新約 ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか?   作:虚無の魔術師

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サポーター

冒険者の朝は早い。何故なら迷宮に潜る為の時間をキチンと取っておきたいからである。それは弱小ファミリアなら当然の事、一級ファミリアでもすることなのだ。

 

 

そんな朝早くから、一人の少女が《ヘスティア・ファミリア》のホームに来ていた。

 

 

 

「…………本当に、ここにいるんですよね?」

 

橙色の髪をまとめたエルフの魔導士、レフィーヤ・ウィリディスはボロボロの教会の前でそう困惑していた。

 

 

 

(キョウ、さん………いや、レベル下ですからキョウで良いですよね。………………やっぱりキョウさんで。今度こそ、あの人にお礼を言わなくちゃ!)

 

そう息巻くレフィーヤの目的はキョウに会うことだった。より正確には、怪物祭の時に魔王から自分を助けた代わりに負傷したキョウにお礼を言うことなのだ。

 

実を言うと、前に言うチャンスはあったのだ。意識の覚めなかったキョウを近くで待っているというチャンスが。

 

 

 

しかし、自分もつい寝てしまい、気づいた時にはキョウに寝顔を拝まれていたのだ。困ったような笑み(仮定)を向けられたレフィーヤは全ての事を自覚してしまい、羞恥のままに逃げ出してしまった。

 

 

 

この事実を知った《ロキ・ファミリア》の面々からは凄い笑われた。特にロキとティオナは大爆笑で、フィンやリヴェリアからもクスクスと笑われてしまった。最も、アイズが少し笑ってた時は泣きそうになったと言っても過言ではない。

 

 

レフィーヤとしても、このまま何も言えないのは不満しかなかった。彼女の性格は真面目なものの為、ちゃんと礼を言えないのは歯痒かったりする。

 

 

なので、《ヘスティア・ファミリア》の場所をハーフエルフの受付嬢から何とか聞き出し、この教会に着いたのだ。決心と共にレフィーヤは教会の中へと進み、ある扉を見つけ出した。

 

 

(………まずはアポを取ります。主神の女神様からでも話を聞いて、あの人に時間を取って貰って、その時にちゃんとお礼を言えば良いんです!)

 

脳内で考えをまとめたレフィーヤは深呼吸をする。そして、中にいるであろう女神と話すために扉をノックした。

 

 

コンコン

 

 

…………

 

 

「…………」

 

 

 

コンコンコン!

 

 

………………

 

 

「………………」

 

 

 

 

 

 

コンコンコンコンコンコンコンコン!

 

 

………………………

 

 

 

(む、無視されてる!?いや、そんな訳がないです!朝早くと言えど皆起きてる時間なハズ!)

 

必死に扉を叩いてるにも関わらず、全然返ってこない返事にレフィーヤは激しく戸惑った。だからこそ、正常な判断が出来なかったのだろう。

 

 

扉を押してみると鍵は無かった。ノックはしたのなら入っても良いという大義名分はある。最早、無茶苦茶な考え方をする少女は勢いよく扉を開け放った。

 

 

「すみませーん!!《ヘスティア・ファミリア》のキョウさんに用がありま──────え?」

 

 

そして、呆然としていた。まぁ無理もないだろう。

 

 

 

 

何せ中には誰もいなかったからだ。眷属である青年は勿論、その女神すらも。

 

 

「だ、誰もいないーーーっ!!?」

 

一人絶叫するレフィーヤだが、彼女は知らない。キョウやベル達が迷宮に向かっているこの時間帯、女神であるヘスティアもバイトに行っていることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄さん、お兄さん達。白い髪のお兄さんと黒い髪のお兄さん。サポーターに困ってはいませんか?」

 

一方で、キョウは静かに深呼吸をしていた。理由は目の前にいる少女が原因だ。ベルと話していた時、突然声をかけてきたのだ。

 

 

「………前に会ってないかな?」

「?リリは冒険者様方とは初対面ですよ?」

 

リリルカ・アーデ、そう名乗った少女は自分をリリと呼んでいる。背丈は普通の人間より小さくキョウやベルよ腹までの高さだ。

 

 

「リリルカ、少し聞くが────お前小人族(パルゥム)か?」

「リリは犬人(シアンスロープ)ですが、どうしてですか?」

 

観察するようなキョウの詰問にリリは不思議そうに返した。あっさりとした対応にキョウが困惑している中、ベルは彼女に頼んでフードを脱いでもらった。

 

 

「───」

「………へっ?」

 

やはりそこにあるのは犬の耳だった。ピョコピョコと動くその耳は、偽物とは微塵にも思えない。二人とも呆然として固まっていた。

 

 

 

「これでよろしいでしょうか?」

「………あぁ、悪いな。それとサポーターだったな、俺達は構わないぞ?ベルは?」

「え!?ぼ、僕も大丈夫………です!」

 

すぐさまフードで耳を隠すリリが聞いてきた。納得したように振ってくるキョウにベルは慌てながらも受け入れる。笑顔になったリリルカはキチンとお辞儀をする。

 

 

 

「それじゃあよろしくお願いします!リリも頑張りますので!」

「う、うん!此方こそよろしく、お願いします!」

 

 

互いに挨拶をして、先を進む二人。

 

 

 

「……………」

 

ただ一人、キョウは例外だった。楽しそうにかつキチンと話し合うベル達を見つめている。いや、正確には犬人(シアンスロープ)の少女、リリルカ・アーデを。

 

 

(人混みの中から俺達を見つけ出した…………いや、ベルの方か?何故よりによってベルを………………ん?)

 

ある事に気づき、キョウはより一層目を細める。警戒しておくか、と心中に納めると同時に顔疑われないように表面上を整え、ベルとリリルカに近づいていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

現在、ダンジョンの七階層。

ベルとキョウ、そしてサポーターのリリルカはそこに潜っていた。

 

 

 

彼等が相手にしているのは、複数のモンスター。特に虫の印象がある個体達、紫色の蛾のような『パープル・モス』に、一回り大きな蟻『キラーアント』。

 

 

それらを前に、キョウは軽々と長剣を振り回す。表面に氷を滑らせることで凄まじい程の切れ味を誇る剣は、スパスパと甲殻を持つキラーアントを切り裂いていった。

 

 

(そろそろ使っておくか────!)

 

手の調子を確かめるようにして、群れているキラーアント、その前方にいるキラーアントに狙いを定める。

 

 

そして、

 

 

 

「【アイスブレイカー】!」

 

長剣を持たない方の手に氷が包み込んでいき、ガントレットとなった拳でモンスターの群れの先頭にいるキラーアントを殴る。

 

それと同時に、砕け散ったガントレットが氷の破片と化し衝撃波と共にモンスター達に襲いかかった。破片はどれも脆いがどれも鋭く、範囲内にいるモンスター達を串刺しにしていく。

 

 

【アイスブレイカー】

彼が編み出した強力な技の一つ。氷の外装で殴った直後、外装の中に収まっている冷却した空気を解放することで、破片を爆弾のようにして飛び散らす技。

 

 

多数の敵を倒すのに長けているこの技にも、キチンとした弱点がある。

 

 

「………っ!」

 

ビギ! という右腕に走る痛みにキョウは顔を歪めた。空気が破裂する衝撃を近くで受けた腕にダメージが来たのだ。これで魔力や耐久のステータスも鍛えられるが、同時に腕も使い物にならなくなる可能性も秘めた、正に諸刃の刃なのだ。

 

 

「フッ!」

 

少し離れた方ではベルがキラーアント相手に素早い動きで圧倒していた。普通の冒険者で一ヶ月も無い内にこれ程強くはなれないが、キョウと同じように成長速度が速いベルは例外だった。

 

 

 

 

「わぁ~!ベル様キョウ様お強い~!」

 

おだててるのか本気なのかよく分からない声に二人は苦笑いを浮かべる。そしてキョウは周りを見渡し、死体の数をよく把握していく。

 

 

十分かと、彼は判断した。

 

 

 

「ベル!そろそろ下がれ!一掃するぞ!」

「はっ、はい!」

 

後ろからの声にベルはちょうど良くキラーアントに止めを差してすぐにキョウの後ろに下がる。同胞を殺された事に怒る蟻の軍勢が怒涛の勢いで襲いかかる。

 

 

 

 

スーッと息を吐き、キョウは冷気を帯びる。しゃがむと同時に地面に手を当てて─────解き放った。

 

 

「【アイスオブウォール】!」

 

巨大な氷の波を引き起こす。それらは災害のように大きく広がっていき、モンスター達の攻撃からキョウ達を分断した。

 

 

「…………氷は解除できる。今の内に魔石を拾おうか」

 

コクンと呆然としていたベルとリリが頷く。それから全員ですぐにモンスターの亡骸から魔石を回収し始めた。

 

 

 

 

 

 

それから少し後。

モンスターの亡骸から魔石を回収する作業をしている間の事だった。

 

「………あのさ、リリ。そのベル様っていうのは止めてほしいんだけど……」

「すいません、そういう訳にはいきません。リリはサポーターですので。冒険者様とは違いますから」

 

おだてるような扱いに困るベルにリリは断固として譲らなかった。自分が下の人間だと、言い聞かせるような言い方を平然とする。

 

 

「でも、そんな事は」

「────あるんだ、嫌な話だがな」

 

ない、と言い切ろうとしたベルの言葉を遮り、キョウさ呟いた。思わず見つめてくるベルに何も反応することなく、キョウは血に濡れた長剣を拭いていた。

 

 

「いるんだよ、サポーターだからって言って見下してる馬鹿な同職が」

 

ここだけは呆れるような声音。心から見下す声は、まだ続いた。

 

「サポーターは後ろにいるだけで金をせびるセコい連中だって、考え方だ。そういう類いの奴等はサポーターに暴力を振るったり、タダ働きをさせる。挙げ句の果てにはモンスターの的にする奴等もいる」

 

ふざけた話だ、とキョウは忌々しく吐き捨てた。何も言えなくなるベルの後ろで、リリは見えないように俯く。

 

 

 

「………貴方達だって、きっと同じですよ」

「ん?どうしたのリリ?」

 

ボソリと呟くリリの声が聞こえたのか、ベルが気になったらしく聞いていた。リリは何でもありません!と元気そうに首を振り、魔石を回収していた。

 

 

 

 

 

 

そして迷宮から出ていった後も、一悶着があった。しかしそんなに重要なものではない。

 

「い、いただけませんよ!全部お二人に渡します!」

「ええっ!駄目だよそんなの!」

「いや!最初の時は大丈夫です!これから少しずつでも貰えれば嬉しいので!」

 

そう言い認めようとしないリリにベルは不満げだったが、キョウの「正当な対価で組んだんだ。約束ぐらい守れ」というある意味では脅しにも似た言葉にリリはほぼ強制的に頷かされた。

 

 

 

す、凄いと感激して尊敬の眼を向けるベルに、間違ってるんだよなぁと心の中で思うキョウであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、たった一人でキョウは夜道を散歩していた。ヘスティア達には夜風に吹かれてくると言ってある。今頃寝ているであろう少年と女神の事を気にしていたキョウは、

 

 

(今、重要なのはリリルカだな。何か引っ掛かる所がある)

 

 

彼は最初から疑問を抱いていた。朝から自分達に声をかけてきたリリルカ・アーデという少女。手慣れた動きの彼女が、何故自分達の所に来たのかが引っ掛かったのだ。

 

 

それと同時にあることを思い出す。それはリリルカに会う前、ベルと話していた事について。

 

 

『神様が友達の神様に頼み込んで作って貰ったらしいです。僕だけが使えるとか言ってましたけど』

『なるほど、ヘファイストス様か』

 

キョウも観察してみたら、それは普通の代物とは違う一級品を越えるものだ。なんせ鞘や刀身に神聖文字が刻み込まれている、ヘファイストス神自らの作品だろう。

 

 

(非常に気になるんだが…………もしやヘスティア、そのナイフが理由でバイトをしてたって話か?いや、それはこの際いい)

 

議題として重要なのはヘスティアのバイトではない、ベルのナイフ。それは他の者から見ても高価な物と判断できるだろう。が、すぐに無視することにした。どうでもいい議題なので(実はどうでも良くはないのだが、彼は気付かない)

 

 

気のせいかは分からないが、キョウはリリルカに警戒を抱いて良かったと思っている。彼女が怪しげな視線をそのナイフに向けていたのだから。

 

 

 

(そういえば、あの小人族(パルゥム)の子もベルのナイフを見てたな。あの光に目を取られてた…………リリルカも、何故か見てる節がある)

 

 

少しずつ、情報というピースを重ね合わせる。真実のパズルを完成させる為の準備が整っていく。

 

 

(偶然、とは言えないな。ナイフを狙ってるか、もしくは俺たちと接触する事自体が目的か─────しかしリリルカは犬人族だ。変装してないのはベルが実証済みだ……………待て)

 

そこまでしてキョウは考察を止めた。下手に考えを深めては常識に囚われて正解に辿り着けない。まずは自分が知らない情報を手に入れ、ピースに合うか確認しなければならない。

 

 

(まずは《ソーマ・ファミリア》だ。そこからリリルカについて調べれば、少しでも分かるはず────)

 

それ以上の思考は一瞬で途切れる事になった。突然、声をかけられたから。

 

 

 

 

 

 

「─────待っていたぞ」

 

 

ゾワッッ!!! と。

心臓を直で握られるような感覚をキョウは味わった。思わず足を止めて道の真ん中に立ち尽くす。恐怖はあった、持ちこたえられたのは経験していたからだ。

 

 

 

Lv2になる、あの日に。出会うと同時に、剣を向けられ、死にかけたあの日。

 

 

 

スッと暗闇の中から人が姿を現す。元々その場にいたのか分からないが、問題はその人物だった。

 

 

「ッ!!!」

 

その姿を視認したキョウは咄嗟に身構えた。腰の鞘から長剣を引き抜き、全身に冷気を纏わせる。意味がないと自覚はするが、それでも何かは出来ると思っていた。

 

 

 

 

その人物は、男だった。

 

その男は二M(ミドル)を越える体格猪人(ボアズ)だった。背中には二本の大剣を携えてるが、簡単には使わないだろう。

 

 

そしてその男は、今現在オラリアに二人しかいないLv7であり、【猛者(おうじゃ)】最強の冒険者の一人。

 

 

同時に、キョウがLv2に昇れた理由にして元凶。

 

 

 

「久しいな、キョウ・レギオン」

「────オッタルっ!!」

 

 

最強のファミリアの団長である男 オッタルは落ち着いた声音で彼の名告げ、はからずも因縁のあるキョウは喉を震わせながら睨みつける。

 

 




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