ジワジワとJ達に迫るセルリアン。マフラーのフレンズはゴーグルを装着し、臨戦態勢をとった。
J「お前に助けられる筋合いなんか……」
立ち上がろうとするJ。しかし、思うように手足が動かない。
J(クソ、これがヤツの毒か……だが、牙が掠った程度だぞ……?)
動揺するJを背に、マフラーのフレンズは呟く。
?「それは……僕の所為でケガをさせてしまった償い……」
遂にセルリアンがマフラーのフレンズへ飛び掛かる。
?「次に、僕を助けてくれた事への恩返し! そして……」
セルリアンを迎え撃つように、彼女は拳を振るう。
彼女の拳がセルリアンにめり込み、鈍い音が響く。弾き飛ばされた勢いのまま後退したセルリアン。柔い肉体にとってその一撃は重く、それに加えて思わぬ威力の反撃に、あからさまに動揺していた。
セルリアンの身体から、黒い液体が滴る。
駆けるマフラーのフレンズ。追撃がセルリアンに刺さる寸前、彼女に向かって黒い影が飛んできた。その正体は所々に赤と緑のマーブル模様のある黒い不定形のセルリアンであった。
?「まさか、さっきの……!?」
寸前で身を翻し、黒いセルリアンの攻撃を躱す。咄嗟の動きで体勢は崩れ、隙が生じる。
その隙を、セルリアン達は見逃さなかった。
マフラーのフレンズが体勢を立て直す間に、彼女を囲うような陣形をとった。躙り寄るセルリアンを蹴散らすマフラーのフレンズ。しかし、絶え間なく襲い掛かるセルリアンを前に、マフラーのフレンズの体力は尽きかけていた。
彼女の背後に、毒牙が迫る。
J「どけぇっ!!」
おぼつかない足取りでクモセルリアンに突撃するJ。その一撃にたじろぐクモセルリアン。
?「無茶を!! その身体で……」
J「むちゃしてんのら、おまぇだおぉ……!」
Jの身体には、既に毒が回っていた。感覚の薄れた手足の中で放った一撃はクモセルリアンの指揮を乱し、マフラーのフレンズの包囲網を打開した。
J「……いけぇ!」
小さく頷くマフラーのフレンズ。その瞳に光が宿る。大地を蹴ると、その身体はクモセルリアンに向かって跳び上がった。
?「やぁぁぁぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ゛!゛!゛」
彼女の右脚が、クモセルリアンを貫く。クモセルリアンの肉体は瞬く間に溶け、それに共鳴するかの様に周りのセルリアンも溶けていった。それらは泡立ち、徐々に消えていった。その中心……クモセルリアンの居た場所には、赤茶色の何かが泡に塗れていた。
マフラーのフレンズがへたり込むJに駆け寄ろうとした時、林の方から声がした。……博士と助手だった。どうやら、戦闘の騒動を聞き付けたらしい。
博士「……なんなのですか……これは……」
目を見開いて、周囲を見回す博士。想像以上の荒れ具合であったのだろうか。
助手「そこのへたばってるお前、立てますか?」
J「……わりぃ、むり……」
弱々しく答えるJの声色には、先程までの威勢が全く感じられない。その体色は、どこか薄く感じられた。
博士「そうですか……助手、ソイツを図書館へ。セルリアン由来の毒ならば、直にその効果も失せるはずです。」
マフラーのフレンズへ視線を移す博士。その目は、好奇に満ちていた。
博士「緑のお前も、我々と一緒に来るのです。」
?「僕……ですか? 分かりました……」
博士の言うままに図書館へ向かうマフラーのフレンズ。その手の中には、先程の赤茶色の何かがあった。
-図書館-
Jの横たわるベッドを心配そうに眺めつつ、マフラーのフレンズは二人にこれまでの経緯を説明していた。 気がつくと自分がフレンズになっていたこと、その直後にJとセルリアンに会ったこと……
博士「なるほど……その雰囲気だと、自分が何のフレンズかは分かっていないのですね?」
?「はい……」
俯き加減にそう答える彼女に、博士は語りかけた。
博士「元は何の動物だったか分からないことは、決して珍しいことでは無いのです。そう落ち込むななのです。」
助手「しかし、フレンズ化以前の記憶は全く無いのですか?」
?「ごめんなさい、本当に何も……」
その一言以降、沈黙が続いた。時折、博士や助手の唸り声が聞こえる程度であった。
J「……なんだ、博士でも分からないことがあるんだな。」
沈黙を破ったのは、横たわりながら吐いたJの呟きだった。
?「大丈夫ですか!? まだ寝てた方が……」
J「大した怪我じゃない。……それよりも、俺は最近のセルリアンについて調べに来たんだ。博士、助手。何か知らないか?」
博士「そのことですか……残念ながら、お前の欲しているようなモノは無いのです。むしろ、交戦したお前の方が詳しいかもですよ。 ですよね、助手。……助手?」
その頃、助手は本棚へ向かっていた。
助手「最近のセルリアンについてはさっぱりですが、そこのフレンズの正体なら、今の我々でも掴めるはずです。なので、その手掛かりを……」
助手が手に取った本……それは、昆虫図鑑であった。
博士「……成る程。確かに、"例外"を視野に入れるべきでしたね。」
その時より始まったマフラーのフレンズの正体探し。その様子は、まさに同定と呼ぶに相応しいものであった。
して、その正体は……
博士「お前の正体は…………恐らく、ヤマトフキバッタ……なのです。」
助手「これは……お前の身体に表れた特徴、お前が目覚めた場所、その他諸々を鑑みて下した決断なのですよ。」
張り詰めた緊張が一気に解ける。
J「そうか……お前、バッタだったのか。珍しいな。」
ヤマトフキバッタ「そうなんですか……?」
助手「えぇ、お前の様な昆虫のフレンズは殆ど発見されていないのです。」
博士「……さて、ヤマトフキバッタ……お前はこれから、どうするのですか? 我々としては是非ともここに残って、日々の様子を観察させてほしいのですが……」
J「随分と気に入られてんだな、お前。」
博士「……いや、少し違うのです。昆虫のフレンズという例外的な存在ゆえ、何が起きても不思議ではないのです。」
緩んだ筈の緊張感が、再び強張る。
ヤマトフキバッタ「例えば、何が起こると予想されるんですか……?」
博士「可能性を挙げるとすれば、暴走、部分的なフレンズ化の解除……或いは、完全なフレンズ化の解除。つまり元の動物……お前の場合は昆虫に戻るのです。」
助手「その上で、今後お前はどうするのですか?」
暫しの沈黙が続く。ヤマトフキバッタは天を仰ぎ、静かに息を吐いた。
ヤマトフキバッタ「それでも僕は、戦います。」
彼女は、赤茶色の何か……その半分が結晶となったクモの亡骸を手に、そう答えた。
J「そいつは……確かあのセルリアンを砕いた時に……」
ヤマトフキバッタ「恐らく、取り込まれた時からセルリアンに侵されていたんでしょう。あのセルリアンの体内から、微かに思いが伝わってきたんです。辛く、苦しく、もがく様な思いが……」
目にうっすらと涙を浮かべ、絞り出す様に吐露する。
ヤマトフキバッタ「僕には、殺すことしかできませんでした……もし、今回のようなセルリアンが出ても、こうして誰かを殺すのは僕一人でいい。だから……!」
J「……お前が行くってんなら、俺も付いて行く。」
ヤマトフキバッタ「どうして……ですか?」
J「そんなの……あんなセルリアンが彷徨いてたら安心して寝てられないだろ。それに……俺だって、そのクモを殺したようなもんだ。お前に手を貸した時点で……だから。」
Jが彼女の涙を拭う。その手は暖かく、そして震えていた。
J「……お前だけに背負わせはしない。」
先程とは違った空気の沈黙が、2人を中心に広がる。拭った筈の涙がまた一つ、二つと頬を伝う。
ヤマトフキバッタ「…………ありがとう。」
ヤマトフキバッタが、微笑んだ。
-図書館周辺の林、出口-
出口まで見送りに来た、博士と助手。
博士「……気が変わったり何か不調があれば、いつでも戻ってくるといいですよ。」
いつにも増して物腰の柔らかい2人に若干の違和感を覚えつつ、Jは先陣を切って歩き始めた。ヤマトフキバッタは律儀に一礼をしてから、Jの後を追った。
去り際、彼女は図書館敷地の隅を見つめた……その先には、あのクモが埋葬された小さな墓が。
歩くこと数分。初めに口を開いたのはJの方だった。
J「……なぁ、お前のこと……なんて呼べばいい?」
きょとんとした表情を浮かべるも、すぐに微笑むヤマトフキバッタ。
ヤマトフキバッタ「好きに呼んでください。その代わり、あなたの名前も教えてくださいね。」
J「…………仕方ないか。俺はジャクソンカメレオン、好きに呼べ。」
赤面するJを眺めながら、じっくりと呼び名を考える。色々な案が浮かんでは消え、気付けば林の終わりが見えていた。
ヤマトフキバッタ「……そうですね。よし。それでは、ジャックと呼ばせてください。」
ジャック「……悪くない。これからよろしくな、ヤマト。」
満更でもない様子のJ……もといジャックは、軽くヤマトの方を振り返って呟いた。
〜次回予告〜
我らのヤマト達を狙う、セルリアンの送った次なる使者は……神出鬼没のカマキリセルリアン。
ある方法で生計を立てるオオコウモリを狙う、その理由は。小さな木箱を巡るセルリアンとの争奪戦。
次回、耀きの飛蝗。「Overture」にご期待ください。