規格外が異世界から来るそうですよ?   作:れいとん

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そんなわけで問題児を始めてみました。
白夜叉と出会うまで一誠の影がかなり薄い(汗)


※これはハイスクールD×Dの規格外の一誠が主人公です。
ですので詳しい説明なんかは無いです、ご了承ください。


YES!ウサギが呼びました!
規格外、箱庭に飛ばされる


「…………」

 

早朝、一誠は珍しく朝早くに起きていた。

普段はやる気のない、死んだ魚の様な目をしているが、今はその瞳に好奇心が宿っていた。

その手には一通の手紙が握られていた。

そこには達筆な文字で『兵藤一誠様へ』と書かれていた。

 

「誰だかしらねぇが、面白いことするなぁ」

 

その手紙は一誠が起きてリビングに降りると、テーブルの上に置いてあったのだ。

寝ていたとは言え、一誠に気づかれず、一誠が自宅に施している結界を抜ける。

一誠が張った結界を抜けれる者なら、幾らかの心当たりがある。

しかし、一誠にも気づかれずに侵入するとなると不可能だ。

それなのに兵藤家のリビングに手紙が置かれていた。

考えられるのは二つ。

一つ、兵藤家に施されている結界を抜き、さらに一誠に気づかれることなく何者かが侵入し、手紙を置いていった。

二つ、直接手紙を転移で送った。

しかし、前者は不可能に近いし、後者もそうだ。

一誠が自宅に張っている結界は、一誠自身が認めた者以外のあらゆる侵入を防ぐ。

たとえ転移だとしても、一誠が認めた者以外は入れない。

だからこそ、サーゼクスやオーフィスはチャイムを鳴らしてから一誠に家に招き入れてもらったのだ。

結界が無事なことから力ずくで破られたわけではない、つまりは結界をすり抜けてきたのだ。

一誠が扱う術は特殊なのが多い。

兵藤家に張り巡らされている結界をすり抜けるならば、最低でもルフェイ・ペンドラゴンクラスの魔法使いが三桁から四桁は必要だ。

もし、『黄金の夜明け団』の創立者達が全員力を合わせれば可能だろう。

しかし、『黄金の夜明け団』はサーゼクスの眷属になっているマグレガ―・メイザース以外は他界している。

侵入にしろ転移にしろ、どちらも異常、尋常の事ではない。

それだけの事を仕出かせる存在が残していったのは、たった一通の手紙のみ。

 

「おもしれぇ」

 

一誠は笑むと、封を無雑作に破り、中の手紙に書かれている文章を読む。

 

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。

その才能を試すことを望むのならば、

己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、

我らの”箱庭”に来られたし』

 

 

「わっ」

「きゃ!」

 

急転直下、四人はいきなり4000mもの上空に投げ出されたのだ。

その内の三人が同様の感想を抱き、同様の言葉を口にした。

 

『ど……何処だここは!?』

 

落下しながら見える眼前の光景はありえないものだった。

視界の先に広がる地平線、世界の果てを彷彿とさせる断崖絶壁、そして縮尺を見間違うほどに巨大な天幕に覆われた未知の都市。

「―――おもしれぇ。ほんと、おもしれぇ」

今まで見たこともない完全無欠の異世界を見て、一誠は笑みを浮かべる。

 

 

 

その後、四人は湖へと着水。

その内の一人、春日部耀は自分の友達である三毛猫を水面へと慌てて引っ張り上げる。

 

「……大丈夫?」

『な、なんどが……』

 

今にも死にそうな掠れた声でそう返事をする三毛猫。

無事な様子の三毛猫を見て、耀はホッとする。

後の三人はさっさと陸地に上がっており、内二人が罵詈雑言を吐き捨てていた。

 

「信じられないわ! まさか問答無用で引き摺りこんだ挙句、空に放り出すなんて!」

「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオ―バーだぜコレ。まだ石の中に呼び出された方がマシだ」

「……。いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう?」

「俺は問題ない」

「そう。身勝手ね」

 

二人の男女―――逆廻十六夜と久遠飛鳥はお互いにフン、と鼻を鳴らして服の端を絞る。その後ろに続くように耀が岸に上がる。

三毛猫が全身を震わせて水を弾き、隣で耀は服を絞りながら口を開く。

 

「此処……どこだろう?」

「さあな。まあ、世界の果てっぽいのが見えたし、どこぞの大亀の上じゃねえか?」

 

耀の呟きに十六夜が答える。少なくとも、彼らの知らない場所であることは確かだ。

 

「一応確認しとくぞ。もしかしてお前等にも変な手紙が?」

「そうだけど、まずは〝オマエ〝って呼び方を訂正して ―――私は久遠飛鳥よ。以後、気を付けて。それで、そこの猫を抱きかかえている貴女は?」

「…………春日部耀、以下同文」

「よろしく春日部さん。次に湖の上に着地……いえ、この場合は着水かしら? をして唯一濡れていない貴方は?」

「兵藤一誠。呼び方は好きにしろ」

「そう、よろしく兵藤君。……最後に、野蛮で凶暴そうなそこの貴方は?」

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」

 

売り言葉に買い言葉、どこか険悪な雰囲気を出しながら喋る十六夜と飛鳥。

 

「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜くん」

「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけよ、お嬢様」

 

心からケラケラと笑う逆廻十六夜。

傲慢そうに顔を背ける久遠飛鳥。

我関せず無関心を装う春日部耀。

どこか楽しそうに笑む兵藤一誠。

 

この四人を見て、誰もが同じことを思うだろう―――問題児だと。

 

 

 

(うわぁ……なんか問題児ばかりですねえ……)

そんな彼等を陰から見ていた存在がいた。

名前は黒ウサギ、この箱庭の創始者である帝釈天の眷属だ。

(でも主催者(ホスト)は人類最高クラスのギフト所持者だと保証してくれましたし……)

この箱庭に召喚しておいてなんだが……彼等が協力する姿は、黒ウサギには想像できなかった。

陰鬱そうに重くため息を吐く黒ウサギ。

 

「で、呼び出されたは良いけど、なんで誰もいねえんだよ。普通、招待状に書かれていた箱庭とかいうモノの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」

 

苛立たしげにそう言う十六夜。

 

「そうね、なんの説明もないままでは動きようがないもの」

「…………。この状況に対して落ち着きすぎているのもどうかと思うけど」

「人のこと言えねぇだろ」

 

(全くです)

黒ウサギは内心でこっそりとツッコミを入れた。

パニックになってくれていれば飛び出しやすいのだが、場が落ち着きすぎているので出るタイミングを計れないのだ。

(まあ、悩んでいても仕方がないデス。これ以上不満が噴出する前にお腹を括りましょう)

四者四様の罵詈雑言を浴びせられる様を想像すると怖気づきそうになるが、そこは我慢するしかない。

 

「―――仕方がねえ。こうなったら、そこに隠れている奴にでも話しを聞くか?」

 

ビクンと黒ウサギの心臓が跳ね上がり、冷や汗をダラダラと流す。

四人の視線が黒ウサギに集まる。

 

「なんだ、貴方も気づいていたの?」

「当然。かくれんぼじゃ負けなしだぜ? そっちの二人も気づいていたんだろ?」

「風上に立たれたら嫌でもわかる」

「気配丸出しなんだ。気づいてくれって言っている様なもんだろ」

「……へぇ? 面白いなお前等」

 

軽薄そうに笑う十六夜だが、目は笑っていなかった。四人は理不尽な招集を受けた腹いせに殺気の籠った冷やかな視線を黒ウサギに向ける。

 

「や、やだなあ皆さま。そんな狼みたいな怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ? ええ、それはもう、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じて、ここは一つ穏便に御話を聞いていただけたら嬉しいのでございますヨ?」

「断る」

「却下」

「御断りします」

「断る」

「あっは、取り付くシマもないですね♪」

 

両手を上げて降参のポーズをとる黒ウサギ。

しかし、その瞳は冷静に四人を値踏みしていた。

 

「えい」

 

いきなり黒ウサギの耳を根っこから鷲掴み、力いっぱい引っ張る耀。

 

「ふぎゃ! ちょ、ちょっとお待ちを! 触るまでなら黙って受け入れますが、初対面で遠慮なく黒ウサギの素敵耳を引き抜きにかかるとはどういう了見ですか!?」

「好奇心の為せる業」

「自由にも程があります!」

「へぇ? このうさ耳って本物なのか?」

 

耀とは反対の耳を掴んで引っ張る十六夜。

 

「……。じゃあ私も」

 

好奇心に勝たず、耀と同じ方の耳を引っ張る。

 

「ちょ、ちょっと―――!」

 

待ってくださいと言い切る前に、黒ウサギは言葉にならない悲鳴を上げた。

 

 

 

「お前はよかったのか?」

「興味がない」

 

十六夜が黒ウサギの耳を引っ張らなかった一誠にそう訊き、一誠は淡白に答える。

 

「―――あ、あり得ない。あり得ないのでございますよ。まさか話しを聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス」

「いいからさっさと話せ」

 

半ば本気の涙を瞳に浮かべせる黒ウサギ。

四人は黒ウサギの前の岸辺に座り込み、彼女の話しを『聞くだけ聞こう』という程度には耳を傾けていた。

黒ウサギは気を取り直して咳払いをし、両手を広げ、

 

「それではいいですか、皆さま方。それでは言いますよ? ようこそ、〝箱庭の世界〝へ! 我々は御四人様にギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼンさせていただこうかと召喚しました!」

「ギフトゲーム?」

「YES! 既に気づいていらっしゃるでしょうが、皆さまは皆、普通の人間ではございません。その特異な力は修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵なのでございます。『ギフトゲーム』はその〝恩恵〝を用いて競いあう為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は巨大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できるために造られたステージなのでございますよ!」

 

その後も黒ウサギの説明は続く。

要約するとこんな感じだ。

・ここは人外共が生活する為の場所。

・ここでは生活するにあたり、“コミュニティ”に属さないと生きていくことも困難。

・ここでは様々なギフトゲームに参加可能。

・ギフトも含めた多種多様なモノを賭けたり手にいれたり出来るが、高報酬なモノほどギフトゲームも難しくなる。

・ほぼギフトゲームが箱庭の法みたいなモノだが、殺人や窃盗などの禁止事項もある。ただし、ギフトゲームにおいては例外。

・ギフトゲームとは勝者だけが全てを手に入れるというシステムであり、敗者は文句を言う権利すらない。

一誠と十六夜は、コミュニティに入らないと言った時の黒ウサギの慌て方を見て、幾つかの疑問を思う。

黒ウサギは一通りの説明を終えると、一枚の封書を取り出した。

 

「さて、皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界における全ての質問に答える義務がございます。が、それらを全て語るには少々お時間がかかるでしょう。新たな同士候補である皆さんをいつまでも野外に出しておくのは忍びない。ここから先は我らのコミュニティでお話させていただきないのですが……よろしいですか?」

「待てよ。まだ俺が質問していないだろ」

 

静聴していた十六夜が威圧的な声を上げて立つ。

黒ウサギは少し身構えながら聞き返した。

 

「……どういった質問でしょうか? ルールですか? ゲームそのものですか?」

そんなのはどうでもいい(・・・・・・)。腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギ。ここでお前に向かってルールを問いただしたところで何かが変わるわけじゃねえんだ。世界のルールを変えようとするのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねえ。俺が聞きたいのは、たったひとつ。あの手紙に書いてあったことだけだ」

 

十六夜は視線を黒ウサギから飛鳥、耀、そして一誠へと向け、最後に巨大な天幕で覆われた都市に向ける。

そして何もかも見下すような視線でたった一言、

 

「この世界は…………面白いか?」

 

他の三人も無言で返事を待つ。

『家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて箱庭に来い』と手紙には書かれていたのだ。

それに見合うだけのモノがなければ、この場で黒ウサギが八つ裂きにされても文句は言えない。

 

「───YES! ギフトゲームは人を越えた者達だけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より遥かに面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」

 

 

 

「なあ、ちょっとこの世界を見て来ねえか?」

 

黒ウサギの所属するコミュニティに向かう途中、十六夜が一誠にそう提案する。

 

「別にかまわねぇが、どうして俺を誘ったんだ?」

「この中でお前が一番強そうだからだ」

「―――へぇ」

 

十六夜が好戦的な瞳で一誠を見る。

一誠はそんな十六夜を見て、笑みを浮かべる。

 

「場所はさっき見えた世界の果て、遅れんなよ!」

 

そう言って、その場から飛んでいく十六夜。

一誠と十六夜のやり取りを見ていた飛鳥は一誠に話しかける。

 

「あら、直ぐに追いかけなくていいのかしら?」

「あの程度なら直ぐに追いつくからな。……まぁでもいいか」

 

一誠がそう呟いた瞬間、その場から消え去る。

 

 

(やははは。世界の果てとは言ったけど、俺が目指しているのがどこかは教えなかったな)

十六夜は心中でそう思いながら木々を飛び越えていく。

十六夜は世界の果てと言ったが、それに該当する部分だけでもかなり広範囲だ。

(……にしても意外だ。あいつなら俺に追いつくかと思ったのに)

追いつく事はおろか、追ってくる気配さえ無い一誠に、期待しすぎたかと落胆する十六夜。

(まあ、後で適当に合流すればいいか)

森を抜け、〝世界の果て〝と呼ばれる断崖絶壁の箱庭の世界を八つに分かつ大河の終着地点、トリトニスの大滝へと辿り辿り着いた十六夜は……絶句した。

 

「オイオイ、マジかよ。いつの間に抜かしたんだ?」

十六夜の目の前には、滝壺にある幾つかの足場に立っている一誠がいた。

一誠は十六夜に気づいたようで、話しかける。

 

「ようやく着いたか。あんまりにも遅いんで、退屈してたとこだ」

「へっ、そーかよ。そいつは悪かったな」

 

十六夜は冷や汗を流しながらそう言い返す。

いつの間に一誠に抜かされたのかが分からなかったのだ。少なくとも十六夜は黒ウサギたちと別れたところからほぼ一直線、最短ルートでトリトニスの大滝に辿り着いた。

それなのに、一誠はそんな十六夜をいつの間にか抜かし、先に滝壺へと辿り着いていたのだ。

十六夜と一誠はお互いに面白そうな笑みを浮かべながら相手の事を観察する。そこへ、

 

『挑戦者か? ならば試練を選べ!』

 

いきなり一誠の立っている滝壺から巨大な白蛇が飛び出し、そして目の前にいる十六夜と一誠に向かって、尊大な態度でそう言った。

いきなり現れた巨大な白蛇を前にふたりは、

 

「「あ゛?」」

 

怯えるなどというごく一般的且つ可愛げな反応はせず、視線だけで殺せるんじゃないかという眼光を白蛇へと向けた。

 

「いい度胸だ、クソ蛇」

「おい、一誠。あれ俺に寄こせよ、お前に負けたストレス発散には丁度いい」

 

そう言うやいなや、十六夜は白蛇―――蛇神の前へと飛び出す。

そして、握りこぶしを作り、軽く身を捻って振りかぶる。

 

「オラァ!」

『がっ…………!』

 

十六夜の拳は体積が十倍以上は軽くある水神を水中の中へと叩き落とした。

その衝撃は滝壺周辺の大地を揺らし、巨大な水柱を幾つも立ち上げる。

そんなあり得ない事態を目の当たりにした一誠は、

 

「十六夜、俺は譲るとは一言も言ってねぇぞ」

 

不機嫌そうな声音でそう言った。

一誠の近くに着地した十六夜は、笑みを浮かべながら言う。

 

「やははは。いいじゃねえか、俺は箱庭に来ていきなり負け犬になっちまったんだぜ? 繊細でガラスなハートの俺は何かに八つ当たりしないとやってられないんだよ」

「よくもまぁ、そんな事が言えるもんだ」

 

まるで子供の様に純粋に笑う十六夜を見て、一誠は毒気を抜かれたように肩を落とす。

しかし、どちらも純粋に笑っていた、年相応の笑顔で。

 

「や、やっと見つけたのでございますよ」

 

そう言って、一誠と十六夜の背後に現れた。

その髪は先ほどまでの青色と違ってピンク、もしくは赤色に染まっていた。

 

「オマエ黒ウサギか? その髪の色はどうしたんだ?」

 

一誠は髪の色が変わった黒ウサギに疑問を抱き、そう問いかける。

しかし、黒ウサギは問題児二人に散々振り回され、その胸中はもう我慢の限界だった。

怒髪天を衝くような怒りを籠めて口を開く

 

「もう、一体何処まで来ているんですか!?」

「〝世界の果て〝まで来ているんですよ、っと。まあそんなに怒るなよ」

 

十六夜の小憎たらしい笑顔も、一誠の我関せずも健在だった。

十六夜は意外そうに、一誠は面白そうに黒ウサギを見る。

 

「しかしいい脚してんな。遊んでいたとはいえ、こんな短時間で俺たちに追いつけるとは思わなかった」

「当然です。黒ウサギは〝箱庭の貴族〝と謳われる優秀な貴種です。その黒ウサギが―――」

 

そこまで言って、黒ウサギはアレ?っと首を傾げる。

(黒ウサギが……半刻以上もの時間、追いつけなかった……?)

黒ウサギは箱庭の世界の創始者の眷属である。

その駆ける速度は疾風よりも速く、その力は生半可な修羅神仏では手が出せないほどだ。

そんな黒ウサギに気づかれずに姿を消したことも、追いつかなかった事も、思い返せば人間とは思えない身体能力だった。

 

「ま、まあ、それはともかく! 十六夜さんと一誠さんが無事でよかったデス。水神のゲームに挑んだと聞いて肝を冷やしましたよ」

「水神?―――ああ、アレの事か?」

 

え?っと黒ウサギは硬直しながら、十六夜が指さしたモノを見る。

川面にうっすらと浮かぶ白くて長いモノ。黒ウサギが理解する前にその巨体が鎌首を起こした。

 

『まだ……まだ試練は終わってないぞ、小僧ォ!!』

 

十六夜のパンチを耐えた水神は、怒りの怒号を上げる。

 

「蛇神……! って、どうやったらこんなに怒らせられるんですか!?」

 

ケラケラと笑う十六夜が答える前に、一誠が事の顛末を話す。

 

「いきなり出てきて『試練を選べ』とか上から目線で言ってきてな。俺があのクソ蛇をミンチにする前に十六夜が殴って、叩きつけた。……まぁ、十六夜を試す事もできない程度の奴だったが」

『貴様等……付け上がるな人間! 我がこの程度の事で倒れるか!!』

 

蛇神の甲高い咆哮が響き、巻き上がる風が水柱を上げて立ち昇る。

普通の人間だったら即死する様な水流を見て、黒ウサギは十六夜と一誠を守ろうとする。

しかし、

「まぁ、待て。黒ウサギ」

 

いきなり一誠が黒ウサギのウサ耳を引っ張り、動きを止められる。

いきなりウサ耳を引っ張られ、目の端に涙を浮かべながら抗議する黒ウサギ。

 

「―――ふぎゃっ!? い、いきなり黒ウサギの素敵耳を引っ張るとは……って、本日二度目でございます! そ、そんな事より、危険ですから下がってください!」

 

一誠は面倒くさそうに溜息を吐きながら黒ウサギに向かって言う。

 

「下がるのはテメェの方だろが黒ウサギ。これは十六夜が売って、クソ蛇が買った喧嘩だ。手を出すなんて無粋な事をするんじゃねぇよ」

 

その言葉に、黒ウサギは歯噛みする。

既にゲームは始まっており、黒ウサギでも手を出す事は叶わない。

一誠の言葉に蛇神は息を荒くしながら応える。

 

『心意気は買ってやる。それに免じて、次の一撃を凌げればキサマ等の勝利を認めてやろう』

「寝言は寝て言え。決闘ってのは勝者を決めて終わるんじゃない。敗者を決めて終わるんだよ」

 

勝者は既に決まっている。

その傲慢極まりない台詞に黒ウサギと蛇神は呆れて閉口し、一誠は黒ウサギの隣で面白そうに笑っていた。

 

『その戯言が貴様の最後だ!』

 

蛇神の雄叫びに応えて嵐のように川の水が巻き上がる。

竜巻のように渦を巻いた水柱は蛇神の丈よりも遥かに高く舞い上がり、何百トンもの水を吸い上げる。

竜巻く水柱は計三本。

それぞれが生き物のように唸り、蛇のように襲いかかる。

この力こそ時に生態系すら崩す〝神格〝のギフトを持つ者の力だった。

 

「―――ハッ―――しゃらくせえ!!」

 

十六夜は襲ってきた嵐とも言える激流を、ただ腕の一振りで薙ぎ払った。

 

「嘘!?」

『馬鹿な!?』

 

驚愕する黒ウサギと蛇神。人智を遥かに超越した力を見せつけられ、さらに全霊の一撃を弾かれた蛇神は放心しする。

十六夜はその隙を見逃さず、獰猛な笑いと共に着地し、

 

「ま、中々だったぜオマエ」

 

大地を踏み砕く様な爆音。

蛇神の顔元まで飛んだ十六夜は、そのまま回し蹴りを顔面へと叩きこむ。

その勢いのまま川へと吹っ飛んでいき、衝撃で川が氾濫し、水が森を浸水する。

全身を濡らした十六夜はバツが悪そうに川辺に戻った。

 

「こっちにまで水を飛ばすな」

「濡れてないんだからいいだろ。にしてもクソ、今日はよく濡れる日だ。クリーニング代ぐらいは出るんだよな黒ウサギ」

 

そんな二人の会話は黒ウサギには聞こえなかった。

頭の中がパニックでそれどころではないのだ。

(人間が……神格を倒した!? それも只の腕力で!? そんなデタラメが―――! 信じられない……だけど、本当に最高クラスのギフトを所持しているのなら……! 私たちのコミュニティ再建も、本当に夢じゃないかもしれない!)

黒ウサギは興奮を抑えきれず、鼓動が速くなるのを感じ取っていた。

今までどん底にいた彼女に希望が見えてきたのだ、そのまま嬉し泣きをしてもおかしくない。




問題児シリーズってかなり書きにくいです。
D×Dとだいぶ違って、一話書きあげるのにかなり時間がかかります。

ストックはこれを合わせて三話までしかありません。
残りの二話は明日と明後日に投稿します。
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