遂にこの自分の番が回ってきた、どうせあるはずもない適正の為に税金をどれだけかけるのかとため息を吐きたくなる。
「次の人。」
「俺です。」
「じゃあちゃっちゃとやっちゃって。ほらあとが残ってるんだから。」
女性は焦らすように捲し立てる、まぁいるはずのない二人目の適正者を探すために駆り出されているのだ。ストレスも溜まるのだろう、心の中で嘲笑いながらここを去るのが一番良いだろう。
そう考えながら置いてあったISに手を触れた。
ウィーン
ん?機械音なんてなるはずないんだが。
「うっ…嘘!?」
「えっ?俺動かしてんのか?」
「とっとりあえず!こっち来て!」
その後、俺は小さな部屋に通された。移動最中に現状の把握やこれからの事は把握しきれては無いがきっと良くて国が保護、悪くて監禁、最悪は研究所送りだろう。
取り敢えずこうなった原因の織斑一夏は殴るなりなんなりしてこれからの事を考えるとしよう。
幸いISの事に関しては知識はある、なんせこの世界の覇権を握っているのはISだ、知っておいて損はないと思って勉強しておいたがこんなところで役に立つとは思いたく無かった。
そしてもしIS学園に入学せねばならぬ場合は寮生活を強いられるだろう。
こちらも幸いに両親は居ないし親戚もほぼ勘当状態なので問題は無い。
持ち物も纏めて今の借家を売り払い本格的に寮に住むことを決断した方がいいだろう。
だが一番困るのは卒業後だ…。
なんせ今の社会女性ならIS学園出身ってだけで「女尊男卑」を疑われ採用されない世界。そんな中で男性操縦者が生き残れる道は整備士だろうが、世界はそんなことを許さないだろう、こんな親もいない親戚も勘当状態の操りやすいモルモットを手放すはずも無い、だが安全は保証されている訳ではない。護身術ではないがなにか身を守れるものを買った方がいいかもな、剣…は邪魔になるから小型の拳銃位持ってた方がいいだろう。(まぁIS武装した奴等にはかすり傷も負わせそうにないがな)
ところでいつまで待てばいいんだ?おおよそ国の権力者かIS学園関係者か研究員の誰かだろう。
脱走も考えたが勿論監視カメラはあるだろうし、ここで逃げても後がない。
やはり待機しかないのか。
ガチャ
「待たせてすまない。私はIS学園で教師をしている織斑千冬だ。」
「同じく教師を勤めています山田真耶(やまだまや)です。」
「どうも俺は聞いてるとは思いますが。矢口月と申します。」
「突然で済まないが。君にはIS学園に入学してもらう。」
「はい。分かりました。それでいつまでにですか?」
「焦る気持ちもわかるがそう焦るな。取り敢えず暫くは国が用意したホテルで泊まって貰う。」
「そうですか。一応お聞きしますが俺の家は現在どうなっていますか?」
「まぁ分かるとは思うが報道陣でいっぱいでとても入れる状況じゃない。」
「そうですか。じゃあ騒ぎが収まり次第私物を取りに行き売り払うことにします。」
「そうか。売り払う判断は任せるが当分自宅には戻れんぞ。」
「分かってます。ではホテルに行きましょう今日はいろいろあって疲れましたから。」
「ああわかった。ホテルまで送ろう。」
(いやそれは当たり前でしょう。)
「ありがとうございます。」
外に行き置いてあった車はリムジンだった。
(中広いな…こんなに広くても無駄な気がするが。)
俺は後部座席で織斑千冬さんと山田真耶さんに向かい合う形で座った。
「すまないが催眠剤で少し眠って貰うぞ?」
「ええ。分かりました、では着き次第起こしてください。」
「ああ、任せろ。」
「先輩…」
「ああ眠ったな。」
「そうですか。しかし先輩彼は…」
「ああ、余裕が有りすぎるな。」
「そうですよね。普通取り乱したりしますし。」
「ああ、だが彼にはそれが一切ない…!。」
「常人とは少し違う面がありますね。」
「そういえば両親はいないらしいが…。」
「そうだったんですか!?でも親戚が…。」
「親戚からもほぼ勘当状態だったらしい。」
「そうですか…彼は辛い人生を歩んできたんですね。」
「…だろうな。」
(しかも矢口はIS学園に入学することになったと知っても大して取り乱しもせず普通に受け入れてた。予想してた…と考えていいだろう。)
「見てください!先輩!彼のプロフィール!!」
「ん…?なんだ?」
「ここですここ!」
「なんだと!」
そこには「記憶障害」の文字があった。
「彼は8歳の時より下の記憶がないらしいです。」
「それは…辛いな。」
(いままで私、いや私達は親がいないことをとても辛く思っていたがこれを見ると私達よりも辛い人生を送っていたのだと予想がつく。)
「彼…適正が見つからない方が幸せだったかもしれませんね。先輩。」
「あぁ…だとしたら神様は残酷だな。」
「そろそろ着きますから先輩!起こしてあげてください。」
「あぁ、分かった。おい!矢口起きろ、着くぞ」
「ん…あぁ、分かりましたすぐ起きます。」
「準備だけはしておいてくれよ。」
俺は二人の会話を盗み聞きしていた突然ポンっと渡された薬をハイそうですか。って飲むわけがない。当然飲んだフリをした。
彼女たちの会話は俺に気遣って声を小さくしているのだろうが俺は聴力と嗅覚には自信がある。問題無くとはいかないが聞き取ることは出来た。
どうやら俺はやはり記憶障害をもっていたらしいまぁ自分のことは自分が一番理解してるというし勿論知ってはいたが正確な年齢までは知らなかったため有益な情報となった。
山田真耶はおとなしくて引っ込み思案気味で他人を思いやれる人物だろう。
そして織斑千冬はどこか俺に通ずるものでもあるのか同情の目を向けている。
つまり織斑一家の間にも何かがあるのだろう。
これは織斑一夏にも関係のあることなのだろう。
そして二人とも俺に同情してくれているが全くもってどうでもいい。
親がいない子供なんて今時珍しくないし、記憶障害だって体の一部が無いよりマシといえる。
こちらからしてみれば健康自慢してくる二人にしか見えない。(まぁ自慢はしたくなるものだから二人を今は悪人とは捉えないが。)
本当に同情するなら安泰をくれ!と願いたいものだ。