規格外が異世界から来るそうですよ?   作:れいとん

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規格外VS魔王

「私は白き夜の魔王――太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは試練への挑戦か? それとも対等な決闘か?」

 

少女とは思えぬ凄みに十六夜は背中に冷や汗を感じ取る。

″星霊″とは、惑星級以上の星に存在する主精霊を指す。鬼や悪魔、妖精などの概念の最上級であり、同時にギフトを与える側の存在でもある。

 

「…… 水平に回る太陽と…… そうか、白夜と夜叉。あの水平に回る太陽やこの土地はお前を表現しているってことか」

「いかにも。この白夜と湖畔と雪原。永遠に世界を薄明かりに照らす太陽こそ、私が持つゲーム盤の一つだ」

 

白夜叉が両手を広げると、地平線の彼方の雲海が瞬く間に裂け、薄明の太陽が晒される。

数多の修羅神仏が集うこの箱庭で、最強種と名高い″星霊″にして″神霊″。

彼女はまさに、箱庭の代表ともいえるほど―――強大な″魔王″だった。

 

「これだけ莫大な土地がただのゲーム盤!?」

「いかにも。して、おんしらの返答は? 挑戦であれば手慰み程度に遊んでやる。しかし、決闘を望むなら話は別。魔王として命と誇りの限り闘おうではないか」

「…………っ」

 

三人は即答できず、返事を躊躇った。

勝ち目がないのは一目瞭然。

しかし自分たちの売った喧嘩を、一度はいた唾を飲み込むのはプライドが邪魔をする。

しばしの静寂の後―――十六夜は諦めたように笑い、ゆっくりと挙手し、

 

「参った。やられたよ。降参だ、白夜叉」

「ふむ? それは決闘ではなく、試練を受けるという事かの?」

「ああ、これだけのゲーム盤を用意できるんだからな。アンタには資格がある。――いいぜ。今回は黙って為されてやるよ、魔王様」

 

苦笑と共に吐き捨てる様な者言いをした十六夜を、白夜叉は堪え切れず高らかに笑い飛ばした。

プライドの高い十六夜にしては譲歩した方だが、試されてやるとは随分と可愛らしい意地の張り方があった物だと、白夜叉は腹を抱えて哄笑をあげた。

 

「く、くく……して、他の童達も同じか?」

「……ええ、私も、試されてあげてもいいわ」

「右に同じ」

 

苦虫を噛み潰したような表情で返事をする二人を見て、満足そうに笑う白夜叉。

 

「も、もう! お互いにもう少し相手を選んでください! 〝階層支配者〟に喧嘩を売る新人と、新人に売られた喧嘩を買う〝階層支配者〟なんて、冗談にしても寒すぎます!」

 

白夜叉は安堵した様子の黒ウサギに苦笑しながら、一誠に視線を向けて問いかける。

 

「して、そこのおんしはどうする? 受けるのは試練か? それとも対等な決闘か?」

 

そう笑いながら問いかける白夜叉だが、その瞳から一誠を見下しているのが分かる。

少なくとも、自分よりも強いとは露にも思っていない。

 

「俺は決闘を選ぶ」

「―――ほう?」

 

面白さ三割、失望が三割、呆れが四割といった雰囲気で一誠に視線を向ける白夜叉。

 

「なぁ、白夜叉。おまえ、たかがこの程度の物を見せたくらいで自分が強いって言いたいのか? なら失望だな。この程度のゲームフィールドを用意するだけで最強の魔王を名乗れるんなら、随分と箱庭の世界は生温いらしい」

 

そう言って、侮蔑の視線を白夜叉に投げかける一誠。

一誠からしたら、白夜叉が見せつけたこの世界は珍しいモノではない。それこそ、悪魔の使用するレーティングゲームのフィールドとほぼ同じ様なモノだからだ。

この程度のゲーム盤で負けを認めるようなら、一誠は今頃悪魔に服従している。

 

「まぁ、先に十六夜達のゲームが先だ。俺は後でいい」

「ふむ、それではそこで待っておれ」

 

ケラケラと面白そうに笑う白夜叉を見て、黒ウサギはガクリと肩を落とす。

その時、彼方に在る山脈から甲高い叫び声が聞こえた。獣と鳥の叫び声を混ぜたような声に逸早く反応したのは春日部だった。

 

「何、今の鳴き声。初めて聞いた」

「ふむ……あやつか。おんしら三人を試すには打って付けかもしれんの」

 

白夜叉が手招きするとそれに応じてソレはやって来る。

体長は5mはあろうかという巨大な体躯に、鷲の頭と翼にに獅子の身体を持った伝説上の生物。

春日部はそれを見て、驚愕と歓喜の籠った声を上げた。

 

「グリフォン……嘘、本物!?」

「フフン、如何にも。あやつこそ鳥の王にして獣の王。"力""知恵""勇気"の全てを備えたギフトゲームを代表する獣だ」

 

白夜叉が手招きすると、グリフォンは彼女の元に降り立ち、深く頭を下げて礼を示した。

そんなグリフォンを一誠は面白そうに見つめる。

 

「―――へぇ、毛並みに翼の艶がかなりいい。体格もソコソコ大きいし、力も強い。若いグリフォンにしちゃかなり良質だな」

 

一誠がそう言うと、その場にいる全員が驚いた表情で一誠を見る。

一誠の元いた世界が気になる所ではあるが、それよりも先にゲームをした方が良いと判断する白夜叉。

 

「肝心の試練だがの。おんしら三人とこのグリフォンで“力”“知恵”“勇気”の何れかを比べ合い、背に跨って湖畔を舞うことが出来ればクリア、という事にしようか」

 

白夜叉が双女神の紋が入ったカードを取り出す。すると虚空から“主催者権限”にのみ許された輝く羊皮紙が現れる。

白夜叉は白い指を奔らせて羊皮紙に記述する。

 

『ギフトゲーム名 "鷲獅子の手綱"

 

プレイヤー一覧 逆廻 十六夜

        久遠 飛鳥

        春日部 耀

 

クリア条件 グリフォンの背に跨り、湖畔を舞う。

 

クリア方法 “力”“知恵”“勇気”の何れかでグリフォンに認められる。

 

敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

″サウザンドアイズ″印』

 

「私がやる」

 

読み終わるや否やピシ! と指先まで綺麗に挙手をしたのは耀だった。

彼女の瞳はグリフォンを羨望の眼差しで見つめている。

 

『お、お嬢……大丈夫か? なんや獅子の旦那より遥かに怖そうやしデカイけど』

「大丈夫、問題ない」

 

耀の瞳は真っ直ぐにグリフォンに向いている。キラキラと光るその瞳は、探し続けていた宝物を見つけた子供のように輝いていた。

隣で呆れたように苦笑いを漏らす十六夜と飛鳥。

 

「OK、先手は譲ってやる。失敗するなよ」

「気を付けてね、春日部さん」

「あんまり無理するなよ」

「うん、頑張る」

 

応援を受けて春日部はグリフォンの元に歩み寄る。

グリフォンは大きく翼を広げ戦いに白夜叉を巻き込なないようにその場を離れるが、それを追いかけるように春日部は走り寄る。

 

「え、えーと。初めまして、春日部耀です」

『!?』

 

ビクンッ!!とグリフォンの肢体が跳ねた。

まさか話し掛けられるとは思わなかったのだろう。

 

「私を貴方の背に乗せ……誇りを賭けて勝負しませんか?」

『……何……!?』

「貴方が飛んできたあの山脈。あそこを白夜の地平から時計回りに大きく迂回し、この湖畔を終着点と定めます。

貴方は強靭な翼と獅子で空を駆け、湖畔までに私を振るい落とせば勝ち。私が背に乗っていられたら私の勝ち。………どうかな?」

 

誇り高いグリフォンに跨る事は、彼等に認められる事で成しえる事ができる。

そんなグリフォンに『誇り』を賭けろというのは、十分過ぎる挑発だろう。

 

『娘よ。お前は私に"誇りを賭けろ"と持ちかけた。お前の述べる通り、娘一人振るい落とせないならば、私の名誉は失墜するだろう。―――だがな娘。誇りを対価に、お前は何を賭す?』

 

「命を賭けます」

 

簡潔な一言だった。

その返答に黒ウサギと飛鳥から驚きの声が上がった。

 

「だ、駄目です!」

「か、春日部さん!? 本気なの!?」

 

だが、春日部は一切耳を貸さず話を続ける。

 

「貴方は誇りを賭ける。私は命を賭ける。もし転落して生きていても、私は貴方の晩御飯になります。………それじゃあ駄目かな?」

『………ふむ………』

 

春日部の提案に黒ウサギと飛鳥がますます慌てる。

だが、それを一誠と十六夜の二人が手を上げて制する。

 

「邪魔すんな。春日部に一番手を譲った時点で何かを言う権利は無い」

「そうじゃぞ、二人共。これはあの娘から切り出した試練だぞ」

「あぁ。無粋なことはやめとけ」

「そんな問題ではございません!!同士にこんな分の悪いゲームをさせるわけには―――」

「大丈夫」

 

春日部は振り向きながら頷く。その瞳にはなんの気負いもなく、むしろ勝算ありと思わせる

しばらくの間グリフォンは考える仕草を見せた後、頭を下げた。

 

『乗るがいい、若き勇者よ。鷲獅子の疾走に耐えられるか、その身で試してみよ』

 

春日部は頷き、手綱を握って背に乗り込む。鞍が無いために不安定ではあるが、耀は手綱をしっかりと握りしめ、ししの胴体に跨る。

 

 

その後、マイナス数十度という寒さと、グリフォンの空を駆ける速度と軌道から掛る強烈なGに耐え抜き、耀は見事に試練をクリアした。

ゴールを過ぎた瞬間、安心したのか手綱を離し落下した耀は自分の持つペンダントの力により、グリフォンのギフトを手に入れた。

空気を踏みしめ、階段を下りる様に皆の前に降り立つ耀。

そんな耀を見て、十六夜は呆れたように笑いながら話しかける。

 

「やっぱりな。お前のギフトって、他の生き物の特性を手に入れる類だったんだな」

「……違う。これは友達になった証。けど、いつから知ってたの?」

「ただの推測。お前、黒ウサギと出会った時に"風上に立たれたら分かる"って言ってたろ。そんな芸当は普通の人間には出来ない。だから春日部のギフトは多種とコミュニケーションを取る訳じゃなく、多種のギフトを何らかの形で手に入れたんじゃないか……推測したんだが、それだけじゃあなさそうだな。あの速度で耐えられる生物は地球上にいないだろうし?」

 

興味津々な十六夜の視線を耀はフイっと避ける。

その傍に途端に三毛猫が駆け寄ってきた。

 

『お嬢! 怪我はないか!?』

「うん、大丈夫。指がジンジンするのと服がパキパキになったぐらい」

「ちょっと見せてみろ」

 

一誠はそう言って、耀の手を掴む。

そして、耀の手を掴んだ一誠の手が軽く光ると、先ほどまで赤く霜焼けになっていた指先が治っていた。

 

「!? ……どうやったの?」

「後で話してやるよ」

「……ありがとう」

 

一誠はそう言うと、耀はお礼を言う。

そんな耀の近くにグリフォンが舞い降りてきた。

 

『見事。お前が得たギフトは、私に勝利した証として使ってほしい』

「うん。大事にする」

「いやはや大したものだ。このゲームはおんしの勝利だの。……ところで、おんしの持つギフトだが。それは先天性か?

「違う。父さんに貰った木彫りのおかげで話せるようになった」

「木彫り……?」

 

首を傾げる白夜叉。そこで三毛猫が説明する。

 

『お嬢の親父さんは彫刻家やっとります。親父さんの作品でワシらとお嬢は話せるんや』

「ほほう…………彫刻家の父か。よかったらその木彫りというのを見せてくれんか?」

 

頷いた耀は、ペンダントにしていた丸い木彫り細工を取り出す。

白夜叉は渡された手の平大の木彫りを見つけて、急に顔を顰める。

一誠達もその隣から木彫り細工を覗きこんだ。

 

「複雑な模様ね。何か意味があるの?」

「意味はあるけど知らない。昔教えてもらったけど忘れた」

「………。これは」

 

白夜叉だけでなく、十六夜と黒ウサギ、一誠も神妙な顔をして鑑定に参加する。

表と裏を何度も見直し、その表面にある幾何学線を指でなぞる。

それを見て、黒ウサギは春日部に質問する。

 

「材料は楠の神木……? 神格は残っていないようですが……この中心を目指す幾何学線……そして中心に円状の空白……もしかしてお父様の知り合いには生物化学者がおられるのでは?」

「うん。私の母さんがそうだった」

「生物学者ってことは、やっぱりこの図形は系統樹を表しているのか白夜叉?」

「おそらくの。……ならこの図形はこうで……この円状が収束するのは……いや、これは……これは、凄い!! 本当に凄いぞ娘!! 本当に人造ならばおんしの父は神代の大天才だ! まさか人の手で独自の系統樹を完成させ、しかもギフトとして確立させてしまうとは! コレは正真正銘"生命の目録"と称して過言ない名品だ!」

 

興奮したように声を上げる白夜叉。

 

「系統樹って、生物の発祥と進化の系譜とかを示すアレ? でも母さんの作った系統樹の図はもっと樹の形をしていたと思うけど」

 

そこに説明と自身の疑問を挟みながら呟く一誠。

あらゆる術式や伝承を知る一誠だが、知識を総動員してもこれが何なのかハッキリとは判らなかった。

 

「木彫りの円形は生命の流転、輪廻を表し、再生と滅亡の輪廻を繰り返す命の系譜が進化を遂げて進む円の中心は、世界の中心を目指して進んでいるのを現しているってところか?」

「うむ。中心が空白なのは、流転する世界の中心だからか、生命の完成が未だに視えぬからか、それともこの作品そのものが未完成の作品だからか。――――うぬぬ、凄い。凄いぞ。久しく想像力が刺激されとるぞ! 実にアーティスティックだ! おんしさえよければ私が買い取りたいくらいじゃ!」

「ダメ」

 

春日部はアッサリと断って木彫りを取り上げた。

白夜叉はお気に入りの玩具を取り上げられた子供のようにしょんぼりとする。

 

「で、これはどんな力を持ったギフトなんだ?」

「それは分からん。今分かっとるのは異種族と会話ができるのと、友になった種から特有のギフトを貰えるということぐらいだ。これ以上詳しく知りたいのなら店の鑑定士に頼むしかない。それも上層に住む者でなければ鑑定は不可能だろう」

「え? 白夜叉様でも鑑定出来ないのですか? 今日は鑑定をお願いしたかったのですけど」

 

ゲッ、と気まずそうな顔をする白夜叉。

 

「よ、よりにもよってギフト鑑定か。専門外どころか無関係もいいところなのだがな」

 

ゲームの褒章として依頼を無償で引き受けるつもりだったのか、白夜叉は困ったように白髪を掻きあげる。

しかし、困った様な表情をしたまま一誠の方に視線を向ける。

 

「ま、まぁともかく。鑑定よりも先にそこの小僧との決闘が先じゃな」

 

その場にいる全員が一誠と白夜叉に視線を向ける中、一誠はグリフォン、そして耀のしているペンダントを見つめ、最後に白夜叉に視線を向け、ある提案をする。

 

「白夜叉、代理に戦わせるってのはどうだ?」

「代理?」

 

白夜叉は扇子を広げ、小首を傾げながら聞き返す。

 

「この場に俺のペットを呼び出す。そいつとそこのグリフォンを競わせ、勝った方の主が勝者だ。……勝負はそうだな、さっきグリフォンが一蹴したルートでレースをするってのでいいか?」

「私は構わんが……」

 

白夜叉はそう言って、グリフォンの方に視線を向ける。

グリフォンはグリフォンで闘気を漲らせ、頷く。

 

「なら、先に契約書類を作ってくれ。俺の呼びだしたペットを見て、逃げられんのも嫌だからな」

『……っ 舐めるなよ、若造!!』

 

一誠の言葉に、グリフォンは怒気を発する。誇り高いグリフォンを暗に雑魚と言ったのだ。

 

「かまわんよ」

 

白夜叉は先ほどと同じように″契約書類(ギアスロール)″を作りだす。

そこにはこう書かれていた。

 

『ギフトゲーム名 ″獣たちの競い″

プレイヤー一覧 ″    ″

 

勝利条件 グリフォンと決められたコースでレースをし、先にスタート地点であるゴールにたどり着く。

 

敗北条件 グリフォンが先にゴールにたどり着く。 

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

″サウザンドアイズ″印」

 

一誠は契約書類の内容を読み、白夜叉に確認をとる。

 

「んじゃ、呼び出すぞ」

 

一誠がそう言うと、問題児三人と黒ウサギは興味津々と言った感じで一誠を見る。

 

「ペットって何だろ? 凄く気になる」

「私もよ」

「黒ウサギもです」

「きっと俺達の度肝を抜いてくれるんじゃねえか?」

 

十六夜は一誠の出鱈目具合を少しばかり理解しているので、そう言う。

耀と黒ウサギも興味があるが、それ以上に耀は楽しみにしている。

白夜叉は一誠が代わりの勝負を持ちだすことで己のプライドを守ったのだと誤解する。

一誠の真横に巨大な魔法陣が現れ、そこから一匹の巨大な狼が出てくる。

 

『オオオオォォォォォォオオオオオオンッ!!』

 

綺麗な灰色の毛並みをした狼はグリフォンの一回り、下手したら二回りは大きい。

狼の遠吠えは、広大な面積を誇る白夜叉のゲーム盤の遠くまで轟く。

 

「こいつが俺のペット、番犬として飼っていた。フローズヴィトニルって言えば分かるか? 一応主従の契約をした使い魔でもある」

 

一誠が巨大な狼を軽く撫でながらそう言う。

一誠以外の全員が驚愕している。特に、白夜叉、黒ウサギ、十六夜の三名は特に驚いている。

 

「フェンリルじゃと!?」

「あり得ません! 星獣クラスの神獣を従えるなんて! しかも主従の契約ですって!?」

「やはは、マジかよ」

 

黒ウサギと白夜叉の驚きは並大抵のモノではない。

フェンリルの牙は神殺しとして有名だ。さらにグレイプニルに縛られている間に垂れた涎から川ができたという伝承もある。

神殺しを始め、巨大な″功績″を持つフェンリルは、神獣というカテゴリで在りながら星獣クラスの力を誇る。

少なくとも黒ウサギでは絶対に勝てないし、神格を宿している状態の白夜叉では、下手したら殺されるかもしれない。

それ程までに巨大な力を持つフェンリルは、それと同等かそれ以上に誇り高い。それを主従で従わせるなど、全盛期の白夜叉でも不可能なことだ。

 

「白夜叉、ゲームが始まる前に一つ聞いておこう。お前は″試練″を選ぶか? それとも―――」

 

一誠は白夜叉を見下しながら、問いかける。

試練を受けるのか、それともと。

一誠の体から極大なまでの力が放出さる。それは遠くから見たら巨大な柱が出現したように見えた。

白夜叉を体現した広大なゲーム盤の隅々まで力を振りまき、振動を起こしながら一誠は最後の問をする

 

「対等な″決闘″か? もし試練だというのなら俺の代わりにフェンリルをゲームに出そう。対等な決闘と言うのなら、俺は全身全霊を持ってお前を打ち倒そう」

 

笑いながらそう言う一誠は、さらに力を解放する。

一誠からしたら一割にも満たない程度のほんの少しばかりの力だが、それは白夜叉のゲーム盤を浸食し、破壊していく。

(なんなのじゃ、こやつは!? 本当に人間か!!? 私でも底が見えんっ!)

白夜叉は冷や汗を流しながら、内心でそう思う。

東側で最強の階層守護者と言われ、太陽と白夜の星霊である白夜叉の空間を、一誠は涼しい顔で浸食し破壊しているのだ。

空間そのものが耐えきれなくなったのか、空一面に罅が入り始めている。

(侮っていた。他の三人と同じく人類でも最高クラス、神格級のギフト保持者だとは思っていたが…………まさか全盛期の私すら及ばない化け物がいるとは想像もしなかった)

白夜叉は諦めたように両手を挙手し、

 

「まいった、私の負けだ。……ただ、契約書類は作成してしまったからな。ギフトゲームはやらしてもらうぞ」

 

白夜叉がそう言うと、一誠は力を抑える。

一連の流れを見ていた黒ウサギは呆然と一誠の事を見ている。

問題児達も驚いてはいたが、それよりもフェンリルに興味津々らしい。

耀は瞳を輝かせながら、一誠へと近づく。

 

「ね、ねえ一誠。触ってみてもいい?」

 

そう言って、フェンリルの方をチラチラと見る耀。

さらに耀の後ろで期待を籠めた視線を向ける飛鳥と十六夜。

 

「かまわねぇよ。なんなら乗せてやろうか?」

「いいの?」

 

一誠が無言でフェンリルに視線を向けると、フェンリルはしゃがむ。

耀が軽く跳躍し、フェンリルの背中に跨る。飛鳥は十六夜に抱えてもらい、フェンリルの背中に跨る。

 

「すごい……!」

「ええ、ものすごく気持ちいいわ」

「まさか本物のフェンリルに乗れる日が来るなんてな」

 

遊園地のアトラクションに乗った子供の様に喜ぶ三人。

そんな三人を見て、黒ウサギも乗りたそうな瞳で一誠を見ている。

 

「乗りたいか?」

「はい!」

 

瞳を輝かせて、パァと笑う黒ウサギ。

そんな黒ウサギに、一誠は意地悪そうにニヤリと笑う。

 

「別に俺はかまわないが、こいつの好物はウサギ肉だぞ?」

「え、……ええええええっ!? そそそ、それは真でございますか!!?」

「嘘だ」

 

驚き、慌ててフェンリルから逃げ出そうとしていた黒ウサギだが、一誠の言葉を聞いて耳を立たせて激怒する。

 

「笑えないような嘘はやめてください!」

 

そう怒鳴ってハリセンで一誠の事を叩こうとするが、簡単に避けられる。

うがぁぁぁ! と半ば自棄になりながらハリセンを振り舞わす黒ウサギ。そしてそれを簡単に避けていく一誠。

怒り疲れたのか、黒ウサギは肩で息をし始める。

 

「どうでもいいが、乗らないのか?」

「……乗らせていただきます」

 

そう言ってフェンリルの背中にジャンプする黒ウサギ。

フェンリルは背中に乗った四人に戸惑いながらも立ち上がる。

 

「白夜叉、開始の合図は任せた」

「それはかまわんが、あのままで良いのか?」

 

白夜叉はフェンリルの背中に乗っている黒ウサギ達を指さしてそう訊く。

 

「問題無い。一応防寒の術は掛けてあるからな」

「先ほども思ったが。おんし、魔法使いか?」

 

箱庭における″魔法使い″とは巨人族と同じく、人類の幻獣を指す言葉である。

一誠は確かに魔法を使えるが、幻獣では無い。肉体的には只の人間だ。

 

「正しくは魔法も使えるってところだな。……まぁ、後である程度は纏めて説明してやる」

「そうか……」

 

この場にいる全員が思っていることだが、十六夜、耀、飛鳥の三人と一誠が居た世界はだいぶ違う。

そのことが理解できるが為に、一誠は面倒くさいと思いながらもある程度は説明しようと思っている。

 

「それでは……スタートだ!」

 

白夜叉が手に持った扇子を振り下ろすと、グリフォンとフェンリルは同時に駆けだす。

音速とも言える速度で空を駆けるグリフォンだが、神速で地を駆けるフェンリルに比べれば遥かに遅い。

しかし、それは仕方のない事だ。蟻と人間の一歩は違う。根本的なまでに力の差がありすぎるのだ。

 

「やはははは! 速いなオイ!」

 

一誠の術とフェンリルの気遣いにより、飛鳥ですら無事ではあるが、あまりの速度に十六夜みたいに声を出すという事はできない。

黒ウサギは飛鳥を心配し、耀は瞳を輝かせている。

 

「キミはものすごく速いんだね」

 

耀がフェンリルにそう話しかけると、ビクンとその体が軽く跳ねた。

そして驚きながら、耀に話しかける。

 

『驚いた。―――小娘、吾輩の言葉が分かるのか?』

「うん。あと私の名前は春日部耀だよ。よろしく」

『耀か。……マスター共々よろしく頼む』

「こちらこそ」

 

耀とフェンリルが会話している最中に、フェンリルはゴールを過ぎる。

そして少し遅れてグリフォンがゴールする。

グリフォンは申し訳なさそうな雰囲気を出しながら白夜叉に頭を下げる。

 

『申し訳ありません……』

「よいよい。フェンリルとは、流石の私も予想外だったからのう」

 

苦笑しながらそう言う白夜叉。

グリフォンだって高位の幻獣だ。それ以上の幻獣など、そうそういるモノではない。

(黒ウサギもとんでもない(ジョーカー)を引いたモノよのう)

扇子を開き、口元を隠しながら笑みを浮かべる白夜叉。

 

「して、鑑定の話しなのだが。……おんしらはどこまで自分のギフトの力を把握しておる?」

「企業秘密」

「右に同じ」

「以下同文」

「左に同じ」

「うおおおおい? いやまあ、仮にも対戦相手だったものにギフトを教えるのが怖いのは分かるが、それじゃ話が進まんだろうに」

「別に鑑定なんていらねえよ。人に値札張られるのは趣味じゃない」

 

ハッキリと拒絶する様な声音の十六夜に、同意するように頷く三人。

 

「ふむ。何にせよ″主催者″として、星霊のはしくれとして、試練をクリアしたおんしらには″恩恵″を与えねばならん。ちょいと贅沢な代物だが、コミュニティ復興の前祝いとしては丁度良かろう」

 

白夜叉がパンパンと拍手を打つ。すると、四人の目の前に光り輝く四枚のカードが現れた。

カードにはそれぞれの名前と、その身に宿るギフトを現すネームが記されていた。

 

コバルトブルーのカードに逆廻十六夜・ギフトネーム“正体不明(コード・アンノウン)

ワインレッドのカードに久遠飛鳥・ギフトネーム“威光”

パールエメラルドのカードに春日部耀・ギフトネーム“生命の目録(ゲノム・ツリー)”“ノーフォーマー”

プラチナホワイトのカードに兵藤一誠・ギフトネーム“赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)”“王の威光”“???”

 

「ギフトカード!」

 

黒ウサギは驚いたような、興奮したような表情で四人のカードを覗きこんだ。

 

「お中元?」

「お歳暮?」

「お年玉?」

「お小遣?」

「違います! というか何で皆さんそんなに息が合っているのです!? このギフトカードは顕現しているギフトを収容できる超高価なカードですよ!!」

「つまり素敵アイテムってことでオッケーか?」

「だからなんで適当に聞き流すんですか!! あーもうそうです、超素敵アイテムなんです!! 耀さんの″生命の目録″だって収納可能で、それも好きな時に顕現できるのですよ!」

 

黒ウサギに叱られながら四人は各々のカードを物珍しそうにみつめる。

 

「そのギフトカードは、正式名称を″ラプラスの紙片″、即ち全知の一端だ。そこに刻まれるギフトネームとはおんしらの魂と繋がった″恩恵″の名称。鑑定は出来ずともそれを見れば大体のギフトの正体が分かるというもの」

「へぇ。じゃあ俺と一誠のはレアケースなわけだ?」

 

ん? と白夜叉が十六夜と一誠のギフトカードを覗きこむ。

そこには確かに“正体不明”と“???”文字が刻まれていた。ヤハハと笑う十六夜と無表情な一誠とは対照的に、白夜叉の表情の変化は劇的だった。

 

「……いや、そんな馬鹿な」

 

白夜叉は十六夜と一誠のギフトカードを取り上げ、凝視する。その雰囲気は尋常ならざるものだった。

 

「″正体不明″に″???″だと……? ありえん、全知である″ラプラスの紙片″がエラーを起こすなど」

「何にせよ、鑑定は出来なかったって事だろ。俺的にはこの方がありがたいさ」

 

十六夜と一誠はギフトカードを白夜叉から取り上げる。

怪訝な表情で二人を睨む白夜叉。しかし、一誠はギフトカードを見て、眉を寄せていた。

(この″???″はあれで間違いないだろう。しかし、″王の威光″ってのは何だ? 少なくとも、俺に心当たりは無い。この世界に飛ばされた時に手に入れたモノか? まぁ、どうでもいいが。…………それにしてもプラチナホワイト。俺に『白』とは皮肉だな)

面白げに口元も歪ませる一誠。

白夜叉はパチンと扇子を閉じると、それを一誠の方に向けて言う。

 

「さて、そこのおんしには色々と聞きたい事がある。話してくれるのだろう?」

 

その言葉に、その場にいる全員が一誠に注目する。




ストックが無くなったので連続投稿はここまでです。

今更だけど規格外一誠の財源は、各勢力をぶっ飛ばした後に強奪した貴金属などによって作られています。(ボコした後に貴重な物盗むとか強盗より性質が悪いですね(笑))
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