新約 ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか?   作:虚無の魔術師

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悪意

「カイくんが行方不明って、本当なのかい?」

「ああ………三日前から帰ってきていない。いつものように無茶をしているのかしれないが、今回ばかりは胸騒ぎがするのだ………」

 

自身のホームである教会でヘスティアは神友のミアハの話を聞いていた。焦った様子で此方に訪れた彼は自身の眷属がダンジョンで何か合ったのだと主張し、ヘスティアはそれを信じて疑わない。

 

─────神だからこそ、子供の異変にいち早く気付ける。それはヘスティアでも同じだった。だからこそ、彼女はミアハの眷属である少年に何かが起きたと確信し、対処を考える。

 

「ギルドには報告したのかい?」

 

「依頼は出した。だが、今のところ音沙汰はない。………どうしたものか」

 

二柱の神が悩んでも答えは出ない。どうにか他のファミリアニでも頼めないかと考えたところ─────、

 

 

「─────どうやら取込み中のようだな」

 

ヘスティアとミアハを見下ろすように、外套を纏う男が口を開く。おわっ!と驚いたヘスティアとミアハだが、男が自分達と同じ神であり─────神の中でも滅多に会わない存在であると理解する。

 

「まさか、オーディンかい?」

 

「………久しいな、ヘスティアにミアハ。息災で何よりだ」

 

「驚いたな、オーディン。そなたが動くとは………して、何の用だ?」

 

ヘスティアはともかく、オラリオで長い時を過ごしてきたミアハは知っている。オーディンは表舞台には滅多に姿を見せない、魔王関連の事態を管理する神である。そのオーディンがここに来たということは、魔王関連の何かが起きたというべきか。

 

オーディンは懐から取り出した紙を二柱の神に見せ、語り始めた。

 

「迷宮に、魔王の眷属が現れた。恐らく、守護の魔王が生み出したものだろう。今は冒険者を襲い、力を蓄えている。想定であれば、レベル2、もしくは3に匹敵する怪物だ」

 

描かれていたのは、何倍もの大きさの怪物であった。白い肌に金属的な見た目をしたヒト型の魔物。胴体以上の大きさの腕には何処から作り出したか分からない大斧を二本も携え、闊歩しようとしているその姿は明らかな強さが滲み出している。

 

恐らく、迷宮に隠れていたオーディンの眷属がこれを描いたのだろう。あまりにも精巧すぎて感心するが、オーディン曰く問題はこれだけではないらしい。

 

「更にもう一体。未知の魔物が確認されている。恐らく、魔王が関係しているものだ。今は他の冒険者に危害を加えてないらしいが、時間の問題だろうな」

 

同時に差し出された髪には、同じように魔物の姿が書き出されていた。人一倍、大きな魔物。全身鎧を身に纏ったそれは片手に剣を握り、兜の隙間から2つの光を妖しく光らせていた。

 

「─────」

 

その姿を目の当たりにしたミアハは、呼吸が止まりそうになった。理由は分からない。胸を強く抑え、汗を滲ませる男神にヘスティアもオーディンも怪訝そうになる。

 

「…………何故だ」

 

苦しそうに呻くミアハ。彼は必死に、自分に起きていることを否定しようとして、無理矢理言葉を絞り出すしかなかった。

 

「何故この魔物に、ここまで胸騒ぎがするのだ………ッ!」

 

 

驚愕に目を見開くヘスティアの横で、オーディンは隻眼を細める。それだけで彼は全てを理解した。あらゆる事態に於いての、最悪の可能性を。

 

 

◇◆◇

 

「─────」

 

いつも通り迷宮を潜っていたベルとキョウであったが、妙な感覚に身体が震える。十階層にいる二人は同時に周りを見渡すが、異変らしきものは感じられない。───────そう、魔物が見当たらないのだ。見つけたとしても、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 

「………何か、変ですね」

 

キョトンとしていたリリルカすらも張り詰めた二人の空気から、周囲の違和感を感じ取れたらしい。怯えるように二人の背後に隠れる少女を庇うように、ベルとキョウは静かに構えを取る。

 

目の前の草むらが揺れると同時に、ゴブリンが飛び出してきた。慌てた様子で腰を抜かしながら、ベルやキョウたちを無視してそのま走り去ろうとした───────直後、上空から飛来した影が、ゴブリンを叩き潰した。

 

 

「─────っ!!」

 

全員が凍り付く。眼前にある巨大な影─────鎧を纏った騎士のようなナニカは、ゴブリンを大剣で引き裂いた。バラバラに肉を裂いて、中に埋め込まれた魔石を掴み取る。

 

ジュルリ、と液状化した手の中に沈む魔石。既に無惨なまでに八つ裂きにされたゴブリンから意識を逸らしたソレは、近くにいたベル達へと顔を向ける。

 

兜の隙間から覗く、二つの眼がギョロリと動く。此方を認識された、と理解したベルとリリルカが硬直したように立ち尽くす中、キョウは長剣を抜いて、いち早く戦闘態勢へと移る。

 

瞬間、鎧の魔物は全身を震わせ、

 

 

【─────────ッ!!!】

 

張り裂けんばかりの歪んだ咆哮を、吐き出す。そのまま獣のように地面に手を添えたと思えば─────目に見えぬ速度で跳躍。キョウ達の方へと飛来し、大剣を勢いよく振り上げる。

 

「ッ!二人とも避けろォ!」

 

口で言うが、間に合わない。咄嗟にキョウは二人を蹴り飛ばした。少し離れた場所に投げ飛ばされたベルとリリルカの前で、キョウは鎧の魔物に叩き潰された。

 

 

「キョウさん!?リリ!キョウさんが─────」

 

慌てながら自分と同じように吹き飛ばされたリリルカを探そうとしたベルの呼吸が止まった。硬直したリリルカの前に、鎧の魔物が一瞬で移動していたのだ。座り込み、大剣を片手に青ざめたリリルカの顔を覗き込んでいた。

 

【─────】

 

「ヒッ………」

 

興味本位だろうか、向けられた眼差しに動くことすら出来ないリリ。そんな彼女に鎧の魔物は手を伸ばした。彼女の頭を掴み、そのまま握り潰すように、指を掛けようと─────、

 

 

「─────ファイアボルトぉおおおおおおッッッ!!!!」

 

 

未知への恐怖に対し、リリを失う恐怖が勝った。ベルは咄嗟に突き出した掌から魔法を、猛火を放つ。正面から直撃した鎧の魔物は大きくよろけ─────、

 

 

「…………え」

 

何事もなかったかのように、平然と起き上がった。ベルの放った魔法は、鎧の装甲を軽く焦がしただけで、大した傷を残せていない。茫然自失するベルに狙いを定めた鎧の魔物、剣を振り上げるソレに、リリが悲鳴のように叫ぶ。

 

 

瞬間、

 

 

「おおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」

 

 

視界を、氷が覆い尽くした。頭から血を流したキョウがベルの前に飛び出し、氷の壁で鎧の魔物を包みこんだのだ。それも一回では終わらない。両手を繰り返し振り上げ、更に強固に上から凍らせていく。

 

鎧の魔物の抵抗すら許さず、完封する。数秒もすれば、真っ白な氷で構成された巨大な棺がその場に鎮座していた。過剰な魔力の使用により、激しい息切れを整えようとするキョウは振り向くことなく吐き捨てる。

 

「逃げろ、ベル。アレは俺が相手をする」

 

「っ!キョウさん一人でですか!?僕も一緒に!」

 

「………お前の魔法であの程度、恐らくレベルは3か4クラスだ。レベル1のお前では─────ハッキリ言って足手まといだ」

 

冷たく告げるキョウの姿は、ベルが見たこともない程に張り詰めていた。恐らく、キョウ自身も相手が務まるか分かってはいないのだろう。だからこそ、ベルだけでも逃がそうと考えての行動なのかもしれない。

 

「でも!キョウさんを一人にするわけには─────」

 

「─────リリルカをどうする!誰が守れる!?その子を一人で逃がすつもりか!?」

 

鋭い怒気の籠もった怒鳴り声を受け、ベルは自分の手を掴む少女の存在を思い出す。確かにそうだ。ここでベルとキョウがやられれば、次に犠牲になるのはリリしかいないだろう。目に止まった存在を殺すこの魔物がリリだけを見逃すとは思えない。

 

考えた結果、ベルには苦渋の選択を選ぶしかなかった。

 

「………必ず、助けを呼びます。だから、頑張って下さい!」

 

「さっさと行け、邪魔だ」

 

心にも無い悪態であると、ベルとリリルカは理解していた。上層へと向かっていく二人の背中を見届けたキョウは、冷や汗を拭い、眼の前の氷の壁に向き合う。

 

 

─────改めていうが、キョウの天性の才能である氷の能力はオラリオでも屈指のものである。その気になれば、大型モンスターや街一つは凍らせることが出来る為、自他ともに氷の力への自信は強かった。

 

だが、その力も無敵ではない。弱点と呼ぶべきものが2つほど、存在するのだ。

 

一つは、圧倒的な実力差。レベル1.2程度の差であれば何とかなるが、それ以上差が開けば相手には通じない。かつて、レベル1の時代に対面したオッタルとの戦いで、それが実証されていた。

 

そして、二つ目─────

 

目の前の氷が突如溶け始めていく。何が起きているのか理解し、顔を強張らせるキョウの視線の先で、鎧の魔物が氷を破ってきた。全身から異常なまでの熱気を放出し、手と剣に炎を纏いながら。

 

─────氷と致命的に相性の悪い、炎系である。

 

「ああ、相性最悪だよ!クソッタレがッ!」

 

【──────────ッッ!!!】

 

 

◇◆◇

 

全速力で、走るベルとリリルカ。辺りに目もくれず、ただひたすら外へと、誰かの下へと向かう。今も未知の魔物と戦っているであろう、キョウへの助けを呼ぶためにも。

 

言葉もなく、全力疾走する二人。彼等が9階層に踏み込んだところで──────ソレは、ベル達に気付いた。

 

 

【────────】

 

物影から、ゆっくりと歩み出る大型の魔物。呑気に歩いているその個体に、ベルとリリルカは足を止めてしまった。あのまま走っていれば、きっと激突していた。そうなればどうなるか、想像に固くない。

 

両手に斧を握るその魔物はベル達を見下ろし、首を傾げていた。何処か人間らしい感情が見られるのは、気の所為だろうか。それは目の前の相手を理解していないのではなく、此方の出方を伺っているようなものに思える。

 

だからこそ、先手を取ろうと動く。

 

 

「ファイアボル──────っ!?」

 

直後、此方に迫った魔物が斧を振り上げていた。咄嗟に詠唱を止めたベルは、慌てて緊急回避をする。大振りで動きは見える、だが、その威力だけは桁違いであった。

 

一撃で、地面、そして壁すらも割れる。たった一振りの斧の一撃。恐らく、アレが魔物の出せる全力なのだろう。青ざめるベルの視線の先で、魔物が笑ったように感じた。─────良く避けた、と。

 

「────ファイアボルト!」

 

 

今度は前に飛び出したベルが、掌から爆炎を撃ち込む。至近距離で防ごうとした魔物は咄嗟に斧を振るい、襲い掛かる爆炎を切り払った。息を呑むベルの前で、魔物は消え行く炎を凝視し、口を開いた。

 

【今ノハ、魔法カ?】

 

「…………え」

 

「今、喋った………?」

 

ベルとリリも、呆然と立ち尽くす。途切れ途切れの言葉は違和感しか感じられず、言葉を覚えたての子供や外乱人のようにたどたどしい。だが、ある程度は理解しているような雰囲気だけは、魔物から感じられた。

 

【速イ。魔法自体モ、他ノ魔法ノヨウニ、詠唱ニ時間ガイラナイ。面白イ、実ニ面白イ。ソレガ、貴様ノ切リ札カ?】

 

「…………」

 

【ダンマリ、カ。マアイイ、マトモニ会話シテクレル奴ハイナカッタカラナ。マア、仕方ナイ】

 

 

両手の斧を地面へと下ろし、魔物は笑う。歯を剥き出しにして、純粋な戦意を噴き出させる。そこには人にはない、魔物らしい意志があった。

 

 

【アト少シ食ベレバ、『言葉』ハ完全ニ理解スル──────ボウケンシャ。貴様等ヲ食イ、我ハ完全ニ近付コウ】

 

血に濡れた歯と同じように汚れた斧、そして魔物の言葉で全てを察した。前々から聞いていた冒険者の行方不明者、彼等はこの魔物に襲われたんだ。僅かにでも神の血を宿す冒険者を喰らい、この魔物は強さと知性を手に入れようとしている。

 

そして、ベル達は選ばれてしまった。この魔物の新たな贄として。故に、ベルに出来ることは一つしかない。

 

 

「………リリ、僕が相手をするから。その間に逃げて」

 

「べ、ベル様……でも」

 

「お願いだよ………!今もキョウさんが戦ってるんだ!早く助けを呼ばないと、僕もリリも、キョウさんも殺される!」

 

今だって、一階層下でキョウが魔物と交戦している。彼よりも圧倒的に強いモンスターが相手である以上、死ぬ可能性のほうが高い。だからこそ、強者の助けを呼ばなければならない。そして、それはベルではなくても可能なのだ。

 

涙を堪えたリリは静かに頷く。これでベルのやるべきことは決まった。リリを逃がし、あの魔物の足止めをする。そうと決まれば、やるべきことは決まっている。

 

 

【────話ハ、終ワリカ?】

 

此方を見下ろす魔物に対し、ベルは答えない。その代わり、短剣を手に魔物へと突撃した。ソレは驚きながらも、振り上げた斧を叩き下ろす。自分を砕く破壊の一撃を、持ち前の速度で回避するベル。

 

そのまま腕を踏みつけ、ベルは魔物の顔を切った。深くはない。ベルの振るった刃は魔物の皮膚に軽い傷を残すだけに留まる。だが、その事実が魔物の興味をベルへと集中させた。

 

 

──────その魔物の横を、リリルカが全速力で走り去る。意識を取られていた魔物はリリルカの闘争に気付き、斧を振り上げる。投擲して、一撃で殺そうかと考えていた直後、魔物の背中を爆炎が襲った。

 

「───僕が相手だッ!!」

 

【──────貴様、イイナ】 

 

 

震えながら覚悟を絞り出すベルに、魔物は心から嬉しそうに笑っているようだった。両手に握る斧を重ね、火花を散らしながら魔物──────魔王の眷属は高揚に身を震わせる。

 

闘争に愉悦を覚えるように、魔物は口元に刻んだ笑みを緩めることなく、勢いよく斧を振り上げた。

 

 

◇◆◇

 

 

ダンジョンの7階層、ある一団が狭い通路によって入り組んだ迷宮を進んでいた。【ロキ・ファリミア】の主力メンバー。彼等がこの階層を進むのは、通常の遠征とは違い、ある神からの公式的な依頼である。

 

──────現在放逐中の『魔王』の調査。

その為、レベル6が二人、レベル7が一人。他限られた実力者で構成された一団は万が一のため、魔王討伐が可能である戦力が集められている。

 

だが、この一団全員が【ロキ・ファミリア】の人間ではない。

 

 

「ねぇねぇ、ティオネ。どうして他のファミリアの人を先導させてるの?雇ったサポーターじゃないんでしょ?」

 

「………馬鹿ティオナ。前の話、もう忘れたの?」

 

 

アマゾネスの少女が双子の姉に疑問を投げ掛ける。彼女が気になっているのは、自分達のトップであるフィンやリヴェリア、ゼルより前に出ている不思議な少女にあった。

 

白装束に身を纏う、少女騎士。所々に羽を思わせる装飾を纏う少女は機械的な表情を浮かべたまま、一定の速度で【ロキ・ファミリア】の前へと進む。

 

呆れたような姉の言葉に純粋に分からないと首を傾げるティオナ。その疑問に答えたのは、団長である小人族(パルゥム)のフィン・ディムナであった。

 

 

「彼女達は『戦乙女(ワルキューレ)』だ、ティオナ」

 

 

戦乙女(ワルキューレ)』。

大神 オーディンの眷属である娘たち。彼女達は普通の人間ではなく、神話の時代にオーディンの手によって生まれた実の子供である。神代──────魔王が猛威を振るっていた時代から生きる彼女達は人形のように不変で美しく、人々からは伝説のようなものとして見られていた。

 

 

「『戦乙女(ワルキューレ)』は互いに思考を送り合えるからね。魔王が現れた際、仲間や地上への連絡が素早くできるというわけさ」

 

「なるほどー!フィン、やるぅ!」

 

「………それにしても、探知すら出来るとは。これなら遠征も楽になる。時勢が落ち着けば、彼女達にも協力を頼みたいところだな」

 

 

同じ個体と意志共有し合える彼女たちだからこそ、魔王が現れた際に迅速に対応することが出来る。それ以前に、モンスターの探知すら可能である彼女達は、ダンジョンの攻略には優秀すぎる存在だった。

 

だが、そんな状況が気に入らないのか。自分たちより前を行くワルキューレを見据え、ベートが不機嫌ながら吐き捨てる。

 

「ふんッ、くだらねぇ。こんな人形みてぇなガキを使って、何をビビったんだ?相手は大昔に封印された魔物モドキだろ」

 

「…………お前は物事を正しく理解できてないようだな」

 

「うるせー。魔王が何だ。昔に暴れられたからって、何を慎重になってやがる。こんなうだうだやってないでさっさと追い立てて、消せば良いんだよ」

 

「それが出来れば苦労はしない。魔王は我等滅ぼせないからこそ、封印するしかなかった。それを忘れたか」

 

 

そう。

過去の歴史において、魔王を殺せた人間はいない。殺せたとしても、魔王は魔力さえあれば復活を果たすある意味では不死の存在。だからこそ、太古の人々や神々は圧倒され──────封印という選択に縋るしかなかった。

 

だが、例外も存在する。ただ一人だけ、魔王に対抗できる人物がオラリオにはいるのだ。魔王を殺し、確実に滅ぼせる力を持つ者が。

 

 「────キョウ・レギオン。現在の『滅魔』である彼以外に魔王を滅することが出来る人間はいない。それ故に、地上と連携を取れるようにする必要がある。これはロキも了承済みだ」

 

「ハッ!あんな雑魚が俺達の切り札ってか?随分と腰が引けてるなぁ、エルフ様は!まだレベル1の雑魚に頼るなんて随分と社交的だ!」

 

強者としてのプライドを譲らないベートの煽りに、リヴェリアは目を細める。他種族である以上、言い争いが起こることはよくあるが、最近はベートがそういう事が多い。基本的に真面目で悪く言えば堅物であるリヴェリアとは、意見が合わないことが多いのだろう。

 

言い争うウェアウルフとエルフを尻目に溜め息を漏らしたフィンは流石に目に余ると思ったのだろう。そこで、この会話を止めれる仲間に声をかけた。

 

「任せたよ、ゼル」

 

「………何故俺が?」

 

「ベートが素直に話を聞けるのは君くらいだからね」

 

当の本人、ゼルは心底面倒そうに顔を歪める。嫌そう、とファンも感じていたが、ここで譲れば自分が対応しなければならなくなる。

 

「お前の懸念も理解する。弱者に足を引っ張られたくない、いや犠牲になってほしくないのだろ?」

 

「………あ?何抜かしてやがる」

 

「安心しろ、アレはお前よりも強い。アイズとも劣らない実力と経験を持っている。今のお前では相手にすらならないから、心配するだけ無駄だ」

 

「……………………ハァ?」

 

バッサリと切り捨てるような発言に、ベートの表情が強張った。舐められてる、そう判断した狼人の顔が怒りが真っ赤になる。自分を弱いと断ずるようなゼルに食いかかるベートだったが、ゼルは「お前の論理だろ」と適当に流す。

 

「そんなに気に入らんのなら、相手をしてもらえ。最も、お前ではマトモに戦えず、転がされるだけだがな」

 

「─────おい、人形女。少し面貸せ」

 

「この後に決まってるだろ、馬鹿か貴様は。相変わらず単純で安心する」

 

憤慨したであろうベートが食いかかるのを容易く無視するゼル。そんな彼等(主にベート)を見て笑うロキ・ファミリア一同。損な最中、人形のような雰囲気の目立つ二人─────アイズとワルキューレの少女が同時に顔を上げた。

 

 

「─────来る」

 

 

それは、闇の中から現れた。尋常ではない魔の気配、明らかにケチ違いな重圧を放ちながら。

 

 

「久し振りだな、剣姫。そのオマケ御一行」

 

「魔王………フレウルス」

 

 

怪物祭の時みたいなボロ布を着込んだ姿とは違い、何処から手に入れたのか禍々しい衣装に身を包んでいる。金色の長髪を軽く払い、全員へ殺気を放つ。

 

「………アレが魔王。なるほど、確かに悪くはない。中々の強敵だ」

 

「中々、なんて言えるのは君だけだよ────それにしても、また一段と強くなってるようだ」

 

「ああ…………怪物祭の時以上の威圧感だな。これでは到底油断などできん」

 

 

ロキ・ファミリアの最高戦力の三人が各々の反応を示す。レベル6のリヴェリアやフィンは冷や汗を隠さず、ゼルは目を細めながらも口元の笑みを深めていた。恐らく、本気でやり合える相手だと確信したのだろう。

 

少なくとも三人は目の前の魔王が、今まで相対してきたモンスター以上だと理解していた。

 

「─────ッ」

 

「あれれ?ベート、もしかしてビビってるの?あんな大層なこと言ってたのに、ダッサーい!」

 

「………うっせぇ、武者震いだ脳筋女。俺はテメェと違ってやる気だけはあんだよ。薄っい胸したテメェと違ってな」

 

「それは!今!関係ないだろぉおおおおおおおおおッッ!!!」

 

「あんた達うるさい!」

 

 

そんな三人の後ろで騒ぐティオナ達。そんな彼等を見ていたのは、先導していたワルキューレの少女だった。

 

「…………」

 

「えっと………ごめんね?」

 

「…………」

 

近くにいたアイズがそう言うと、少女はコクコクと頷いた。無口で感情を見せず、人形みたいな雰囲気の漂う二人はいつの間にか仲良くなっている様子だった。一人取り残された魔王は「………えぇ?」と困惑しながらも、状況が落ち着くのを待っていた。

 

 

「─────さて、貴様らと殺し合うのも悪くはないが、生憎今日は面白いものを見せに来ただけだ」

 

「………面白いもの?何を言って」

 

「─────カイ・ソルヴァーナ」

 

今度こそ、ロキ・ファミリア全員の空気が凍り付いた。その名を知らないわけではない。先日から、迷宮で行方不明になっていた冒険者の一人だ。他の冒険者とは違い、神から唯一生きていると提言されていた。

 

だからこそ、見つければ救助する予定だった。魔王がその名前を口にすることがなければ。

 

「行方不明なんだって?可哀想に。神や仲間のことを考えると、彼等がどれだけ心配しているのやら………ああ、胸が痛い話だ」

 

「─────彼に何をした」

 

「…………望みを叶えた。彼の心からの願いを叶える手伝いをしてやったのさ。今はその恩返しとして、私の為に働いてもらってる。

 

 

 

 

─────実に良い素材だったからな、彼は」

 

 

そうだけ言って、パチン!とフレウルスは指を鳴らした。

 

 

◇◆◇

 

 

【─────!!】

 

 

突如、鎧の魔物が呻き悶え出した。此方を無視して暴れるその姿に、キョウは攻撃の手を止め、困惑してしまう。躊躇した理由は、それだけではない。

 

────魔物の咆哮が、人のそれに似ていた。

 

だが、見境なく暴れ始める魔物の攻撃が此方に届く。咄嗟に回避したキョウは正気に戻り、長剣を振るい跳び上がる。冷気を帯びた一太刀を魔物の顔に浴びせた。

 

 

【───────ァ】

 

 

魔物の顔を覆っていた兜が音を立てて割れる。振り返り、氷の塊を飛ばそうとしたキョウは─────目を疑い、言葉を失った。

 

 

「…………何で、お前が」

 

【───────ぅ、あ─────】

 

「何でお前がそこにいる!? カイ・ソルヴァーナっ!!?」

 

 

鎧の魔物、その中にいたカイは答えない。彼は黒いナニカに身体を蝕まれながら、うわ言を繰り返すばかりでその瞳に意識はない。そんな彼等をあざ笑うように、カイの全身と額に浮かぶ黒いナニカが蠢く。

 




ワルキューレ
神オーディンの眷属兼娘。人間でもない、亜人でもない特殊な種族。魔力の反応に敏感で、ワルキューレ同士で知覚によって情報共有が可能。

個体によって性格が違うが、殆どが感情の起伏がない。だが、全ての個体に共有して、英雄への情景を秘めており、自身が認めた相手とは生涯を共にしようとする(オーディンも容認してる)
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