新約 ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか?   作:虚無の魔術師

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だいぶ期間が空きましたね…………申し訳ないです。


レギオン

「─────これで、3匹ッ!」

 

飛び掛かるモンスターを長剣で切り捨てる。氷のように透き通った剣は流れる雫のように緩やかに、モンスターの胴体を軽く通った。

 

 

スパァッ!! と。

分断されたモンスターの体から魔石が落ちる、しかしわざわざ拾うつもりはない。通常なら手に取って回収するが、今はそうしてる暇すらないのだ。

 

 

モンスターがこの街の何処に散らばってる。だからこそ早く仕留めなければならない。魔石に拘っていては好機を逃してしまう。

 

しかし離れた方から歓声が響いた。誰かが他のモンスターを倒したのだろう。興味は無かったが、歓声に混じった声の内容が耳に入ってきた。

 

 

「…………アイズか」

 

自分よりも格上の少女、そしていずれは越えるべき壁。彼女の活躍を聞いた直後、キョウは自然と落ち着いた様子だった。彼女が戦ってるならさほど心配はいらないだろうと。

 

 

 

 

 

───同時に、アイズを妬ましく思った。

 

 

 

もし彼女よりも強ければ──────、

 

 

 

苛立たしげに舌打ちを吐き捨て、彼は考えを改める。

違う、嫉妬してるのではない。僅かにそれがあるのは否定しないが、自分の本心とは正確ではない。彼の心にあるのは、強さへの貪欲さだ。

 

 

(…………この場で考えることがそれか。違うだろ、モンスターを倒して人々を助けるのが重要だろうが!)

 

 

奮い立たせるように自分に言い聞かせる。揺れる心を何とかして押さえた。そして人々を守る為にキョウはモンスターたちを相手していた。

 

 

 

 

 

 

 

そしてそれから数十分。

キョウは壁に寄りかかりながら歩いていた。尋常じゃない程に疲労している、それは沢山のモンスターたちを相手にしていたからだ。

 

 

「……………チッ、まだこの程度かよ」

 

キョウは顔に飛んだ返り血を手の甲で拭い、自らの手を見た。僅かに身震いする手は色白くなりかけている。

 

 

全てを凍てつかせる冷気をキョウは完全に制御できていない。十五分の戦闘は可能だがそれ以上の行使は出来なかった。かつてそうした結果、六日間も凍傷と神経系統の麻痺で動けなかったのだ。

 

現に、彼の表皮温度は普段の体温を軽く下回っている。氷水に触れたような鋭い冷たさが空気に染み渡ろうとしていた。

 

 

そんな中、目の前に誰かが降り立った。建物の屋上を渡って来たのだろう、軽々とした様子の人物────アイズを見たキョウは呼吸を整え、口を開いた。

 

 

「………………アイズか、もうモンスターたちは倒したのか」

「うん、九体は倒したけど最後はキョウに取られた」

「そっか、そりゃあ自慢できるな。まぁ偉そうには言えないが」

 

軽口にアイズは顔を変えなかった。本当に喜怒哀楽といった感情が無いように見えてしまうが、キョウはそんな事は無いだろうと改めて断ずる。

 

 

 

「……………なぁ、気づいたか?」

「うん、なんとなく」

 

二人は何を言いたいのか理解していたのだろう。キョウは片手の指で数を示し、アイズは「六、七体」と呟いた。

 

 

そして二人は互いを見合った。

 

 

「《ガネーシャ・ファミリア》が逃がしたのは十匹近くだ。だが俺たちが潰したモンスターの数は、最低でも十匹以上いってる」

「…………冒険者の皆はまだ戦ってる。他にも逃がしてたのかも、けど─────」

 

何も言わなくなったアイズの視線の先を見つめる。そこにあるのは巨大な塔、バベルの入り口だった。彼女が示す意味を理解したキョウは、思わずといった様子で顔をしかめた。

 

 

 

「じゃあなんだ?迷宮から出てきたとでも言うのか?ギルドがいるのにそんな真似する奴がいるかよ」

 

自分から言い出してすぐに口を閉ざした。可能性としては有り得る話だ。むしろそれ以外の事を言われても納得出来る訳がない。

 

 

 

 

(……………まさか)

 

嫌な可能性が脳裏に浮かんだ。その妄想を打ち払うようにキョウは髪をかきむしる。それでも脳裏の内側に過ってくる。

 

 

────自分達が倒したモンスターは、誰かが生み出したのでは?、と。

 

 

 

 

 

その後、アイズと共にティオナ達と合流した。ティオナからは途中でどっか行ってたよねー!とか言われ、必死に誤魔化す事しか出来なかった。元気そうに笑ってるアマゾネスの少女は怒ってるのかよく分からず、本当に困る。

 

 

因みにレフィーヤからは凄い睨まれた。アイズと一緒にいたのがそこまで気に入らないのか。

 

 

「なぁ」

「…………何ですか」

 

ティオナとティオネがアイズといる今を狙い、率直にキョウは声をかけてみた。彼女はあからさまに不機嫌そうな声音だったが、キチンとした性格らしくちゃんと聞いてくれる。

 

 

 

「前から思ったんだが…………お前、アイズの事好きなんだろ」

 

図星だったのだろう。そんな事を言われたレフィーヤは呆然とした後、すぐさま顔を真っ赤にして訂正してきた。

 

 

「な、なななな何を言ってるんですか!だ、第一アイズさんが好きと言っても私は────」

 

「痛い痛い、本気で痛いから」

 

ドゴッ!ドゴッ! と肘で殴られた。エルフの女の子とはいってもLv差がある以上、ダメージはあるにはある。平静を保ちながらもキョウは素直に訴え掛ける。

 

 

「まー、俺にはとやかく言うつもりもない。ただ羨ましく思うだけだ」

「………羨ましい?」

「どんなに差があっても追いつこうとするお前やベルが。端から見れば無理だと言われるのは決まってるのに、それでも諦めないお前らが」

 

話の途中でキョウは別の方を見ていた。視線の先をレフィーヤが凝視すると、自分が憧れを抱く剣姫がそこにいる。どういうことか聞こうとして彼女は彼の口にした言葉を耳にした。

 

 

 

「俺は諦めた。…………“オレ”が無理だと思ったからな」

「…………?」

 

意味ありげな言い方にレフィーヤは顔をしかめる。どういうことかと聞き返そうとしたが、それは無意味だった。

 

 

 

 

────ドクンッ!

 

心臓が大きく鼓動する。他ならぬキョウは思わず息を止めるが、それだけでは終わらない。

 

 

 

 

 

「──────見事だ、人間ども」

 

 

パンパン、と乾いた音が響く。拍手の音と気づくのにはそんなに掛からなかった。歓声に湧いてた広場を静寂へ、すぐに殺気が溢れる戦場へと切り替える。

 

発言からしても一般人とは言えない。それにこの場にいた冒険者たちはすぐに理解できた。

 

 

「我が血を与えた傀儡をこうも殲滅してみせるとは、称賛しよう。そして呆れよう─────数百年経っても未だこの程度か、とな」

 

 

生理的に吐き気を催す程の威圧感、このオラリア最強を遥かに越えるであろう強大かつどす黒いオーラ。

 

目の前に現れた男は人間でも無ければモンスターでもない。無数の戦場を越えてきた神と相対したような感覚、常人であれば恐怖のあまりに失神しかねないが、そうならなかったのは彼等が熟練の冒険者であったから。

 

 

その場にいたキョウは例外とは言え、すぐに気づけた。全身の血が激しく沸騰していたのだ。熱を帯びた溶岩のように、同時に全身を冷気が帯び始める。

 

 

 

自身の『滅魔』が反応した。この事実を理解できないほど温くはない。今まで感じたことの無い疼きを胸に抱くキョウ・レギオンは改めて目の前の存在を見る。

 

 

 

「お前は………」

 

「始めましてだな、今代の『滅魔』。我等と我等の神を地の底へと落とした忌まわしき一族の末裔よ。

 

 

 

 

 

私は『守護』のフレウルス、『九神魔王』の一柱。お前たちに挨拶をしに来た。光栄に思え、人間ども」

 

ついに、この時が来た。一人は息を呑み、一人はニヤリと禍々しい笑みを見せる。

 

 

何百年も継承されてきた魔王殺しの一族と何百年も生きてきた魔王の一人。本来なら一生起こることがない筈であろう奇跡、いや悲劇が始まりを迎えた。

 

 

 

 

 

「……………魔王」

 

キョウは静かに呟き、広場に木霊する。『魔王』、地上にいる神々すら怖れる名を口にした男に激しい敵意が殺到する。

 

 

その男は、金色の髪を腰まで伸ばしていた。光に照らされたような艶のある金髪は何故か既視感がある。その場の全員が意識のままに誰かを見た。

 

 

「………?」

 

アイズは一人だけ首を傾げる。そう、何故か彼女と雰囲気が似ていた。知り合い程度のキョウがこのような判断が出来る以上、《ロキ・ファミリア》の面々の抱く気持ちも同じだろう。

 

 

 

 

(この場にいるのは第一級冒険者三人、後方支援出来るのはレフィーヤ一人、そして俺。この面々で勝てるか?何とか倒せるか?)

 

 

冷静に頭を回し状況を解析しながら情報をまとめあげる。決死に策を考え抜こうとしていた途端、それを糾弾する者がいた。

 

 

他ならぬ、自分自身。いや、“もう一人の自分”だ。

 

 

(倒す?何ふざけた事を考えてる!?そう簡単に倒せるなら数百年、数千年も昔から魔王は滅ぼせてる!)

 

自分が抱いた甘い考えを真っ向から否定した。魔王たちの事など、彼等を滅ぼす為のレギオンであるキョウがよく分かっているのだ。

 

 

現状を変える為に、キョウは行動を起こすことにした。目の前の魔王を見詰め、あることを聞く。

 

 

「────今回の騒動も、お前が黒幕という訳か?」

「人に飼われ、ましてや神に使われるモンスターなどに用はない。私は力を取り戻しに来ただけに過ぎない…………神の力を有する人を喰らうことでな」

 

 

難しい言い回しを理解できる者はあまりにも少なかった。しかしこの場にいる者の大半────冒険者達は青ざめた。

 

 

「まさか、冒険者(私たち)を!?」

「聡いな。所詮人間とはいえ神の恩恵を宿してる身、封印により縛られた我等の力を回復させるにはな」

「………アンタ、一体何人殺したの……!?」

「迷宮で十人地上で十人、合計二十人だ。全員大した力が無かった」

 

平然とティオナの問いに返した。淡々とどんな人間を殺したのかを説明する目の前の男に冒険者たちは言葉を失い、怒りを露にするしかなかった。

 

 

「気にする事では無いだろう、世界中では一日に百人が死ぬ。それに比べれば実に易い話だ、お前たちもモンスターを何百も何千も殺してるであろう?」

「………!」

「命に優劣は無い、それは真理だ。だから私も命に大差はつけない。モンスターも人も平等に生かし殺す、それが私という存在だ」

 

 

これが『魔王』。

数百、数千年も生きてきた怪物。僅かにしか生きていないアイズ達とは考え方が根本的に違う。

 

この存在は不味い、放置すれば多くの人を殺す。冒険者ではない一般人、老人や赤子だろうと、顔色変えずに殺戮を実行する筈だ。

 

 

 

 

(アイツは力を取り戻しに、と言ってた)

 

キョウは冷静に推察していた。どうすることで『魔王』という現状の脅威を突破できるかと。

 

 

(つまり本来の力が消えているという訳だ。それならチャンスは───いや、分からない!どのくらいの強さにまで弱っているんだ!?)

 

それでも確信的な所までは進めない。魔王を殺したのは自分の祖先、オールド・レギオンのみ。それ以降のレギオンは誰一人として魔王を殺すことが出来ずに死んでいる。

 

 

その事実が魔王の強さを証明していたのだ。全てのレギオンが死んだ、それならオラリアに向かった自分の父も─────

 

 

 

「安心するといい、今回は挨拶だ。お前たちに僅かにも興味がある訳だしな」

 

 

殺気立つ冒険者達に向けて、フレウルスは答えた。チラリとアイズ、そしてキョウ達を目に写していく。一通り観察を終え、興味を失ったように意識を外す。

 

 

「今は手出しはしない、この程度で相手するのも多勢には少し骨が折れる。一部の神どもはとっくに私に気づいてるかもしれないからな」

 

 

一歩後ろに退いたことで全員が安心した。口調からしてフレウルスは本気で殺そうなどといった考えは見られない。このまま何処かへと立ち去るのだろう。

 

 

 

 

だが、違った。そもそも、魔王を常識で捉えた考え方で納めるのが間違いだったのだ。

 

 

 

「…………まずは、その前に────」

 

フレウルスが片腕を持ち上げる。ボロボロの布切れから見えたのは刀身の細い剣────レイピアだった。しかしアイズたちように鍛冶師が鍛えた物ではなく、道中の武器屋で売られてるような量産品。

 

 

そんな軽物を、粗品を、フレウルスは静かに突きつける。次に死ぬ人間を食事を選び出すような、軽々しさで。

 

 

 

「殺せる者だけでも殺しておこうか───」

 

その先にいたのは、身構えているキョウ…………厳密にはその隣、レフィーヤだった。レイピアを鋭く構える姿に何かに気づいたアイズたちが飛び出すが──────その動きが止まってしまう。ある言葉を聞いてしまったから。

 

 

 

 

 

「───【起動せよ(テンペスト)】」

 

アイズたちだけではなく、レフィーヤも動きを止めて目を見開いた。キョウは慌てて叫び、フレウルスはニヤリと笑う。

 

 

レイピアから放たれたのは、一筋の風だった。剣姫が纏い、放つような大きな風ではなく、人の肌を優しく撫でるような小さな風。しかし一本の剣先へと凝縮されたそれは、彼女が使う魔法を何倍も越えていた。

 

 

一気に数メートルもの距離を詰めた風が迫る。勢いを殺すこと無く、動くのが遅れたレフィーヤの胸部、より正確には心臓を────

 

 

 

「………………レフィーヤッ!」

 

大きな声と共に肩に強い衝撃があった。

思わず唖然としていたが、横から突き飛ばされたとレフィーヤが判断したのは地面に尻餅をついた時だった。しかしレフィーヤも同時に見てしまう。

 

 

 

レフィーヤを突き飛ばすことで、風の刃の前へと出てしまった青年の姿を。彼は自分自身疑問を抱いたような顔をしていたが、仕方ないといった笑みを隠さなかった。そして─────

 

 

 

 

 

 

 

トスッ!

 

風の刃はキョウの肩を貫いた。射線上にある建物も同じように削りポッカリとした穴を開ける。本来なら骨がある筈だが、それすらも穿ったのだろう。

 

 

 

「が、ァぁぁぁああァァッ!?」

 

尋常じゃない激痛にキョウは悲鳴をあげた。傷口の血管が黒く浮かび上がりおぞましいものへと変じていく。しかしそれを押さえるようにビキビキと身体から響いている。

 

────先程の攻撃よりも、自らの身体に苦しめられてるという印象があった。

 

 

「「キョウ!?」」

「………っ!」

「…………………おや」

 

ティオナとティオネの二人は彼の名を叫び、アイズは思わず息を呑む。攻撃したフレウルスは少し唖然としていたが、すぐに我を取り戻した。

 

 

その上で、何故か困ったような顔を浮かべる。

 

 

「これは…………やってしまったな。つい殺しかけた、滅魔(レギオン)はまだまだ必要だと言うのに」

 

そう言いながら、フレウルスはレイピアを構え直す。大量の出血をするキョウを何とかしようとするレフィーヤに向けて。

 

 

 

「それ以上は見過ごせないわ!」

「こんのぉ!!」

「………っ!」

 

「おっと」

 

好き勝手する魔王を見逃せないアイズ達だったが、レイピアの矛先がスッと別の方に向けられた。それを目にした彼女たちの動きは止まる。

 

 

何故なら人々が避難していると思われる場所に向けられていたのだ。微弱な風を帯びた状態の、すぐにでも建物を貫通する破壊の旋風を引き起こす剣先が。

 

 

「お前たちを相手にするのも悪くないが……………良いのか?この程度の距離なら逃げ惑っている人間どもに攻撃する事など造作にも無いぞ?」

「………何をしたいの?貴方は」

「挨拶と言ったろう、そして我等のする事は変わらん」

 

 

直後、フレウルスはレイピアから嵐の刃を射出した。荒れ狂う一撃は近くの建物の壁を削り、辺りに甚大な被害を残していく。

 

 

 

「迷宮に封じられし我等が神の復活、その時は刻々と迫り来る」

 

 

魔王を中心とした崩落の中で、凛とした声が響き渡る。フレウルスは風に耐えきれずに壊れたレイピアの残骸を捨て、アイズを瞳に捉える。

 

 

美形の顔に笑みが彫り刻まれる。それを目にして顔をしかめるアイズに、彼は両手を大きく広げる。まるで歓迎するかのように宣告しながら。

 

 

「十柱なる魔王の降臨により、近い内に果たされん。精々醜く足掻き、そして絶望するがいい」

 

 

瓦礫の雨の中でフレウルスは最後にそう残した。真上からの崩落により、魔王の姿を消失させた。凄まじいスピードで逃げたのかも分からない、そう思わせる動きだった。

 

 

 

 

 

「キョウさん!?大丈夫ですか!?」

 

慌てた様子で叫ぶレフィーヤにティオナとティオネが駆け寄る。肩に開いた穴から血が溢れて服や地面を汚していた。キョウ自身も苦しそうに呻き、声をあげられずにいる。

 

 

 

アイズは呆然と魔王の消えた場所を見つめていた。理由は無いが、彼女はフレウルスと名乗る魔王に違和感を抱いていた。

 

 

自分の事を知る誰か、少なくともそれは確かだ。彼が最後に向けて、何かの感情が籠った眼からして。

 

 

 

こうして、『怪物祭』は終わりを迎えた。表面上はモンスター達の暴走だけで終わり、復活した魔王による傷痕が残った状態で。




次回ぐらいにキョウさんの紹介を載せます。


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