アインツベルンの森は冬木市の西側、深山町から更に郊外の位置に広がっている。迷いの森として魔力を持たぬ者を惑わせ追い返し、魔力を持つ存在は結界に触れることで判別する領域。セイバーの眼下に広がる森林地帯が砦ならば、アインツベルンの居城はまさしく王が座す城である。
イングランドの黄金時代を──ギリシャ神話が語源らしい栄華を極めた一時代を──築き上げた身として、マスターの持ち城は少々手狭で綺羅びやかさは負けているが、戦時中に悠々と居を構えていられるだけ他のサーヴァントよりはマシだと思うことにしている。
むしろセイバーはこの状況を微かに楽しんでもいた。女王は当然の権利として華やかさを好んでいたが、それ以上に自分を一人の役者一つのドラマとして振る舞い、退屈から程遠い今を"是"としたのだ。生前を知る臣下なら今の心境を分かってくれるというもの、この聖杯戦争の行く末をシェイクスピアに語らせたら面白そうである。
故にサーヴァントとしてオシリスフィールに不満はない。何より──仮初めであっても再び肉体を持てたことが戦争の行末より勝る喜び。
「我がイングランドの料理は今日日あれこれ言われているが、確かに揚げ物ばかりであったからな! 昔に比べたらいい時代になったものだ!」
メイド達が運んでくる料理は長テーブルに並べられ、セイバーはあらゆる賛辞を口にしながら次々胃に収めていく。本来ならば食事をして魔力を抑える必要はないが、何事にも興味津々なセイバーは殆どの時間を現界して過ごし、食事もまたそういった面白き事の一つとして楽しんでいた。
女王という立場に対して旺盛な食欲を発揮するセイバー相手に、反対側に座るオシリスフィールは意外だという眼で彼女を見つめる。栄養補給の観点から必要な分だけ最低限摂取すると認識しているオシリスフィールに、生憎とセイバーほど食事の楽しみを理解できない。それは
「何事も楽しむ、ということに慣れておくようになマスター。人類救済を成し遂げた後には楽園が広がる、それを正しく享受出来ねば居心地が悪かろう」
アインツベルンの悲願を叶えた後に続く忠告とあれば、オシリスフィールとて楽しめる努力をしなければいけない。食事を必要最低限ではなく、余分や余裕と思えば感情と考察を挟める余地が生まれるというものだ。思考することはホムンクルスの領分である。
どこに楽しみを見出だせるかと少しだけ表情を変えながら再び口へ料理を運び始めるマスターに、セイバーはそれで良しと頷いてから自らの皿を下げるようメイドに頼む。腹が減っては戦は出来ぬ、とはこの国の言葉らしいがまさしく真理といえよう。
既に日は沈み夜の帳が下りている、昨夜のセイバーに焚き付けられたサーヴァントがそろそろ来ても良い頃合いだろう。
「──ッ!」
スープを飲んでいたオシリスフィールの身体が跳ねてスプーンを取り落とす。静かな団らんだったサロンに耳障りな音が響く。神経を一瞬だけ駆け巡った焼き付くような痛みは唐突な魔術回路の励起。意思によらない自動的な魔術の行使であり、考えられる理由としては──
「セイバー、敵襲です」
「ようやくお出ましか──腹ごなしには丁度いい」
軽い軽装だったセイバーが被服の周囲に魔力を充填させ──瞬間的に黄金の鎧を纏った戦装束になる。どこぞの英雄王に云われる悪趣味なものではなく、女性のラインと動きやすさと防御を両立させた、王権を誇示する魔力の鎧である。
オシリスフィールとセイバーはサロンから飛び出し、それらを見送ったメイド達は避難準備として同じように慌ただしく廊下へ出ていく。
「結界が割られた位置は城から東、上空──恐らくは」
「ライダーだろうな」
空から仕掛ける手段は限られているが、分かりやすいのは飛行できる宝具だろう。そうすると自然、空を往く乗り物として騎乗できるライダークラスに目星をつけられる。
テラスへ出ると月が二人を照らしていた。木々の葉に影を落とした森林地帯の向こう側には生活の営み、冬木市が一望できる。オシリスフィールが指を指す方角は結界が割られたらしい場所。セイバーがそちらへ目を凝らし──
──見つける。
月光を浴びて煌めく白銀の馬車が真っ直ぐこちらへ向かってきている。夜空を駆けるその姿は荒々しさより神々しさを感じる、天へと上る階段を進むようである。速度的には巡航といったところで即座に城まで突撃まではしないとセイバーは判断した。
刹那──セイバーはオシリスフィールを庇って城の中へ押し戻す。そして背中に受ける衝撃は黄金の鎧から火花を発生させ、城の外壁を削られ破片が飛び散り、跳弾でガラス張りの窓が割られ、銃弾の雨によって城の一角を崩された。
明らかにマスター狙いの銃撃、庇っていなければ瀕死は免れないであろう遠距離攻撃。セイバーの直感スキルによって危険を察知して避けれたものの、これは本命ではないのか、射手の方へ振り返ると馬車は高度を落として木々の影に隠れていった。
飛行という地の利を捨て、射撃という距離の利を捨て、あのサーヴァントは王であるセイバーに真正面からぶつかりに来ているのだ──
「──マスター、命令を」
女王のかけてほしい命令はオシリスフィールも理解している。だが自分はホムンクルスであり、合理的手段しか取らない。現在のあらゆる要素を計算し尽くし、なおセイバーの不確定要素を合わせた判断は──今だと伝えていた。
オシリスフィールは最善の合理とは別に、あらゆる前提をひっくり返すたった一つの不合理を判断に入れることができる。理解は出来なくとも、それを人は熱意や気合や気位などと言うのかも知れない。
「──セイバー、貴女の力を見せてください」
「了解した。我が精霊の剣、王の威光をご覧いただこうか!」
眼下の森へセイバーが飛び込んでいく。綺麗な放物線を描いて黄金の剣士が暗き闇へ吸い込まれていく。目指すは白銀の馬車、女王へ挑んできた新たなサーヴァントである。
◆◆◆
アインツベルンの森をセイバーが駆けていく。立ちふさがる木々を速度は落とさずに避け、両者が真っ直ぐ進んでぶつかる地点を目指す。
念話によってオシリスフィールは城の中へと退避したことを聞いて、いよいよ先程のサーヴァントと対策に思考の全てが移っていく。クラスはライダー、宝具はあの天を駆ける白銀の馬車とみていいだろう。わざわざ地表へと降りていったが木々を倒しながら進む気配もしない、つまり機動力を捨ててまでも一騎打ちを望んでいる。その意気や良しとセイバーにも気合が入る。
懸念としては銃撃されたこと──そう、"銃"という武器を使っているということだ。年代としてセイバーと近いかそれより未来の英雄と言えるが、そんな神秘の薄い時代の英雄があのような宝具を持っているだろうか。無論、逸話や在り方が宝具に昇華されて形を持ったタイプだとも考えられ、宝具から英霊を捉えるのは詮無きことと言えるが。
セイバーが持つ黄金の剣も同じように、生前の在り方そのものに武器としての概念を与えられている。
虚空に手を突き出してイメージする──
そして──光条を掴み取る。
セイバーが一振りして現れた剣こそエリザベス一世の宝具──『
時計塔の魔術師達によって生み出された傲慢の証。アラヤからガイアへ、霊長類が星へ接触するために作り出された人造人間。騎士王をモチーフにしたホムンクルスにして、精霊として星の触覚の力を持たせられた──妖精女王エリザベス一世の剣である。
「──さて、待たせたな」
黄金の剣の切っ先を向けた先には白銀の馬車が停まっており、マスターとサーヴァントらしい一組の男女が乗っていた。男はもう青年といっていいが、女はまだうら若い少女であり、どちらが相対すべき敵なのかと逡巡し──少女の方が先に降りてセイバーの前へ歩みを進める。
少女の柔和な顔つきは可愛らしくその銀髪はこの世ならざる輝きを放っている。十代前半といったところだが、威風堂々とした態度はセイバーと変わらない。普段は優しさを与えているだろう瞳からは、やはり英霊に相応しい力強い意志を感じる。
「お初にお目にかかります、クイーンエリザベス。この度はライダーのクラスで現界させていただきました、私めのことはアンヌとお呼びください」
「ほう。貴様──
恭しい礼を尽くしたお辞儀は社交界かなにかといった風で、彼女が教養のある地位に居た女性だと示していた。加えて少女が奏でる流暢なフランス語はドーヴァーを挟んだ憎き敵国を思い出させる響きをしている。
アンヌという名前からして彼女がフランスに名を残す英霊であることは明確であり、先程の銃撃もマスケット銃であるならば年代もセイバーと近い。フランス由来の英霊、マスケット銃と来て名前が"アンヌ"ならば──該当する人物は最早一人しかあり得ない。
「ええ、私こそルイ十三世の正妻にしてフランス王妃──アンヌ・ドートリッシュ」
月光を浴びてキラキラ光る白銀の髪と競い合うように、身に纏っている美しい白いドレスを一つまみし、
「そしてこれより先は──無礼講でいかせてもらうわ」
ライダーが繰るマスケット銃がばらばらと規則正しく落下し、無警戒なセイバーの頭を狙って全弾発射された。
「──はッ! パリジェンヌは不意打ちも上等かね!?」
ライダーの不意打ちは意表を突いたものだが、結果としてはセイバーを仕留めることはできなかった。分かりやすく急所狙いだったこともあり、避けきれないものだけを剣で弾き、遅れて発射された本命は魔力放出で無理矢理にかき消す。
「あら、無礼講の意味が分からなかったかしら。──今は王妃と女王ではなく、マスターに仕えるサーヴァントだもの」
反撃とばかりに踏み込んで距離を詰めると、ライダーは手に持ったマスケット銃を発射し、くるりくるりと衝撃を回転運動へと取り入れて回避と攻撃を同時に行う。セイバーも惑わされないようにと左右へ揺れながら剣戟を差し込んでいくが、ライダーは絶対に近寄ってこずに一定感覚を開け続けて逃げる。移動と攻撃が同じならば一手遅れるのは道理であり、その点をセイバーは鎧と直感による防御で補っている。
昨夜のアーチャーよりよほど『弓兵』らしい戦闘方法であるライダーは、宙に浮かしたマスケット銃によって射線を気にする必要なくセイバーを追い立てる。木々を盾に利用しようとも回り込んで配置されている長銃が火を吹いてくる。そして追いついたと思えばバレエを想起させるようにくるりくるりと、セイバーから見ても可憐に可愛らしく踊って距離を離してくる。
「貴様はライダーだろう、なのにアーチャーの真似事が得意と見える。馬車は使わないのか」
挑発の声が届いているかはセイバーにも分からなかった。適当な近くの木に隠れ、こ
ちらに射線が通っていないか意識しながら考える。
とにかく距離を稼がれ続けてしまって、これ以上移動するとなれば相応の対処と作戦が必要になってしまう。セイバーは『剣士』のクラスとして召喚されているが、技量としてはそこまでのものを持たない。攻め手に欠けているとなれば、そろそろ己の本領を発揮する頃合いだ。
ライダーは見た目の可愛らしさからは想像できないが、これまでのやり取りから分かる通りに勝ち気な性分故こういった応酬には反応しやすかった。ましてや真正面からぶつかり合っているセイバーが、因縁のイングランドそのものだからという理由も大きい。
「貴女には真名解放するまでもないわ。そちらこそ、私のマスターを狙わないのかしら?」
遠く馬車から身を乗り出してこちらを見守っているのはライダーのマスターであろう青年だ。担い手が離れているせいか降り立った位置に停車したままで、破壊は困難でもセイバーが今すぐ乗り込んでマスターを先に殺すことも可能だろう。
だが──それは違う。それは昨夜、イングランド女王として受けて立つと宣言したのだからあり得ない手段である。
「──私の城まで乗り込んできて名乗りあげた者に、そのような真似はせんさ。もちろん戦争ならばあらゆる勝ち筋を肯定するが、拘りたい戦いというものもある。貴様は、正々堂々と倒す」
エリザベス一世はただ理想に生きた女王ではない。アルマダの海戦を筆頭に私掠船を公認したりと、血生臭さも併せ持つ戦争に勝ってきた女王だ。
「良いわね──セイバー。そういう生き方は好きよ」
小娘がと悪態をついて黄金の鎧を纏った女王は、隠れていた木陰から出て再び剣を構える。正面で相対するライダー。距離にして十数メートル、一息で詰められる距離だが、ライダーは更に後ろへと下がるだろう。その後退速度と間隔を計算に入れて──
『──セイバー』
『どうしたマスター、何かあったか』
『また新たなサーヴァントが侵入しました。反応はアーチャー、方角はライダーとほぼ同じです』
『──分かった』
念話によるオシリスフィールからの報告はセイバーの本気を引き出すこととなった。サーヴァントが複数となればライダーばかりにかまけている場合ではない。
先程までの戦いは謂わば小手試し、本気を出すとなればセイバーの隠し玉である──魔力放出を全開にする。『剣士』のクラスは最有のサーヴァントとして優良ステータスを求められるが、残念ながら人工妖精兼ホムンクルスのセイバーにそれほどの膂力は無い。どれだけ性能を高めても良くて人並みであったが──妖精女王と呼ばれ英霊の座に登録された力を解放すれば、ステータスの数値はまさしくセイバーに相応しいそれとなる。
星のバックアップとして周囲からマナを吸い上げてセイバーを通過し、妖精女王を形作る魔力放出の奔流として身体と剣へ。魔力放出のスキルは
尋常ではない魔力にライダーは相手が本気を出したことを悟り、だがしかし悠然とそれを撃ち抜こうと構える。少女然したサーヴァント二人のじゃれ合いから本気の殺り合いへ──人外の戦闘へと移り変わる。
「──では」
トップスピードは音を置き去りにした──それほどの速さ。剣を後ろへジェットの要領で飛び出したセイバーは上段から切りかかり、圧倒的な速度に反応が遅れたライダーはマスケット銃で受け止め、数瞬の拮抗の内で得物が破壊されると同時に片手で近距離から銃撃。ライダーは仰け反った眼前の敵から勢いを利用して後ろへ退くが、身体を横回転させる中で隙を見逃さないセイバーではない。黄金の剣を容赦なく突き込み、これももう片手で防がれるが、セイバーの踏み込みの方が遥かに先を行き──手甲と柄で脇腹を殴りつけた。
ごろごろと転がるライダーを追撃するセイバー。中距離未満では勝機が無いと見たライダーは離れようとトラップのようにマスケット銃を何丁も浮かべ、僅かな時間を願って後ろへと飛ぶが、本気を出したセイバーの魔力は津波のような勢いである。
元より技量などそれほど持ち合わせない剣技、ならば押すしかない戦法故に銃弾は魔力放出の波で押し流し、セイバーは必死に後退しようとするライダーへ突貫する。その黄金の剣がついに、ライダーの慎ましい胸を貫く──
「──なに?」
「──私ね、
恥ずかしげに、さも誇らしげに打ち明けられた言葉の通り、『
直感で頭を反らしてなんとか避けるが、数発が額から皮膚を掠り取っていった。じくじくと痛みが生まれ、どろりと熱い赤い血が流れ出る。
距離を離したライダーも脇腹の殴打が効いているのか、庇いながら立ち上がってくる。状況としては痛み分けに近い。
だが──戦況分析としてはセイバーに分が悪い、というより不可解が発生していた。確かに『
無論、ライダー相手に本来の切れ味は出せないが──無効化されるとはどういうことか。既に英霊に召し上げられた身体故に、
考えられるは──剣と同じ処女を守り司る者の加護を受けている場合である。そうした場合、"加護を受けている処女を守る"概念が物理現象を凌駕するだろう。
不可解だが現実は目の前で広がっていることに変わりない。アーチャーが領域に侵入していることも対応しなければいけないのだ。セイバーの表情から余裕というものが消えていく。
◆◆◆
時折聞こえてくる銃撃音はライダーのものであるとオシリスフィールは判断していた。昨夜見たアーチャーが遠距離攻撃する機会はついぞ無かったが、剣を振るっていたりと英雄的な戦士としての色合いが強い。だとしたら銃のような兵器ではなく、テンプレートに弓の宝具を持っているはずである。
ライダーに無理やり割られた結界のせいで境界が緩み、その隙間を縫って入り込んだのだろう。誰がどこに居るかは分からないが、誰が入ったかは主であるオシリスフィールに把握できる。
「セイバー達を視認、アーチャーを警戒」
ライダー来襲に避難でバタバタしていたメイド達は、アーチャーが来たとあっては休んでなど居られず、オシリスフィールの指示で城内から外への警戒にあたっている。どのような宝具を持つにせよ屋内が安全なのは変わりないが、セイバーやライダーとかち合わずに真っ直ぐこちらへ向かう可能性もある。
あくまで低い確率だが殺し合いとあってはどのような非道がまかり通るか。真名こそ明かさなかったアーチャーだが、あれはあれで所見では英雄としての挟持を持ち合わせている、と見ていた。
オシリスフィールは人間の機微を理解できなくとも、状況から読み取って勘定に入れることが可能だ。かつてユスティーツァを越えようとして挑み、挫折してアインツベルンから去った錬金術師の一人は、その後に同じホムンクルスを研究するアトラス院に入り、その魔術師の子孫が出戻りとしてアインツベルンに再び組み込まれ、生み出されたのがドイツとエジプトのハイブリッドホムンクルス──オシリスフィールである。
アインツベルンの第三魔法の悲願、アトラス院の滅びを回避する命題、その回答として臨んだこの聖杯戦争と人類救済を成し遂げるであろうセイバー。
──余分が過ぎた。
慣れない戦場のせいか少々無駄に思考を加速させてしまっていた。ホムンクルスとして無駄を理解できない感性が己の行いを戒める。
「誰か水をお願いします──誰か──誰も居ないのですか?」
作戦室として用意した部屋の外、廊下にはメイドが誰か常に一人は控えているはずなのだが──反応がない。警戒を指示をしているのは自分であり、割り振った関係で人数が足りなくなったとも考えづらい。そもそもそんなミスは犯さず、メイド達は同じホムンクルスで無駄が無い。最初に命令されている主への奉仕が疎かになることはあり得ない。
どういうことかと扉をそっと開くと──誰も居ない。ライダー襲来と同じように城内に慌ただしい空気を感じるが、一方でここには誰一人としてメイドが配置されていない。
廊下へ完全に出ると、背後からよく通る声で話しかけられた。
「おお、マスター」
「どうしたのですか、セイバー」
廊下の端からやって来るセイバーが見えた。テラスでのやり取り通りライダーと戦闘中だったはずが、一時退散してきたということか。ライダーはそれほど難敵だったか、それとも懸念材料であるアーチャーの存在故か。
オシリスフィールの一瞬の思考を知ってか知らずかセイバーが窓の外に広がる森に目線を移す。
それにしては静かだと素人目線でオシリスフィールは眼下の戦場を眺める。先程までの銃撃音はぱったりと止んでしまったようである。
「アーチャーが現れてな、乱戦になったが」
「一旦預けてきた、というこ──ッ!?」
──何故か、頭が転がっていた。
視線を外界へ誘導されて──気付かなかったが──メイドの頭が──窓に反射した廊下の端に写り込み──隣に立ったセイバーが剣を振り上げ──このままではオシリスフィールの首が──両断される──
──急激にフル回転させた高速思考内で──不可解と疑惑が唸りを上げ──魔術回路を起動させていた──ッ!
──
三回だけの絶対命令権、この世ならざるサーヴァントを律するマスターの証。その内の一つが今、主人の危機を従者に伝えて、ピンチを凌ぐためのデッドラインとして機能した。赤い入れ墨が光り輝き、一画を失うと同時に"助けに来て欲しい"という命令を強制実行させ、距離を超えてセイバーを瞬間移動させた。
主人殺しをしようとしたセイバーと主人を助けに来たセイバーが剣をぶつけ合い、火花を散らした一撃は
オシリスフィールがつい寸前までセイバーだと思っていた
空中でセイバーの姿を消し、更に気配すら掻き消えて、まさに溶けてしまったかのようにどこにも残滓を追えなくなる。これでは結界にも引っかからないだろう。
「待て──ッ!」
「セイバー……追わなくていいです」
マスターの意向とあってはセイバーも深追いをすることなどできない。無論、暗殺者など正面から堂々と戦うなどあり得ないので、結局は思い通りの戦場とはいかないことは目に見えている。
オシリスフィールは深く息を吐いて身体を落ち着かせる。緊張や興奮などとは無縁だが、高速思考させた影響で心臓の鼓動が早まっている。先程までの冷静さを取り戻しながら思考は既に敵対者へと向けている。
恐らくはアサシン、アーチャーと誤認したのは結界を通る時に何らかの方法で"アーチャーに変身していた"からだろう。魔力の質からその人物そっくりに変身し、敵サーヴァントが二人居ると誤認させた。そうでなければセイバーが勝手に戦線離脱したように見えてしまう。
最初から姿を消していたならばもっと暗殺も容易いはずなのに、わざわざセイバーに変身していたのは、油断させる以上に何かの目的があったのか。アサシンの犯行が露見したのはメイドを斬り殺していたからで、ホムンクルス、アインツベルンに関係することだろうか。
これ以上の考察はできない、として打ち切る。破られた窓から冷たい外気が流れ込んでくる。騒ぎを聞きつけたメイド達が駆けつけてくる足音がしている。
「……さっきのは、いい判断だった」
「ありがとうございます、セイバー」
二画に減ってしまっている令呪を撫でながら、セイバーからの褒め言葉を受け取る。妥当なタイミングで適切な使用方法だった、三回きりとしては限りなくベストだったと評価し、そして次はこのような失態が無いようにと気を引き締める。始まりの御三家として、特級のホムンクルスとして、どこか傲慢があったのかもしれないと内省。
アインツベルンの森の冷えた風が、熱くなっていたオシリスフィールの身体を冷やしていった。
──聖杯戦争二日目の夜、既に状況は動き出している。
マスター紹介(ステータス更新)
◆オシリスフィール・フォン・アインツベルン
セイバーのマスター。
アインツベルンとアトラス院の合作ハイブリッドホムンクルス。
肌が浅黒かったり中性的な容姿は純正ではないため。
残り令呪:二画(ライダーと戦闘中のセイバーを呼び戻す)
サーヴァント紹介(ステータス更新)
◆ライダー
太陽王の母。ルイ十三世の后、アンヌ・ドートリッシュ。
◆セイバー
筋力C+ 耐久C+ 俊敏C+ 魔力A+ 幸運C 宝具A+
クラススキル
・対魔力:A
・騎乗:B
保有スキル
・人工精霊:A
・魔力放出:EX
・カリスマ:B
・直感:B