「さて、とっとこれを治すとするか」
一誠の見下ろす先には、寝台でミイラの様なルイオスが横たわっていた。
そして一誠の後ろには執事服を着たルイオスの側近が不安そうな表情を一誠に向けていた。
「報酬の件忘れるなよ?」
「白夜叉様の“主催者権限”によって契約しましたから。ルイオス様を治して頂ければ必ずお渡しします」
その言葉を聞き、口の端を吊り上げる。
一誠が“ペルセウス”に要求した物は、普段なら絶対に受け入れられなかっただろう。
しかし、今の“ペルセウス”を立て直す為にはどうしても
そのため暴利ともいえる報酬を“ペルセウス”は一誠に支払うことを約束した。
またルイオスの症状は前代未聞で、白夜叉の好意もあり、例え治療に失敗しても一誠に何ら
(さて、始めるかドライグ)
(ああ)
一誠がルイオスの体に左手で触れると、赤い籠手が出現する。
美しい宝玉を携え、使用者の力をどこまでも高め、神をも屠る十三種の一つ『
『BoostBoostBoost!!!』
「譲渡」
『Transfer!!』
籠手から赤いオーラがルイオスへと流れていく。
それはルイオスの体の隅々へと浸透していき、
「ガアアァァァァアアアアァァアアアアアアアアッ!!!?」
ルイオスが激痛によってのたうち回る。
すぐさま一誠の手加減した重力魔法により押さえつけられるが、体は痙攣しビクビクと動いている。
一誠は右手に魔法陣を展開させ、ルイオスの状態を精査していく。
(ふむ、とりあえず実験は成功だな。“霊格”への強制干渉がどういった結果になるかはこれからだが)
(オーフィスの狙いが俺の推測通りだとしたら、油断はできない。今のうちに手を幾つか用意しておかないとな)
一誠は淡々と魔法陣に記されていく数字を記憶していく。
本来ならば、ルイオスを安全に治す方法は存在する。
魂が食い荒らされている、いわば生命力が低下している状態だ。
仙術によって徐々に生命力を回復させていくのが確実なのだが、それだと完治するまでどれほど時間が掛かるか分からない。
また、オーフィスの様に“霊格への強制干渉と肥大化”が可能なのかを一誠が実験したいこともあり、ルイオスの荒療治が実行された。
ただし、一誠とドライグを除き、それを知る者はいない。
(へぇ、安定したか。死ぬ確率の方が遥かに高かったんだがな。腐っても英雄ってことか)
(嬉しそうだな?)
(そうだな。性格は最悪のゲス野郎だが、素質はある。いずれ大成するだろう)
一歩を踏み出し、災厄に立ち向かう。
勇気と知恵を振り絞り、困難に立ち向かうことができる。
今は無理だが、ルイオス=ペルセウスはいずれ本当の“英雄”になれるだろう。
体も髪も元に戻っており、顔は涙とよだれでボロボロになっているルイオスを見下ろしながら、一誠はそう確信する。
「おい、こいつに言っておけ。『貴様に相応しいと感じたら返してやる』とな」
一誠はルイオスへと駆け寄る側近に一方的に告げ、その場を後にする。
◆
一誠が“ノーネーム”の本拠へと戻ると、そこには問題児組と黒ウサギ、ジン、レティシアの六人が待ち構えていた。
十六夜は開口一番、一誠に言い放った。
「おい一誠。俺と戦え」
一誠は視線を十六夜の後ろへと移し、興味津々の飛鳥と耀。苦笑しているレティシアとジン、オロオロとしながら今にも涙を流しそうな黒ウサギ。
なんとなく事情を理解した一誠は、呆れた表情をしながら十六夜に応える。
「あの時言っていたのは本気だったのかよ」
「当然だろ」
やる気満々で拳を構える十六夜を見て、一誠はため息を吐く。
確かに十六夜ならばそのうちもっと強くなるだろう。
もしかしたら一誠が驚異と感じるくらいに強くなるかもしれない。
だが、今現在は青い果実でしかない。
少なくとも白夜叉やアルゴールよりも弱い。
だから、一誠は一つ条件を付けることにした。
「黒ウサギ、お前も入れ」
「…………はい!? なぜ、どうしてそうなったのでございますか!!?」
「おい、一誠!」
突然の事にパニックになる黒ウサギと不満な表情を向ける十六夜。
一誠は黒ウサギを無視して十六夜と向き合う。
「二対一だ。それが飲めないのなら止めだ」
「まるで俺だけじゃ勝てない様な言い草だな」
「当然だろ。身の程を知れ」
その言葉に十六夜は幾つもの青筋を浮かべて一誠を睨みつける。
十六夜のそんな視線を受けても、一誠は脅威を一切感じなかった。
少なくとも十五年間、一誠は力の練磨を怠ったことは一度もない。
マトモな経験も技術もない十六夜に負ける気など一切なかった。
「ちょっと待ってください! 同じコミュニティの同士である一誠さんと戦うなんてできません!」
険悪な雰囲気を出す両者に、黒ウサギから待ったがかけられる。
献身を象徴する月のウサギである黒ウサギからしたら同じコミュニティの仲間同士で戦うのを止めたいくらいなのだ。
それに自身も参加するなど、黒ウサギとしてはできない。
「良いではないか、黒ウサギ」
「レティシア様!?」
「ここ最近、思いきり体を動かしていないだろう? ストレス解消程度の軽い気持ちで主殿にぶつかってみろ」
「レティシアさまぁ…………」
まさか問題児たちの味方をすると思っていなかったのか、黒ウサギは涙目でレティシアに視線を向ける。
確かにここ最近、問題児たち(プラス白夜叉)によって色々な意味で苦労している。
なら、たまにはこういうのも良いかもしれない。
黒ウサギは十六夜の隣に立ち、一誠に向かって身構える。
「手加減はしてやる。お前らは死ぬ気で来い」
「上っ等だゴラア!!」
「ちょ、十六夜さん!」
黒ウサギの声も聞かず、十六夜は大地を蹴り、一直線に殴りかかった。
残像を置き去りにし、山河を砕く拳を―――。
「…………なっ、」
一誠は、片腕一本で受け止めた。
「格上とわかっている相手に真正面から突っ込むな、バカが」
拳を抑えている方とは反対の腕に力を込め、十六夜の腹を殴りつける。
普通の相手ならこれで終わりだろう。
しかし、逆廻十六夜は普通なんて言葉から遠い最強の問題児。
一誠に掴まれて微動だにしない自分の腕を起点に、体を捻って蹴りを放つ十六夜。
しかし、一誠は腕を離して、十六夜よりも早く蹴りを叩き込む。
吹き飛ばされた十六夜を黒ウサギが受け止める。
「大丈夫ですか十六夜さん!」
「ああ。…………仕方ねえ。黒ウサギ! 考えがある、俺と同時に攻めろ!」
「ちょっと十六夜さん!? …………ああもう、こうなればヤケクソなのデスヨ」
十六夜と、少し遅れて黒ウサギが一誠へと肉迫する。
ほぼ同じタイミングで攻撃を仕掛ける二人。
しかし、一誠は十六夜の攻撃を受け流し、そのまま黒ウサギの方へと放り投げた。
「がッ!?」
「十六夜さん!?」
「お前はお前で、よそ見するな黒ウサギ」
隙を見せた黒ウサギの腹へと掌底を叩き込む。
重力魔法を利用しており、威力はソコまでないが、派手に黒ウサギは吹き飛ばされる。
地面に横たわる二人を見て、外野から声が上がる。
「ちょ、ちょっと! 幾らなんでもやりすぎでしょう!」
飛鳥は慌てて黒ウサギに駆け寄ろうとするが、それはレティシアによって止められた。
止められた飛鳥はレティシアに言い募ろうとしたが、それよりも先にレティシアが口を開く。
「大丈夫だ。黒ウサギの方は見た目ほどの威力はない。十六夜の方も精々骨折程度だろう。それに―――」
ガシッ! と一誠の傍らで倒れていた十六夜が一誠の足を掴んだ。
まるで万力の様にミシミシと音を立てながら足を掴んだ十六夜は、黒ウサギに向かって言い放った。
「今だ! やれ、黒ウサギ!!」
「はい!」
燃え上がるような緋色へと髪を変貌させ、黒ウサギは“
金剛杵から放たれる青い稲妻は、炎を帯びた紅い稲妻へと姿を変える。
周囲を燃やし尽くすほどの力を蓄えた“擬似神格・金剛杵”に周りはギョッとする。
「止めろ黒ウサギ! 周囲一帯を吹き飛ばすつもりか!?」
ここに来て、初めてレティシアが悲鳴をあげた。
十六夜と黒ウサギの二人が何か企んでいるのは分かっていたが、まさか“擬似神格・金剛杵”まで持ち出すとは思いもしなかったのだ。
一誠は舌打ちを堪えながら、
「擬似神格解放…………! 穿て、“
紅蓮の炎と神雷の束を、一誠に向けて投射した。
本来なら魔王相手でも使わないかもしれない、黒ウサギの切り札。
色々とヤケクソ気味な所はあるが、黒ウサギはどことなく確信していた。
兵藤一誠はこれでも倒せないだろうと。
「
全てを焼き尽くす神雷の嵐の中、一誠は口の端が吊り上がるのを止められなかった。
まさか、たかが眷属でしかない黒ウサギが、正真正銘帝釈天の雷を扱ってくるとは思いもしなかった。
一誠は亜空間から一本の長槍を取り出し、それを
「穿て―――“
一誠が放った槍は帝釈天の神雷を蹂躙し、かき消していく。
インド神話最高神の1人、ブラフマーが作りあげた神槍。
箱庭では“擬似創星図”の一つであり、この神槍の本質は“勝利を確約させる”と言う権能を秘めていること。
それを覆すには同等、或いはそれ以上の力をもって神槍を防ぐしかない。
黒ウサギの放った“
黒ウサギも半ば防がれるだろうと思っていたが、無傷、それも
驚愕したのは黒ウサギだけではない。
レティシアにジンも驚愕していた。黒ウサギが
飛鳥と耀も、黒ウサギの攻撃から、もはや凄すぎて何がなんだか
だが、同時にプライドも刺激されていた。
前に白夜叉に言われた事を思い出していたからだ。確かに、黒ウサギ達に比べれば自分たちは弱いだろう。
だからと言って、そこで諦めるような可愛げある性格をしていない。
「何時か、絶対に追いついてみせるわ!」
「…………うん!」
飛鳥と耀は決意を込めた瞳で一誠たちを見つめる。
各々が複雑な心境で見守る中、十六夜はドサクサにまぎれて一誠の背後に回り込んでいた。
黒ウサギの攻撃に巻き込まれないように、一誠に慌てて蹴り飛ばされため、割と重症だ。
フラフラしながらも己の足で立ち、一誠めがけ拳を振り下ろす。
「…………お前なら絶対に防ぐと思ったよ」
その言葉に反応するかの様に一誠は後ろへと振り返り―――、
「―――俺に一撃を入れたのはお前で二人目だよ、逆廻十六夜」
ペチンと軽い音と共に一誠の頬へと十六夜の拳が当たった。
一誠の言葉が聞こえていたかは分からないが、十六夜は満足そうな表情を浮かべて気を失った。
倒れる十六夜を、一誠は片腕で受け止め、最低限の治療を施す。
(破格の才能だな、この小僧は。久方ぶりに人間相手に驚いたぞ)
(ああ、前言撤回だ。十六夜に今必要なのは技術ではなく実戦経験だ。そこら辺は耀も同様だな。問題は飛鳥か。さて、どんな武具を作ればいいのやら。今は最低限、死なない様にするための物を渡すしかないか)
十六夜は放置、耀はフェンリルに任せ、飛鳥には護身術を教えようと決める一誠。
十六夜と違い、一誠には武術の才能が無い。
武器・無手ともに最低限の基礎程度しか知らず、ほぼ実戦で磨かれた我流だ。
故に、飛鳥には最低限教える程度がちょうど良いと判断する。
「大丈夫ですか、十六夜さん!」
戦闘は終了したと判断した黒ウサギは、ボロボロの十六夜を心配して駆け寄る。
今まで傍観していたレティシアたちも一誠の元へと寄ってくる。
「い、今すぐ医療室へ運ばなくては!」
「必要ねぇよ。出血と骨折だけは直しておいた。十六夜の生命力なら三日も安静にしていれば完治するだろ」
その言葉にホッとする黒ウサギ。
視線を十六夜から一誠へと移し、疑問を投げかけた。
「一誠さん、先ほど投げた槍はブラフマーストラですよね? それもレプリカではなくオリジナル」
黒ウサギに続くようにジンも慌てたように一誠に問いかける。
「そういえば“ペルセウス”とのギフトゲームの時、僕に本物の“ハデスの兜”を貸してくれましたよね。ガルド=ガスパーの時には“フェニックスの涙”を耀さんに使ってくれました。それに交渉の時にはドラウプニルを提示してゲームを認めさせたとも聞きました。一誠さん、どうしてあんなにも神々の武具や貴重品を持っているんですか?」
ジンは真剣な表情で一誠に問いかける。
一誠が今までジン達に見せてきたのはどれもこれも貴重な物ばかりだ。
それこそ下層なら、名や旗を賭けるコミュニティが出てもおかしくない程に。
特にブラフマーストラ、ハデスの兜、ドラウプニルは神々が所持している代物だ。
神々が人間に対して、自分たちの武具を与えることは珍しくない。
だが、与えられた人物は例外なく神話に刻まれている。
それこそ誰もが名を知っている大英雄などだったら納得もできる。
しかし、この場に居る誰もが箱庭に呼ばれるまで、一誠の存在を知らなかった。
だからこそ、ジンとしても一誠が何者であるのか、コミュニティのリーダーとして見極めなければならない。
「そうだな。…………隠しているわけでもないし、別に構わないか」
一誠がそうポツリと言葉を漏らした瞬間、一誠の背後の空間が大規模に歪んだ。
そこから現れる大量の武具。
剣、弓、槍、鎚、胸当て、籠手、兜。
東西、時代を関わらず、あらゆる形の武器・防具がその姿を晒す。
ボロボロの青銅の剣、見る者を魅了する盃、独特な形をしている槍etc。
見た目的に戦うのに適してなさそうなのも含まれるが、そこに一切の例外なく、見る者を圧倒させるオーラを醸し出していた。
飛鳥、耀の二人は圧倒され、武具の数々に目を輝かせていたが、ジン、レティシア、黒ウサギの三人は絶句していた。
「穂が五つに分かれている槍に、黄金の輝きを放つ剣。杖や矢に形を変える雷」
「光輝く剣に、剣や杖に形を変える炎。黄金で作られた穂先にルーンを刻んだ槍」
「神珍鉄の棒に、梵字の刻まれた三叉の槍。それにあれは
黒ウサギ達はそれがどの様な物か理解し始めると、顔を真っ青に染め上げた。
有名なのからマイナーなモノまで。
どれもこれも人間が持つには不相応な一級品の武具たち。
箱庭広しといえど、これ程のギフトを個人で所持している者は誰一人としていない。
「ブリューナク!? それにエクスカリバーにケラウノス!!?」
「クラウソラスにレーヴァテイン。それにグングニル…………」
「如意金棍棒にトリシューラ。なぜ、一誠さんがこれ程大量の神格武装を所持しているのですか!!?」
それら以外も、全て三人が上げたモノに勝るとも劣らない武装ばかり。
現れた武装の中には、“
三人の驚愕した声を聞きながら、一誠は十六夜を担ぎ上げた。
「今説明するのも面倒だ。そのうち説明しているよ」
「ちょっと待ってください!」
「話はここまでだ。十六夜を運ばないといけないしな」
ジンの静止の言葉も聞かず、一誠はノーネームの本拠へと足を運んだ。
そんな一誠の後ろ姿を呆然と見つめるジン達。
いち早く立ち直ったレティシアが、黒ウサギへと話しかける。
「そういえば黒ウサギ。金剛杵はどうした? “
「…………あう、どうしましょう」
先程まで一誠が居た場所に落ちていた、半壊の金剛杵を見て、黒ウサギはウサ耳を萎れさせる。
仮にも帝釈天の雷に耐えられる武具なので、直すのにお金も時間も掛かる。
しかも下層で直せる技術者が居るかも分からない、仮に居たとしても“ノーネーム”を相手に引き受けてくれるかどうか。
黒ウサギは涙目になりながら、慣れないことはするものじゃないと悟った。
◆
「一誠が現れた」
「…………確か、ドライグとかいう龍種をその身に宿しているんだったか?」
「うん」
『それは楽しみだ。いずれ相見える時が来れば、その力を我が血肉としてくれる』
「まあ待て。聞かされた話が事実なら実に魅力的な人材だ。最低でも勧誘はしてくれよ」
「そうね。強力な魔法使いという話だし、一度会って話をしてみたいわ」
『話がどこまで事実か分からないがな。…………そういえばリンはどうした?』
「変態と一緒に買い出しだよ。もうすぐ帰ってくるんじゃないか?」
「たっだいまー、遅くなりました!」
『もう少し静かにしろ。ところであの変態はどうした? 一緒に行動していたのだろう?』
「それが何時もの発作を起こして消えてしまいました。たぶん、北側に行ったのでしょう。あ、オーフィスちゃん。これお土産。今の時期しか手に入らない南側特有の果物だって」
「ありがとう」
「そういえば殿下達は集まって何をしていたの?」
「オーフィスの言っていた兵藤一誠が“箱庭”に訪れたようだ」
「へー。話半分だとしても魅力的な人材です。
「それは俺も同意見だ。だが、今は表立って動けない。接触を図るにしても等分先だな。…………安心しろ、オーフィス。何があっても俺たちがお前の夢を叶えてやる」
「…………うん」
話の進行が遅くてごめんね。
予定では二巻の内容に入るつもりだったんだ。
ただ、ルイオスの事を忘れていてね。
気がついたら一誠VS十六夜(+黒ウサギ)戦を書いていたんだ。
次の更新は未定です。
なるべく早く更新できるように頑張ります。
それと、やっぱり非ログインユーザーでも感想を受け付けるようにしました。
お騒がせして申し訳ありませんでした。