かばん、サーバルの言葉に、その場が凍り付く。
ヒグマ「……ジャック……」
ジャック「分かってる……ハンターとして、戦えないやつらを守る。 戦えないやつらの分まで戦う。 そうだろ?」
ヒグマ「…博士達はバリケードの手伝いを頼む。」
ジャック「バリケードさえ組んでおけば、ある程度は気が楽だろ。」
オオコウモリ「何だったら、セルリアン共壊滅させちゃう?」
リカオン「確かに、私たちでセルリアンを壊滅させることに越したことはないですが…」
リンカルス「そう易々とはいかないだろ……」
キンシコウ「ですが、私たちに出来る事はやりましょう?」
いつの間にか、オオコウモリ達も来ていた。
ジャック「お前ら……」
オオコウモリ「さっ、善は急げってね! とっとと行って、とっとと片付けよッ!」
オオコウモリに手を引かれ、ジャックはその場から消えた。 その後を追うように、ヒグマ達も現場へ向かった。
博士「……バリケードになる物なら、ありますよ。」
かばん「本当ですか!?」
博士「えぇ、少し前に見つけたバス……の残骸。 アレなら、バリケードにはなるはずなのです。」
サーバル「じゃあ、それは私が持ってくから、かばんちゃん達はここで待っ……」
かばん「サーバルちゃん、僕も行くよ。」
サーバル「ダメだよかばんちゃん! 本当に危ないよ!」
かばん「……でも、僕は…僕に出来る事をしたい。 その気持ちは、あの時と変わらないよ。 サーバルちゃんに心配をかけるのは嫌だけど……サーバルちゃんだけが危ない目に遭うのは、もっと嫌。 僕だって、援護くらいは出来るから……だから……」
サーバル「かばんちゃん……」
ボス「サーバル、かばん、バリケードを作ったラ、ハンターのみんなト一緒に避難しよウ。 それデ良いかナ?」
サーバル「ボス……分かった。 かばんちゃん、危なくなったら、すぐに避難してね。」
かばん「うん、サーバルちゃんもね。」
-同エリア同バイパス内-
対セルリアン用バリケード作戦、決行。
バリケードを背に、二つのハンターは構えていた。
オオコウモリ「さて……と、ギリギリまで頑張って、ギリギリまで踏ん張るぞぉぉ!!」
リンカルス「最後の力が枯れるまで…?」
ジャック「……ここからは、一歩も下がらん。」
キンシコウ「……セルリアン、来ます!」
空から降って来る、ヒト型のセルリアン。
地に落ちた瞬間の音は、決して気持ちの良いものではない。
リカオン「……相手がヒト型ってだけで、こんなに戦いにくいものなんですね…」
ヒグマ「……だが、やらなきゃ、殺られる。 気合い入れていけ…」
武器を握る拳に、力が籠る。
-カントーエリア-
邪神セルリアンの中心の外骨格が砕け、その両側の巻貝状の巨大な器官は、外骨格からの抑圧から解放され溢れる肉塊に押し広げられた。 肉塊と繋がった頭部はせり出し、その頭部はより有機的で生物的な……蛇に似た顔になっていた。 2対の黄色い目を光らせ、弾かれたルペラを見つめる。
触手を振るい、辺りの岩礁や船着場を粉砕していた。
ルペラ「………そんな……」
ルペラの目線の先には、邪神セルリアンの額…更には、そこに磔にされている光太郎の姿があった。
彼の日の出来事が頭を過ぎる。
痛む身体に鞭打ち、まだ自分が羽ばたけるかを確認する。
飛べる。 まだ飛べる。 私は……
ルペラ「私は……まだ、堕ちる訳にはいかないんです…!」
力を振り絞り、羽ばたく。
その様は、天使と呼ぶには程遠く、むしろ悪魔と呼ぶに相応しい。 己の血に塗れ、傷を負い、執念に満ちた眼光と共にセルリアンへ向かって行く様は。
ルペラ「悪魔には……悪魔だ。」
ルペラの胸元の御守りが赤く点滅する。
羽ばたく度に点滅の速度は加速し、ルペラの肉体が"あの時"の様に変わっていく。
ルペラに向かって振われる触手。 その先端は、刃物の様に鋭利になっていた。
触手の先端が、ルペラの脚を掠める。
ルペラは、自身の身体が少し軽くなるのを感じた。
その次の瞬間に訪れる、左脚の痛み。
痛みに反応し、脚を見てみると、そこに左脚は無い。 ただ、鮮血が溢れかえるのみ。
その痛みすらも二の次にするほど、ルペラは追い詰められていた。
ただ、想い人を救う為に。
そう強く思うと、胸元が赤く光り始めた。 御守りとは別の光だ。
ふと、左脚の痛みが消える。 それと同時に、左脚の感覚が戻る。 左脚が生えていた。
ルペラ「これなら……」
その瞬間から、ルペラは触手を避けるのをやめた。
光太郎の元へ、真っ直ぐに向かうルペラ。
腕が欠け、脚が折られ、羽が捥げ…その度に痛みを伴う再生を繰り返す。
ヒトよりも、フレンズよりも、更には並のセルリアンをも凌駕する再生速度。
光太郎の目の前に来る頃には、痛みの感覚すら麻痺していた。
ルペラは、邪神セルリアンの額に降り立ち、触手に覆われた光太郎に寄り添った。
ルペラ「光太郎様……ごめんなさい、遅れてしまいました……さぁ、一緒に帰りましょう…」
光太郎を覆う触手を裂くルペラ。 しかし、触手は再生し、更に強度を増す。
ルペラ「……今…助けますね……」
黙々と触手を千切るルペラ。 声をかけ続けるも、一向に反応が無い。
ルペラ「……返事………してくださいよ。 いつもみたいに……」
段々とか細くなる声、潤む目。 ルペラにとっての最悪の結末が、頭から離れない。
ルペラ「…………まだ、あなたとやりたい事が沢山あるんです……こんな所で終わりになんてしたくありません……だから…!」
「…ルペ…ラ……?」
ほんの数分前に聞いたばかりのはずなのに、その声はどうしようもなく懐かしく、暖かく思える。
ルペラ「光太郎様…!?」
光太郎「ルペラ……! そこに居るの?」
ルペラ「えぇ、今ここに…! 良かった……本当に……今、助けますからね!」
地獄の様な状況下で感じた妙な安心感。 だが、その違和感すら消え失せるほど、この再会は心底求めていたものだった。
涙で視界が霞み、出会えた喜びで指先が震えながらも、一秒でも早くあの温もりを感じたい。 ただその一心で、限界の近い身体を動かしていた。
次第に触手の再生速度が落ち、少しずつだが光太郎の顔が見えてくる。
ルペラ「光太郎様……やっと……」
急に手の動きが止まる。
ルペラ「………光太郎様、ごめんなさい。」
背後から強い衝撃を受け、腹部に鈍い痛みを感じる。 視線を腹部へ向けると、背を貫き赤黒い液体に塗れた触手が、腹を突き抜けうねっていた。 呼吸する度に、痛みが増す。
触手を伝い、まだ生暖かい血が、光太郎へ滴り落ちる。
光太郎「ルペラ……?」
ルペラ「………お怪我は……ありませんか……?」
光太郎「……まさか、分かってて避けなかったのか…?」
ルペラ「……だって、私が避けたら……あなたに刺さってしまうでしょう…?」
光太郎「だけど……!」
ルペラ「そんな…泣かないでくださいよ。 もし私が生き残っても、あなたがこの世にいなければ何の意味もない……」
光太郎「……もっと…自分を大切にしてよ……」
ルペラ「私はあくまでも、私自身の想いを大切にしたまでですよ……もう二度とあなたを失いたくない、この想いを…」
光太郎「嫌だよ……ルペラがいなくなるなんて……」
ルペラ「……私は、幸せ者ですね。 友に恵まれ、家族に恵まれ……こんなにも死を悲しんでもらえるなんて。 ……安心してください……必ず、迎えに行きますから……」
彼女の顔は、終始穏やかな笑顔だった。
ルペラ「……あなたが私を憶えている限り、私はいつもあなたの側に…」
触手が引き抜かれた。 それに伴い、ルペラの身体が宙へ投げ出される。
投げ出されたルペラを、触手が弾き飛ばす。
-同エリア、海岸付近瓦礫群-
…傷が痛む。 貫かれた傷以外にも、この瓦礫に叩きつけられた事での傷も痛む。 何が原因なのか、さっきまでの回復力が無かったことの様に思えるくらい、傷が癒えない。
…寒くなってきた。 ただでさえ流血が治らないのに、海風や波の飛沫が体温を奪う。
…視界が暗くなってきた。 ただぼんやりと、きいろい光が見える。 それ以上に、頭上に見えないはずの北斗七星が見える……むしろ、そのとなりに輝く蒼星が、北斗七星すらかすむほどに……
…四肢の先がしびれてきた。 そろそろ限界か?
……治らない。 キズも。 今、まぶたが開いているのかすら分からない。
…………こえが、きこえる。 ダレかが、よんでいる。 ダレのコエ?
………………せめテ、モうイちど、アのヒトと……