規格外が異世界から来るそうですよ?   作:れいとん

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和装ロリは友達、怖くない!
サブタイトルをどちらにするか悩みました。

一秒でも過ぎていれば、それは明日なんだよ!


規格外、最強の魔王に出会う

「見てください! こんなに大きな水樹の苗を貰ったんですよ! これだけあれば、もう水に不自由することはありません!」

 

蛇神から勝利の報酬として、大きな“水樹”という木の苗を貰った黒ウサギは、今にも踊りだしそうな位に機嫌をよくして戻ってきた。

水樹の苗に頬ずりしながらご機嫌な黒ウサギに十六夜が話しかける。

 

「なぁ黒ウサギ」

「はい、何でしょう♪」

 

水樹の苗を持ちながらその場でクルクルと嬉しそうに回っていた黒ウサギは、十六夜に話しかけられて振り向く。

 

「おまえ、なにか俺たちに隠しているだろ」

「――――え?」

 

先ほどまでのルンルン気分から一転、天から地へと落とされた様な気持になる黒ウサギ。

目は見開き、頬は引きつっている。

十六夜はそんな黒ウサギを無視するように続ける。

 

「これは俺の勘なんだが。黒ウサギのコミュニティは弱小のチーム、もしくは訳あって衰退したチームか何かじゃねえのか? だから俺たちは組織を強化するために呼び出された。そう考えれば今の行動や俺がコミュニティに入らないと言った時に本気で怒った事も合点がいく。―――どうよ? 百点満点だろ?」

「しかも、だ。この事を俺たちに言わなかったって事は、俺たちは他のコミュニティを選ぶ権利もあるってことだよな?」

 

十六夜に続き、一誠もそう言う。

黒ウサギの内心は穏やかではない。苦労の末に呼び出した超戦力を、手放す事は絶対に避けたかった。

 

「…………」

「沈黙は是也、だぜ黒ウサギ。黙り込んでも状況は悪化するだけだぞ。それとも俺も一誠も他のコミュニティに行ってもいいのか?」

「や、だ、駄目です! いえ、待ってください!」

「だから待ってんだろうが。いいから包み隠さず、全てを話せ」

 

最後に一誠にそう言われ、黒ウサギは渋々二人に語る。

自分が所属しているのが三年前までは東区画最大手のコミュニティだった。しかし今は旗印と名を奪われ、名前の無いその他大勢〝ノ―ネーム〝という蔑称されている。

そして黒ウサギのコミュニティから何もかも奪い去ったのは箱庭における最大の天災―――魔王。

魔王の名を聞いて驚く十六夜と一誠。

しかし、驚いているベクトルが違う。

十六夜はショーウィンドウに飾られる新しい玩具を見た子供の様に、一誠は魔王という存在を知っているが故に。

 

「魔王! 何だよそれ超カッコイイじゃねえか! 箱庭にはそんな素敵ネーミングで呼ばれる奴がいるのか!?」

「え、ええまあ。十六夜さん達が思い描いている魔王と差異があるかと……。ま、まあ倒したら多方面から感謝される可能性はございます。先ほども説明した通り、箱庭最大の天災なので……。倒せば条件次第で隷属させる事も可能ですし」

「へぇ?」

 

そこまで聞いて、一誠はひとつ疑念に思う。この『箱庭』はつまらないのではないか?と。

勿論理由がある。

先ほど十六夜が倒した蛇神は間違いなく神格が宿っていた、それなのに上級悪魔クラスと大差ないレベルだったのだ。

神格を宿すという事はそれは神であるという事、一誠が元いた世界にはいろんな人外が存在していたが、その中でも神格を宿す神仏は別格だ。

探せば魔王や堕天使総督以上の力を持った神仏なんてゴロゴロいる。

それこそ最強の武神である帝釈天は四大魔王全員でようやく互角という強さである。

それだけ神格を宿した者とは強いのだ。死神みたいに神とついていながら神格の宿っていない存在ならまだしも、確かに神格を宿していた蛇神が高々上級悪魔クラスというのはおかしい。

 

「魔王は〝主催者権限〝という箱庭における特権階級を持つ修羅神仏で、ギフトゲームを挑まれたが最後、誰も断る事はできません。私たちは魔王のゲームに強制参加させられ、……結果、コミュニティとして活動していくために必要な全てを奪われてしまいました」

 

これは比喩などではない。黒ウサギ達のコミュニティは地位も名誉も仲間も、全てを奪われたのだ。残されたのは空き地だらけとなった廃墟とギフトゲームにも参加できない一二〇人の子供達。

これではコミュニティの再建など夢のまた夢だ。

 

「お願いします、茨の道ではあります。けど、私達は仲間が帰る場所を守りつつ、コミュニティを再建し……何時の日か、コミュニティの名と旗印を取り戻して掲げたいのです。そのためには十六夜さんや一誠さん達のような強力な力を持つプレイヤーを頼るほかありません! どうかその強力な力、我々のコミュニティに貸していただけないでしょうか……!?」

「……ふぅん。誇りと仲間をねぇ」

「しかも魔王から奪い返すか……」

 

深く頭を下げて懇願する黒ウサギの必死の告白に、一誠と十六夜は気のない声で返す。

黒ウサギは肩を落として、泣きそうな顔になっていた。

 

「いいな、それ。すっげえ面白そうじゃねえか。黒ウサギのコミュニティに入ってやるぜ」

「右に同じ」

「………………は?」

 

十六夜と一誠の雰囲気から、断られると思っていた黒ウサギは呆然とする。

 

「HA? じゃねえよ。協力するって言ったんだ。……なんだよ、いらないのか?」

「あ、いえ! いります、絶対にいります!」

 

キャーキャー♪と喜ぶ黒ウサギ。

しかし、疑問に思ったことがあったのか、首を傾げて十六夜と一誠に質問する。

 

「あの、御二人はどうして黒ウサギ達に協力してくれるのです?」

 

それは当然の疑問。

なにせ黒ウサギ達のコミュニティは明日の食事にも困っている様な有り様だ。

さらに旗印も名も奪われている、普通なら絶対に協力してもらえないだろう。

 

「俺としては最低限の責任を守ってもらえればそれでいいからな」

 

一誠はそう答える。

黒ウサギはコミュニティの状況を知らせず、一誠達を騙そうとした。この箱庭に呼び出し、自分達の良い様に一誠達を使おうとしていたのだ。

少なくとも初めから正直にコミュニティの現状を話し、力を貸してくれと頭を下げるのが礼儀である。

 

「こんなデタラメで面白い世界に呼び出してくれたんだ。その分の働きはしてやる。けど、他二人の説得には協力しないからな。騙すも誑かすも構わないが、後腐れない様に頼むぜ。同じコミュニティでやっていくなら尚更な」

「……はい」

 

十六夜にそう言われ、黒ウサギは心の中で深く反省する。

こちらの身勝手で異世界から呼び出しておいて、頭一つ下げることすらしなかったのだ。これから同じコミュニティで戦っていく仲間を利用する様な真似をしては得られる信用も得られなくなる。

コミュニティが大事だったあまり、黒ウサギの中でその意識が低くなってしまっていた。

 

 

「な、なんであの短時間で"フォレス・ガロ"のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になったのですか!」「しかもゲームの日取りは明日!?」「それも敵のテリトリー内で戦うなんて!」「準備している時間もお金もありません!」「一体どういう心算(つもり)があって……って聞いているんですか三人とも!!」

 

トリトニスの滝の美しさを満喫し、意気揚々と箱庭に戻ってきた一誠達。

日が暮れた頃に噴水広場でノーネームは合流した。したのだが、そこでは黒ウサギの怒声が響いていた。

黒ウサギが二人を探しに行った後、問題児二人とノ―ネームのリーダー〝ジン=ラッセル″はカフェテラスに向かった。

そこにやってきたのはコミュニティ"フォレス・ガロ"のリーダー、ガルド=ガスパ―。

彼は飛鳥と耀の二人にノーネームの現状を話した上、ジンに散々な侮辱と侮蔑の言葉を投げかけた。

さらに自分のギルドに入らないか?と誘うガルドに対し、それを断る二人。

尚も食い下がるガルドを飛鳥のギフトで黙らせ、魔王でもない彼がどうやってコミュニティを大きくしたのかと問うたところ、相手コミュニティの子供を攫ってゲームを無理矢理取り付けていたことが判明。

しかも子供達は既に殺され、ガルドはコミュニティを瓦解させないために腹心の部下に始末をさせていた。

非道なおこないを無理矢理喋らされ、キレるガルドだったが、飛鳥と耀に組み伏せられ、更に〝フォレス・ガロ″の存続をかけたギフトゲームをやらされることになった。

 

「「腹が立ったから後先考えずに喧嘩を売った。反省も後悔もしていない」」

「この御馬鹿さま、御馬鹿さま!!」

 

まったくもって反省をしていない問題児二人にハリセンを食らわせる黒ウサギ。

その後ろでジンが申し訳なさそうな表情をしていた。

十六夜はニヤニヤと笑いながら止めに入る。

 

「別にいいじゃねえか。見境なく選んで喧嘩売ったわけじゃないんだから許してやれよ」

「い、十六夜さんは面白ければいいと思っているかもしれませんが、このゲームで得られるのは自己満足だけなんですよ?この"契約書類(ギアスロール)"を見てください」

 

黒うさぎは契約書類を見せる。

契約書類とは"主催者権限(ホストマスター)"を待たない者達が"主催者"となってギフトゲームを開催できるギフトである。

 

「ま、確かに自己満足だな。時間をかけても立証できるもんにわざわざリスクまで負って短縮するんだからな」

「そうです。だって子供たちはその……」

 

黒ウサギはそこで言い淀む。

彼女もフォレス・ガロの良くない評判を耳にしてはいたが、そこまで酷い状態になっているとは思ってもみなかった。

 

「そう。人質は既にこの世にいないわ。そこを責めれば必ず証拠は出るでしょう。だけどあの外道にそんな時間かけられないわ。それにね、私は道徳云々より、あの外道が私の活動範囲で野放しされることも許せないの。ここで逃せば、いつか狙ってくるもの」

「ま、まあ……逃せば厄介かもしれませんけど」

 

「僕も彼のような悪人を野放しにしておけない」

 

そんなジンの言葉に、黒ウサギは諦めたように溜め息つく。

 

「はぁ~、仕方ない人たちです。腹立たしいのは黒うさぎも同じですし。"フォレス・ガロ"程度なら十六夜さんがいれば楽勝でしょう」

 

十六夜の強さを見た黒ウサギは、期待を籠めてそう言った。

しかし、

 

「何言ってんだよ。俺は参加しねえよ?」

「俺も」

 

当然といった感じで十六夜も一誠も断る。

 

「だ、駄目ですよ!皆様はコミュニティの仲間なんですからちゃんと協力しないと」

「そういう事じゃねえよ、黒ウサギ。いいか?この喧嘩は、こいつらが売って奴等が勝った。なのに俺逹が出るってのは無粋だって言ってるんだよ」

「あら。分かってるじゃない。貴方を参加させる気なんて毛頭ないから」

「……もう、好きにしてください」

 

丸一日問題児に振り回され、疲弊していた黒ウサギは言い返す気力も残っていない。

失うモノはないし、もうどうにでもなれと思い肩を落とすのだった。

 

 

「"サウザンドアイズ"?」

「YES。"サウザンドアイズ"は特殊な"瞳"のギフトを持つ者達の群体コミュニティ。箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大商業コミュニティです。幸いこの近くに支店がありますし」

「ギフトを鑑定すると何かメリットがあるのか?」

「自分の力の正しい形を把握していた方が、引き出せる力はより大きくなります。皆さんも自分の力の出所は気になるでしょう?」

 

同意を求める黒ウサギに、十六夜・飛鳥・耀の三人は複雑な表情で返すが、一誠は特に変化が無い。

元々一誠の持つ力は大きく分けて二つ。

『魔導精霊力』と『赤龍帝の籠手』だ。前者は力を理解しているし、後者も制御はできている。

さらに二つとも出所を理解している。確かに籠手の方は成長するかもしれないが、今更正しい形を把握することに意味などない。……そもそも聖書の神しかそれを知らないからだ。

 

問題児四人と三毛猫、黒ウサギの一行は各々のギフトを鑑定すべく町並みを歩く。

そこは中世ヨーロッパのような石造の整備された町並みであり、黒ウサギと一誠を除いた全員が興味深そうに眺めていた。

更には脇を埋める街灯獣が桃色の花弁がひらひらと散らし、幻想的な雰囲気を醸し出している。

 

「桜の木。……ではないわよね? 花弁の形が違うし、真夏になっても咲き続けているはずがないもの」

「いや、まだ初夏になったばかりだぞ。気合いの入った桜が残っていてもおかしくないだろ」

「……? 今は秋だったと思うけど」

「春なんだから桜が咲いていて当然だろ」

 

ん? っとかみ合わない四人は顔を見合わせて首を傾げる。

黒ウサギは笑いながら説明をする。

 

「皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのデス。元いた時間軸以外にも歴史や文化、生態系など所々違う箇所があるはずですよ」

「へえ、パラレルワールドってやつか?」

「近しいですね。正しくは立体交差並行世界論というものなのですけども……今からコレの説明を始めますと一日二日では説明しきれないので、またの機会ということに」

 

説明をしている間にどうやら"サウザンドアイズ"についたらしい。

蒼い生地に互いが向かい合う二人の女神が記されている。あれが″サウザンドアイズ″の旗なのだろう。

 

もう日が暮れ看板を下げる割烹着の女性店員に黒ウサギは滑り込み、

 

「まっ」

「待ったなしですお客様。うちは時間外営業はやってません」

 

ストップをかけるのは無理だった。黒ウサギは悔しそうに店員を睨みつける。

 

「なんて商売っ気のない店なのかしら」

「ま、全くです! 閉店時間の五分前に客を閉め出すなんて!」

「文句があるなら他所へどうぞ。あなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です」

「これだけで出禁とかお客様舐めすぎでございますよ!?」

 

キャーキャーと喚き騒いでる黒ウサギに店員は冷めた眼と侮蔑を込めた声で対応する。

 

「なるほど、"箱庭の貴族"であるウサギの御客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますので、コミュニティの名前をよろしいですか?」

「…………う」

 

一転して言葉に詰まる黒ウサギ、しかし一誠は何のためらいもなく名乗る。

「ノ―ネームだ」

「ほほう。ではどこの″ノ―ネーム″様でしょうか? よろしければ旗印を確認させていただいても?」

 

ぐ、っと黙り込む。黒ウサギが言っていた“名”と“旗印”がないコミュニティのリスクとはまさにこういう状況だった。

(ま、まずいです。“サウザンドアイズ”の商店は“ノーネーム”お断りでした。このままだと本用に、出禁にされるかも)

全員の視線が黒ウサギに集中する。彼女は心の底から悔しそうな顔をして、小声で呟いた。

 

「その…………あの…………私たちに、旗はありま」

「いぃぃぃやほおぉぉぉぉ! 久しぶりだ黒ウサギイィィィ!」

 

 黒ウサギは店内から爆走してくる着物風の服を着た真っ白い髪の少女に抱きつかれ、少女と共にクルクルと回転して街道の向こうにある浅い水路まで吹き飛び、ボチャン、と転がり落ちた。

 

「きゃあ―――…………!」

 

遠くなる悲鳴を聞きながら、十六夜達は目を丸くし、店員は頭を抱えた。

 

「…………おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか? なら俺も別バージョンで是非」

「ありません」

「なんなら有料でも」

「やりません」

 

真剣な表情の十六夜に、真剣な表情でキッパリと断る女性店員。二人は割とマジだった。

フライングボディーアタックで黒ウサギを強襲した白い髪の幼い少女は、黒ウサギの胸に顔を埋めてなすり付けていた。

 

「し、白夜叉様!? どうして貴女がこんな下層に!?」

「そろそろ黒ウサギが来る予感がしておったからに決まっておるだろに! フフ、フホホフホホ! やっぱりウサギは触り心地が違うのう! ほれ、ここが良いかここが良いか!」

「し、白夜叉様! ちょ、ちょっと離れてください!」

 

黒ウサギは胸に顔を埋めている白夜叉を引き剥がすと、頭を掴んで店に向かって投げつける。

クルクルと縦回転した少女は、一誠の方へと飛ばされ。

 

「パス」

「ゴパァッ!」

 

そのままサッカーボールの様に蹴り飛ばされ、十六夜の方へと飛ばされる。

十六夜は十六夜で、足でそれを受け止めた。

 

「てい」

「ゴバァ!…………お、おんしとおんし! 飛んできた初対面の美少女を蹴り飛ばし、足で受け止めるとは何様だ!」

「十六夜様だぜ。以後よろしく和装ロリ」

「兵藤一誠だ、呼び方は好きにしろ」

 

ヤハハと笑いながら自己紹介する十六夜と適当に自己紹介する一誠。

一連の流れの中で呆気に取られていた飛鳥は、思い出したように白夜叉と呼ばれていた少女に話しかけた。

 

「貴女はこの店の人?」

「おお、そうだとも。この“サウザンドアイズ”の幹部様で白夜叉様だよご令嬢。仕事の依頼ならおんしのその年齢のわりに発育がいい胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」

「オーナー。それでは売り上げが伸びません。ボスが怒ります」

 

どこまでも冷静な声で女性店員が釘を刺す。

ちょうどその時、黒ウサギが濡れた服を絞りながら水路から上がってきた。

 

「うう……まさか私まで濡れる事になるなんて」

「……自業自得」

 

濡れても気にしていなかった白夜叉は、店先で黒ウサギ達を見回してにやりと笑った。

 

「ふふん。お前達が黒ウサギの新しい同士か。異世界の人間が私の元に来たということは……」

 

不敵な笑顔を浮かべる白夜叉に視線が集まり、

 

「遂に黒ウサギが私のペットに」

「なりません!どういう起承転結があってそんなことになるんですか!」

 

ウサ耳を逆立てて黒ウサギが怒る。

 

「まぁ、冗談はさておき話があるのじゃろ。話があるなら店内で聞こう」

 

何処まで本気かわからない白夜叉は笑って店へ招く。

 

「よろしいのですか?彼らは旗も持たない“ノーネーム”のはず。規定では」

「“ノーネーム”だとわかっていながら名を尋ねる、性悪店員に対する侘びだ。身元は私が保証するし、ボスに睨まれても私が責任を取る。いいから入れてやれ」

 

む、っと拗ねるような顔をする女性店員。彼女にしてみればルールを守っただけなのだから、気を悪くするのは仕方がない事だろう。一誠達は女性店員に睨まれながら暖簾をくぐった。

 

 

「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の私室で勘弁してくれ」

 

五人が通されたのは白夜叉の私室。香のような物が焚かれており、風と共に五人の鼻をくすぐる。

個室と言うにはやや広い和室の上座に腰を下ろした白夜叉は、大きく背伸びをしてから五人に向き直った。

 

「もう一度自己紹介しておこうかの。私は四桁の外門、三三四五外門に本拠を構える“サウザンドアイズ”幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておいてくれ」

 

「はいはい、お世話になっております本当に」

 

投げ遣りな言葉で受け流す黒ウサギ。

白夜叉の話を要約すると、箱庭とはバームクーヘンの様な創りをしており、七桁の外門に分かれている。数字が若いほど中心に近く、白夜叉のいる四桁以上の外門は人外魔境といっても過言ではないとのこと。

 

「今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番皮の薄い部分にあたるな。更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は“世界の果て”と向かい合う場所になる。あそこはコミュニティに属してはいないものの、強力なギフトを持ったもの達が住んでおるぞ―――その水樹の持ち主などな」

 

白夜叉は薄く笑って黒ウサギの持つ水樹の苗に視線を向ける。白夜叉が指すのは世界の果てで、十六夜が素手で叩きのめした蛇神のことだろう。

神格とは、生来の神そのものではなく、種の最高のランクに体を変化させるギフトのことだ。人に神格を与えれば現人神や神童に。蛇に神格を与えれば巨躯の蛇神に。鬼に神格を与えれば天地を揺るがす鬼神と化す。更に神格を持つことで他のギフトも強化される。コミュニティの多くは目的のために神格を手に入れるため、上層を目指して力をつける。

 

「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」

「知り合いも何も、あれに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前の話だがの」

 

小さな胸を張り、カカと豪快に笑う白夜叉。

それを聞いて、十六夜は物騒に瞳を光らせる。

 

「へぇ? そんなもんを与えられるってことはオマエはあの蛇より強いのか?」

「ふふん、当然だ。私は東側の“階層支配者”だぞ。この東側の四桁以下にあるコミュニティでは並ぶ者がいない、最強の主催者だからの」

 

“最強の主催者”―――その言葉に、十六夜・飛鳥・耀の三人は一斉に瞳を輝かせた。

 

「そう…………ふふ。ではつまり、貴女のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティという事になるのかしら?」

「無論、そうなるのう」

「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」

 

三人は剥き出しの闘争心を視線に込めて白夜叉を見る。白夜叉はそれに気づいたように高らかと笑い声を上げた。

 

「抜け目ない童達だ。依頼をしておきながら、私にギフトゲームを挑むと?」

「え? ちょ、ちょっと御四人様!?」

 

慌てる黒ウサギを右手で制す白夜叉。

 

「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に飢えている」

「ノリがいいわね。そういうのは好きよ」

 

全員が嬉々として白夜叉を睨む。

 

「ふふ、そうか。―――そうそう、ゲームの前に確認しておく事がある」

「なんだ?」

 

白夜叉は着物の裾から“サウザンドアイズ”の旗印―――向かい合う双女神の紋が入ったカードを取り出し、表情を壮絶な笑みに変えて一言、

 

「おんしらが望むのは″挑戦″か―――もしくは、″決闘″か?」

 

刹那、五人の視界は意味を無くし、脳裏を様々な情景が過ぎる。

黄金色の穂波が揺れる草原、白い地平線を覗く丘、森林の湖畔。

五人が投げ出されたのは、白い雪原と湖畔―――そして、水平に太陽が廻る世界だった。

 

「なっ!?」

 

あまりの異常さに、十六夜達は息を呑んだ。

遠く薄明の空にある星は、世界を緩やかに廻る白い太陽のみ。

唖然と立ち竦む三人に、今一度、白夜叉は問いかける。

 

「今一度名乗り直し、問おうかの。私は“白き夜の魔王”―――太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは、試練への“挑戦”か? それとも対等な“決闘”か?」




そんなわけで第二話でした。

次あたりで一誠君がやらかしてくれるといいなー。
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