時の政府の建物に連れてこられ白い部屋に入れられた。
3畳ほどのスペースにベッドと入り口横にトイレ。入口は開き戸で施錠されて開けることはできない。窓は一つもなく、音もしなくて。無音だ。
「君がこちらに来た経緯の件について調べる間、この部屋にいてもらう」
連れてきた役人から別の役人に引き渡された。背も体も大きな男性でプロレスラーのような印象。眼光は鋭く疑心にあふれ圧的な物言いに人間性を否定するような口調だ。
隣の部屋から叫び声が聞こえてくる。
「出してくれ。俺がれきししゅうせいしゅぎしゃだ」
歴史修正主義者?
悲鳴のような声に紛れて聞こえてくる声は、日本語なのかわからないくらいの濁音が混じっていて。悲鳴が響き渡っていたから拷問されていると確信した。
その声がピタリと聞こえなくなると、人の気配もなくなった。
膝を抱えながら悪いことばかり浮かんだ。
私の尋問が始まった。
「君はどうやって本丸に入ったんだ?」
「だから、何度も言ってるじゃないですか。私は別次元にいたんです。そこから千代金丸さんが20xx年から私をこちらに連れてきたんです」
「うそを言うなっ! お前のいた時代にお前という存在は確認できない」
白い研究者っぽい服装の体格のいい男が机をこん棒で名医パイ強い力で殴りつける。
白い部屋いっぱいに響く重い音。こんな音を聞いたのはドラマでしかなくて。現実にこんなことされるなんて初めてで。そうでなくても男性に恫喝されるというだけで恐怖しかないのに。涙がこぼれてしまう。
彼らは私が怯えた表情に満足そうな笑みを浮かべた。
何日たっただろう。
「そういった証拠はない。そろそろ本当のことを言ったらどうなんだ?」
「本当のことを言っています」
「何度も言わせるなっっ!!」
怖い。
男の人の怒鳴り声に、びくびくと肩をすくめる。
「君は歴史修正者なんだろう?」
「違います」
髪をっぱられ頬を殴られても認めない。認めたらそこで死刑が確定。間違いない。
隣の部屋の人は言ったとたんにいなくなった。次の人もそうだった。
「証拠がでているんだ」
「知りません」
証拠?
ねつ造までするのか。
「私は無実で潔白です」
「それもいつまでもつかな」
そのうち、電流だと脅された。
歴史修正者に疑われているとは思ってもみなかった。
もしかして、鶴丸国永さんと、同室の千代金丸さんも歴史修正主義者と通じていると思われて捕らえられたんじゃないだろうか?
そうと思えば、私がドナドナされたときいなかったことに頷ける。
彼らも、拷問されているのかもしれない。私が彼らの幸せを願ったせいで、千代金丸さんがこちらに連れてきた。そのせいで二人にあらぬ疑いが掛かって。だとしたら。刀剣男士の彼らは武器だ。もしかして、言霊で縛られ、私より酷い拷問とかされているんじゃないだろうか。
ベッドの隅で膝を抱えながら膝を枕に眠る。横になっていると扉を棒で叩く音で眠れないからだ。
どこかで誰かが拷問されている。その叫び声が館内放送で流される。そうして、次はお前だと心理的に追い詰めていくのだ。
看守が夜中、何度も扉をかんかんと叩いて、眠れないようにしてくる。
だれか。助けて。
千代金丸さんを、鶴丸さんを助けて。
だれか、だれか、だれか。
鶴丸さん、こんな気持ちだったのだろう。誰も助けてくれない。それでも、堕ちないでと欲しいといった私を信じて彼は耐えに耐えて主をお縄にした。
どれだけ、心が強くないとできないことか、自分がそういう目にあってはじめてわかる。
こんな目にあっても、政府役人を恨まない。そう、眠れないようにしたり、脅したり恫喝したりする彼らを恨まない。
鶴丸に堕ちて欲しくないと言った私が堕ちるなんて駄目だ。
誰も恨まない。
そう思うたびに、出会った彼らの顔が浮かぶ。
みんな、どうしてるだろう。
彼らに会ったことは言っていないから、歴史修正主義者に疑われることはない。
けど、色々な刀剣男士に会ったけれども、誰もが何かを心に抱えている刀剣ばっかりだった。死にたくなるくらいではないけれども、辛い、苦しい、と思う心の奥に持っているものを、私が少し聞いて。少しでも心が軽くなったらいいと思って聞いた。
彼らはしあわせになっただろうか。
鶴丸さんと千代金丸さんは無事だろうか。
朦朧としながらまた今日も尋問。
きっと、この部屋を出るときに私は殺されるのだろう。
ああ。夢でもいい。もう一度だけ、家族に会いたい。
同時に、私と同じ目にあっているだろう二人の刀剣男士の顔が思い浮かぶ。
鶴丸さんと、千代金丸さん。彼らに会いたい。
しあわせになった鶴丸さんと千代金丸さんに会いたかった。
出会った刀剣男士全員に会うのは無理でも、二人に会いたかった。
もう、どのくらい、ここにいたのかわからない。何日なのか何か月なのか。時間の感覚もない。今は昼なのか夜なのか。わからなくくなった頃だった。
「ここだな?」
男の声が聞こえた。
ドンドンと扉をたたく音にいつものように肩が跳ねる。
また尋問だろうか。
ベッドの中で顔だけ上げると、扉がゆっくりと開いた。
扉の真ん中に鶴丸国永と、その後ろに千代金丸が立っている。
「君っ! 大丈夫か?」
「やあっと会えたさ」
思わず鶴丸の左腕を凝視してしまう。なくなっていた左腕はちゃんとあった。
「すまない。こんなことになって、すまなかった」
「君を守れなくて、申し訳なかったさ」
千代金丸と鶴丸国永が、私のいる監禁部屋に入ってくるなんて。
ありえない。
ああ、これはいつもの夢だ。
まどろむ中で何度も訪れる夢の中にいつもこんな夢があった。
まだ夢を見ているのだろう。
何日も白い部屋い部屋にいたから。こういう夢っていっぱい見たっけ。家族と同じくらい夢にでてきた刀剣男士達。
「ふふ。いい夢だなあ」
クスクスと笑い出す私を鶴丸、千代金丸が不思議そうに見つめる。
「何度も見たんだよ。もう一度会いたいって思ってたら、いつも夢に出てくれて。今日は二人同時に来てっくれるなんて、いい夢だなあ」
「何を言ってる? 俺は本物の千代金丸さ?」
千代金丸の手が私に触れようと伸ばされる。
「だめっ!」
彼の手をよける様に何度も伸ばす手をよける。
「どうしてさける?」
「だって。目が覚めちゃう」
「目覚める?」
「そう、いつも手が触れたりすると目が覚めちゃうの。そしたら、また、白い部屋に一人だけになってしまう。前はね、貞ちゃんが来たの。それで、主様と一緒に洋食たべてるっていって、ミートスパゲッティ作ったらおいしいって一緒に食べたんだ。でも、フォーク渡したときに手が触れて。それで、消えちゃったの。あれから、夢の中でいろんな刀剣様に会ったけど。でも、私に触れると消えちゃうから。そうすると、また、白い部屋に一人っきりで。誰もいなくて」
「君、大丈夫か?」
鶴丸の手が伸びる。
「だめっ!! 触れないで」
涙がこぼれる。
「千代金丸。鶴丸。お願い。もう少しだけ。もう少しだけ。ここにいて。二人が会いに来てくれた夢を見させて」
千代金丸がひざを折りベッドの近くまで来て私の瞳を覗き込むように見つめた。
青い綺麗な瞳だった。
この瞳に飲み込まれるように。
この綺麗な海原のように穏やかな瞳の中に吸い込まれるように。
私はこの世界に来たのだ。
「なんくるないさ」
その言葉は、私がここに来た時に聞いた声。夢の中でも何度も聞いた。
「会いに来てくれてありがとう。ここを出るときは、きっと死ぬ時だから。死ぬ前に、二人に会える夢が見れて嬉しかった」
「夢じゃないさ」
ぎゅっと手を握り締められる。
「だめ、消えちゃう」
ああ。消えてしまう。目覚めてしまう。
千代金丸を見つめると、彼は私を連れてきた時と同じ瞳で、包み込むように笑っていて。
「夢じゃないから、消えないさ」
抱きすくめられていた。
なんくるないさ
青い青い海原が見えた気がした。
ああ。
ここは。
こちらに来た時に見た海だ。
次の瞬間意識が遠のいていった。