新約 ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか?   作:虚無の魔術師

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リセット

────あぁ、なんて様なんだろう。

 

 

地面に転がったリリルカ・アーデは静かに思っていた。目の前、いや視界全てから迫ってくるモンスターの群れを前に、彼女は笑いそうになる。

 

 

 

 

 

 

かつて自分が騙し、そして姿を見せてしまった冒険者の男に待ち伏せされていた。男はリリに不満のぶつけるようにひたすら蹴りながら、

 

 

『残念だったなぁ?お前の事が筒抜けでよぉ、俺一人じゃあ到底無理だったが、やっぱり協力者はいる方がいいなぁ?』

『………きょ、りょく……しゃ?』

『キョウって黒髪の冒険者だ!お前が散々騙してたのに気付いてたらしくてなぁ、俺に手を貸してくれた訳だ!』

 

思わず、笑いが漏れた。

まさか裏切っていた青年も、自分の事を相手に売ったのだと。

 

 

それを悪いとは思うことも出来ず、リリは受け入れていた。他ならぬ、騙して彼らの利益を奪ったのは他ならぬ自分自身だ。

 

 

このまま殺されるかもしれない、そう思うリリは他に現れた男を目にした。

 

 

『派手にやってんなぁ、ゲドの旦那ァ』

 

リリを脅して金を奪い取ろうとしてきた者達、彼等はリリと同じく【ソーマ・ファミリア】の冒険者。そのリーダー格である中年の獣人、カヌゥに機嫌よく話しかけるゲド。

 

 

 

そんな彼に、カヌゥはとんでもない事をした。彼は隠し持っていたモノを放り投げながら、

 

 

 

『ゲドの旦那、奪ったもん全部置いてってくれねぇですか?』

 

淀んだ瞳を、同業者に向けた。リリはその眼をよく知っている、金に執着する貪欲なものだ。そして彼女の目の前に、放り投げられたモノが蠢く。

 

 

 

キラーアント。

七階層に存在する群れを為すモンスター。しかしそれは下半身を失い、瀕死と言うべき状態。悶え苦しむようにキラーアントは独特の悲鳴をあげる。

 

 

恐怖に絶句するゲドは、キラーアントの性質をよく経験していた。瀕死のキラーアントは仲間を呼ぶフェロモンを撒き散らす。生殺しにした場合、その仲間が徒党を組んで襲いかかってくるのだ。

 

 

ソロでなら勿論、パーティーを組む者にとっても、危険でしかない特性。しかもカヌゥの仲間が何匹もの瀕死の蟻を地面に転がす。どれ程の群れが引き寄せられるのか、想像もしたくない。

 

 

 

恐慌しかけたゲドは命を優先して奪った物を放り捨てながら出口の一つへと走り去っていく。その後、何度か悲鳴が聞こえて以降、何もしなくなる。

 

 

カヌゥ達の目的はリリの騙し取ったもの。それと彼女から金の在処を聞き出した。その間はキラーアントから守っていたが、それを終えるとカヌゥはリリを軽い身体を持ち上げて、

 

 

 

『最後の最後まで、俺達の為に役立ってくれよ。サポーター?』

 

笑いながら、リリをキラーアント達の方に放り投げる。大勢の群れで迫っていたモンスターがリリに反応し、ゆっくりと迫っていた。

 

 

 

リリルカ・アーデは、冒険者を信用したくないと思った。こんな風に利用されるのが自分のしてきた事に対する因果応報なんて、絶対に認めたくなかった。

 

 

 

少なくとも、あの二人は違った筈だ。

 

リリが知るような冒険者とはかけ離れたあの二人。ベルとキョウ。片方は彼女を間接的に追い込んだとも言えるが、そもそも自分が騙さなければ彼もこんな事はしなかっただろう。

 

 

きっと天罰なのだ。彼等の好意を、期待を裏切った自分への。それならば仕方ないと、リリは受け入れられそうだった。

 

 

 

これで終われる。長い苦しみから解放され、ようやく自分をリセット出来る。心からリリは笑った、泣き笑いというべき顔で。

 

 

 

 

 

 

「ファイアボルトオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 

爆炎が、ルームに広がる。群れを為していたキラーアント達は突然の攻撃に困惑しながら焼かれるしかない。雷のように轟き、目の前の障害を薙ぎ払う炎。その中から、一人の少年がモンスターの壁を打ち破ってきた。

 

 

 

ベル・クラネル。

リリが騙した筈の少年が決死の表情で蟻の群れを突破してきたのだ。理由は簡単だが、リリにとって分からない。

 

 

───自分を助けに来たなんて、認められる筈がなかった。

 

 

 

キラーアント達もすぐに正気を取り戻すと、標的をリリからベルへと切り換える。その物量でベルを周囲から押し潰し、圧倒しようとしていた。

 

 

 

 

 

しかし、そんなキラーアントの真後ろ。先程ベルが現れた通路の方角から、青白い槍が飛び出す。冷たい刃が切り裂き、灰へと変える。

 

 

 

奥底から、一人の青年が現れる。ユラリと、無気力そうに揺れながら。

 

 

 

 

「───キョウ、さん?」

 

 

ベルの呼ぶ声に、キョウはピクリと反応した。近くにいるモンスターを切り裂き、凍らせて行きながら、彼はベルの元へと辿り着く。

 

 

 

少年の視線に、キョウは僅かに沈黙していた。意を決して口を開いたのは、すぐの話だった。

 

 

「…………俺も、何をしたいのか分からない」

「………、」

「───行け、お前がやると言ったんだ。こんな事は俺に任せてな」

 

 

はい、と応じたベルはリリの元へと向かう。その背中をずっと見届けていた。そしてすぐさま目の前の標的を睨み付ける。

 

 

 

ギチギチギチギチ、と口を鳴らす蟻の一群が動き出す。その内の数匹がキョウを通り過ぎて後ろに向かおうとしていた。ベルとリリルカに、近づこうと。

 

 

 

「おい、待てよ」

 

しかし、今のキョウはそれを許さない。氷のように鋭い威圧を放ち、蟻達の敵意を自分に集める。同胞を殺したキョウへと、集中する。

 

 

「お前らの相手はこの俺だ。たった一人が相手だぞ?」

『───ギィッ!!』

「殺してみろ。それが出来ないなら失せろ、臆病者が」

 

 

嘲りを向けた直後、キラーアント達が一斉に突貫する。彼に激しい怒りを抱くようにも叫び声が鳴り響き、高らかと共鳴する。

 

 

圧倒的な群れを前に、キョウはヒンヤリとした冷気を帯びる。これを使うのは得策ではないと、彼自身が知っている。なんせ凍結を纏わせ、自分自身をも冷やす危険な技。

 

 

 

それでも、キョウは躊躇することはなかった。容赦なく自らの命を削りかねない技を行使していく。

 

 

 

「────」

 

 

 

氷が舞い、氷が散る。

 

キョウは鋭い長剣を振るい、より多くのキラーアントを氷像へと変える。唯一負けている物量、それによって為された壁に、キョウは勢いよく地面を踏みつける。

 

 

足元から発生した氷が、波となり前方を飲み込む。ただ凍らせるだけではなく、氷の牙がモンスター達を容赦なく噛み砕いていく。

 

 

徐々に削られていくキラーアント達を横目にキョウは後ろを見た。そこではリリルカが、ベルを問い詰めていた。

 

 

───どうして、自分なんかを助けたのかと。

 

 

思わずキョウは顔を歪める。自責に念に駆られながらも戦う手を止めることはない。そんな彼の耳に、ベルの声が聞こえた。普通なら聞こえる筈が無いが、何故か耳に入ってきたのだ。

 

 

 

 

───僕、リリだから助けたんだ。

 

 

 

───上手い理由なんて見つけられないよ。リリを助けることに、理由なんて………

 

 

 

 

「────ハッ」

 

 

理由なんて無い、自分の問いと同じ事を言った少年にキョウは咄嗟に笑っていた。自らの口から溢れた感情に不思議に思いながらも、口角を緩ませる。

 

 

 

この先には行かせない。キョウは決意する。自分を裏切り、同時に裏切られた少女の嗚咽と、少年の思いを耳に聴きながら、キョウは改めて決意した。

 

 

 

彼等を守るのは他ならぬキョウの贖罪。苦しみ続けてただそうするしかなかった少女を、仕方ないと切り捨ててしまったキョウ・レギオンがしなければならないこと。

 

 

謝ろう、彼は思う。少年とあの少女に。自分のしたことを、心から謝ろう。その為にも、全員が生きて帰らなければならない。

 

 

ピシリッ! と脳内に響く。表面を覆っていた氷が砕け、剥がれていく音。あまりにも軽い音はある事を意味していた。

 

 

女神フレイヤが見ていた魂。分厚い氷に包まれていた彼の魂が僅かにだが姿を見せる。少ししか無いが、それでも氷の膜が融解したのは間違いない。

 

 

 

────彼の心の変化。迷宮の上、バベルの上で慈愛ある女神は小さく笑った。その変化を喜ぶと同時に、寂しそうに。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、『ダレカ』は小さく笑う。禍々しい色をした八本の鎖が繋がった、同じ数ある槍によって全身を拘束された『ダレカ』が。

 

 

いずれ来る未来を楽しむように、そして姿の見えない誰かを憐れむように、ただ笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの出来事から数日が経つ。

 

西方のバベルの門の付近。数多くの冒険者が通り過ぎるその場所に、ローブを着込む少女が座り込んでいた。

 

 

 

リリルカ・アーデ。

あの時、自分を助けてくれた二人から離れた彼女は行く宛も無く彷徨っていた。【ソーマ・ファミリア】の仲間達はリリを死んだと決めつけたらしく、その存在を気にした様子はなかった。

 

 

 

どうするべきか、彼女はそう思い悩んでいた。だからこそ、自分の元に近寄ってきていた人物に気付けなかった。

 

 

 

 

 

「サポーターさん、サポーターさん。冒険者を探していませんか?」

「えっ?」

 

 

顔を上げると、そこには見知った白髪の少年がいた。その後ろには同じく知っている青年が付き添うように立っている。

 

ただ呆然とするしかないリリに、ベルは優しく笑いかけた。

 

 

「混乱していますか? でも、今の状況は簡単ですよ?サポーターさんの力を借りたい半人前の冒険者の二人が、自分を売り込みに来ているんです」

 

リリは思わず隣にいる青年の方を見る。彼は申し訳ないようにしていたが、すぐに困ったように笑う。それは受け入れているかのようにも感じられた。

 

 

ベルは恥ずかしそうに、右手を伸ばす。

 

 

「また僕たちと一緒に、ダンジョンへもぐってくれないかな、リリ」

 

 

たったそれだけの言葉が、どれだけ嬉しかったか。リリは頬を赤く染め、涙ぐんだ瞳で二人を見て、

 

 

 

 

「───はいっ、お二人様、リリを連れていってください!」

 

 

ベルとリリ、キョウの三人。彼等の関係がリセットされ、新しく始まる。

 

 

 

 

 

 

 

彼等がそうしてる間、十二階層で一人の青年が戦っていた。四つの色が混じった剣を振るい、それに応じるように四色の魔法が周囲のモンスターを殲滅していく。

 

 

 

彼の名は、カイ・ソルヴァーナ。

四元素の魔法剣士(フォーエレメント・セイバー)】という痛々しい二つ名を持つ青年は、普段のような穏和さとは全く違う様子だった。鬼気迫るような、どちらかと言うと自分自身を追い込むような。

 

 

 

モンスター達を片付けた後、彼はボロボロの身体だった。腕は焼け、顔にも切り傷が残っている。そんな重体にもかかわらず、カイはポーションを軽く飲んだ。それだけを終えると、すぐさま魔石を剥ぎ取って立ち去っていく。

 

 

 

 

「………もっと、もっとだ」

 

 

 

深層へと進む彼の姿は、危なっかしい所ではない。寧ろすぐにも死ぬかもしれない。それでもカイは足を止めることは無かった。

 

 

 

「もっと────強くならなきゃ、強くならなきゃいけないんだ………!」

 

 

 

全てはファミリアの、自分を受け入れてくれた主神と団長の為に。そして、自らが冒した、弱さ故の罪を償う為に。カイ・ソルヴァーナは死地へと自ら進んでいった。

 

 

 

 

 

 

彼の後ろ姿を興味深そうに見つめる存在の視線に気付かず。薄い金髪を揺らし、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

「─────彼は、いいな」




リリとの話は終わりました。キョウさんは後で土下座(極東の人から教わった奴)でリリに謝るらしいですね(他人事)


ベルの宿敵がいるように、キョウさんの敵も作らなければならない………!!魔王殺しになる人なんだから、ミノタウロス並もしくは以上の奴にしないと!!(無茶振り)
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