規格外が異世界から来るそうですよ?   作:れいとん

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お久しぶりです。遅くなって申し訳ございません。

バイトとスプラトゥーンとグラブルと、あと最近車の免許取るために合宿に行っていました。

スプラトゥーンとグラブルはここと同じアカウント名なので、見かけたら生暖かい目で『テメーサボってないでさっさと執筆しろや』と怒りと罵倒でもぶつけてください。

これは主人公最強系テンプレ作品です。それが嫌な人はブラウザバックしてください。

追記
当初間違えて、規格外本編の方に投稿してしまいました。
ご迷惑をおかけして、申し訳ございませんでした。


龍の因子

黒ウサギと十六夜が“サラマンドラ”の憲兵隊に連れ去られ、それに気づかれないように後をつけた一誠。

たどり着いたのは、“造物主たちの決闘”が開催されているゲームフィールド近くにあった“サラマンドラ”の宮殿であった。

耀が参戦していたので、一誠は準決勝を見物することにした。

“ロックイーター”のコミュニティに属する自動人形、石垣の巨人相手に耀は一人で善戦、勝利。

それを確認すると、白夜叉がバルコニーから朗らかに笑い、耀と一般参加者に声を掛ける。

 

「最後の勝者は“ノーネーム”の春日部耀に決定した。決勝のゲームについてはもう1人の“主催者”にして、今回の祭典の主賓に説明願おう!」

 

白夜叉が振り返り、バルコニーの中心を譲る。

そこから出てきた華美装飾を身にまとった少女は緊張した面持ちで出てくる。

そんな様子の“サラマンドラ”の幼き当主・サンドラに向かって、白夜叉は促すように優しい笑みを浮かべた。

その笑みを受けて、多少緊張が解れたのか、サンドラは凛然とした態度で一歩前へと出る。

そして大きく深呼吸し、凛とした声音で挨拶をした。

 

「ご紹介に与りました、北のマスター・サンドラ=ドルトレイクです。東と北の共同祭典・火龍誕生祭の日程も、今日で中日を迎えることが出来ました。進行に協力してくださった東と北のコミュニティの皆様にはこの場を借りて御礼の言葉を申し上げます。明日以降の決勝のゲームにつきましては、お手持ちの招待状をご覧下さい」

 

観衆が招待状を手に取る。

書き記されたインクは直線と曲線に分解され、別の文章を紡ぐ。

細かな説明をするサンドラを見て、ドライグはがっかりした様に呟く。

 

(あんな混ざりものの小娘が火龍か。他の奴らも血を引いているというだけで龍と云うにはほど遠い)

(ああ。だが、あの角…………)

(五大龍王クラスの遺物か。ハッ、あの小娘には過ぎた代物だな)

 

古来より、龍の肉体は強力な力を宿している。

骨、牙、角、目、血、鱗。

体の全てが武器・防具、或いは秘薬等に使用できる。

“王”とまで称される程に強力な龍クラスならば、遺物に宿る力もかなり強力なものだ。

 

(…………ドライグ)

(ああ、思った以上に早かったな)

(まさか。あいつがこんなに分かりやすい挑発をしてくれるなんてな。随分と可愛げある事するようになったじゃねえか)

(行くのか?)

(あいつが態々挑発までして誘ってんだ。出向いたほうが面白いに決まってんだろ)

 

一誠は笑みを浮かべる。

見る者に恐怖を与えるような、魔王の様な壮絶な笑みを。

バルコニーを通して、観客の居なくなったゲームフィールドに響き渡る怒鳴り声を聞きながら、一誠はその場から消える様に移動した。

 

◆◆◆

 

夕暮れを背景に淡く照らされるカフェテリア。

六人分の椅子が用意された丸テーブルに、彼らは居た。

唯一空白の席には、お茶が一つだけ置かれていた。

傍から見れば、怪しげな集団にしか見えない。

白髪金眼の少年・年相応の笑顔を浮かべる少女・ローブを羽織った怪しげな老人・同じくローブの羽織、フードを深く被る妙齢の女性。

更にはまるで人形の様な少女が、無表情で大量のクッキーのような菓子を貪り食っていた。

そんな少女に、白髪金眼の周りから殿下呼ばれている少年は話しかける。

 

「本当に来るのか?」

「来る」

 

オーフィスはこくりと一度頷くと、菓子を食べ続ける。

そのオーフィスの様子に、殿下は呆れ、リンはニコニコしながら口周りを拭いたりしている。

グライアとアウラの両名も、呆れたような表情を作る。

 

「まぁ、いい。来ると言うのなら問題は―――」

「―――へぇ。以外に美味いな、これ」

 

オーフィスを除いた、その場に居る全員がギョッとした。

いつの間にか空席に人が座り、用意しておいたお茶に口を付けていたのだ。

来た気配も座った瞬間も、お茶を口に含んだ動作すら分からなかった。

本当に唐突に、まるで初めからそこに居たように存在していた。

 

「久しい、一誠」

「ああ、久しぶりだな。オーフィス」

 

殿下たちが最大限の警戒を一誠に向ける中、当の本人とオーフィスは軽い挨拶を交わす。

それこそ日常で知り合いに出会った程度の気安さだ。

周りで警戒している連中なぞ知らんとばかりに、一誠はオーフィスが食べている菓子に手を伸ばす。

 

「お、これも美味いな。幾つか持って帰るか」

「一誠。それ、我の」

「ケチ臭いこと言うなよ」

 

店員を呼び出し、オーフィスが食べているモノと同じものを150人分ほど注文する。

数の多さにビックリした店員だが、一誠が“サウザンドアイズ”が発行している金貨を1枚渡すと、慌てて厨房へと走っていった。

オーフィスは残りの菓子を全部口に含むと、まるでリスのように口を膨らませながらモグモグと咀嚼する。

そんなオーフィスを見て、リンは顔を綻ばせ、一誠は苦笑しながらカップをテーブルへと置いた。

 

「所でオーフィス。面白い物を作ったな」

「『蛇』?」

「ああ。英雄の子孫が使用していた。魂と霊格を喰らう『蛇』とは、随分と凶悪な代物だな」

 

一誠の言葉を聞いて、殿下たちは舌を巻いた。

あの『蛇』が霊格と魂を食らうのは一瞬。そして食べた後は自動的に消滅するようにできている。

上層出身者にも極力バレないように作られたのだ。

“ラプラスの悪魔”でも現物を見なければ、詳しくは解らないように作られた代物なのである。

一誠を引き込む為の交渉材料の一つとしていたが、それが通じる相手ではないと判断。

これからの交渉を考えて、リンは背筋に冷や汗を感じずにはいられなかった。

 

「クックック。オーフィス、オマエ変わったな」

「?」

「過去の失敗から反省して次の糧とする。まるで人間みたいじゃないか」

 

一誠は目の前でお菓子を食べている少女みて、そう評した。

肩を竦めて笑う一誠をみて、わけがわからなさそうに首を傾げるオーフィス。

オーフィス以外、眼中に無いと言わんばかりの一誠に、リンが覚悟を決め、笑顔で話しかけた。

 

「初めまして、兵藤一誠さん。私はリンと申します。お話はオーフィスちゃんから聞いています。こっちの二人はグライアさんとアウラさん。そしてこの人が私たちのリーダーの殿下です。わけあってお名前は明かせませんが、ご了承ください」

「…………名前は明かせないが、好きに呼んでくれ」

「ふぅん」

 

リンに続くように、殿下も一誠に話しかける。

白髪金眼で、礼服を着崩し、見た目以上に大人の風格を漂わせる殿下を一誠はジッと見つめる。

この少年、殿下はやろうと思えば一人で“サラマンドラ”を壊滅に追い込むことが出来るほどの怪物である。

そんな少年が、一誠に見られる事に嫌な予感がしてならない。

 

「この神格の波動、ヴィシュヌ? いや、微妙に違うし弱い。…………白髪に金眼? オマエ、まさかカルキか?」

 

この時、一誠が口に出した“神格”の波動とは箱庭における種族を最高位に押し上げる恩恵ではない。

文字通り、神仏に属する存在が各々に発している神としての各を意味する。

 

「なっ!?」

 

その名前を出され、またもオーフィスを除いた全員が一誠に対し驚愕した。

まさか、この短期時間で正体を看破されるとは思いもしなかったのだ。

その反応を見て、一誠は新しい玩具を見つけたように瞳を輝かせる。

 

「なるほど、立体交差並行世界ね。まさか、箱庭にはお前みたいなのまで居るとは思わなかったよ。王子様?」

 

インド神話における四つの循環する年代記。

徳が世界を満たし、万人が幸せを享受するサティヤ=ユガ。

満たされた徳が欠如し、罪を犯す人々が現れるトレーター=ユガ。

世界の半分から道徳が失われ、同じだけ罪を犯す人々が増えるドヴァーパラ=ユガ。

そして最後。

文明の発達とともに人々から道徳と善性がなくなり、最後には滅亡すると書かれた“終末論”カリ=ユガ。

そして末世の世に降り立ち、悪人を絶滅させ、人類を守り黄金期(クリタ=ユガ)を訪れさせるとされる英雄。

その名は“永遠”、“時間”、あるいは“汚物を破壊するもの”を意味するヴィシュヌ神の十番目にして最後のアヴァターラ(化身)。

人類を救うことを確約された大英雄・カルキ。

 

「なんだ、お前の出身世界はクリタ=ユガを迎えたのか?」

「俺はまだ未完成だ。…………それより、どうして俺の名前が分かった?」

「未完成? ―――生憎と神仏連中の大半とは顔見知りだからな。ヴィシュヌに似た神格の波動を発しながら、俺の覚えのない存在。しかも白髪・金眼とくれば、思い当たるのは一つしか出てこねえよ」

 

神格の波動という言葉に眉を顰める殿下。

しかし、今それを詳しく聞いている場合では無いと判断したのだろう。

一誠にしても、未完成という言葉に疑問を覚えているのだが、それは後々調べればよいと判断する。

 

「兵藤一誠。俺たちはお前を勧誘しに来た。どうだ? 俺たちの仲間に、魔王連盟“ウロボロス”に属さないか?」

 

そう言って、一誠の目の前に現れる一枚の“契約書類”。

殿下が口にした魔王連盟への加盟書だ。

最後に描かれた“尾を喰らう三頭の龍”を見て、面白そうに口元を歪ませる。

 

「クックック。魔王連盟ときたか。愉快に素敵に面白そうな連盟だなぁオイ」

「喜んでもらえたなら何より。…………連盟への加盟に同意したと判断していいのか?」

「いや、面白いとは思うが断る」

「理由を聞いてもいいか?」

 

一誠の喜びようから、断られるとは思っていなかった殿下たち。

殿下の存在と魔王連盟の事を明かし、更には殿下の正体までバレてしまった。

いずれ大々的にバレるとしても、今は時期が悪い。

どんなに無謀だとしても、殿下たちは一誠を無事に帰すわけにはいかないのだ。

 

「ガキ。確かにお前は面白いと思うよ。オーフィスがやろうとしていることもな。だが、お前以上に面白そうなのが“ノーネーム”には居る。それにな―――」

 

一誠はそこで初めてその場に居る一人一人に視線を向けた。

 

「俺が魔王になるとしても、何故キサマらの仲間にならねばならない?」

『っ!!?』

 

オーフィスを除いた全員が、一誠から醸し出される威圧に、ゾワっと全身を震わせた。

見る者に恐怖しか与えない笑みを浮かべながら、一誠は話を続ける。

 

「俺はな、今まで一人で生きてきた。確かにドライグが居たが、ずっと一人で戦ってきた。個にして万を、億を蹂躙し、理不尽と絶望を押し付けてきた。仮に俺が魔王になったとして、箱庭の全てを敵に回したとしても仲間(キサマら)なんぞ不要だ。…………敵対するぶんには面白そうだけどな」

 

魔王みたいなことなら前の世界で散々してきた。と、内心思いながら一誠は面白そうに殿下を見る。

オーフィスから自分の話は聞いている筈なのに、それでも仲間になれと誘ってきたのだから。

一誠はオーフィスの方に視線を向け、口を開く。

 

「オーフィス。オマエこのガキを鍛えてやれよ。俺の方にも面白いのが居てな。最終的にどちらの方に軍配が上がるか興味がある」

「そうすれば、グレートレッド、倒してくれる?」

「するわけねえだろ。俺が直接アイツを倒すより、お前とあいつが戦っているのを観戦したほうが遥かに面白そうだ」

 

結局、一誠の行動原理はこれなのだ。

面白いかどうか。

自分が楽しめると言うのなら、敵対する存在でも鍛えるし、逆に楽しめないと言うのなら、付き従う者でも容赦なく叩き潰す。

十六夜・飛鳥・耀の三人を鍛えているのも、“ノーネーム”に力を貸しているのもそう。

面白ければ、楽しめれば、兵藤一誠はどんな事だってする。

例え、それが世界を滅ぼすことになろうとも(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

魔王連盟などという存在を目の前にして、それを見逃すのもそう。

将来的に幾千万の“魔王”を従えて進攻してくるならそれもよし、少数ならば十六夜たちを鍛えるための試金石にするのもいい。

前者ならば一誠が直接戦えばいいし、後者ならば十六夜たちの成長に使える。

どちらにしろ、敵対した方が面白そうだと、一誠は内心でそう思う。

 

「そう」

 

どこかしょんぼりした様子のオーフィス。

そんなオーフィスに、一誠は軽く眼を丸くして驚いた。

 

「…………オマエ、マジで変わったな。英雄派に裏切られ、サマエルに喰われかけたのがトラウマにでもなったか?」

「どういうことだ?」

 

裏切られという言葉に反応し、殿下は反射的に一誠に問いただした。

裏切られたとはどういうことなのかと。

面倒くささを感じながら、一誠は語り始める。

 

「こいつは前の世界でグレートレッドを倒すために『禍の団』っていうテロリスト組織を率いていたんだよ。まぁ、ドイツもコイツもオーフィスの『力』を利用として集まった連中だったがな。最後の最後に、神器や神滅具を宿した英雄の子孫が率いる一派、英雄派の姦計に嵌って力を奪われそうになった。サマエル相手にするのも面白そうだったからな。英雄派共々俺が殲滅したが」

 

サマエルというビッグネームが出てきた事に驚愕することもない。

それ以上に、殿下が抱いているのは怒りだ。

彼は歪な目的しか持っていない。

自分を旗印とし、彼を信頼してくれているリンたちの夢を叶えてやりたい。

そのために障害がなんであろうと踏み倒す。

その為だけに神々の箱庭を駆け上る覚悟が、殿下にはある。

だからこそ、自分を信頼してくれている部下を裏切るなど決してしない。

 

「俺は、何があってもオーフィスを裏切らない。リンもアウラもグー爺もだ。皆がどんな夢を抱いているか、俺はしらない。だが、夢を見せて走り抜く。例え魔王だろうか生みの親だろうが、その障害になるのならば踏み倒す。グー爺にアウラ、そしてリンの忠誠だけが俺の指針だ。オーフィスは忠誠を誓ってくれているわけではない。だが、俺を信頼してくれというのなら、俺は何がなんでもオーフィスの夢を叶えてみせる」

「クックク。アッハハハハハハハハハ」

 

その余りに歪な彼を見て、一誠は嗤った。

未来を救う大英雄が、これなのかと。

 

「ハッはははは。はー、北側に来てから笑いっぱなしだな。いやいや、中々に愉快な性格をしているじゃないか。クックク。やっぱオマエ面白いわ。―――見逃してやるよ。さっきからコソコソとこっちを見ている奴共々な」

 

そう言って、一誠は隠れている存在の方を一瞥する。

まさか気づかれていると思っていなかったのか、動揺した気配が伝わってくる。

一誠は席から立ち上がり、最後にオーフィスに視線を向けると、警告するように告げる。

 

「オーフィス。俺は基本的にオマエが何をしようがどうでもいい。それこそこの箱庭を壊そうが、元の世界を滅ぼそうがな。―――だが、アレに成り上がろうとするのなら、俺は全力でオマエを殺す」

 

ピクリと、初めてオーフィスの表情が動いた。

殺気すら醸し出し、オーフィスを睨みつける一誠。

負けじと、一誠を見つめ返すオーフィス。

二人の化け物の殺意と威圧に、殿下たちは息苦しそうにしている。

リンなどは、魚の様に口をパクパクと動かして、空気を求めている。

ほんの数秒で視線をそらし、一誠はカウンターの方へと歩いていった。

 

「…………ふぅ。話には聞いていたが、とんでもないな」

『人間なのかと疑いますね』

「ええ、マスクウェルさんの存在にも気づかれていましたし。オーフィスちゃんじゃないと抑えることもできないかもしれませね」

 

前まで一誠の力に懐疑的だったグライアも、今では虚勢を張ることもできない。

それほどまでに、兵藤一誠という人間は化物だった。

オーフィスから話は確かに聞いていた。

だが、魔法使いと言うことは人類の幻獣種ということ。

身近にアウラという存在がいたせいか、強いと聞いても殿下とリン、グライアの力ならば何とかなるという慢心があった。

いざという時の為に、マクスウェルを近くに潜ませておいたのも、慢心の原因であった。

四桁クラスの実力者がこれだけ揃っているのだ。

さらに、オーフィスという超越級の実力者も居る。

だからこそ、どれだけ強くとも抑える事は可能だろうと、タカをくくっていた

 

「確かに俺たちじゃ無理そうだな。オーフィスに抑えてもらったとしても、戦闘時の余波だけで消し飛ばされそうだ」

 

チョイチョイ。

 

「ん? どうした、オーフィス」

「本当に、グレートレッド、倒すの協力してくれる?」

「当然だろう。前の世界でオマエを利用しようとした奴らの事は知らない。だが、少なくとも俺はオーフィスを裏切らない」

「私達も手伝うからね。オーフィスちゃんにも私たちを手伝ってもらうし、お互い様だよ!」

「…………うん」

 

呆れた様子の殿下に笑顔で励ますリン。

そして当然と言わんばかりの様子のグライアとアウラ。

その時感じたモノがなんなのか、オーフィスには分からない。

だが、胸の内が暖かくなるのを確かに感じていた。

 

◆◆◆

 

「黒ウサギやお嬢様の薄い布の上からでもわかる二の腕から乳房にかけての豊かな発育は扇情的だが相対的にスレンダーながらも健康的な素肌の春日部やレティシアの髪から滴る水が鎖骨のラインをスゥッと流れ落ちるさまは視線を自然に慎ましい胸の方へと誘導するのは確定的にあきらか―――」

 

スパァーン!!

十六夜の顔面に黒ウサギと飛鳥から投げられた風呂桶が直撃する。

 

「変態しかいないのこのコミュニティは!?」

「白夜叉様も十六夜さんもみんなお馬鹿様ですッ!!」

「それって俺も変態に含まれているのか?」

「「!?」」

 

びくぅっと、黒ウサギとレティシアは驚く。

いつの間にか、二人の隣に一誠が立っていたのだ。

 

「オラァッ!!!」

「ハア!!」

「ヤァッ!」

 

一誠が現れた事を確認した問題児三人組は、ほぼ同時に一誠に攻撃を仕掛けた。

十六夜が正面から殴りかかり、耀は回し蹴りを放ち足払いを狙い、最後に飛鳥が人差し指と中指で目潰しをしようとする。

しかし一誠は、十六夜の攻撃を受け止め、耀の蹴りを足と足で間に挟み拘束し、飛鳥の目潰しは指を怪我させない程度に噛むことで受け止めた。

 

「「「っち!!」」」

ほはへら(オマエら)どうひてそんあに(どうしてそんなに)はつひまんあんあんだよ(殺意満々なんだよ)

「オマエが一人だけ先に逃げたからだろ」

「そうよ。おかげさまでひどい目に会ったわ」

「…………せめて教えてくれれば良かったのに」

「きづはないほっちがわるいんらろ(気づかないそっちが悪いんだろ)」

 

呆れた様にそう呟く一誠。

一誠からしたら、それはただの八つ当たりにしか思えないからだ。

流石に軽くイラついたので、問題児組にお仕置きをすることにした。

 

「「「ッ!?」」」

 

各々を拘束している部分に力を込める。

しかし、十六夜・飛鳥・耀は持ち前のプライドで痛みを口にも顔にも出さない。

そんな様子の三人に、一誠は苦笑する。

 

 

よふにあふかはべつにひへも(耀に飛鳥は別にしても)いはほいのほうは(十六夜の方は)ふふうなら(普通なら)にぎひふぶせるくらいには(握る潰せるくらいには)ひからをひれているんだがあ(力を入れているんだがな)。…………ペッ」

 

十六夜と耀をはなし、最後に飛鳥の指を吐き出す。

十六夜は露骨に舌打ちし、耀はムッとした表情をする。

飛鳥は頬赤く染めながら、一誠から手拭いを受け取り、指に付いている唾液を拭き取る。

少し強く噛みすぎたせいか、指から軽く出血をしていた。

借り物を血で汚していいのか一瞬迷う飛鳥だが、一誠が手拭いを奪うと出血した分を拭き、傷口を魔術で綺麗に治す。

その後ろで“サウザンドアイズ”の女性店員とジンがお互いを慰める様に励まし合っていた。

 

◆◆◆

 

「第一回、黒ウサギの審判衣装をエロ可愛くする会議を」

「始めません」

「始めます」

「始めませんっ!」

 

白夜叉の発言に悪乗りする十六夜に、速攻で断じる黒ウサギ。

飛鳥は呆れ、レティシアは苦笑している。

 

「もう、魔王襲来に関する重大な話だと思ったのですよ!?」

「魔王襲来?」

「ああ、そう言えばまだ知らなかったな」

 

ゴソゴソと袖から一枚の手紙を取り出し、それを一誠に投げ渡す。

それを受け取ると、中身に目を通す。

 

「魔王襲来のお知らせねぇ」

「それは“サウザンドアイズ”の幹部が予知したものだ」

「精度は?」

「上に投げれば下に落ちる程度だの」

「ほぼ100%か。すげえな」

 

感心したような声音の一誠。

ほぼ100%という言葉に、全員が首を傾ける。

全員を代表するように、十六夜が一誠に問いかける。

 

「白夜叉から聞いたけど、100%じゃねえのか?」

「ん? ああ。…………簡単に言えば、観察者効果って奴だよ」

 

その説明に十六夜は多少理解を示し、他は全員相変わらず頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。

どういう風に説明すれば分かりやすいかと、頭を捻りながら説明を続ける一誠。

 

「“未来を観測”すること自体が影響を及ぼす。0.00000%以下エンドレス。ミクロやマクロ。或いは知覚できていないそれ以下の領域で確実に違いが起きる。勿論、今回の手紙を送ったクラスの予知なら目に見えるレベルの違いってのは余りない。それに、大規模な歴史の改変は世界そのものが抑止力を働かせるからな」

 

決まった過去の改変。

それは何があろうともして犯してはならない大罪である。

過去があるからこそ現在があり、現在があるからこそ未来がある。

そして世界は、未来を知りながらもそれを覆そうとする者の存在を許さない。

例え、そこにどのような理由があったとしても(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「へえ。それは面白いことが聞けた。なら、100%の予知は不可能なのか?」

「いや、そうでもない。そこにあるだけの、無意識以下の観測装置とも云うべきものなら可能だ。…………まぁ、そんなの、あれ(・・)と世界以外に存在しないだろうがな」

 

一誠にしては珍しく、忌々しそうに小声で吐き捨てる。

十六夜と白夜叉の二人には聞こえたが、無闇に踏み込んでいい話ではないと判断する。

 

「まぁ、ともかく。魔王が襲来するのは分かった。明日の春日部の試合に影響がないといいな」

「白夜叉。私が明日戦う相手ってどんなコミュニティ?」

「すまんがそれは教えられん。“主催者”がそれを語るのはフェアではなかろう? 教えてやれるのはコミュニティの名前だけだ」

 

パチンと白夜叉が指を鳴らすと、一枚の羊皮紙が現れた。

浮かび上がるコミュニティの名前を見て、飛鳥は驚いたように眼を丸くした。

思わず呟やきそうになるが、それより早く一誠が口を開く。

 

「“ウィル・オ・ウィスプ”に“ラッテンフェンガー”ねぇ。―――明日の相手は“イグニス・ファテュス(愚かな火)”と“ハーメルンの笛吹き”ってところか?」

 

え? と飛鳥が声を上げる。

しかし、その隣に座る黒ウサギと白夜叉の驚嘆の声に、飛鳥の声はかき消された。

 

「“ハーメルンの笛吹き”ですか!?」

「どういうことだ。詳しく話を聞かせろ」

 

二人の驚愕の声に、一誠と十六夜は訝しげな表情をする。

怪訝に思うその場のメンバーに、多少落ち着きを取り戻した白夜叉と黒ウサギは説明する。

曰く、嘗て“幻想魔道書群(グリムグリモワール)”というコミュニティを率いた魔王。

それを聞き一誠が事情を説明しようとするも、十六夜が待ったをかける。

 

「状況は把握した。そういうことなら、我らが御チビ様が説明する」

「え? あ、はい」

 

突然に話題を振られ顔を強張らせるが、ジンはしっかりと口を開きゆっくりと語り始める。

 

「“ラッテンフェンガー”とはドイツという国の言葉で、意味はネズミ捕りの男。このネズミ捕りの男とはグリム童話の魔書にある“ハーメルンの笛吹き”を指す隠語です。大本のグリム童話には、創作の舞台に歴史的考察が内包されているものが複数存在しており、“ハーメルンの笛吹き”もその一つ。ハーメルンとは、舞台になった都市の名前です」

 

 

――1284年、聖ヨハネとパウロの日 6月26日

  あらゆる色で着飾った笛吹き男に130人のハーメルン生まれの子供らが誘い出され

  丘の近くの処刑の場所で姿を消した――

 

 

この一文が刻まれた碑文がハーメルンのマルクト協会に設置されている。

そしてこの碑文を元に創られたのがグリム童話の一篇として有名な“ハーメルンの笛吹き”だ。

そしてその後も話は続き、白夜叉が“主催者権限”によって最低限の措置を取っている事を皆にはなし、最悪の場合は“ノーネーム”が対処に当たることになった。

飛鳥は“ラッテンフェンガー”について話そうか迷ったが、結局話すことはしなかった。

話が一段落したところで、白夜叉は真剣な表情をして、十六夜達に話しかける。

 

「さて、魔王に対しての話は一段落したところで、皆に重要な話がある」

「なんだよ? あらたまって」

 

いつになく真剣な表情をする白夜叉に、一誠以外の全員が佇まいを正す。

 

「私はマスター―――兵藤一誠に隷属することになった。色々と条件はあるが、“ノーネーム”の一員となるので、これからは同士として宜しく頼む」

「「「「「!!!?」」」」」

 

そう言って頬を少し赤らめながら頭を下げる白夜叉に、一誠を除いた全員が驚きを顕にする。

そんな雰囲気を感じ取ったのか、意地悪そうに笑っている一誠に白夜叉は若干呆れたような視線を向ける。

そして“ノーネーム”の面々にこれはどういうことだと問い詰められ、それを楽しそうに受ける一誠。

まだまだ夜は終わらない。

 

◆◆◆

 

「ギフトゲームを始めましょう。…………邪魔するものは殺しなさい」

『イエス、マイマスター』

「さあ、あの怠惰な太陽(・・・・・)に復讐する時が来た―――!!!」

 




はい、本当にお久しぶりです。
遅くなった理由は前書きの通りです。許してください何でもはしませんが。

さて、無駄に期間が空いたおかげという理由でもありませんが、この作品の終わらせ方をキチンと決めました。

アジ・ダカーハ戦後にオリジナルを少し書いて終わらせる予定です。
(BADかGOODエンドかは秘密です)

そのため、殿下達と出会うのをかなり早めました。
当初の予定ではオーフィスだけだったんですけどね。

ヒロインができるかは未だに未定です。
(色々と理由がありましてね)

まぁ、原作崩壊待ったなしだけど許してね。
それでは、また次回で。

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