新約 ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか?   作:虚無の魔術師

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平穏は続くばかり

ギルドによる『魔王復活』の話は、世界中に広まった。同時に様々な混乱が巻き起こる。それは世界規模によるもので、かつての事件を大きく上回っていたりもする。

 

 

太古から魔王の恐ろしさを語り継ぐ者達は、いずれ来たる脅威に備えを始める。鍛えることで大切な人を守ろうとする者もいれば、諦めて静かに過ごそうという者もいる。

 

 

 

預言者を騙る者は世界の終わりを叫ぶ。いずれ複数の魔王が地上へと現れ、世界を混沌に呑み込むと。

 

 

 

ある国にいる軍神(脳筋)は『フハハハハハ!魔王が何するものか!オラリアへの侵攻は変わらんぞー!』と言い、戦争の準備を行う。自身の国の配下達を困らせる形で。

 

 

 

 

一方、その騒ぎの中心であるオラリアの状況は───。

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ皆見物だよー!ウチの商品を買わないかーい!」

 

「誰かー!誰かー!俺の派閥(ファミリア)に入ってくれる子はいないかなー!?」

 

「………武器の整備、何でもします」

 

────大して変わってはないかった。

 

少しばかり喧騒が大きいだけで、人々は余裕というものを実感している。それは目先の脅威に怯えているとは全くもって思えない。

 

 

 

 

「────」

 

目の前に広がる景色に、知人達からは兎の印象があると言われる少年 ベル・クラネルは呆然としていた。

 

 

 

『魔王復活』、オラリアだけではなく世界中に知らされたその事実。それから数日もする今、オラリアにいる人々は恐れる素振りすらない。

 

 

 

ベルも祖父からも魔王の恐ろしさを伝えられてきた。数々の英雄達ですら圧倒する最強の存在達。もし彼等が封印されていなければ、この世界は魔王によって滅ぼされていたと。

 

 

当時のベルは不思議そうにしていたが、祖父は真剣な顔で言っていた。近い頃に魔王達が目覚めるかもれない、と。冗談とは思えない顔だったが、それでも有り得ない。そう思ってた矢先、本当にそうなるとは思ってもいなかった。

 

だからこそ、

 

 

 

「…………そんな凄い人が復活したのに、何でこんなに変わらないんだろう?」

「実感が無いのだからな。仕方ないと言えばそうだろう」

 

独りでに呟いていたベルに、横から

 

 

「ミアハ様!?ど、どうも!」

「うむ、そう畏まらなくても良いぞ。ほら、ポーションなどいるか?」

 

慌てて頭を下げるベルについでと言わんばかりにポーションを渡すミアハ。無論、タダで。

 

それを知っている眷属の二人、特にナァーザはまた不満そうにして、カイは困ったように笑うしか出来ないのを分かっているのだろうか。…………この事からして、絶対に気づいてないと思う。

 

 

「あの………さっきの話って、どう意味ですか?」

「……………」

 

 

 

「突然、実在すら確かではない存在が現れた。太古から封印されてた彼等は世界を滅ぼそうとしている、危険だから気をつけてください…………などと言われて、子供達が納得するだろうか」

 

神であるミアハの言うことが正しいのだろう。

数十年程の寿命である人間達からすれば、数えるのも億劫なほど昔から存在してるもの。そんなものが突然現れたと言われても、実感が沸く筈がない。

 

 

 

「だが、すぐに理解するとは思うぞ」

「………?」

「魔王達の目的は全ての生き物の殲滅でもあるらしい。それなら、我等神や子供達も敵にされるのは道理だからな」

 

普段から穏和なミアハとは比べ物にならないくらい、敵意に満ちていた。よく分からなかったベルだったが、並々ならぬ因縁があるのかも、と半ば勢いに任せて自身を納得させる。

 

 

 

しかし、ベルはやはり気づけなかった。

 

 

 

 

 

 

「……………お前は今も地の底で眠っているのか、ネルヴァよ」

 

懐かしむように誰かの名を呟くミアハ。その姿は哀愁が漂っていた。独り言が、喧騒に紛れてかき消えてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で。

迷宮に潜らず、後輩の少年と別行動しているキョウ・レギオンはある場所に来ていた。

 

 

白い巨塔、バベル。オラリアの中心部にある天にそびえ立つ建物。その上に位置する階層にある、《ヘファイストス・ファミリア》の武具屋に来ていたのだ。

 

 

目的は二つ、一つは新しい装備を調達すること。キョウは比較的に防具をあまり着ないので、自分の丈にあったものでも手に入れようと考えていたのだ。

 

そして、二つ目は……………。

 

 

 

 

「─────久しぶりね」

 

店の中へと入る前には、一人の女性がいた。いや、人間の女性ではない、むしろ格上の存在、神なのだ。

 

 

「ヘファイストス様、お久しぶりです」

 

鍛冶神ヘファイストス、オラリアで数ある鍛冶師のファミリアの主神。そして多くの鍛冶師が越えるべき目標とされる神物(じんぶつ)である。

 

 

そもそも、普段なら神が出てくる筈がないのだが、今回は例外中の例外なのだ。

 

 

何故なら、キョウの目的の一つが神ヘファイストスに呼ばれた事なのだから。

 

 

 

「耳にした話だけど、ヘスティアの眷属(子供)が増えたらしいわね。どんな子かしら?」

「兎、それが最初の印象ですね」

 

興味があるらしい女神にキョウは自身の感想を素直に話した。言われたヘファイストスは「………兎?獣人の子かしら?」と首を傾げる。余計な風にこじれているのを、一々弁明しようとしない。

 

 

更に話を続けていると、少し面白そうな事が分かった。

 

 

「実を言うと、私にも眷属の子が入ったのよ。少し意地っ張りだけど、貴方と新しく入ったって聞いた子にも紹介しようと思うの…………どうかしら?」

 

なるほど、とキョウは納得した。新入りであるベルや少し手慣れただけのキョウにパーティーを組ませるもしくは、専属となる鍛冶師として紹介のだろう。………純粋に紹介したいだけの可能性もあるが。

 

別にキョウとしては断る理由もなく、了承しようとしたら─────。

 

 

 

 

「────いや、主神様。そこの者は貰い受けよう」

 

真後ろの方から声が投げかけられた。

振り替えると、扉に背中を預ける女性がいた。主神と同じように眼帯をする紅の袴を纏うその姿から、極東の人間だと判断する。

 

 

話の途中に入ってきた彼女にヘファイストスは吐息をつく。疲れたというよりも、自然と出たものだ。

 

 

「椿、四時間くらい工房にこもるんじゃなかった?」

「少し気が変わってな。手前は鍛冶師としての腕は問題ない…………だから構わんだろう?」

 

 

椿と呼ばれた女性は此方に歩いてき、意味深な眼をキョウに向ける。その視線にキョウは何かの違和感を感じていたが、答える前にヘファイストスが額に手を置きながら。

 

 

「そうね、貴方が言うなら仕方ないわ」

「え、俺の返事とかは無いの────えぐぅっ!?ちょ、ちょっと待て!そんなっ、持ち方………すんなぁ!!?」

 

 

よし、そうと決まれば行くぞ! と首元の襟を掴まれ、強引に引き摺られていった。ジタバタと抵抗するがやはり格上なのか全然引き剥がせない。

 

 

…………あれ、これデジャヴだな。アイズやティオナ達の時を思い出す………。

 

彼はそんな事を脳内で考えていた。自分より強い女性に力ずくで連れてかれながら。

 

 

 

 

 

彼女の鍛治場───『工房』に連れてこられたキョウは、容赦なく投げ入れられる。自身の扱いに最早泣きそうになりながらも、キョウはゆっくりと起き上がる。

 

 

「さて、手前がこれからお主の専属の鍛冶師(スミス)になろう。これからは好きに武器や防具を頼むがいい────勿論、お主が手に入る素材でからだぞ?」

 

ニヤニヤと笑みを隠さない椿にキョウはほぼ理解した。この人は自分で遊んでるんだなぁ、いや、そういう性格なら仕方ないが………と、煮え切らないような感じだったが、考えても意味はないだろう。

 

 

だがそれでも、気になることは気になる。

 

 

「俺の専属鍛冶師(スミス)になってくれるのは嬉しいんだが……理由は何なんだ?特に需要は無いと思うが────」

「レギオンの一人でありながら魔王と相対して生きてる。その時点で気にはなってたが……………実際に見て分かったわ、いずれはLv5以上の逸材になるとな」

 

 

過大評価、とは言えなかった。

レギオンの末裔は例外なく全員がLv4以上に至っている。現にキョウには二ヶ月でLv2に上がった功績があるのだ。

 

 

「ま、他にも理由はあるがな」

「…………?」

「お主の父親、グロウスの奴と縁があったと言えば分かるか?」

 

一瞬だが、キョウは驚きもした。まさか自分の父親がここまで多くの者に関わってるとは思っていなかったのだ。

 

 

「手前も奴とはパーティーを組んでたな。なんせ手前の前に現れた途端、『武器をうってくれ』と一言。面白そうだったから勝負したが、見事に完敗だったわ」

「へぇ………なるほど」

「そういえばあったが、新しく出来た武器を『すまない、壊れたから新しいの』とな。………やはり《ロキ・ファミリア》は鍛冶師泣かせだぞ。他にも言うと、よく女に好かれていたな」

「誰だそいつ」

 

途中から自分の浮かべる父親の図とは違すぎて、辛辣な言葉が漏れた。何と言うか幼い頃の記憶の父は基本的に大人しく母に優しかった気がするが…………もしや、尻に敷かれてたんじゃないだろうか。

 

 

 

「だからこそ、不思議でならんかった」

 

ふざけた様子が鳴りを潜め、椿は壁に立て掛けてある剣を見た。キョウもつられるように見て、その剣に父の名前が彫ってあるのに気づいた。

 

その剣の鞘に、大きな赤いシミが染み込んでいたのを見て、キョウは息を呑む。続けるように、椿は話した。

 

 

「手前を軽く越えるような男が、モンスターに倒されたなどと……………深層の階層主ならともかく、一介のモンスター如きに遅れをとる筈がない。

 

 

何かを隠してる。《ロキ・ファミリア》も、ギルドも、オラリアも」

 

鍛冶師としてだけではなく、冒険者としての彼女の断言。それは他の誰よりも重い事実であった。

 

雰囲気を重くした本人である彼女はニカッと笑い、ドカッ! と椅子に腰を掛ける。大方、女性の動きには見えないと思うが、今はどうでもいい。

 

 

「さて、お主はどうする?専属の件、何なら断っても構わんぞ、拗ねてしまうと思うが」

 

面白そうに笑う女性の言うことが本当か、図りかねていたキョウは頭をかいた。

 

Lv2の冒険者としては、《ヘファイストス・ファミリア》の団長が専属鍛冶師になってくれるのは、嬉しい話だ。断る理由なんて何処にもない。

 

 

 

「よろしく頼む…………えっと」

「さんは好まん、椿でいい」

「そっか、なら椿。これからもよろしく」

 

互いの手を握り、友好を示し合う。慣れない感じにキョウは戸惑いながらそれを受け入れた。

 

 

冒険者を始めて生涯手を取り合うであろう専属鍛冶師(スミス)。自分が進んできてると我ながら思ったキョウだった。

 

 

 

 

 

「ていうか服着ろよ、何で下着なんだアンタは」

「これはサラシだが…………何だ?気にでもなるのか、お主も男だなぁ?」

「…………まぁそうですけど、そうですけどぉ!!」

 

本当に楽しいのか、笑いながらからかってくる椿。豊満な胸を覆うのは何枚も巻かれた布のみ、目に毒とも言える姿にキョウの心の中は気が気ではなかった。彼とてやはり男、こういう煩悩に襲われることも暫しある。

 

 

 

 

それを抑えられたのは脳裏に浮かぶ先生との過去の思い出────。

 

 

 

 

 

『キョウ、貴方に教えてあげる。ハーレムとかセクハラは、百歩譲って認めるとして…………いや、認めらんないけども。それでも浮気とかは絶対駄目。私が許さない。そんな事したら何処にいても天罰を落とすわ。……………今も若い女の子達の尻や胸見て笑ってるでしょう、あの人のようにね』

 

 

 

────すぐに蓋をして封印した。

そう言えば師匠である先生のあの事が原因で人一倍敏感になったのだ。まさにトラウマに近い。何と言うか少なくない女の子達から言い寄られてた時、偶然か分からないが刃物が飛んできたことがあった。

 

必死に逃げ帰った後、先生から『楽しかった?』と聞かれたのが、もう恐怖でしかなかった。オラリアにいたとしても、天罰が落とされないか心配である。

 

 

 

…………ていうか何故天罰?そんな神みたいな事を言うなんて─────(特殊な力により抹消済み)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてキョウが帰ろうとしてる時、ベルはまた問題に巻き込まれていた。

 

 

「あ、あの………この子に、何をするんですか……?」

「うるせぇぞガキッ!今すぐ消え失せねぇと、後ろのそいつごと叩っ斬るぞッ!!」

 

 

路地裏で必死に逃げる小人族(パルゥム)の少女と、彼女に斬りかかろうとした冒険者の男。ベルはその間に入り、少女を庇ったのだ。

 

邪魔をされた事で激しく激昂する男はベルに狙いを定める。そして剣を振るい、飛びかかろうとした。

 

 

 

しかし、その前に。

 

 

 

 

「止めとけよ、やるだけ無駄だぞ」

 

スッと。

横から入った青年───キョウが平然と告げた。目の前で殺気立つ冒険者に物怖じしないように。

 

 

冷たさのある瞳の視線に気圧されたのか一歩後ずさる。だがすぐに自身を奮い立たせる。威嚇するように怒鳴り散らした。

 

 

「次から次へと………!?今度は何だァ!?」

「落ち着けよ小悪党、俺の連れに好き勝手するなって話だよ。今ならサービスだから無傷で見逃すぞ?」

 

気取るようにキョウはスラスラと話していた。その事にポカンとするベルに少女も唖然としている。

 

 

「ごちゃごちゃわけの分からねぇことをっ……!ブッ殺されてぇのかぁッ!あぁ!?」

 

 

 

 

 

 

「─────なるほどなぁ、残念だ。一応警告はしたんだがなぁ」

 

 

呆れたように息を吐くキョウが歩み出したその時、その場が凍りついた。

 

 

比喩ではなく、本当の意味で。真後ろにいるベルと小人族の少女以外の全てを。白い雪のような氷が、幻想的な世界を作り出していた。

 

そして、抜かれていた剣は腕ごと空中で氷に包まれていた。凍てつく冷気そのものが男の動きを抑制する鎖のように、頑丈に絡み付く。

 

 

「て、テメェ!? 何しやがった!?」

「凍らせたんだよ間抜け、生き物は凍らせやすいんだ。なんせ汗をかいたり水分があるからな」

 

淡々と事実を語る青年に恐怖を覚えたのか男は顔を真っ青になる。しかし、キョウはそれで終わらせるつもりは無いらしい。

 

身動きを取れない男の目の前に近づき、耳に顔を寄せた。凍りついた腕の表面を掴みながら、ヒッソリと囁くような声量で呟く。

 

 

「教えてやるよ、凍った手足を砕くのには力は入れないんだ。それくらい分かるだろ?」

「………ッ、………!!?」

 

 

喉元がひきつり、呼吸が荒くなっていた。

男はようやく現状を理解するに至る。今、魂を刈り取る死神に首を狙われている状況だと。何時殺されても可笑しくない恐怖に、男は何も出来ずにいた。

 

 

 

しかし。

 

キョウが力を入れた途端、辺りを包んでいた氷はすぐに消え去った。全てが魔法や手品の類いのように。ようやく氷の拘束から解放された男は腰を抜かしたのか尻餅をついて倒れ込む。

 

そんなキョウは背中を向けて、眼中が無いというように手を振る。早く行けと促すように。

 

 

「今はサービスで見逃すって言ったろ。ほれ、さっさと消えろよ」

「くっ、くそがぁ!?」

 

逃げ出すように男は路地裏の外へと走っていった。その背中は怯えきったもので、キョウは心底興味すら無いのか見向きすらしない。

 

 

周りを見たキョウはそこで気づく。先程までベルが庇っていたらしき少女が消えていたのだ。逃げたと判断するが、深追いをするつもりもなかった。

 

 

 

「…………ベル、帰ろうか」

「………は、はい!」

 

慌てて着いていくベルと一緒に、キョウは自分達のホームへと帰った。

 

 

 

 

「あ、そういえばバベルで神様に会いましたけど、バイトしてました!」

「あのバイト神………っ!もう少し面子をだなぁ!!」

 

取り敢えず後で話すか、と考え込む中、キョウはあることを考えていた。あまりにも、どうでもいいことなのだが。

 

 

 

 

 

……………ん?何故ヘスティア様がバベルで働けるんだ?そもそも何でそんな事を?

 

 

 

キョウは不思議そうに思いながら、ベルの腰元にあるナイフを見た。何かレアそうなものだと感想を残したが、それ以上何も興味が沸かなかった。

 

 

 

 

この事を後に激しく後悔するのは、少しと言うかだいぶ先の話。




キョウさんの名前の由来は強くなる、強(きょう)と今の時代を生きる、今日(きょう)を生きると掛けて、キョウとしました。



…………まぁ、もう一つの理由としては今日投稿したいと考えて決めたんですが。

キョウ「おい作者」
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