けものフレンズ 軈テ星ガ降ル。   作:ヒトアマゾン

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Overture

-じゃんぐるちほー-

 

 そよ風が吹き、木漏れ日が煌めく。その深緑の中で妖しく煌る、人ならざる者の鋭利な腕が……

 

 危機が迫っている事など露知らず、1人の白と黒のフレンズ……マレーバクが茂みの中を進む。それもその筈。追跡者がいるのにも関わらず、その場に響く足音はただの1人分なのだから。

 その細くも巨大な身体を揺らし、祈る様にして折り曲げられた腕がマレーバクに向かって静かに、だが確実に延びていった。

 

 音も無く迫る死。その影に気付いた時には……

 

?「ケケーッ!!」

 

 何処からか飛んできた別の影が、マレーバクを攫う。追跡者の腕はマレーバクを掠めるに留まり、彼女を捕らえることは叶わなかった。その視線は、飛び去った影に向けられていた……

 

 それからしばらく経った頃、じゃんぐるちほーの端ではマレーバクが木にもたれ掛かり、誰かと話をしていた。

 

マレーバク「あ、ありがとう……?」

 

?「いいのいいの。たまたま通りすがっただけだから。」

 

 その相手は、あのセルリアンから救い出してくれたフレンズだった。

 

マレーバク「け、けど、どうして助けてくれたの? ……もしかして、何か見返りとか……?」

 

 その言葉を聞いた彼女の表情は、先程までの和やかな雰囲気からガラリと変わり、マレーバクの眼をジッと見つめていた。

 

?「……おぉ、中々鋭いねェ。早い話、そういう事。」

 

 そこまで言うと、彼女はマレーバクに向かって手を差し出した。マレーバクは彼女の目と手を交互に見つめ、何を求められているのか必死に考えていた。

 

マレーバク「……もしかして、食べもの……?」

 

 彼女の口角が上がった。どうやら正解のようだ。だが、マレーバクは非常に申し訳無さそうに俯いた。

 

マレーバク「ご、ごめんなさい! 今は持ってなくて……」

 

 今度は、彼女の口角が下がった。それに加え、その眼差しは心なしか先程よりも鋭いものに……

 

?「う〜ん、そっかぁ……なら、仕方ないか。」

 

 懐から小さな木箱を取り出しながら、ゆっくりとマレーバクに歩み寄る。

 

マレーバク「ごめんなさい! 今度は絶対用意するから……! お願い……」

 

 目を瞑り、震えながら謝るマレーバク。だが、尚も歩みを止めない。逃げ出そうとするも、脚が痛む。恐らく、先程セルリアンから逃げた際に負った傷が原因だろう。……何かがマレーバクの脚に触れた。

 

マレーバク「嫌っ……!」

 

?「えっ、ごめん! 痛かった……?」

 

 マレーバクがゆっくり目を開けると、脚の傷に何かが塗られていた。

 

?「直ぐに良くなるとは思うけど、念のため暫くは弄らないでおいてね。」

 

 キョトンとするマレーバク。

 

?「……多分、君はさっきのセルリアンに目ェ付けられてると思うから、一旦他のちほーにでも避難しておくといいよ。なんなら私が負ぶっていこうか?」

 

マレーバク「う、うん……ありがとう……けど大丈夫。」

 

?「あら、そう? そンじゃ、私は行くよ。脚が良くなってからでいいから避難しなよ?」

 

マレーバク「……分かった。本当に、ありがとう……あの、その、私はマレーバク。あなたの名前は……?」

 

 飛び立とうとするそのフレンズに向かって問いかけるマレーバク。すると、そのフレンズは振り返り、笑顔でこう答えた。

 

?「あぁ、自己紹介がまだだったね。私はオガサワラオオコウモリ! どうとでも呼んでよ。」

 

 そこまで言うと、オガサワラオオコウモリはそそくさと飛び立った。

 

-同時刻、同ちほー-

 

ジャック「……本当にこの辺りなんだろうな?」

 

 若干の疑いの色を孕んだジャックの視線を尻目に、ヤマトは森の中を進む。遡ること2日前、図書館を出た2人は新たなセルリアンの情報を聞きつけ、じゃんぐるちほーへ向かっていた。しかし、収穫は無し。仕方なく周辺の捜索へ移ろうとしていた。

 ……が、ヤマトがセルリアンの体内から発せられた微かな苦しみを察知、そして今に至る。

 

ジャック「……ヤマト、止まれ。」

 

 疑問符を浮かべながらも立ち止まり、振り返るヤマト。理由を尋ねようと口を開いたが、それはジャックの手によりすぐさま封じられた。2人の足音も消え、辺りに静寂が訪れた。その時、初めて2人は気付いた。

 

 静か過ぎる。

 

 それは、ジャングルには不似合いな程に。

 

 様々な考えが、各々の頭を浮かんだり消えたりしている。しかし、2人の中では共通して1つの原因が確固たるものとして存在していた。その思考の中に、1つの雑音が入り込んだ。2人は咄嗟にその発信源の方を見た。空を飛ぶ影が、羽撃きによる微かな音を起こしながら2人へ迫っていた。

 

 臨戦体制をとる2人へ、その影は叫んだ。

 

?「そこから離れて!!」

 

 その声とほぼ同時に、ジャックはいち早く背後からの殺気に気付いた。

 

ジャック「クソっ!」

 

 続いて気配に気付いたヤマトはジャックを抱え、その背後の気配から距離をとる様に跳ねた。いつから居たのか、初めから付け回されていたのか……咄嗟の出来事に動揺ながらも、僅かに残された冷静さでなんとか周囲の状況を確認する。目を凝らすと、そこには木々の深緑に紛れて佇むセルリアンが居た。

 

ジャック「ヤマト! ここは一旦退くぞ!」

 

ヤマト「けど、ここで倒さなきゃ誰かが!」

 

 セルリアンを一点に見据えながら叫ぶヤマト。

 

ジャック「不意を突かれた今、圧倒的にこっちが不利だ! 俺達はここでくたばる訳にはいかない!」

 

 2人を追って、空から影が降りてきた。

 

オガサワラオオコウモリ「その嬢ちゃんの言う通りだよ! それに、この辺りのフレンズなら殆どみんな避難しちまってる!」

 

 2人の中で合点がいった。何故、この場所がこれほどまでに静かだったのか。

 

ヤマト「……分かった。どこの誰かは知らないけれど、あなたを信じる!」

 

 体力の限り様々な方向へ跳ねるヤマト。辿り着いたのは、開けた場所に流れる、穏やかな小川だった。

 

-小川-

 

ジャック「……ここまで来れば一息つく余裕ができるだろ……」

 

 倒木に腰をかける3人。始めからこの旅に加わっているかの様に振る舞う1人のフレンズに、ジャックが問いかけた。

 

ジャック「……助けてくれた事には感謝している。だが、ここまで着いてこなくとも……」

 

オガサワラオオコウモリ「まぁ、ほら……旅は道連れってヤツ? それに君たち、ただのフレンズじゃないでしょ? その目付き……あまりにも覚悟が決まりすぎてるからさ。」

 

ジャック「……何が言いたい?」

 

 そのフレンズは改まった姿勢で、ジャックを見つめた。

 

オガサワラオオコウモリ「……私と協力して、あのデカブツを倒してほしい。」

 

ヤマト「それはできない。これ以上、あなたを巻き込む訳にはいかな……ッ……!」

 

 立ち上がろうとするヤマトだが、不意な痛みが彼女の足首を襲う。よろめく彼女を慌ててジャックが支えた。

 

ジャック「まさか、逃げる時に……?」

 

 よく見ると、彼女の額には脂汗が滲んでいた。

 

ヤマト「ジャック、大丈夫だよ。これくらいの怪我なら……」

 

 そう意気込む彼女とは裏腹に、その痛みは酷くなる一方であった。

 

オガサワラオオコウモリ「少し待ってな。すぐにでも治して……あら……無い……!?」

 

 懐を弄るが、彼女の探し物が見つからない。

 

ジャック「何を探しているんだ、オオコウモリ……」

 

オオコウモリ「実は、大体の怪我なら治せる薬があるんだけど……って、あれ? 自己紹介してあったっけ……」

 

ジャック「これでも、色々と情報は集めているんでな。オガサワラオオコウモリ、お前の噂も少しは耳に入っていたが……それで、そんな薬があるのか?」

 

 少々驚きつつも、オオコウモリは説明を続けた。

 

オオコウモリ「えっと……これくらいの小さな木箱に入ってる塗り薬で、やたらと効くんだよ! まぁ、手元に無いんだけどね、ははっ、はぁ……どこかに落としたかな……」

 

 不意に、ヤマトの体が強張る。

 

ジャック「ヤマト!? どうした、別の場所が痛むのか!?」

 

ヤマト「来る……! さっきのが……」

 

 その声に呼応するように、茂の中から先程のカマキリセルリアンが現れた。そしてその光る鎌状の腕には小さな木箱が突き刺さっていた。

 

オオコウモリ「お前か!? ソイツを返せってんだ!!」

 

 咄嗟に走り出すオオコウモリ。しかし、カマキリセルリアンは鎌を振り上げ、翅に刻まれた極彩色の模様を見せつけるかのように威嚇した。その圧にたじろぎ、オオコウモリは堪らず後退りした。

 

ジャック「ヤマト、お前は休んでいろ。ここは俺が……」

 

 鞭を引き抜き、オオコウモリの元へ歩みを進めるジャック。

 

オオコウモリ「……私はあの木箱を取り戻したい。君たちはあのセルリアンを倒したい。目的が似たようなものなら、一緒に戦ってくれる?」

 

ジャック「……あの木箱に入った薬を使えば、本当にヤマトの足も治るんだよな?」

 

 オオコウモリはニヤリと笑い、大きく頷いた。

 

ジャック「なら、手を貸さない道理などないな。……来るぞ!」

 

 カマキリセルリアンの腹部から、無数の黒い針金のような何かが吐き出される。それらが絡まり合い、無数のセルリアンとなってオオコウモリ達へ飛び掛かった。

 

ジャック「またこいつらかよ!」

 

 鞭を振り回し、そのセルリアン達を蹴散らすジャック。一方、オオコウモリはかなり苦戦していた。

 

ジャック「お前、まさか戦えねぇのか!?」

 

オオコウモリ「だぁかぁらぁ!! 手伝ってほしかったのぉ!!」

 

 始めは善戦していたジャックだが、その数に押され、次第に苦境へと立たされていた。討ち漏らしたセルリアンの1体が、ヤマトへ向かう。

 

ヤマト「たとえ脚は使えなくとも!」

 

 ヤマトの拳がセルリアンを砕く。だが、その抵抗もいつまで続くかどうか。そんな不安に、ヤマトは襲われていた。

 

オオコウモリ「このままじゃジリ貧だ……ジャックちゃん! セルリアンを頼んだ!」

 

ヤマト「はぁ!? お前、何を!?」

 

 セルリアンの間を縫って、オオコウモリはカマキリセルリアンの元へ駆けた。

 

オオコウモリ「私の商売道具、返してもらうよ!!」

 

 その勢いのまま飛び立ち、鎌の先にある木箱を取り戻したオオコウモリであったが、セルリアンも徒では済まさない。オオコウモリを捕らえようと、その鎌を振るう。鎌の先がオオコウモリの背を掻っ切った。

 

オオコウモリ「ッア゛ぁ!」

 

 衝撃と痛みで体制を崩し、ヤマトの方へ投げ出されるオオコウモリ。

 

ヤマト「オオコウモリさん!?」

 

オオコウモリ「……ん、ヤマトちゃん……? カカッ……運は我にあり……ってねェ……」

 

 這いずりながら木箱を開け、薬をヤマトの足首へ塗りたくる。

 

オオコウモリ「君は要だ……さぁ、存分に暴れてきな……!」

 

 スっと立ち上がり、オオコウモリへ小さく頷くヤマト。ゴーグルを掛け、カマキリセルリアンへ真っ直ぐ向かっていった。

 

ジャック「お前……待ってろ、今すぐその薬を!」

 

 オオコウモリに駆け寄り、木箱を開ける……が、その中身は使い切られていた。

 

オオコウモリ「へへっ……さっきので使い切っちゃった……」

 

 薄れ行く意識のなか、オオコウモリは微笑みかけた。オオコウモリを倒木へ寝かせるとジャックは彼女を背に立ち上がり、再び鞭を構えた。

 

ジャック「もう少しだけ、耐えてくれよ……」

 

 そう呟くジャックの視線の先には無数のセルリアンが、更にその先にはカマキリセルリアンと対峙するヤマトの姿があった。

 

 カマキリセルリアンが振り下ろした鎌を左手で受け止め、胴へ思い切り蹴りを見舞う。その一撃で本当に脚が治っていることを実感したヤマトは、更に二度、三度と蹴りを打ち込む。もがくカマキリセルリアンに振り払われたヤマト。すぐさま体制を立て直し、反撃の構えをとる。……しかし、そこにカマキリセルリアンの姿はなく、気付けば森の中へ誘い込まれていた。

 

 呼吸を整えたヤマトは目を閉じた。彼女の髪留めに付いている、3つの小さな宝石が輝く。

 

 ……それは一瞬の出来事であった。ヤマトが背後に向かって繰り出した手刀が、カマキリセルリアンの石を砕いた。セルリアンの鎌が彼女の首を刈り取るよりも先に、彼女の手刀がセルリアンに致命の一撃を加えたのだ。また1つ、誰かの命が己が拳に刻まれたことを、その痛みと共に実感したヤマト。

 

 主の死により、先程までジャックと死斗を繰り広げていたセルリアンも消滅。辺りは、川の流れる音、そして各々の吐息のみが響いた。

 

-じゃんぐるちほー、出口-

 

 日が沈み、星々が輝き始めた頃、ヤマト達はじゃんぐるちほーを旅立った。再び、この地に賑やかさが帰ってくることを祈って……

 

ジャック「…………で、何でお前も着いてきてんだ?」

 

オオコウモリ「だってぇ!……君たちに着いていけば食いっ逸れることも無さそうだし……」

 

 平然と並んで歩くオオコウモリに、ジャックが再び問いかける。

 

ジャック「結局は食いもんの為か……情報通りだな。」

 

オオコウモリ「食べ物は大事だよ!! 食わなきゃ生きていけないからね! ……けど、それだけじゃないからね。私が着いていく理由……」

 

 急にしおらしくなったオオコウモリ。

 

オオコウモリ「これでも感謝してるんだよ? あのセルリアン倒したおかげで少しは平和になったし。それに、今こうしてピンシャンしてるのだってヤマトちゃんのおかげだもの。」

 

 そう、オオコウモリを治療したのはヤマトであった。勿論、オオコウモリ自身の豪運としぶとさもあってのことだが、それに加えてヤマトが必死にになって集めた薬草が回復を早めたのだ。

 

ジャック「それもそうだし、俺だって感謝くらいはしているが……おい、ヤマト……お前からも何か言って……何食ってんだ?」

 

 ジャックが振り返ると、ヤマトが黙々とバナナを食べていた。

 

ヤマト「……これ? 実はさっき、オオコウモリさんから貰ったんだけれど……柔くて、とても美味しいんだ……!」

 

 呆れた表情でヤマトからオオコウモリへ視線を移すジャック。

 

ヤマト「お前……ウチのヤマトを買収したな?」

 

 本能で身の危険を察知したオオコウモリが、慌てふためいていた。

 

オオコウモリ「ご、誤解だよ! ほら、お礼だから! あくまで感謝の気持ちなだけだから!!」

 

 賑やか過ぎるほどに賑やかな3人……そして、その3人を遠くから眺める2つの影が。その内の1つの手には、今では骨董品とも言えるであろうカメラが握られていた。

 

?「……よし、綺麗に撮れてる……流石だね、俺。」

 

 カメラの液晶を眺め、ニヤニヤとする彼女。

 

?「ここ数日、観察を続けてはいるが……どうする? 接触する準備は整っているが。」

 

 もう1つの影が問いかける。長くしなやかな尾をうねらせ、まるで獲物を見定めるかのように、彼方の3人を見つめていた。

 

?「その辺りのタイミングやら手段やらは任せるよ。あの仲良し組から、バッタちゃんを引き剥がすことさえできればいいからねェ……」

 

 彼女の顔に、不敵な笑みが浮かぶ。夜風に靡くマフラーが地面に蠢く影を作り出し、月光が射し始めたことを告げる。月光に照らされた彼女の姿、首から下げられたゴーグルに、各所を覆う防具、その姿はまるで、もう1人のヤマトが立っているかのようであった。




〜次回予告〜

 我らのヤマト達を狙う、セルリアンが送った次なる使者は……ムカデセルリアン。

 熱風渦巻く砂漠の中、不気味に繰り広げられる魔のハンティング。リンカルスが命を懸けたヤマト強奪作戦に、敢然と立ち向かうジャックとオオコウモリ。

 次回、「Chasm」にご期待ください。
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