新約 ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか?   作:虚無の魔術師

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出来が、悪いと思う(切実)


潮時

彼等は順調に目標の十層へと進んでいた。途中、前の階層より強めのモンスター達が出現していたが、キョウを中心に一掃されていた。

 

 

勿論、ベルも戦っていることから、進むのが速かった。高火力のキョウと俊敏なベル、浅いながらも二人のコンビネーションだからこそだ。

 

 

 

そして、無事に十階層へと辿り着いた。

 

 

 

「霧………」

 

視界の全てを覆いそうな真っ白な靄。朝明の麓付近だとこういうのが多いのは知っているが、迷宮でもこういう仕組みは再現されている。

 

 

 

警戒するべきなのは、その霧。毒や有害なものは無いが、その存在だけが厄介なのだ。

 

 

「気をつけておけよ」

 

 

振り返る事なく、キョウは声をかける。その手は腰に帯刀した束に置かれ、今にも戦えるように構えられていた。

 

 

「ここら辺からは大型が出てくる。しかもこの視界を覆う霧だ、油断すればすぐにやられるぞ」

 

似たような事が合ったと呟くキョウにベルは青い顔をした。大型モンスターに不意打ちを受けた冒険者の話らしいが、詳しく聞く気にもなれない。

 

 

霧の漂う通路を抜け、彼等は広々としたルームに着いた。しかし白い草原が広がり、枯れ木が立っているだけの、他のモノは見えない。

 

 

 

霧の向こうで揺らぐ、大きな影以外は。

 

 

「………オーク」

 

三メートルに近いずんぐりと丸まった太い体型の豚頭。見た目に反してギロギロと光る黄色い眼は獲物である人間を捕らえたようだった。

 

 

豚らしき雄叫びを響かせるオークに、ベルは新しく手に入れた武器を構え直す。それを静かに見据えていたキョウに、

 

 

「キョウ様!新しいオークが!」

「…………チッ、やっぱり狙いに来るか」

 

リリルカの叫びと共に視線を向ける。其方からはオークが巨体を揺らして歩いてきていた。しかしそれだけではなく、コウモリなどの雑魚までも着いてきている。

 

 

無言で長剣を引き抜いたキョウはリリルカを見ずに声をかける。彼は一瞬、ベルの方を見て告げた。

 

 

 

「リリルカはベルの援護を。群れは俺が片付ける」

「じゃあ、キョウ様は?」

「俺一人で十分、対処はできる」

 

 

分かりました! とリリルカはベルの方に向き直る。ゆっくりと間合いを詰めていくキョウに、オークは近くの枯れ木に手を伸ばした。

 

 

天然武器(ネイチャーウェポン)

迷宮がモンスター達に提供する自然に出来た武器。棍棒という本来の武器へと変化することが出来るそれは、十階層の特徴の一つ。

 

 

警戒の必要はある。武器の有無でモンスターの能力が上下するのだから。

 

 

 

「させるか!」

 

しかしその前に、キョウは地面を踏み抜いた。ダァンッ! という音に続いて足元から冷気が地面を凍らせていく。

 

そしてオークが掴もうとしていた枯れ木を氷結へと変える。慌てて手を退いたオークの眼前で砕けた天然武器。

 

 

 

どうせ再生するだろうが、先に倒せれば関係ない。そう断じたキョウは、取ろうとしていた武器を壊された事に怒るオークを目にする。ただ観察するように目を細め、凍える長剣でオークの二本足を切り捨てた。

 

 

ずんぐりとした巨体を支える柱を失い、倒れるオーク。キョウはその直後に頭部に剣先を突き立てた。悲鳴をあげる暇もなく、一撃で砕く。

 

 

絶命したオークから離れようとした途端、棍棒を振り回して突進するもう一体のオーク。距離は離れていながらも、大柄での疾走は少しずつ距離を積めてきている。

 

 

 

「邪魔だ───」

 

キョウは腰を低くして突貫したかと思えば長剣をオークの頭部へと突き立てた。それで終わることなく、剣が冷気に包まれて、オークの上半身後と完全に吹き飛ばす。

 

他にも寄ってきたモンスターは彼が掌から放った氷の衝撃波、【アイスブレイカー】で削り取る。砕け散る透き通った破片と共に灰が霧へと消えていく。

 

 

 

 

粗方モンスターを排除して落ち着いたキョウ。軽い安堵から深呼吸をしていたが、

 

 

 

 

「リリ───!?」

 

少年の悲鳴に近い声が耳に入る。慌てて振り返るとベルが困惑したように、辺りを見渡していた。キョウは同じように左右を見ていたキョウは枯れ木の根本にある物を見つける。

 

 

 

「…………クソ」

 

 

脂ぎった生々しい血肉。彼はそのアイテムを知っている。冒険者がよく行く道具屋で売られているトラップアイテム。

 

 

それの効果は確か─────

 

 

 

(モンスターを誘き寄せる…………なるほど、それがリリルカの手段か!)

 

 

 

「───ごめんなさい、ベル様。もうここまでです」

「リリ、なに言ってるの!?」

 

思考に明け暮れていたが、すぐにベルの視線の先を見る。離れた場所にリリルカは振り向いて首を傾ける。小さい笑みを浮かべ、彼女は寂しそうに。

 

 

「ベル様は人を疑うことを知った方がいいですよ。既に勘づいてたキョウ様みたいに」

「………、」

 

一瞬向けられた視線にキョウは眼を細める。一瞬だけ、見えてしまった。此方を見つめるリリルカの顔を。

 

 

 

思わず顔をそらしたキョウは、霧の中から出てきた四つの影を認視する。四体全てがオーク。他にも来ているらしく、白い靄に多くの動きがあった。忌々しげに舌打ちをするキョウは既に逃げたであろうリリルカのいた場所を睨む。

 

 

二人ともオークに負ける実力ではないが、多勢を撃退するにはより多くの時間が有する。その間にリリルカは姿を消しているだろう。

 

 

 

 

 

「キョウさん!この場をお願いして良いですか!?僕はリリを─────」

 

その前に、キョウはベルの腕を掴んだ。走り出そうとしていた状態からバランスを崩して倒れそうになるが、掴まれた事が幸いして何とか大丈夫だった。

 

 

しかしそれでも掴む力は弱まらない。寧ろ逃がさないというように力が込められている。

 

 

「離してください!キョウさん!リリが、リリが向こうに───!!」

「いや、その必要はない」

 

切って捨てるような言い方にベルは眼を剥いて呆然とする。今まで見たことも無いくらい冷酷、同時に自嘲するような歪んだ顔を青年は浮かべていたのだ。

 

 

直後、足元から氷を発生させる。無数の冷気の槍がモンスター達を貫いていき、一匹残らず殲滅する。その光景が後ろにありながらも、キョウは顔色は変化しない。

 

 

それに気付いているのか、いないのか、彼は語り始める。自分でも恐ろしく冷たい声音で。

 

 

「リリルカ・アーデは俺達を裏切った。モンスターをけしかけて事から確定だな、あいつらの情報は間違ってなかった」

 

 

あいつら。

それが何を示しているのかはベルにも理解できた。リリを追っていた冒険者の男。ベルも何度か絡まれたからこそ、すぐに思い当たる。

 

 

 

「っ!?あの人達の事を信じるんですか!?」

「なら何故リリルカを信じられる?あいつは何故俺達のサポーターになりたいと望んだ?決まってる、良いカモと思ってたからだ。

 

 

 

 

だからこそ、俺はあいつを切り捨てた。裏切られるくらいなら、いっそのこと裏切ってやろうと、そう思った」

 

キョウは、リリルカがベルや自分の分け前を狙ってるだけではない、騙し取ろうとしてるのに気付いていた、と話す。

 

 

彼女がこんな真似をしなければ自分も裏切る事はしなかった。彼女が利用してきた事が理解できたから、キョウは今回の行為を選んだのだ。

 

 

目の前にいる少年の顔など見ずに、自嘲気味に笑う。そのまま、自らを貶める言葉を紡ぐ。それが自分にとって相応しいと言わんばかりに。

 

 

 

「軽蔑したかベル?俺はこういう男なんだ。仲間の為なら他人を切り捨てることすら辞さない、そんな奴が優しくなんか無いだろ」

 

 

きっとベルは失望するだろう。尊敬していた青年のやり方に、騙されたからと言って辛い目に合っていたであろう少女を見捨てた────非情な人間なのだと、理解するハズだ。

 

 

キョウ・レギオンは半端者なのだ。優しさを向けたかと思えば冷酷さを見せる、どうしようもない人間。自分という男が何処までも浅ましく思えてくる。

 

 

 

 

しかし、ベルの反応はキョウにとって予想外だった。

 

 

 

 

「それでも、僕はリリを助けに行きます」

「………理解できなかったのか?何でそこまでする?お前があいつを助けようとする、理由はなんだ?」

 

問い詰めていた訳でも、苛立っていた訳でもない。純粋に知りたかった。ベルがそこまでするのに、どんな理由があるのか。

 

知ることが出来れば、キョウは満足できるかもしれない。

 

 

「よく、分からないです、けど…………」

「?」

「僕には無いです。命を掛けてリリを助ける、上手い理由は。けど、理由が無きゃ、助けちゃ駄目なんですか?」

 

 

 

……………は?

 

言葉の内容に、ただ困惑した。ベルが何を言っているのかは分かるが、問題なのは意味だった。

 

 

理由がない、それでも助けたい。その言葉にキョウは心から納得していた。確かに、それも良いかもしれないと。

 

 

しかし、自らの口から出たのは────正反対の言葉。

 

 

「それは────異常だ」

「………はい」

「お前は、それでいいのか!?自分が殺されるかもしれなかったんだぞ!?あいつはお前を騙した!俺もお前を騙したんだ!なのに、何でだ!?何でそうやって助けることが出来る!?どうして、なんだ!?」

「よく分からないです。ちゃんとした理由なんて、僕には無いです。そうしたいから、僕は────」

 

 

ベルはそう言いきり、走り去っていった。上層へと進んでいくその背中を、キョウはただ見つめていた。見つめることしか、出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……………クソ、馬鹿だ)

 

 

 

 

「馬鹿だ、俺は」

 

 

苛立たしそうにキョウは吐き捨てる。彼はその場に立ち尽くすだけ。強く歯噛みし、必死に苦悩し続けていた。

 

 

 

 

そして、そして───────




解説をしますが、キョウ・レギオンには二面性があります。それは日常生活に出てくる程、異質と言えるものです。

ベルや皆と接している時の青年としての一面。レギオンの使命を果たそうと冷酷に振る舞う一面。キョウさん自身、それをよく理解してるので自分を自嘲することが多いです。


その二面があるからこそ精神的な弱さが目立つんですよね。
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