刀剣乱夢 短編3   作:紺杜

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第8話

 意識が覚醒して、目を開けると、鶴丸に顔を覗き込まれていた。反対側に千代金丸がいる。

 

 

「君? 大丈夫か?」

 白い神様。

「鶴丸? 千代金丸?」

「そうだ」

 

 私はこの8畳ぐらいの和室の真ん中に布団を敷いて寝かされていた。

 起き上がろうとすると、鶴丸が背中に手を当てて、それでも彼は消えなくて。

「夢じゃないさ」

 千代金丸に顔を覗き込まれた。

「鶴丸も千代金丸も消えない?」

「ああ、消えない」

「鶴丸左手を見せてもらってもいい?」

「ちゃんとあるぜ」

 手を挙げてぐーぱーして見せてくれた。顔も綺麗になってて。ああ、画面でよく見る鶴丸だ。血まみれではない。真っ白白の鶴丸国永だ。

「千代金丸さんはけがはない?」

「ないさ」

「よかったああああ」

 嬉しさに涙が出そうになる。

「心配性だなあ」

 

「ここは?」

「一番安全な場所さ。君を連れてきたさ」

 

 

 顔を横に向けると、ゲーム画面から抜け出たような景色。障子の向こう側に春の桜が満開で時折吹き抜ける風に届けられる花びらが縁側に届けられ、時折ゆうるりと吹く春風に時折磯の香りがする気がする。まるで海水浴に来た時のように、それは心地よい微睡の様な温かさを届けていた。

 

 

「安全な場所?」

 政府施設で歴史修正主義者だと疑われていた私に安全な場所があるのだろうか。

「不思議かい?」

「ええ。だって、私は歴史修正主義者だって思われていたから。政府に保護しては貰えない。あの施設から逃げ出すことができても、指名手配されるって役人が言ってて」

 いつも恫喝する政府職員が言っていた。歴史修正主義者は犯罪者だって。私は認めなかったけど、証拠があったから確定だって。私は犯罪者だって。

「ここは千代金丸の神域だぜ。本来なら俺の神域に連れてきたかったんだがな。悔しいが、こちらに連れてきた時の千代金丸の神域が君との相性がいいらしいぜ」

「そうみたいさ」

 千代金丸が照れ臭そうに笑う。

「え? 神域って? 私神隠しに会ってるの?」

「一時的さ。あの施設から君をさらうためにはこうするのが一番安全な方法だったさ」

「あの後、政府の摘発舞台と政府役人たちと戦闘になったんだ。だから、君を安全な場所に隠した。それが千代金丸の神域なんだ」

「ちょっとまって。戦闘? あそこは政府の歴史修正主義者を収容する施設だよね? そこで戦闘? 何があったの? それに、どうして鶴丸と千代金丸さんはここにいるの?」

 慌てながら二人を交互に見詰めた。

 だって、二人には守るべき主がいるのだ。それなのに、ここにいるのはおかしい。

「あしがちゃーだなあ」

 千代金丸が仕方ないなあといったように笑ってる。

「そうだな。ちゃんと話そう」

 鶴丸が胡坐をかいて座ると、千代金丸も同じように座った。

「俺は、君に会ってから前の本丸が解体されてから、政府所属の刀剣男士になったんだ」

「え?」

「あの本丸は、政府からグレー本丸でマークされていたんだ。尻尾をつかむために俺が先入捜査に入ったんだ。案の定、あの女は刀剣男士を言霊で縛り、担当は刀剣を貢いでいた。千代金丸も別の本丸から奪われてきたんだ」

「違和感は感じてはいたんだ」

「そうか。感じてる奴は多いだろうな。薬研みたいにな」

「薬研も?」

 薬研藤四郎は短刀としてはダブりが出やすい刀だと思うけれど。

「薬研は奪われた刀剣じゃなくてだな。もともとあの本丸はあの女に呪具で乗っ取られた本丸で、薬研藤四郎は別の主の刀剣なんだ。あの本丸の刀剣男士はあの女を主だと思い込まされてる刀剣ばかりでな。彼らは主の性格が変わったと思って違和感を感じていたってわけさ」

 やっぱり呪具による乗っ取りだったんだ。

「それで、俺が潜入捜査で元の主の居場所を突き止めていたころに君が来た。驚いたぜ。次に君の所に行く刀剣は千代金丸だと見当をつけていたから、千代金丸にいろいろと頼んでおいたんだ。本当に君に会いに行くことができるなんてな。君にあえてすごく嬉しかったんだ。すぐに会いたかったが。君トイレに篭って出てこなかっただろう?」

 

「それは、気持ち悪くって仕方なくって」

「そうだな。あの女の霊力はグレーだったから、君のいた部屋の新規に馴染んだ君の体にはダイレクトに汚れた霊力が異物として響いたんだろう。だから、君は気持ちが悪くなったのさ」

 そうだったんだ。

「それに、君の来たタイミングが絶妙に悪かったんだ」

「どういうこと?」

「あの女の呪術が弱くなってた所に君が来たんだ。そこで君が、薬研に言ったそうだな?」

「え?」

「人間ごときがって。薬研が驚いてた。それは、元主が、ことあるごとによく言ってたんだ。それであの女に訊ねたんだ。そういえば、主。昔よく「人間ごときが」って言ったのを覚えてるかってね。あの女は、そんなこと言っていないってキリキリいつものように怒りだした。そこで薬研の呪術が切れたんだ。そういう刀剣男士が多数出た。それから、呪術から覚めた刀剣たちが増えて、薬研は主はどこだとあの女を責め、呪術が覚めていない刀剣はあの女を主だと思ってるんで守ろうとして戦闘になった。あの本丸のあの女を信じていた刀剣は折られた。捕まったあの女は、ここの主を殺したからこの本丸の主は自分だと言い出し、怒り狂った刀剣たちを俺はい冷めたが聞かず、刀剣たちがあの女を切り殺し自身を折った。監査が突入したころにはあの女は躯となっていて、あの本丸の刀剣はほとんどが刀解。さらわれてきた千代金丸のような刀剣は元主へ戻ったが千代金丸は主が病に死去していた。千代金丸の本丸は解体後だったために政府直属の刀剣男士となった」

 一気に聞かされて、驚愕して肩が震えた。

 あの本丸はもうないのだ。

 あの優しげな薬研藤四郎も、あの本丸で見た刀剣男士はもうどこにもいないのだ。

「君が気に病むことはない。あの本丸は黒だった。どうにかできたなら君が来る前にどうにかできていたさ」

 鶴丸が私の瞳を覗き込んだ。

「そうかもしれない。けど。私、あの時……薬研に……」思ったままを口にしてしまった。あの言葉がきっかけになって人間も刀剣男士も亡くなったのだ。気にするなというほうが無理だ。

「君には感謝しているさ」

 千代金丸が手を握ってくれる。

 それは、私を連れてきた時にしてくれたことだ。

 今は安心させようとしてくれているのが伝わる。

「千代金丸は、俺が事情を話していたから、戦闘になった時に俺と一緒に監査の刀剣男士と鎮静に加わっていたんだ。今の千代金丸は本来の主の元の墓参りができた」

「そうさ。だから、君が言った言葉は俺を助けた」

「でも、それでも」

 きっかけを与えたのは私だ。

「きっかけだったかもしれない。だが、呪具はいつか効力が切れるものだ。遅かれ早かれあの女の末路は決まっていた。君が気に病むことはない」

 鶴丸が千代金丸に握られていた手を奪うように私の手を握る。

 鶴丸の言葉にも千代金丸の言葉にも納得はできても心から頷くことはできなかった。

 

 

 

 

「薬研藤四郎の遺言だ」

びくりと肩が跳ねる。

 

 恨み言だろうか。それとも、非難の声だろうか。

 どう言われても受け止める。それが、本丸をなくした原因の私の責務だろう。

 背筋を正して、鶴丸を見つめると、彼もちゃん正座して手をつないだまま私を見つめている。

 

 

「ありがとう」

 え?

 恨み言ではなかったのか?

 顔に書いてあったのか、鶴丸は苦く笑った。

 

 

「主の為に戦って折れるなら本望。嬢ちゃんは優しいから気に病むかもしれねぇが。思い出させてくれてありがとう」

「薬研……」

「本当に君は自分以外の心配ばかりだな。それが君のいいところだが」

「そうだな。君も体がぼろぼろなのにさ」

「それでも。私はまだ生きているもの。だから、やり直しはできるから」

「それなら、薬研もそうさ。あいつは刀解されたから還っただけさ。暫く休むかもしれないが、やり直すだろうさ」

 薬研は、還ったんだ。堕ちなかったんだ。そのことにホッとする。

「そろそろ、帰ろう。君の体の状態を診てもらわないとな」

「戦闘は終わったさ。キミに会いたがってる刀剣は俺達だけじゃないさ」

「しっ、千代金丸、驚かせる約束だろう?」

「そうだった」

 二人はアイコンタクトしながら笑っている。

 

 

「じゃあ、帰ろう」

 

 

私の返事を待たずに、瞬きする間に景色が変わる。途端に意識が遠のく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 気が付けば、白い天井。

 あの、施設と同じ、白い、白い……。

 今までのことは夢だったのだろうかと、頭の中がぐるぐるする。

 手が強く握られ、目の前に顔のドアップが。

 覆いかぶさるように私の顔を覗き込んでいるのは、あの、鶴丸国永。強く手を握りったままベッドわきの椅子に腰かけながら眠っているのは長い青い髪の千代金丸さんだ。

「気が付いたか?」

 こくりと頷く。

 ふと気づけば、手に包帯がまかれていて。腕には管が。病院、何だろうか?

「ここは、政府の病院だ」

 怯えた表情をしたのは致し方ないと思う。だって、ずっと、歴史修正者だと決めつけられて政府には罪人扱いされていたのだから。

「大丈夫さ。君は俺たちの恩人だ。歴史修正主義者じゃないと証明されている。ゆっくり眠ってくれ」

 そういわれても、怖くて。

「すぐに良くなるさ」

 気が付いたのか強く手を握られて千代金丸が鶴丸と一緒にのぞき込んでいる。

 後ろから声がかけられる。女性の声だ。

「すみません。起きられたのですね。診察をいたしますのでしばらくお待ちくださいね」

 診察が不安ではあったが、同じ同性ということもあって素直に診察を受けた。

 白い服を着た小柄の女医さんだった。二人とも手を強く握ったままなかなか出ていかなかったが、すぐに終わりますからと、部屋から追い出されていた。強い女医さんだ。 

 診察は無事に終わり、体は前の施設での傷は順調に回復中だそうで、あちこちに包帯がまかれている。

 

「もう終わった?」

 ぴょこりとドアから顔を出したのは、今剣だった。

 

「え?」

「ええ終わりましたよ。皆さんお待たせしました。入っても大丈夫ですよ」

 皆さん?

 はてなマークを浮かべながら、ベッドから起き上がり女医越しに扉をみると。

「よかったあああ。意識が戻ったって聞いて駆け付けたんだよ」

「よかったです」

「じゃーん。来ちゃった」

 たくさんの刀剣男士たちが部屋になだれ込んできた。

「えええ?」

「みんな君を探していたんだぜ」

 最後に入ってきたのは鶴丸国永と千代金丸だ。

「どう、して」

「彼らを覚えているかい?」

「もちろん」

 彼らは、私の家に来たことのある刀剣男士だ。全員ではないけれども。かなりの人数がこの病室を埋め尽くしている。個室でよかった。

「俺が君を助けるために呼び掛けたんだ。君に助けられたことある刀剣男士は君を助けるために助力願うと。そして、あの、神域ができて、君を救うことができた」

「そうさ。あの神域は俺と鶴丸だけじゃなく、皆で作り上げたものさ」

「施設での奪還時も戦闘で助けてもらったんだぜ」

 鶴丸と千代金丸が言うと、刀剣男士たちがうなずいてたり、そうだぜっといった声が上がる。

 みんなが協力して私を助けてくれたのか。

 すべて別本丸の刀剣男士だということはわかっている。だから、それぞれ自分の審神者さんに了承をもらって、見も知らない一般人を助けに来てくれたのだ。

「ありがとう。主さんにも、感謝の意をお伝えください」

「本当に、助けてくださり、ありがとうございます」

 あの施設から助けてもらったのだ。なんてお礼を言えばいいのか。あのまま死んでしまうと覚悟していた。もう、だめだと。覚悟してた。

 彼らが私を助けてくれたのだ。

 ベッドに座りながら深々と頭を下げる。

「何言ってるの。助けてもらったのは僕のほうさ」

「そうだよ。ぼくもだよ」

 次々に彼らの口からそんな言葉が伝えられる。

 彼らが私の家に来るときには、悩み事を持った刀剣男士が多かった。彼らは主さんとうまくいったらしい。それを私のおかげだと思っているようだけれど。それは違う。私は助言はしたと思うけれど。それだけだ。それを行動に移すかどうかは、刀剣男士次第なのだ。私に感謝するのは、違う。それを行動で来た彼らこそが、すごいと思う。

「私は、何もしていません。問題を解決できたのは、あなた方の強い意志があっての賜物。私の力ではありません」

「そういう君だから、こちらに連れてきたく……」

 どこかの刀剣男士のつぶやきが聞こえた気がした。

 

「さて。じゃあ、今日はここでお開きにしよう。なんせ、起きたばかりなんだからな」

 鶴丸の一声で、解散していく。

「じゃあまた来るね」と何振りからも声がかかる。

「はい。お待ちしております」

 と、答えると安心したように彼らは本丸へ帰っていった。

 

 

 

 数日後には、政府役人からの謝罪があり、(黒服の人が鶴丸と一緒に来た)

 その時に、今後のことを告げられた。

 やはり、元の世界に戻るのは無理なのだそうだ。千代金丸はこちらの世界に来るときに、私を彼の神域に一度入れて、こちらに連れてきた。それは、神域という龍脈につながる接着剤があるからこそできることで。こちらからその龍脈に干渉はできないらしい。高次元の存在は低次元からは接触できないのだそうだ。

 

 あれから。

「君の意思を無視して連れてきたこと。すまなかった」

 鶴丸からは謝られ。

「俺のさいさ」

 千代金丸も罪悪感を感じているらしい。

「二人とも悪くありません。私が、おこがましいことを言ったせいですみません」

 ほんとに。神様に幸せになってほしい、だなんて。人間のくせに生意気すぎる。

 二振りはそれでも、色々と私の身の振り方に相談に乗ってくれて、就職先も彼らの紹介で政府所属の万屋で仕事をさせてもらえることとなった。住居や諸費は政府もちだと掛け合ってくれたのも彼らだ。

 

 あれから、数か月。

 時々、あの刀剣男士も訪ねてきては話をすることもしばしば。

 鶴丸はそういう話をするとなぜだかいい顔をしないが。千代金丸は自分のことのように、私がうれしいと感じたことを話すと、彼も嬉しそうに聞いてくれる。

「じゃあ、今度はもっといい驚きを君に届けよう」

「鶴丸はリンチャーだなあ」

 方言がよくわからないが。千代金丸はほんわかしていて。鶴丸とはいいコンビのようだ。

私も職場で話す人もできて、前の職場よりもいい人間関係が築けるようになって。これも神様のおかげかもしれない。

「二人とも、いつもありがとう」

 そういえば、

「また来るぜ」

「またやーさい」

 今まで生きてきた世界に帰れないのは、一度死にかけて諦めがついていた。だからこそ、彼らが望む、こちらの世界で一緒に生きるという選択一択になって、帰ってよかったかもしれない。そうでなければずっと悩んでいただろうから。

「うん。またね」

 手をひり二人を見送る。

 審神者でもなく、彼らの傷を治すこともできない一般人だけれど。

 話をするだけで心が軽くなるんだと、千代金丸が言っていて。鶴丸はそれは、だな、とか何とか言いながら照れくさそうにしていたっけ。

 神様の相談相手っておこがましいんだけれど。

 それでも、二人に出会えてよかったと思う。

 

 

 

 

完

 

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