新約 ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか? 作:虚無の魔術師
今月は投稿頻度が(前よりかは)上がると思うので、よろしくお願いします!
徹夜でダンジョンに潜った事を女神ヘスティアに報告して叱られたキョウとベル。無茶をしないでくれ、とそう言われた事が悲しかったのか、トボトボと元気なく歩くベル。同じく横を歩いていたキョウが目尻を押さえたりしながら話した。
「そんな気張るなってベル。冒険者ってのは無茶するものだ。命は大事にすべきってエイナさんの言葉は納得だが、無茶を通さなきゃいけない時もあるさ」
「そうですか?………でも、迷惑をかけるには」
「おいおい、俺たちは同じファミリアだぞ?迷惑なんて掛けられようが文句は言わないさ」
その言葉に納得したベルにキョウは自嘲に明け暮れていた。
自分の出生も願いも明かさないくせに、何が同じファミリア──仲間だ。何もしないのに綺麗事だけは偉そうに語るな、と。
そんな最中、大きな道を進む二人は辺りでざわめく人々に目を剥きそうになる。しかしキョウだけは何かに気づいたように頷く。
「あぁ、そういえば………もうすぐだったな」
「?何がですか?」
「そうだな、少し前に来たベルは知らないのも無理はないな。オラリアでは定期的に─────、
悪い、ベル。少し頼みがあるんだが、良いか?」
会話の途中でキョウは鋭い視線を人の波に向ける。怪訝そうに覗き込もうとしたベルに、変わらない声音で呼び掛けた。
当然、その声に先程までの穏和さは残っていない。
「俺のとこのお得意様の《ミアハ・ファミリア》ってファミリアがある。そこの団員の人に、俺の名を出してくれ。頼んでたポーションをくれるだろうしな」
「あ、あの………キョウさんは?」
「用事があるのを思い出した。──頼まれてくれるよな?」
半ば強引にベルをその場から立ち去らせたキョウ。不安そうに 大丈夫ですよね?と聞く少年に軽く応酬を返しておいた。
そして、少年のいなくなったその時だった。
「よぉ、『
スッと、複数人の男たちがキョウを囲んできた。周りも人混み故に不審がられてはいないが、一部の者たちは怪しそうに此方を見るが、すぐに視線を反らす。
この男たちは冒険者だ。レベルは1くらいが妥当だろう。
「…………何だ?揃いに揃って、買い物にでも行くのか?」
「茶番はいい、本題を言わせてもらう」
「俺たちんとこの神様が、お前を入れたがってんだが……勿論、来るよなぁ?」
チッ、と露骨に舌打ちをする。これだ、自分の正体を知った途端、明らかな様子でファミリアに勧誘してくる。(にしてもコイツら、もう少しマシな勧誘の仕方は無いのかと思うのだが、一々考えても無駄だと割り切る事にする)
それが、反吐が出る程に腹が立つというのに。そんなキョウの怒りに男たちは気付かない。
無視して男たちの横を通り過ぎようとしたキョウの肩を男の太い手が掴む。キョウはギロッ!と睨み、諦めた嘆息する。
たったそれだけの行動で、男の野太い腕が氷に包まれていく。凍結は肘の部分だけで収まるが、男たちは戸惑いの声をあげていた。
キョウはそれらを一瞥し、酷く冷えきった声で告げる。
「今回は見逃してやる、失せろ」
すぐに氷結を溶かしてやると凍っていた腕を抱える男に続いて、取り巻きらしき男たちも逃げていった。くだらないと鼻を鳴らすキョウは、再び道を歩き出す。
どいつもこいつも、自分を
誰もが、キョウという青年を見ようとしない。見ているのは結局『滅魔』だけ。
「……………ハッ」
元からキョウの信頼できる者たちは、ヘスティア・ファミリアと少数の者だけだった。その事実に乾いた笑いが込み上げてくる。
ダンジョンに潜ろう。この空虚を満たそう、早く強くなろう。そしてこの身を縛る使命を果たす、その暁には─────。
決意を胸に、いや魂に刻み込み、キョウは歩み出そうとした。
「あー!キミはあの時のー!」
「……?」
突然響いた大声にキョウは眉をひそめる。声の方向を見ていると、アマゾネスの少女たちが立っていた。何か覚えがある事に気付き、心の中で呟く。
(………ロキ・ファミリアにいたよな、あの
一瞬、別の誰かの事だろうと思いそのまま立ち去ろうと思ったが、それをすぐに止める。彼女の身体、そして指先な此方の方に向いていた。明らかにキョウを呼んでいた事を理解する。
そのアマゾネスの少女、天真爛漫というべき明るさが目に見えて分かる。昔遠征帰りの時見ていたキョウは、大剣を使っていたと覚えている。
「あの時の………ベートに喧嘩を吹っ掛けた冒険者、だったかしら?」
もう一人もアマゾネスの少女、いや雰囲気なら女性と言った方がいいのかもしれない。隣の少女とは違い、落ち着いた人物。だが、昨日の『豊穣の女主人』で団長であるフィンに熱烈な奉仕行為(酒を飲まして酔わせようとしていた)をしていた人だった。
二人ともロキ・ファミリアの人間だ、何故こんなところにいるのだろうか。そう思っていたら、
「………久しぶり、キョウ」
後ろから声を掛けられた。ゆっくりと振り替えれば、見知った金髪の少女。
アイズ・ヴァレンシュタイン。ベルの憧れ、というか一目惚れの人物。その美しさからファンもいるとか、いないとか。
少しの間にアマゾネスの少女たちが近付いてくる。あ、同じファミリアの冒険者だからな。と思う内にあることに気付いた。
────あれ?逃げられなくないか?
「あれー、アイズ。この人と知り合いなの?」
「……うん、前にジャガ丸くんを奢ってくれた。何回か」
「えっ!?アイズさんに奢った!?」
………何か騒がしいのがいるなぁ。
と思い、見てみたらそこにはエルフの少女がいた。彼女もロキ・ファミリアの人間なのは覚えている。だが、他の奴等が個性豊か(解釈を任せる)過ぎて、
「ねー、エッジくん。何もすることないの?」
「……エッジ?」
「『
「あの………俺の名前はキョ「皆ー、エッジくんも連れて行っていいよねー?」って話聞いてないッ!?」
あまりにも無邪気なアマゾネスに振り回される。ここまで翻弄されるのは生涯で初めてだった。
……不味い、このままじゃよく分からん事に巻き込まれる。そんな予感に駆られたキョウはすぐさまこの場から立ち去ろうとする。
しかし忘れてはならない。ここにいるのは格上の冒険者たちなのだ。
「…………ジャガ丸くん」
「あ、アイズ?何で俺の腕をガッシリ掴んでいるのでしょうか?詳しい説明を頂きたいのですが……」
「ジャガ丸くん」
「あっ、ハイ。ジャガ丸くんが食べたいんですね。分かりました後で奢りますので、その腕を離してくださいませんか」
返事はない。
人形のように麗しい顔を向けてるが、彼女の中ではジャガ丸くんしかない。
可愛らしい顔を向けているが、今もなお彼女の腕はキョウの腕をガッシリとホルドーしている。ミシミシと音が鳴りそうなので、一刻も早く離してほしいと思うキョウ。
なので、最もまともそうな人────ティオネと呼ばれてた女性に助けを乞うことにした。
「………まぁ、別にいいんじゃない?そんな問題になることじゃないし」
しかし現実は非情。簡単に折れた、いや妥協したと言った方が正しいのか。
「……………」
最後に残ったエルフの少女は───無理そうだった。助けてくれるどころか、警戒したような目付きを此方に向けてきている。
頭を押さえたくなる衝動を押さえ込み、キョウは冷静な様子で少女たちを見据える。
(───これが《ロキ・ファミリア》の冒険者たち、か)
改めて、キョウは自覚させられる。彼女等は全員レベルは4、もうすぐ5になる者もいるだろう。そして、いずれはキョウが越えなければいけない壁を越えた者達。
しかし、
(…………いや、
呆れたというか、諦めたように少女たちに連れられたキョウは心の奥底で呟いていた。
「《ミアハ・ファミリア》ってここ、だよね?」
半信半疑で自分に問いかけるベルだが、勿論答えが返ってくる訳がない。間違ってたらどうしよう、そう思いその建物の前でそわそわとしていた。
すると、ベルの目の前で扉が勢いよく開けられた。
「はーい、いらっしゃいませ!お客様───ん?」
それと同時に大声で叫ぶバンダナの青年が言葉を途中で止める。ポカンとしたようだが、その目はジッとベルを見定めるようだった。
少しの沈黙の後に、彼は思い当たったように話してきた。
「もしかしなくても、君は《ヘスティア・ファミリア》に入ったっていう新人くんだよね?ミアハ様から聞いてたんだけど」
「は、はい!ベル・クラネルです!」
負けないくらいの大きな声で返したベル。それに青年は笑顔を浮かべ、胸を片手で叩く。
「僕はカイ、カイ・ソルヴァーナ。《ミアハ・ファミリア》Lv3の冒険者さ。今日は非番でお使いをしてるんだけどね」
軽めの紹介だったが、ベルはビクッ!と体を震わせる。
Lv3、自身の先輩であるキョウよりもカイという青年は上にいる。その事実を理解してしまったのだが、カイは気にしないでねと付け足す。
そんな応酬の最中、ベルはあ!と口に出した。思い出したのだ、何故ここに来たのかを。
「えぇと、キョウさんからポーションを貰ってきて欲しいって頼まれたんですけど」
「あっ!そうだった、確かに頼まれたよ!お代は既に出されてるから!祭の準備に少し時間が掛かるから待っててね」
ナァーザ団長!予約されてたポーションの準備をお願いしまーす!と扉の奥に叫ぶカイ。何かの合図で返事したのか、彼は満足そうにしていた。
そんな中、ベルは首を傾げる。先程の会話の途中の単語に疑問があったからだ。
「………祭?」
「そうさ!年に一度だから、皆も楽しみにしてるやつだよ!」
ベルは興味深そうに目を輝かせる。年に一度、それを聞いてたベルは忘れていたが、キョウが話そうとしていたことと同じじゃないかと。
そんな様子を気にせず、カイは声高らかに口にした。
「『怪物祭』、オラリアで行われるギルド主催のお祭りさ!」
迷宮都市オラリア。
そこで一番の建造物とされる、巨塔バベル。
その最上階、上質な部屋で一人の女性が窓際から街を見下ろしていた。正確には、別々の場所にいる少年たちに。
女神 フレイヤ。神々すら見惚れる美の女神にして、《ロキ・ファミリア》を抜いてオラリア最強とされる《フレイヤ・ファミリア》の主神。
彼女は両目をゆっくりと伏せ、呼び掛けた。
「───ねぇ、オッタル」
「ハッ」
影から、二メートルを越える大男が姿を現す。ただの人間ではない、獣の耳を生やす
そして、《フレイヤ・ファミリア》の主力とも呼べる存在でもあり、オラリアで二人もいるLv7、その一人であった。
「私が今、何を考えてるかしら分かるかしら?」
「………フレイヤ様の申されていた例の冒険者たち、それとも迷宮から現れた魔王でしょうか?」
「えぇ、両方よ。でも今は彼等────魔王について、かしら」
美の女神 フレイヤはオラリアに存在する神々の中で、封印から抜け出した『魔王』に気付いた一人、いや一柱だ。
他の神々も気付いているだろう。迷宮を見張るギルドの主神、考えの掴めない優男の神────そして、魔王との戦いで生き残った隻眼の神。
今のフレイヤにはどうでもいいものだった。それよりもと、後ろに控える従者に緩やかな声をかけた。
「オッタル、オラリアは復活した『魔王』に勝てると思う?正直に答えて良いわ」
「───今の戦力のままでは難しいかと」
低く静かな声音で、オッタルはそう結論付けた。オラリアで最強の一角と謳われる《フレイヤ・ファミリア》、その中でも群を抜く強さを誇る、彼が。
「封印から解き放たれた『魔王』なら倒せる可能性はありますが、太古の英雄と神々が封印を選ぶほどの存在。我々で倒せるのなら苦労はしないでしょう」
そうよね、とフレイヤは呟く。
『魔王』、このオラリアに存在する神々はその存在を知れど、強さを理解してる者は多くない。
現在の戦力では、全ての『魔王』に勝てはしないだろう。しかし例外が一人いるのだ、このオラリアに。
「そして、その内の一人がこのオラリアに潜んでる。本来の力を取り戻そうとしてるみたい………ロキもいずれは気付くかもね、何なら手を貸すのが最善ね」
口にしながら、クスクスと微笑む。同時に首を横に振っていた。それが何を意味するか、彼女に忠誠を誓うオッタルはすぐに察した。
教えるつもりはないのだろう、理由は単純。その気じゃないから、それだけ。
「
『彼』が力を取り戻そうとしたって今は関係ない、それ以上に優先したいことがあるの」
そう言って、フレイヤは窓際から動いていた。スッと手を上げるとオッタルは無言で頭を下げ、その場に立っている。
最後に窓の向こうに笑みを投げかけ、フレイヤは扉に手を掛けた。