんね、ラッキー…」

 

ボス「ダメダヨ、僕ノ仕事ハ職員ノ安全確保ヲスル事デモアルンダ。ダカラ…」

 

光太郎「情報管理コード入力、再起動は明日の朝……」

 

ボス「コード入力ヲ確認。情報ノ整理ヲ開始シマス…」

 

光太郎「…ごめん。」

 

ラッキービーストは、その場で動きを止め、メモリ内を整理し始めた。

 

 

-同時刻、遊園地-

 

 

博士「今の所、遊園地から外には一体も出ていないのですが…」

 

ヒグマ「どうする博士、撤退も考えた方が良い…数が減った気がしない。 ただこっちが消耗し続けてるだけだ…」

 

どのフレンズも疲弊しきっていた。 一瞬でも気を抜けばセルリアンの餌食になる。

 

ジャガー「けど、ここで引き下がったら…」

 

リンカルス「セルリアンが、本格的に侵攻を開始する…」

 

オオコウモリ「もーっ…どうすりゃ良いのぉ…」

 

リカオン「群れでの狩は得意ですが、今回ばかりはオーダーがキツ過ぎますよ…」

 

疲労による一瞬の隙を、セルリアンは見逃さなかった。

 

一体のセルリアンが、リカオンに向かって触手を振るった。

 

キンシコウ「リカオンさんっ!」

 

リカオン「うぁ!…あぅ………ん?」

 

振るわれた触手は、リカオンの近くで千切れていた。

 

リカオンの前には、1人のフレンズが立っていた。

 

リカオン「…サーバル…さん?」

 

カバ「かばん達と一緒に旅をしていた筈じゃなくて…?」

 

サーバル?「サーバル……わたしはサーバルだけどサーバルじゃない…」

 

助手「…何か様子がおかしいのです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

サーバル?「わたしはセーバルだよ。」

 

 

 

 

 

 

博士「セーバル…あの、セルリアンのフレンズの?」

 

その一言で、フレンズ達が騒ついた。

 

セーバル「このセルリアン達は、女王が過去の記憶を基にして作ったもの。セーバルも含めて。」

 

ツチノコ「女王…やっぱり甦ってたのか…」

 

セーバル「このセルリアン達は、ただ女王の命令のまま動いてる。」

 

博士「お前は、その命令が分かるのですか?」

 

セーバル「分かるよ、"時間を稼げ"それだけ。」

 

助手「仮に、女王を倒せばこのセルリアン達はどうなるのですか?」

 

セーバル「消える。 みんな女王の身体から出来たから。」

 

カバ「それは、あなたも含めて…ですの?」

 

セーバル「そう。 早く、女王を止めないと…」

 

ヒグマ「待て、女王を止めるって…どうやって?」

 

セーバル「セーバル、お話ししてみる。」

 

ジャック「…話しは通じるのか?」

 

セーバル「今の女王、ちょっと心がある。 怖い心ばっかりだけど。 セーバル、がんばる。」

 

博士「分かったのです…それでは、我々も」

 

セーバル「ダメ、この子達を止められるのは、博士達しか出来ないから。 セーバルは大丈夫だよ。 セルリアンだもん。」

 

助手「……女王は任せたのですよ。」

 

セーバル「サーバルが、カラカラが、ガイドさんが…園長さんが守ったパークは、セーバルが守るよ。」

 

 

-森-

 

 

十字架状に固められたセルリウム。 その十字架に架けられたニホンオオカミとルペラ。 

 

女王「少し手荒な真似をしてしまった。すまないな。」

 

ニホ「…ねぇ、お話し…出来るんだよね?」

 

女王「多少は。 私には、感情があるからな。ただ…密猟者の抱えていた感情を基盤とした物…だが。」

 

ルペラ「どうして光太郎様を傷つけたのですか…」

 

女王「あの弾は、セルリアンで出来てるんだよ…完全とは言えないが、彼は私の思いのままに動かす事が出来る…」

 

ルペラ「…何が目的なのですか?」

 

女王「私の目的は、全ての生き物を苦しみから解放する事。」

 

ニホ「どういうこと?」

 

女王「全ての生き物を輝きごと取り込み、セルリアンで管理する。その内に肉体は失うが、その瞬間から痛みや不安からは無縁の存在となる。 私が輝きを奪った、もう1人のヒトは動物を剥製にする事で、ある種の輝きを残そうとした。だが、剥製はいつか朽ちる… だが、セルリアンによって輝きそのものに成れば…」

 

ニホ「それって、本当に輝きって言えるのかな…?」

 

女王「…何?」

 

女王の表情が、一瞬曇った。

 

ニホ「えっと…」

 

ルペラ「…確かに、私達けものは時に苦しみ、痛みを感じる時があります。けれど、それでも生きようとする…その気持ちが、何かを感じた時の気持ちが、輝きなのではないですか…?」

 

女王「…流石絶滅種、生きる事への執着が強い。」

 

ニホ「それに、私達の輝きは私達の中だけにある訳じゃない…」

 

ルペラ「…光太郎様は、私達にとっての輝きです。」

 

女王「………チッ」

 

女王は、右手を高く挙げた。

 

その右手は、前よりも大きく変化し、鎖鋸(チェーンソー)状の器官を生成した。

 

女王「光太郎ねぇ……結局、お前らも人間に飼い慣らされた家畜か…」

 

ニホ「違うよ、私達は…光太郎は家族だよ。」

 

ルペラ「光太郎様は、いつも私達と対等に接してくれます…傲りもせず、見下しもせず…いつも優しくて…」

 

女王「…お前らの惚気話は聞きたく無いんだよぉ! お前達は、あの時感じた筈だ! 光太郎の、ヤツの血を見て、嗅いでぇ! ヤツを喰いたいと…!」

 

女王が生成した数少ない感情の一つ、怒りに身を任せ、鎖鋸をルペラの喉元に突きつけた。

 

ルペラ「…それはそうですよ……」

 

ニホ「ルペラ!?」

 

ルペラ「……食べたい位…愛おしいんです…好きなんです。 例え、貴方の様な独善狂が立ち塞がっても、誰が邪魔をしようと…私は、光太郎様を…私の大切な家族を……誰にも渡しはしません!」

 

ルペラは女王を睨み付け、感情をぶつけた。 女王が生成する事の出来なかった"愛"と共に。

 

女王「随分と余裕があるみたいだな…先ずはお前からだ…慈悲は無い。 苦しみながら俺に輝きを奪われるが良い…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光太郎「待てっ!」

 

女王「来たな…待っていたよ。 あと少し遅かったら、君の大切な家族とやらが死んでいたよ。」

 

ルペラ「光太郎様…」

 

ニホ「大丈夫なの!?」

 

光太郎「何とか…ね。 女王…どうすれば2人を解放する?」

 

女王「そうだな……君の輝き全てと引き換えだ。」

 

光太郎「分かった、俺が輝きを差し出せば、2人は解放されるんだな?」

 

女王「話しが早くて助かるよ…さぁ…」

 

何かに取り憑かれたかの様に、女王の元へ歩いて行く光太郎。

 

ニホ「ダメだよっ! 私達より、パークだよ!」

 

ルペラ「そうですよ! もっと、多くの命を優先すべきです… 女王に輝きを差し出してしまったら…」

 

光太郎「……いかなくては…」

 

女王「いい子だ…」

 

ニホ「来ちゃダメだよ…光太郎!」

 

ルペラ「目を…醒ましてくださいっ!」

 

光太郎の頬を、一枚の羽が掠めた。

 

頬の傷から、液状の小さなセルリアンが流れ落ちた。

 

女王「…」

 

女王は光太郎を撃った際、精神寄生型セルリアンを撃ち込んでいた。

 

ルペラは、ただ泪を流し続けていた。

 

光太郎「ルペラ……」

 

ルペラ「ごめんなさい…ごめんなさい…この方法しか思い付かなくて…」

 

ニホ「ルペラ…泣かないでよ…」

 

 

 

 

女王「……家畜、家禽が……俺の計画を台無しにしてくれたなぁ… あのまま行けば、このヒトの輝きも奪えたものを…!」

 

ルペラを十字架ごと蹴り倒し、その身体を何度も踏み付け、斬り付けた。

 

ニホンオオカミは哭き叫び、光太郎は女王に掴み掛かった。が、その腕は振り払われた。

 

哭き叫ぶニホンオオカミを鬱陶しいと思ったのか、標的をニホンオオカミに移した。

 

鎖鋸で押し倒した。 光太郎に向けて伸ばした手も、女王に踏みにじられた。

 

血が滲み、泪と土埃で顔を汚した2人。

 

その一瞬、痛め付ける事に夢中になっていた女王には隙があった。

 

光太郎は素手で殴り掛かった。 

 

普段なら殆ど効かなかった…が、女王は大きく体勢を崩した。

 

 

 

 

 

 

 

その時、不思議な事が起こった。

 

 

 

 

 

 

光太郎の首元の御守りが、光り輝いていた。

 

その光に応えるかの様にニホンオオカミとルペラの瞳にも光が宿り、身体から光が溢れ出ていた。

 

 

女王「…全員の輝きを奪って…更に進化する……殺してでも、貴様らの輝きを…!」

 

 

光太郎「女王…邪悪な心を持った人間の輝きを奪った事が、お前の不幸だ……だが、ニホニホとルペラを傷付けた事…この俺が許さん!」

 

ルペラ「光太郎様…」

 

女王「所詮3匹…俺に勝てると思うなよ…!」

 

ニホ「私達を舐めないでよ…」

 

 

 

 

 

 

 

〜AM.3:47〜

 

 

両者共に消耗していた。 身体は傷付き、呼吸も乱れていた。 …夜明けは刻一刻と近づいていた。

 

 

女王「何故…そこまで戦い続ける…苦しいだろうに。 パークの為か…正義の味方にでもなったつもりかぁ!?」

 

光太郎「…どうだろうなぁ…けど、俺は2人の…ニホニホとルペラの生きる明日を護りたい。 もし、お前が正義として戦うなら、俺は悪にでもなる… 俺が手を汚す事で、2人を護れるなら…」

 

 

 

女王が鎖鋸状の右手を振り上げ、光太郎に向かって駆け寄ってくる。

 

光太郎は静かに鉄パイプを握り締めた。

 

 

鉄パイプは、青く光り輝いていた。

 

光太郎「ルペラ、女王の石の位置は?」

 

ルペラ「…心臓の位置です。」

 

光太郎は軽く頷いた。

 

光太郎「…これで終わらせる…」

 

 

 

 

女王が右手を振り下ろそうとした瞬間、その手は弾かれていた。

 

そこには、一枚の羽が刺さっていた。

 

ルペラ「光太郎様っ!」

 

女王が怯んだ隙を突く様に、ニホンオオカミが一瞬で女王との距離を詰め、右手を破壊した。

 

ニホ「今だよ、光太郎!」

 

光太郎は最後の力を振り絞り、女王の胸目掛けて鉄パイプを突き立てた。

 

鉄パイプは、女王の石を貫いていた。

 

全身の輝きを流し込むイメージを強く念じると、そのイメージ通り輝きは鉄パイプを通して女王へと流れ込んでいった。

 

 

女王「あ゛っ゛! …何故だ…何故そこまでの輝きを持てる…? 所詮1匹のヒトなのに…」

 

光太郎「確かに、俺1匹ではあり得なかった…けど、俺にはこの御守りが、そして2人が居る…2人への愛が、ここまでの輝きを生み出した…」

 

女王「俺の愛は…輝きを生み出せなかった…何の違いだ…?」

 

光太郎「さぁな…けど、俺の愛には何の目的も無い。ただ愛する…想う…見返りなんて求めない。愛している時間が、想いが…俺の輝きに繋がっている…」

 

女王「…最後に、これからも愛し続けるのか…?」

 

光太郎「当たり前だ…死ぬまで…いや、死んでも愛し続けるさ。女王…もし生まれ変わりがあるなら、本当に愛する事が出来ると良いな…」

 

 

女王「…愛か。」

 

そういう女王の顔は、何処か満足そうだった。

 

 

 

鉄パイプを引き抜くと、光太郎も女王も、力無く倒れ込んだ。

 

 

 

 

ルペラ「光太郎様!」ニホ「光太郎!」

 

躓きながらも光太郎の元へ向かう2匹。

 

 

それとほぼ同時に、セーバルも女王の元へ辿り着いた。

 

 

セーバル「女王…」

 

女王「やっと分かった……お前の抱いた愛…もっと早く知る事が出来れば…」

 

セーバル「セーバルも、女王の気持ちをもっと早く知れたら、止められたかも…」

 

女王「…愛を知れて、私は満足だ…ありがとう。」

 

そう言い遺すと、女王の身体は次第に崩れていった。

 

セーバル「光太郎、女王を止めてくれてありがとう。」

 

光太郎「…セーバル…ごめんね、もしかしたら女王を倒さなくても…」

 

セーバル「いいの、女王はあのままだと誰も止められなくなる… それに、女王がありがとうだって。 セーバルからも、ありがとう。 バイバイ…」

 

光太郎「セーバル…?」

 

セーバルは光太郎に手を振りながら、ゆっくり消えていった。

 

 

-同時刻、遊園地-

 

 

博士「…セルリアン達が、消えていく…」

 

助手「女王を倒したのですね…となると、セーバルも…」

 

ヒグマ「博士、これで終わったのか?」

 

博士「…終わったにしても次があるにしても、取り敢えず休息をとるのです。…解散ッ!」

 

助手「確か、セーバルはサバンナの方へ向かいましたね。」

 

博士「…我々も向かいましょう。」

 

 

-サバンナ地方-

 

 

光太郎は女王との戦いで、体内のサンドスターを大量に消費してしまった。

 

ニホ「ねぇ…光太郎…大丈夫だよね?」

 

光太郎「……ごめん、無理そう。」

 

ルペラ「そんな…そんな事言わないでください。」

 

光太郎「けど、嘘は付けないよ…こういうのって、自分でも分かるんだね…」

 

ニホ「やだよ…せっかく家族になれたのに…」

 

光太郎「ごめんね…泣かないでよ…」

 

ルペラ「光太郎様……光太郎…死んじゃやだよ…ねぇ…」

 

光太郎「…ルペラ、やっと光太郎って呼んでくれた…」

 

ニホ「1人はやだ……もう…やだよ…」

 

ルペラ「光太郎…何で……あぁ…私を食べれば、食べれば治る!? ねぇ!?」

 

ニホ「ルペラ落ち着いて…ね?」

 

光太郎「それは出来ないよ…2人を守る為に戦ったのに…」

 

ルペラ「ハァ…ハァ……ごめんなさい…取り乱してしまいました…」

 

ニホ「光太郎、明日の朝になったら、全部夢になるんだよね? そうだよね…」

 

光太郎「夢…だと良いね。」

 

 

 

 

 

光太郎「ニホニホ…」

 

ニホ「なぁに、光太郎…?」

 

光太郎「初めて会った時の事、今でも覚えてる。あの時助けて貰わなかったら、俺は誰とも会えなかった… 何時も、ニホニホの明るさに支えられてたよ…ありがとう。」

 

ニホ「…私こそ…光太郎がいたから、いろんなことを知れた…光太郎がいたから、私もルペラに会えた…ありがとう。」

 

 

光太郎「ルペラ…」

 

ルペラ「はい…光太郎。」

 

光太郎「俺との出会いは、散々だったよな。セルリアンに家を壊され、そのセルリアンに追われる途中で怪我をして… そして、あの施設での一時…凄く嬉しかった…ありがとう。」

 

ルペラ「助けていただいた時から、貴方に惚れてしまいました…どんな時でも、貴方の温もりが私の生きる糧になっていました……光太郎…」

 

 

光太郎「ニホニホ…ルペラ……大好きだよ…」

 

 

 

 

 

夜更の空に、明けの明星が輝く頃、一粒の涙が光太郎の頬を伝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルペラ「…好き…好き……光太郎…好き………」

 

ニホ「光太郎…」

 

 

博士、助手が光太郎の元へ辿り着いた時、ルペラは何かを呟きながら冷たくなった光太郎へ接吻をし続け、ニホンオオカミは少し固くなった光太郎の腕を強く抱き、愛おしそうに指先を舐めていた。

 

その目に、涙を浮かべながら。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。