けものフレンズ 軈テ星ガ降ル。   作:ヒトアマゾン

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Ep.15「理性と本能の間に…」

-ナカベエリア-

 

 

ナカベエリアでは、サンカイエリアとは打って変わって雨が降っていた。

しかし、幸いにも小雨程度で旅の支障にはならない程度だった。

 

光太郎「涼しい…ちょうどいい気温で良かったよ。」

 

ニホ「雨、久し振りに見た気がするよ…」

 

ルペラ「この所、ずっと晴れた場所にいましたからね。」

 

 

 

光太郎「…あ、太平風土記のページ探してなかった…」

 

ニホ「そういえば…」

 

そうだ…すっかり忘れていた。仕方ない…帰りに改めて探すか…

 

 

ルペラ「…光太郎様、あれは…?」

 

ルペラの視線の先には、辺り一面に撒き散らされた黄色い液体があった。

 

光太郎「何…あれ?」

 

ルペラ「調べてみましょうか?」

 

ニホ「…やめた方が良いと思う……何か…イヤな臭いがする…」

 

 

 

光太郎「何か、さっきよりも暗くない?」

 

ルペラ「えぇ…雨の様子は、先ほどと余り変わらない様ですが…」

 

ニホ「まさか……上!?」

 

 

バスの上には、真っ赤な触手をうねらせた何かが居た。

 

触手をゆっくりと降ろし、バスを包もうとしている様だ。

 

ルペラ「…逃げましょう!」

 

光太郎達は、ラッキービーストを連れてバスから降りた。

 

せめて、そのままバスに釘付けになってくれる事を願っていたが、世の中そんなに上手く行く事も無く、その触手は光太郎達の方へ伸びていた。

 

 

ある程度離れたからこそ分かる。この触手の持ち主は、巨大なクラゲの様な姿をしていた。触手以外は半透明な乳白色をしていた。

 

 

ニホ「なにあれ! ずっと追いかけてくるよ!」

 

光太郎「随分としつこいセルリアンだな……林で撒こう!」

 

 

幸いにも、近くに鬱蒼とした森があり、そこで何とかやり過ごそうと…

 

しかし、セルリアンの動きは予想以上に速く、瞬く間に道を塞いだ。

 

 

光太郎「まずいな…ルペラ、ニホニホ! ラッキーを連れて先に逃げて!」

 

ニホ「けど、それじゃ光太郎が…!」

 

光太郎「みんなが逃げ切って、誰か助けを呼んで! そうすれば…」

 

 

尚も迫る触手、その触手は、ルペラの背後まで来ていた。

 

 

光太郎「ルペラ、危ないっ!」

 

 

ルペラの背中を押し、ルペラを少しでも触手から遠ざけようとした。

 

願い通り、触手から遠ざける事はできた気はする…が、余りにも咄嗟の判断で、自分の事まで気にする事は出来ていなかったようだ。

 

触手は、すぐさま狙いをルペラから光太郎へ移した。 光太郎の胴へ巻きつき、黄色い液体の滴るセルリアンの本体へと近づける。

 

光太郎「やめっ…! 離っ…ちょっ……苦し…」

 

ニホ「光太郎!!」

 

ニホンオオカミが飛びかかり、光太郎に巻き付いた触手を斬り裂こうとする。

 

しかし、セルリアンも食事の邪魔はされたくないらしく、他の触手でニホンオオカミを弾き飛ばした。

 

それでも体勢を立て直そうとするが、弾かれた勢いを殺しきれぬまま木にぶつかってしまった。

 

 

 

光太郎を助けるべく、触手による攻撃を回避しながら光太郎の元へ飛ぶルペラ。

 

その間にも、少しずつ光太郎は飲み込まれていく。

 

ルペラがセルリアンの本体に辿り着いた頃には、片腕を除いた全てが飲み込まれていた。

 

必死に腕を伸ばし、光太郎の手を掴もうとする。 苦しそうに力み、もがいている光太郎の手を。 光太郎を助ける為に。

 

 

 

 

 

 

 

光太郎の手が、力無くうなだれた。

 

それでもなお光太郎の手を掴もうとするルペラを、セルリアンは触手で突き飛ばした。

 

 

 

ルペラの目に、哀しみや後悔の涙が滲む。

 

その涙に共鳴するかのように、雨も強くなってゆく。

 

 

ルペラ「…………貴様だけは……絶対に…」

 

 

雨音にかき消されそうな程小さく、それでいて怒りに震えるその声は、次第に大きく、激しい咆哮へと変わっていった。

 

ルペラの身体を、赤黒い輝きのような物が包み込んだ。

 

 

ニホ「ルペ…ラ……?」

 

 

輝きが止むと、その中には変わらずルペラが居た。だが、脚はブーツを突き破り、鋭利な爪の生えた、まさしく猛禽類の脚に。服の一部も羽毛状に変わり、頭部の翼は更に大きく広げられていた。

 

 

セルリアンは、身の危険を感じたのか触手で先手を打とうとするも、回し蹴りで防がれ、それを引き裂かれた。

 

一歩一歩、着実にセルリアンとの距離を詰めるルペラ。

 

セルリアンは、何本もの触手を纏めてルペラを叩き殺そうとした。

 

 

しかし、それが愚策だった。

 

 

ルペラは触手を掴み、セルリアンを手繰り寄せた。

逃げようと必死にもがくセルリアン。

 

 

ニホ「ルペラ! その戦い方は危ないよ! 私も手伝っ…うぅ……」

 

どうやら右脚を痛めたらしい。右脚を引きずりながらルペラの元へ向かおうとするも、足元が泥濘にはまって思うようには動けない。

 

その間にも戦いは続き、辺りには引き千切られたと思われる触手が散らばり、その中央には、脚でセルリアンを押さえつけているルペラの姿があった。

それなりにセルリアンも抵抗はしたのか、ルペラの服や顔に、血が滲んでいた。

 

 

 

セルリアンの本体を、啄むようにして削る。その傷口からは黄色い液体が噴き出し、返り血のようにルペラの身体を染めていく。

 

 

一度、強くセルリアンを踏み付けると、ルペラは高く飛び上がった。

 

その時、ルペラの口が何か言葉を発したような動きをしたが、そのたった一言を、ニホンオオカミは何を言ったか理解できなかった…否、理解しなかった。したくなかった。

 

 

セルリアンは消耗が激しかったらしく、ただその場でもがく事しか出来なかった。

 

 

セルリアンに向かって急降下するルペラ。その勢いのままセルリアンを踏み付けた。

 

脚が、どんどんセルリアンの身体にめり込んでいく。

 

 

セルリアンの身体は、この衝撃に耐えられずに砕け散った。

 

 

尚も何かを踏み付け、叫び続けるルペラ。

 

 

ニホ「…ルペラ!! お願いだから元に戻って!!」

 

 

やっと、ニホンオオカミの思いが通じたのか、動きを止めるルペラ。

 

各部が再び赤黒い輝きに包まれ、所々ブーツや服が破れてはいるが、いつもと同じ姿に戻った。

 

 

ルペラ「…………私は…何を…」

 

ルペラは、脚先に生温かさを感じた。

 

ルペラが踏み付けていたソレは、さっきまで自分が助けたいと想い続けていたものだった。

 

脚先や服が、ソレから流れる赤いものによって染められていく。

 

ソレは雨によって温もりを奪われ、四肢の先はかなり冷たくなっていた。

 

 

ルペラ「…光太郎…様……? 私が…?」

 

ニホ「…………ルペラ、どうして…?」

 

その言葉、かすかに残った戦いの記憶、そして返り血を浴びた自身の身体…

これらの事から、ソレを傷付けたのは自身だと気付いた。

 

動揺し錯乱するルペラを、何とか宥めようとするニホンオオカミ。

 

だが、今のルペラには何も響かない。ただ、目の前にある大切な人だったものの事と、それを傷付けた自身への形容し難い感情しか頭にない。

 

 

 

ルペラはニホンオオカミの制止を振り切って飛び去り、森の中へ姿を眩ませた。

 

 

ニホンオオカミは、光太郎に寄り添い、ただ助けを呼ぶ事しか出来なかった。

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