刀剣乱夢 短編3   作:紺杜

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第5話

 

 

 数カ月経った。

 

 

 あれからも何人もの刀剣男士が来たし、その誰もが別の本丸で用意していたお菓子を持って帰る人もいれば、お皿やら湯のみを持ち帰る人もいた。なんだか雅さんが気に入ったものは、私が子供の頃に作った工作物(湯飲み)だったんだけど。雅とは? となったのは内緒だ。

 

 

 そんな中いつも思い出すのは、あの、血まみれで現れた鶴丸国永だ。

 彼はどうなっただろうか。

 主は捕まっただろうか。

 無事に本丸の皆は手入れされただろうか。

 誰も堕ちていないだろうか。

 

 

 鶴丸さんは折れてないだろうか。

 

 

 鶴丸の国も審神者名も聞かなかったのが今になって後悔の嵐だ。

 それさえ分かっていれば、ここに時々来る刀剣男士に通報を頼むという選択肢もあったのに。なんであの時、彼の国名や主の審神者名を聞かなかったんだろう。自分のバカバカ。

 

 

「はあ」

 何度目かのため息を零して家を出た。

 

 

 最近、パソコンから変な音がしない。

 夏のころは始終パソコンがネットに繋がらなくって刀剣乱舞ができなかった時に刀剣男士が来たのに。

 冬になって電波の調子がいいのか、最近ネットもゲームもさくさく動いて繋がりが良い。お陰で刀剣男士が来ない。

 ふと、ここに来た刀剣様を思い出していると来ていない刀剣男士は後数振りになっていることに気づいた。最近、パソコンの調子はいいみたいだし。もう、二度と刀剣男士には会えないのかもしれないな。

 

*

 

 

 

「ここはどこだろうか?」

 玄関開けたら、青い髪色の青い瞳。袖なしに近い戦闘服の千代金丸さんが居ました。

 

 

 呆けた顔で彼を見上げた。

 だって、もう私の家には刀剣男士は誰も来ないと思っていたから。

 びっくりだ。

 

 久々の刀剣男士登場に慌てながら、とっても寒い玄関から台所へ案内する。

 今は冬だ。あれから半年が経過し、冬の日本で千代金丸さんの袖なしの夏の衣装は寒すぎる。台所は唯一ガスストーブが付く場所なので、一番早く温まる場所なのだ。

 台所の扉を開けてガスストーブの前に案内し点火した。

「これ、ストーブ、暖かくなる機械なんです。ここに座って当たっててくださいね」

 そう言うと引き寄せられるように彼はしゃがんで両手を伸ばし、点火したばかりの勢い良く吹き出る暖かい風に手をかざしている。

「千代金丸さん。ずっと、玄関にいたんですか?」

「あそこは玄関さ?」

「はい」

「そうだな。あそこで暫く明かりを探していたんだが出口がなくて困っていたさ」

 彼は私の家に来て、もうすでにだいぶ時間が立っているようだった。彼がかなり寒がっているところを見ると、30分ぐらいは既に経過している。

「寒かったでしょう」

 手袋とマフラーをハンガーにかけてコートを脱ぎながら彼を見つめるとすごい寒かったのか肩をさすりながらストーブに当たっている。千代金丸さんは沖縄の刀剣男士さまだ。冬の寒さは苦手だろうな。

 そっと、今つけていたマフラーを首に回してあげる。

「これは、あたたかいなあ」

「はい。マフラーです」

「そうか。これがまふらーか」

 そういう感じのを巻いている刀剣もいるけれど、自分では巻いたことはないんだろう。マフラーが言いなれないようで幼さを感じてしまう。

「気に入っていただけたのなら差し上げます」

「じゃあありがたく貰っておくさ」

 肩を震わせマフラーをぎゅっと握りしめているので、よっぽど寒いみたいだ。

「ちょっと待っててくださいね」

 大急ぎで毛布を出し背中に掛ける。

 台所で毛布にくるまるのあんまり行儀がよくないのでしないのだけれど。今日は無礼講だろう。

「これは?」

「毛布です。しばらくこれにくるまっててくださいね」

 ぎゅうっと紫色の毛布をくるくるに体に巻き付けている。

 よっぽど寒かったんだなあ。

 あったかいお茶でも出そうとポットに水を入れていると背中越しに声がかかる。

「あったかいなあ。もしかして、ここは、鶴丸が言っていた場所かあ?」

「鶴丸って、もしかして手入れされずに進軍させられていた左腕が無くなって血に染まった鶴丸国永さんですか?」

 大急ぎで彼の瞳を覗き込むように見つめた。彼は、のんびりとした調子で笑顔を浮かべている。

「そうさ。彼は、家の主に引き取られたんだ」

「そこ詳しく教えて貰えませんか?」

「ああ」

 毛布にくるまったまま、手を出すのも寒いのか指先だけ出していて、まるで芋虫のようになっている。彼にダイニングテーブルの椅子に座ってもらい、あったかい緑茶といつ刀剣男士が来てもいいように用意していたお菓子(栗饅頭)を出しつつ、

「鶴丸さんは? 怪我は治ってますか」

 テーブルにそれらを置きながら、大急ぎで鶴丸のことを聞いた。

「何故そう急ぐのかよくわからなんなあ」

「ここにいられる時間はごく僅かだからですっ!!」

 向かい合わせに座ると、彼を縋るように見つめた。

「そうなのか?」

 のんびりとした答えについ焦れてしまう。彼のそういうところが実は大好きなんだけれど、今回ばかりはタイムリミットと都の戦いなのだ。今この瞬間目の前から消えたら立ち直れない。

 

 

「あのっ! 鶴丸さんは?」

「元気さ」

 その言葉で脱力。

 よかった。元気なんだ。

 はああああっと深いため息をこぼすと、千代金丸は嬉しそうに目を細めて私を見つめている。

「鶴丸に頼まれたことを聞いて貰ってもいいだろうか?」

「もちろんですっ!!」

 

 

 鶴丸国永は千代金丸の数日後に彼の本丸に来た刀剣男士だった。

 鶴丸に聞いた話では、彼の下本丸では鶴丸国永の本丸はブラック本丸で手入れをせずに無理な進軍ばかりをしていたらしい。それはもう、短刀は使い捨ての道具とされ、レアは売り飛ばす本丸だった。それでも鶴丸は仲間を守りながら生きて、生き残っていた。だが、限界はある。とうとう鶴丸は我慢ならんと主を切りに部屋を飛び出した。

 

 

 主の部屋に行く途中、廊下を歩いていたはずなのに突然別の場所に居た。そこは、浄化された自然の陽の気が集まった神域に近い場所。そこで鶴丸は人間の女に会った。彼女は鶴丸の姿を見るなり驚いて泣きながら傷を白い布で止血し「人間がごめんなさい」と泣いて謝り土下座したそうだ。それから、主を殺すな、と。どうしてだと、はじめは思ったが、彼女は、鶴丸が人間のために堕ちて欲しくない、と言ったそうだ。

 

 

 それで、鶴丸は思いとどまった。彼女の別れ際に通報の仕方や色々な方法を伝授され、おかげで鶴丸の主は捕まった。

「ああ。最近、少しだけ笑うようになったさ」

「よかったあああああ」

 涙が噴き出る。

「どうした? どこか痛むのか?」

「痛くないです」

「そうか。それならいいさ」

 千代金丸は顕現されて間もないのだろう。人間が泣くというのは痛みからだと思っているらしい。痛くないといったのに泣き顔の私を心配そうに見つめているので、大丈夫アピールで笑顔で涙をごしごしとティシュで拭きつつ。

「鶴丸さんが元気だと分かってホッとしたんですよ。ずっと心配だったからから」

 彼は笑顔になった私にほっとしたように笑いかけた。

「やっぱりあんたは鶴丸に聞いた通りの人さ」

「え」

「俺と鶴丸は同室さ。よく話しをしたんだ。いつもあんたの話さ」

「私の?」

「そうさ。鶴丸はあんたに会いたがっていたさ。でも、別れ際に願いをかなえると言うと無理だと返され、ここに来る刀剣男士は一期一会。二度と会うことはないと言われたと悲しんでたいたさ」

 そうだったんだ。

「それで、だ。この本丸に来て、一番新参者である俺に話があると、鶴丸が俺にこの話をしたのさ。もしも、あんたの所に行くことができるとしたら、新刀剣男士の俺だと思ったから、俺に頼むと頭を下げた。出会って直ぐだったからビックリしたさ」

 鶴丸国永という刀剣男士のイメージは早々初対面の刀剣男士に頭を下げるなんてイメージがない。それなのに、彼は私に伝言を頼むために初対面の刀剣男士に頭を下げたのか。

「それで、千代金丸さんは私のことを知っていたんですね」

「そうさ。それでさ。俺は鶴丸にあんたに会えたら伝えてくれと頼まれたことがあるんだ」

「何でしょうか?」

 

 

 彼は私と向き合うと毛布の中にあった手を私に向かって差し出した。

 

 

「手?」

「うん。握ってくれるか? そう鶴丸に言われているさ」

「はあ」

 

 

 彼は大きな手だった。刀を握っているだけあってごつごつとした分厚い男の人の手。彼の手を握り返し、握手状態。

 

 

「じゃあ、鶴丸の伝言を伝えるさ」

「はい」

 

 

 彼は私の目を見つめてにっこりと笑いかけた。

「君のお陰で仲間を救うことができた。ありがとう。願いを叶える約束は今も健在だぜ。願いを千代金丸に言ってくれ。そうすれば、俺が君の願いを叶えよう」

 一気に彼が告げると、

「だそうだ」

 と青い瞳が笑う。

「俺も鶴丸の願いを叶えてあげたいさ」

「仲がいいんですね」

「俺は同派がいないからなぁ。鶴丸も同じさ」

「え?」

 みっちゃんとか貞ちゃんとか伽羅ちゃんがいると思うんだけれども。

「よくはわからんが。鶴丸は長船とは打ち解けないみたいさ」

 引き取られてもいろいろあるんだな。大丈夫かな鶴丸さん。

「そうですか。願い、なら前から決まっていました」

「鶴丸は、何をいっても叶えると言っていたさ」

「じゃあ、いいます」

「うん」

 

 

「鶴丸国永さんが幸せになりますように」

 

 

 青い瞳が見開かれ、握っていた手に力がこもるので、こちらも握り返すように力を込めた。

 

 

「それが、あんたの願いさ?」

「そうです。私の願いは、鶴丸国永さんもそうですけど、私のところに来てくれて出会った刀剣男士が全員、幸せになることです。おこがましいかもしれないけど。でも。そう思っています。だから、千代金丸さんも幸せになって欲しいです」

 

 

 なんか、神様相手に偉そうな口きいてしまったけれど。後悔はない。

 千代金丸さんのめが見開かれて、次の瞬間、誉桜が舞い散る。瞬きながら彼を見つめると溶けそうな顔で微笑んでいる。

 

 

「あんたは鶴丸が言った通りの人だな」

「え?」

「女神だっていっていたさ」

 

 

 神様に女神って言ってもらえるとは。

「俺も今そう思ったさ。鶴丸が俺に伝言を頼んでもらえてよかった。あんたに出会えて良かったさ」

「ありがとうございます」

 はにかんだような笑顔にこちらも気恥ずかしくなる。思わず俯いてしまう。

 もうそろそろ時間がないかもしれない。

 彼が冷え切るぐらいにこの玄関にいたのなら、今目の前で消えてもおかしくないだろう。

 もう、これで刀剣男士に会うのは最後なのかもしれないな。

 

 

 うつむいてる場合じゃない。今この瞬間の出来事を、見逃さないようにしないと。もう二度目はないのだから。

 顔を上げて彼を忘れないように、じっと見つめる。

 髪飾りが黄金色。千代金丸の刀は博物館のをウェブで見たけれど、実物はもっと綺麗だった。

 余すことなく目に焼き付けるように彼を見つめる。

 

 

 彼の青い目が私を見透かすように見つめ、私を包み込むように握る手に力が籠められる。

 

 

「御神刀が言っていたさ。あんたをこちらに連れてきても歪みは生じない。寧ろあんたを求める刀剣男士の念が強すぎて、今のままの方が歪む。その事の方が、歪むという点では大きいさ」

 

 

 何を言いたいのかわからないけれども。

「?」

「あんたは、刀に寄り添う。審神者の力がないただの人間だが、刀剣男士に寄り添うことができる存在さ。そういった存在が政府にはいなかったさ。やっぱり、あんたは女神さ」

 

 

 女神なんて。おこがましい。

 

 

 そう思った。

 

 

 けれど、神様の意思を否定するのははばかられて。無言のままアンニュイな笑顔のまま彼を見つめた。

 千代金丸は、少年のようなはにかんだ笑顔で、それはまるで真夏の太陽の白波を煌めかせるような笑顔で。

 出会えて嬉しいとウェルカムオーラの笑顔だったので、私もうれしくて微笑んだ。

 

 

 この笑顔を覚えていよう。ずっと。

 

 

 彼はその間、手を握ったままだった。

 

 

 そろそろ手を放さないと、彼が消えるだろう。このまま手を放さないままでもいいけれど。すっといなくなった手の感触はかなりさみしいものがある。燭台切さんの時がそうだったっけ。料理本を渡すときに片方の手が私の手にかぶって握りしめられて、あっと思って彼を見上げた瞬間にいなくなってた。あったかい手のぬくもりを残したまま。あの時暫く燭台切さんの大きな手の感触が残ってたっけ。

 

 

 あ。でも。その方がもいいかも。

 最後に来た刀剣男士の千代金丸さんの手をずっと覚えていたい。

 そう思って、ぎゅっと手を握り締める。

「私に出会ってくれて……」ありがとう。

 言い掛けて世界が歪んだ。

 

 

「なんくるないさ」

 

 

 彼の言葉が耳元で聞こえた。

 いつの間にか抱きすくめられていて。男の人の腕の中にいるというのに、はずかしいとか、どうしようとか、慌てるような気持が浮かんでこなくて。

 その代わりに安堵の気持ちが押し寄せる。

  どうしてこんなに、安心するのか分からない。

 色々な刀剣男士に出会って話たけれど、千代金丸さんはその中で特別、話をしていて緊張するでもなく、まるで家族のようにはなせるような、ほんわかした感じの刀剣男士だった。

 

 

 そのせいだろうか。

 まるで、お父さんに抱きしめられているような気がするのは。

 彼は毎日忙しい私を繋ぎとめようとしているようで。

 

 

 仕事は順調とはいいがたくて。人間関係で精神擦り切れて。仕事量も半端なくてパワハラで。だからこんな遅い時間に帰ってきたんだけれど。

 心が折れそうなときに抱きすくめられると、それだけで安堵して。

 神様を抱きしめ返した。

 なんだか子供みたいだな。自分。

 でも、千代金丸さんは、もう元の世界に帰ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ

 

 

 かみさま

 

 

 この出会いをありがとうございます

 

 

 安堵の青い青い波が心の中を押し寄せて、彼の髪や瞳と同じ青い色が心の中を染め上げて。

 一瞬。

 一面の青色の海原が見えた気がした。

 

 

 もう一度彼の声が頭に響く。

 

 

 

 

 

 

 なんくるないさ

 

 

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