新約 ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか? 作:虚無の魔術師
「ダメじゃない、いきなり五層まで潜っただなんて」
ギルドの一室にて、眼鏡をかけたエルフの女性は目の前の冒険者を叱る。その少年、ベルは血で濡れた全身を洗い終え、彼女の説教を受けていた。
「で、でも」
「でもじゃない。どうせいつも潜ってるって言おうとしたんでしょ?それは彼がいるから許してるの。ソロのベル君が五層まで潜るのは許しません。冒険者は冒険をしてはいけないっていつもいってるでしょ?」
何があったかを纏めると、ダンジョンで受かれていたベルは五層へと降りていったところ、中層のモンスターであるミノタウロスに追い回され、死を覚悟した途端、他の冒険者に助けてもらい、何も言わずに逃げてしまい、今に至るということだ。
注意を受けてるベルの隣で彼と呼ばれていたキョウは静かに紅茶を啜っていた。彼も後輩を庇ってやりたいと思ってはいるが、目の前の女性の説教を受けるのは勘弁だと認識している。
「………はい、すみません」
「………本当に分かってるの?」
無論、彼女が冒険者に死んでほしくない一心なのはキョウも知っている。だが、大抵の冒険者は彼女の意図を理解しないのだ。
「その………それで……アイズさんのことなんですけど」
その言葉を聞いたエイナはため息を漏らした。助けてもらった人のことが気になっている目の前の少年を見て。だが、ピクリとキョウの肩が揺れるのをベルもエイナも見えていなかった。
「アイズ・ヴァレンシュタイン。【ロキ・ファミリア】所属。現在はLv.5で、剣の腕はオラリアでも上位とされ、神々から授けられた称号は剣の姫『剣姫』」
「それぐらいは僕でも知ってます。そうじゃなくて……こう趣味とか…………好きなものとか……
す、好きなひとが………いるのか……とか」
その時点でキョウとエイナは理解した。ベルはそのアイズ・ヴァレンシュタインに惚れているということを。
「なに?助けてもらったアイズ・ヴァレンシュタイン氏に惚れちゃったの?」
「はい!!」
即答する後輩に罪悪感が湧いてきた青年は顔をそらす。何故かというと、彼も知り合ったことがあるからだ。ていうか、たまに話をすることもある。彼は少年の為に黙秘することを誓った。
「それなら、キョウ君に聞いたらいいんじゃない?彼も話したことがあるらしいから」
「ブフゥ!?」
僅か数秒で誓いは破られた。優雅に飲んでいた紅茶を空中に吹き出し、キョウは矛先を向けてきたエルフの女性へと目を向ける。
「えっ!?キョウさんも話したことがあるですかっ!?」
「落ち着け、安心しろ、ベル・クラネル!俺も話したことがあるが、そういう風に親しいわけではないし、あの人も好きなひとはまだいない!」
興奮したようなベルの剣幕にキョウは戸惑いながらも、全力で否定する。それを聞き見えてきた希望に胸を踊らせるベルと荒い呼吸を整えようと深呼吸をするキョウを見たエイナは、告げた。
「でも現実的に考えても難しいと思うよ?」
ズバッと現実的な言葉がベルにダメージを与える。希望が一瞬で砕け散り、倒れ込むベルにキョウは当然だろうと頷いた。
ベルはまだLv.1にも関わらず、アイズ・ヴァレンシュタインはLv.5、絶望的な話だ。何より、ベルとアイズ氏はファミリアが違うのだ。どれだけ頑張っても難しいだろう。
(まぁ、何とも酷な話だな)
立ちあがり、項垂れたまま外へ歩き出すベルを見てキョウは心のなかで呟いた。
「ベルくん」
出ていこうとするベルを呼び止めるエイナにベルは振り向く。
「あのね、女性はやっぱり強くて頼り甲斐のある男性に魅力を感じるからめげずに頑張っていけば強くなったベルくんにヴァレンシュタインも振り向いてくれるかもよ?」
「エイナさんの言う通りだな。難しいとは言ったが、不可能とは言ってないしな。すぐにとはいかないだろうが、頑張っていけばいいさ」
二人の励ましにベルはだんだん明るくなっていった。そして出口へと駆け出すベルは声をあげた。
「はい!!ありがとうございます!!
エイナさん、大好き!!」
とんでもない言葉に二人は呆然とした。硬直していたキョウはベルの後を追いかけていった。
ファミリアに戻ったベルはヘスティアに先程のことを話した。馬鹿野郎と思ったが、既に遅し。ベルはまたヘスティアからも注意を受けていた。
「あ、そういえば僕オラリアでも有名だっていうお店に夕食を誘われたんですけど、二人とも行きませんか?」
「おう、俺は暇だから行くぞ」
「んー、悪いけど今日はバイトが大変でね。行かないとアキ店長に怒られるからさ」
ベルの誘いにキョウは応え、ヘスティアは断った。ベルは主神が行かないことにショックを受ける。
「まぁとりあえず、ベルくんのステイタスを更新しようかい!」
そう言ってベルのステイタスを更新しようとしたのでキョウは少しの間、部屋から出ていた。
その後、部屋に戻るとベルのステイタスを目に入れた。
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ベル・クラネル Lv.1
力I3
耐久I2
器用I1
敏捷I3
魔力I1
《スキル》
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「あ?」
キョウは眉をしかめる。
「あの、神様?ここにスキルの欄の跡みたいなものがあるですけど」
「あぁ、残念だけど間違いさ。ちょっと手元が狂ってしまってね」
「そうですか…………少しの期待したんだけどなぁ」
疑問を浮かべたベルの言葉にヘスティアはそう告げたが、その様子を見たキョウは確信を得た。
何かを隠してると。
「ベル、少し外で待ってろ。ヘスティア様と話がある」
突然のことにベルは戸惑っていたが、すぐに頷き部屋から出ていった。その様子を見届け、気配が消えたのを理解すると口を開いた。
「さて、ヘスティア様。包み隠さず話してもらおうか」
「…………やっぱり気付かれてたかい」
当然、と頷くキョウにヘスティアは一枚の紙を手渡した。内容はさっきのベルのステイタスと同じだったが、スキルのところには文字があった。
「【
見たこともないレアスキルにキョウは驚愕するが、スキルの特性に言葉を失う。
───早熟する
───
───懸想の丈により効果向上
誰かへの想いを糧にすることで成長する。その説明にキョウは絶句し、少し前のことを思い出す。
『なに?助けてもらったアイズ・ヴァレンシュタイン氏に惚れちゃったの?』
「………そういうことか」
何となく理解した。ベルの『剣姫』への想いにより、レアスキルが発現した、そう意味かと。
「キョウくんにもお願いだけど、ベルくんにこの事を言わないでほしいんだ」
「あぁ、分かってるさ」
女神の悔しそうな顔を見るに嫉妬してると考えたキョウは立ちあがり、外へと出ようとする。
「キョウくん」
ヘスティアの声に足を止めた。その声には少し悲しそうな感じがあったからだ。
「君は、僕のファミリアに入って、良かったかい?」
後ろから聞こえる声にキョウ立ち尽くす。そして、口を開いた。
「あんたは、俺を認めてくれた」
ボソリと告げられた言葉にヘスティアは顔をあげる。彼は振り返らずに言葉を紡いだ。
「『あの一族』としてではなく、キョウとして認めてくれた」
「使命を果すまで、俺はこのファミリアにいるさ」
そう言ってヘスティアへと振り返る。精一杯の笑顔を見せるとそのまま部屋から出ていった。
キョウはアイズとは知り合いです。少し話したこともあります。
キョウの最後の発言はいろんな見方ができるんですよね。
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