新約 ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか? 作:虚無の魔術師
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少し前、キョウがLv2へと昇格する前の日に出会った男。同時に昇格する原因となった人物。
人気の無い迷宮にて遭遇したオッタルにキョウは抵抗も出来ずに半殺しにされた。得意の氷も紙細工のように引き裂かれ、地に叩きつけられたのだ。
当時は何とか最後の足掻きとして彼の右手の甲にあまりにも小さな傷を付けることが出来た。直後に容赦の無い一撃で腹を蹴られたのは今でも忘れられない。
それが偉業と見なされたのかキョウはLv2にへと昇格を許された。事実を知ったギルドや冒険者達も文句を言う者は一人もいない、何せオラリア最強の一角を相手にしたのだから。…………受付嬢のエイナとその友人は気絶しかけてたが、本当に申し訳ないと思う。
そんなかつての思い出に浸っていたキョウは、一瞬も油断をしなかった。前の自分とは違うとは言え、未だ次元が違う相手なのは間違いはない。
(───気を許せば死ぬ!今度は遅れを取るなっ!)
「…………なるほど」
たった一言があまりにも重かった。耳にしていたキョウの全身が震え、大量の汗が噴き出している。
にも関わらず、片手で倒せる相手に、オッタルは観察するような目を向けていた。それでいて続くであろう言葉を紡ぐ。
「成長したようだな、キョウ・レギオン。前に戦いより良い眼をしている」
「…………お前のせいでな、半殺しにされたら嫌でもこうなるんだ」
「そうか、だが成長は出来た」
純粋な賞賛に皮肉を返すが、大した反応はしなかった。やはりこれが強者かと再確認し、キョウは目を細める。この状況を理解しどのように動くのが最適かを決めようとしてる中、
「悪いが、戦うつもりはない」
オッタルの制止にキョウはピタリと全ての行動を止める。油断させようとかそういうものが無い、本気の意味での言葉だったのだ。
「願うならば相手するが、あの方の命令を与えられてはいない。それに今回は、これを渡しに来た」
何?と顔をしかめるキョウにオッタルは何かを放り投げる。幸い、Lv7の力を使ってはいないらしいので、キョウも普通に掴み取ることが出来た。
分厚い本だった。何処ぞの書庫にでも収まってるような古びた教典に似た厚さの頁を束ねる謎の本。それが何なのかはオッタルの口から語られた。
「
言われたキョウはギョッとして手の中にある本を見る。重い本は価値があるとだけではなかった。
別の意味は、魔法の強制発言書。
キョウもあまり魔法については詳しくないのでよくは分からないが、二つ程の『発展アビリティ』が無ければ作れない─────Lv3以上の職人が作る代物。
しかも、オッタルは今誰かの事を告げた。そう、自分の後輩である少年の名前を。そして彼に、この本を渡せと。
「…………何が狙いだ、お前がそこまでする理由は」
「全ては、あの方が望むままに」
それ以上の事は聞けなかった。まるで闇夜に隠れるようにオッタルは姿を消していたのだ。その存在すら無かったと言うように。
一人残されたキョウは手に持つ魔導書に視線を落とす。これをベルに渡そうとする誰かについて。
思い当たるのはただ一人、いや一神。オッタルが所属する都市最強のファミリアの女神にして、オラリアでも有名な美の女神。
「────フレイヤ様、か」
「ふふっ、『それ』をあの子にお願いね」
巨塔からその光景を見下ろしていたフレイヤ。彼女はやるべき事を果たそうとする青年に微笑みを向ける。多くの子供に焦がれる純粋な願望とは違う、女神としての優しき慈愛の含まれた表情を。
「ただいまー、ベルはいるかー」
「あ、はい。ここです」
扉を開いたキョウは机の所で座っている少年を見つける。ホームにいち早く帰ってきていたベル、何もする事がなく暇そうな少年にキョウは声をかけた。
「…………おいベル」
「ん、何ですか?」
そして、すぐさま本を渡す。オッタルから貰った
「少しこれを読んでみろ」
「え、えぇ?どうしたんですか急に」
「良いから早く」
不思議そうに此方を見てくるがキョウはごり押しと言わんばかりに進める。何とか押し通されたベルは困りながらも魔導書を読んでいった。
それを読み終えたベルは少しうっとりとしていたが、すぐに頭を軽く叩いて目を覚まさせる。ハッとしたベルが困惑していたが、キョウはそろそろかと扉前で待機していた。
「たっだいまーっ!バイトは疲れるぜー!」
「ヘスティア様、早速だがベルのステータスを見てくれ」
「おおうっ!?本当に早速だな君は!」
扉をぶち破る勢い(比喩です)で現れたヘスティアを手際の良さで回収したキョウはスタスタと恩恵の更新に移る。
上着を剥がれて寝っ転がるベルの恩恵にヘスティアが指先から
「………また伸びたよ、良かったねベル君」
「え、えぇ………?」
ベルが恐る恐ると言った様子なのも無理はない。背中の上に乗っている女神は不機嫌そうな声だったのだ。横からそれを見ていたキョウは呆れながら思った。
………あぁ、また例のスキルか。
キョウとしてイチャイチャ(違う)のもどうでもいいが、時間が時間なので助け船を出すことにした。
「違うヘスティア様、下見ろ下」
「ん?下?」
促されたヘスティアが不承不承と目線を下げると何も言わなくなった。そしてキョウも同じところを目にして納得したように頷く。
ベルだけが一人、困惑したように二人の返答を待っていたが、
「………魔法」
「え?」
「魔法が発現した、良かったなベル」
直後、驚愕の絶叫をあげたベルが起き上がり、ヘスティアが投げ出された。幸い、キョウの方向だったのが奇跡だった。
「や、やるなベル君………僕をこうも放り投げるとは」
「おい我に返ったら起き上がれ。この状態、普通にヤバイぞ」
その後、ベルは魔法を使えるようになった事に子供のように興奮していた。まぁキョウからは分からなくも無いと納得されていたが。
そして皆が寝静まってすぐ、ひょっこりと起きたベルがバックパックを持って外へ出ていってから少し後。
ベッドで寝ていた筈の二人が起き上がった。互いの顔を見て、息を吐く。
「行ったな、ベル。やっぱり想像以上に待ちきれなかったか」
「………追わなくてもいいのかい?」
「アイツだって馬鹿じゃない。そんな深い所で試し撃ちはしないだろうさ…………少し不安な所はあるが」
新しく発現したベルの魔法、【ファイアボルト】。詠唱式の無い速攻魔法と思われるもの。自分の魔法の力を試したくなったのであろう少年を脳裏に思い浮かべ、キョウは自らの心境を漏らす。
「さぁ話すんだ」
そして、ベッドの上で腕を組む女神が真剣な顔で詰問する。キョウはあー、と思いながら、机の上の本を手に取る。
「ベルくんに魔法が発現するのを知ってたみたいな態度じゃないか。何か知ってるなら答えてもらうよ!」
「これ」
詰問が来ると同時に、適当に本を投げ渡した。咄嗟に受け取ったヘスティアは訝しげに表紙を見つめていたが、すぐに動きを止める。
「
「そうだ、オッタルからベルに使えって渡された」
唖然として固まるヘスティアだったが、キョウの返した言葉にピクリと反応した。その話の途中に出てきた名前に。
「………オッタルって、前に君を痛めつけたって冒険者じゃなかった?フレイヤの所の」
「あぁ、今日会ってきた。というか出会った」
「………………またやられてないよね?」
「そしたら重傷者として《ディアンケヒト・ファミリア》の聖女様に怒られてるから。俺あの人苦手だし」
使い物にならなくなった魔導書の頁を捲っていき、完全に価値がないと判断したキョウは部屋の隅にある本棚の端に仕舞う。無価値だろうと一応勲章として置いておくべきでもあるかという考えもあるが、キョウ本人の几帳面さが出ているのだ。
「────あ、今ベルとアイズの距離が近くなった気がする」
「な、何だってぇぇぇええええええええ!!?あ、あのヴァレン何某君がベルくんとぉぉぉおおおおおおおお!!?」
「うるせぇうるせぇ、ていうかヴァレン何某ってアイズの事か?」
何処から電波を感じ取ったのか平淡と告げるキョウにヘスティアが勢いよく食いかかる。胸元を強く持ち上げてくる女神を軽くあしらいながらキョウは素直に聞き返した。
そして少し経った後、明らかに落ち込んだベルがホームへと帰ってきたのを見てキョウは思った。
─────あ、また駄目だったんだな、と。
最後の奴は懸命な方々なら分かると思います。
膝枕、されてましたね。
因みにキョウさんはベルとアイズをくっつけようとしてるのである意味ではヘスティア様達への裏切り行為(本人からしたら自力で頑張れという意味の裏返し)なのですね、はい。
そんな訳で高評価、感想よろしくお願いします!