規格外が異世界から来るそうですよ?   作:れいとん

6 / 13
久々の投稿です。

遅くなって申し訳ありません。

年末年始は忙しくって、さらに掛け持ちで新しいバイト始めたから全然執筆できませんでした。


悲しむ侵入者と利用する規格外達

十分ほどで黒ウサギを解放した問題児達は、居住区を素通りし、貯水池に水樹の苗を設置するのを見に行く。

先客が居たらしく、ジンとコミュニティの子供達が清掃道具を持って水路を掃除していた。

 

「あ、みなさん!水路の準備は整っています!」

「ご苦労様ですジン坊ちゃん♪ 皆も掃除を手伝っていましたか?」

 

子供達はワイワイと騒ぎながら黒ウサギの元に群がる。

 

「黒ウサギおねーちゃんお帰り!」

「眠たいけどお掃除がんばったよ!」

「ねえねえ、新しい人達って誰!?」

「強いの!? かっこいい!?」

「YES! とても強くてかわいい人達ですよ! 皆に紹介するから一列に並んでくださいね」

 

黒ウサギの号令に、子供達は一糸乱れぬ動きで横一列に並んだ。

数は二十人前後、中には猫耳や狐耳の少年少女も居る。

 

(マジでガキばっかだな。半分は人間以外のガキか?)

(じ、実際に目の当たりにすると想像以上に多いわ。これで六分の一ですって?)

(…………。私、子供嫌いなのに大丈夫かなあ)

(狐、猫、犬……気配からして狼か? 黒ウサギ以外にうさぎはいないのか)

 

四人は四者四様の感想を心の中で呟く。子供が苦手にせよ何にせよ、これから彼等と生活をしていくのなら不和を生まない程度には付き合っていかねばならない。

コホンと、わざとらしく咳き込んだ黒ウサギは四人を紹介する。

 

「右から逆廻十六夜さん、久遠飛鳥さん、春日部耀さん、兵藤一誠さんです。皆も知っている通り、コミュニティを支えるのは力のあるギフトプレイヤー達です。ギフトゲームに参加できない者達はギフトプレイヤーを支え、励まし、時には彼らの為に身を粉にして尽くさねばなりません」

「あら、別にそんな必要はないわよ? もっとフランクにしてくれても」

「駄目です。それでは組織は成り立ちません」

 

飛鳥の申し出を、黒ウサギはこれ以上ない激しい声音で断じる。

 

「コミュニティはプレイヤー達がギフトゲームに参加し、彼らのもたらす恩恵で初めて生活が成り立つのでございます。これは箱庭で生きていく以上、避けることができない掟。子供だからと甘やかせば、それは子供達の将来の為に成りません」

「…………そう」

 

黒ウサギの有無を言わさない気迫に飛鳥は黙る。

三年間、たった一人でコミュニティを支えていた者だけが知る厳しさを痛感し、飛鳥は同時に思う。

自分に課せられた責任は、飛鳥が思っていたものよりもはるかに重いのだと。

 

「此処にいるのは子供達の年長組です。ゲームに出られないものの、見ての通り獣のギフトを持っている子もおりますから、何か用事を言いつける時はこの子供達を使ってくださいな。皆も、それでいいですね?」

「「「「「よろしくお願いします!」」」」」

 

キーン、と耳鳴りがする程の大声で二十人前後の子供達が叫ぶ。

四人はまるで音波兵器の様な感覚を受けた。

 

「ハハ、元気が良いじゃねえか」

「そ、そうね」

(…………。本当にやっていけるかな、私)

(これが若さか……)

 

笑う十六夜と無表情な一誠、そしてなんとも言えない複雑な表情をしている他二人。

 

「さて、自己紹介も終わりましたし! それでは水樹を植えましょう! 黒ウサギは台座に根を張らせるので、十六夜さんのギフトカードから出してくれますか?」

「あいよ」

 

十六夜はギフトカードから水樹をだし、黒ウサギに渡す。

水路は長年使っていなかったが、骨格だけは立派に残っていた。しかし所々ひび割れし、砂利も要所に溜まっていた。

流石に全ての砂利を取り除くのは難しかったのだろう。

そんな水路を見て、一誠は指を一振りする。

すると、強風が吹き、水路に溜まっていた砂利を綺麗に吹き飛ばしていった。

春日部耀は石垣に立ちながら物珍しそうに辺りを見回す。

 

「大きい貯水池だね。ちょっとした湖ぐらいあるよ」

『そやな。門を通ってからあっちこっち水路があったけど、もしあれに全部水が通ったら壮観やろうなあ。けど使ってたのは随分前になるんちゃうか? ウサ耳の姉ちゃん』

「はいな、最後に使ったのは三年前ですよ三毛猫さん。元々は龍の瞳を水珠に加工したギフトが貯水池の台座に設置してあったのですが、それも魔王に取り上げられてしまいました」

「龍の瞳? 何それカッコいい超欲しい。何処に行けば手に入る?」

「さて、何処でしょう。知っていても十六夜さんには教えません」

 

十六夜が瞳を輝かせ黒ウサギに問いかけるが、彼女は適当にはぐらかす。

十六夜にそんなことを教えた瞬間、彼は絶対に龍がいる場所に向かうだろう。一人で龍に挑まれたりしたら助けることすらできない。

黒ウサギの意図を察し、ジンが話を戻そうとするが、それよりも速く一誠が十六夜に声を掛ける。

 

「十六夜」

「ん?」

「ほれ」

 

ひょいっと、一誠は野球ボールくらいの大きさの球体を十六夜に投げ渡す。

 

「なんだ、これ?」

 

神秘的に光る球体をいろんな角度から眺める十六夜。

飛鳥と耀の二人も興味深そうに、十六夜の手元に在る球体を見つめる。

 

「ま、まさか…………」

 

遠くからでも、その球体が発する気配を感じ取ったのだろう。黒ウサギの表情は引きつっている。

そんな黒ウサギの事なんぞ知ったこっちゃないと言わんばかりに、一誠はその球体の正体を言う。

 

「欲しいんだろ? やるよ、それ。正真正銘、本物の龍の瞳だ」

「…………は?」

 

流石の十六夜も突然の事に呆けてしまう。

飛鳥と耀は先ほどよりも、より興味深そうに龍の瞳を見ている。

 

「ところで、あの水樹で貯水池と水路を全てを埋めるなんて可能なのか?」

 

一誠は色々とツッコミをしてきそうな黒ウサギを無視し、近くにいたジンにそう問いかける。

 

「え? あ、はい。…………この水樹じゃまだこの貯水池と水路を全てを埋めるのは不可能でしょう。時々整備していたのですが、あくまで最低限です。ですから居住区の水路は遮断して本拠の屋敷と別館に直通している水路だけ開きます。此方は皆で川の水を汲んで来た時に時々使っていたので問題ありません」

 

いきなり一誠に話しかけられて驚きながらも、ちゃんと答えるジン。

 

「あら、数kmも向こうの川から水を運ぶ方法があるの?」

 

一誠とジンの会話が聞こえたのか、飛鳥が話しかけてくる。

苗を植えるのに忙しい黒ウサギに変わってジンと子供達が答えた。

 

「はい。みんなと一緒にバケツを両手にもって運びました」

「半分くらいはコケて無くなっちゃうんだけどねー」

「黒ウサのねーちゃんが箱庭の外で水を汲んでいいのなら、貯水池をいっぱいにしてくれるのになあ」

「…………。そう。大変なのね」

 

ちょっぴりだけガッカリした顔をする飛鳥。

もっと画期的で幻想的なモノを期待していたのだろう。しかしそんなものがあれば黒ウサギが水不足で悩んだり、水樹であれほど大歓喜することもない。

 

「それでは苗の紐を解いて根を張ります! 一誠さんは屋敷への水門を開けてください!」

「はいよ」

 

一誠は軽く指を振るう。

すると独りでに水門が開く。

封を解かれた水樹から大波の様に水があふれかえり、激流となって貯水池を埋めていく。

 

「…………これ、俺が水門開けたら、また俺がずぶ濡れになっちまうんじゃねえか?」

 

しかめっ面でそう呟く十六夜。

水樹の青葉は樹枝から溢れ出た水と月明かりで燦然と輝きを放っていた。

 

「うわお! この子は予想以上に元気ですよ♪」

 

水門を勢い良く潜った激流は一直線に屋敷への水路を通り満たしていく。

昔のように並々と満ちていく水源を見て、ジンは感動的に呟いた。

 

「凄い!これなら生活以外にも水が使えるかも……!」

「なんだ、農作業でもするのか?」

「近いです。たとえば水仙卵華などの花のギフトを繁殖させれば、ギフトゲームに参加できずともコミュニティの収益になります。これならみんなにもできるし……」

「ふぅん。で、水仙卵華ってなんだ御チビ」

 

ジンは何の前触れもなく『御チビ』という尊敬語と嘲笑を交えた、なんとも言えない愛称で呼ばれたことに驚く。

 

「す、水仙卵華とは別名・アクアフランと呼ばれ、浄水効能のある亜麻色の花の事です。薬湯に使われることもあり、観賞用にも取引されています。確か噴水広場にもあったはずです」

 

「ああ、あの卵っぽい蕾のことか?そんな高級品なら一個ぐらいとっとけばよかったな」

「な、何を言い出すのですか! 水仙卵華は南区画や北区画でもギフトゲームのチップとしても使われるものですから、採ってしまえば犯罪です!」

「おいおい、ガキのくせに細かいことを気にするなよ御チビ」

 

ジンは癪に障ったように言い返そうとするが、十六夜は真剣な顔と凄味のある声で続ける。

 

「悪いが、俺は俺が認めない限りは“リーダー”なんて呼ばないぜ? この水樹だって気が向いたからもらってきただけだ。“コミュニティの為”ってわけじゃない」

 

ジンは言葉に詰まる。十六夜のその言葉に衝撃を受ける。

大戦力だと期待していただけに、十六夜からの言葉の衝撃も大きかった。

 

「黒ウサギにも言ったが、召喚された分の義理は返してやる。だがもし、義理を果たした時にこのコミュニティがつまらねえことになっていたら…………俺は躊躇い無くコミュニティを抜ける。いいな?」

 

真摯とも、威圧的ともとれる声音で十六夜は語る。

十六夜の示す“つまらない”が何かはわからないが、だからこそジンも覚悟するように強く頷く。

 

「僕らは"打倒魔王"を掲げたコミュニティです。何時までも黒ウサギに頼るつもりはありません。次のギフトゲームで…………まずはそれを証明します」

「そうかい。期待してるぜ御チビ様」

 

ケラケラと笑う十六夜の呼び方にイラっとするジンだが、それも仕方がない事だと言葉を呑む。

黒ウサギに依存してきたジンと違い、新たな同士である十六夜のほうがコミュニティに貢献しているのだから。

(初めてのギフトゲーム…………僕が頑張らないと)

水面に浮かぶ十六夜の月を見降ろし、ジンは一人で呟く。

 

「…………」

 

一誠は水が溜まっていく貯水池と、それを見て嬉しそうにしている子供たちとそれを楽しそうに見ている飛鳥と耀をそれぞれ見る。

(まぁ、たまには良いか)

一誠が指先を振るう。

そして貯水池に溜まっている水に変化が起こる。

貯水池に真ん中に巨大な水柱が出現する。

その水柱の真ん中から水で構成されたイルカが飛び出してくる。

 

「…………あ」

 

しかし、イルカはすぐさまその身を凍らせる。

だが、凍ったイルカは先ほどと変わらずに軽快な動きで水面を泳ぐ。

更に一誠が指先をくるくるっと振るう。

すると、一誠達の居る所を水流のトンネルが囲う。

足元以外の左右上に流れる水のトンネルから先ほどのイルカや、同じく氷でできた人魚や妖精がその姿を覗かせる。

子供達の周りを氷人形の妖精がクルクルと回る。

更に足元を氷でできたペンギンが行列で行進してくる。

そのペンギンたちは十六夜達の前に来るとペコリと一礼してから、ぴょんととび跳ねて水流のトンネルの表面を滑っていく。

 

「わぁ…………凄い」

「ええ」

「確かに」

 

飛鳥、耀、十六夜の三人も子供の様に瞳を輝かせながら、そのショーを楽しんでいる。

一誠が指揮者の様に指を振るうごとに変化が訪れる。

イルカたちの様な氷の鳥が水中から飛び出し空を飛び、水でできた馬が何匹も水面を駆けていく。

時には巨大な蛇が出現し、その蛇と戦う三又の槍を持つ巨人が出現する。

時には人魚がその身を水で隠すと、その中から踊りを披露する女神が出現する。

一誠は唐突に、近くにいた少女の首元を掴み、ひょいと持ち上げるとそのまま貯水池へと落とす。

突然の出来事に全員が驚愕する中、水でできた馬に乗りながら水面を楽しそうに駆ける少女。

更に二十頭ほどの馬が子供達に近づく。

子供達は全員、恐る恐る馬にまたがると、先ほどの少女と同じように水面を駆ける。

 

「ね、ねえ一誠くん」

「私も乗りたい」

「やははははは」

 

耀と飛鳥が一誠にそう言う。ちなみに十六夜は既に勝手に水馬を乗り回し、楽しそうに笑っている

一誠が指を振ると、飛鳥と耀の近くの水面から水馬が生み出される。

二人がそれに跨ると、水馬は水面を駆けていく。

貯水池でおこなわれているショーに視線を向けながらも、一誠の傍に黒ウサギが寄ってくる。

その場に二人っきりになる一誠と黒ウサギ。

一誠は不意に黒ウサギの腕を掴む。

 

「い、一誠さん?」

 

突然の事に驚きながら一誠の方を向く黒ウサギ。

一誠は無言で黒ウサギを見つめる。

 

「あ、あぅ……」

 

頬を赤く染め、一誠から視線をずらす黒ウサギ。

そんな黒ウサギに一誠は言葉を投げかける。

 

「黒ウサギ」

「はい…………」

 

ウサ耳をへにょらせ、顔を真っ赤に染め、少しばかり……いや、かなり色っぽい黒ウサギ。

一誠はそんな黒ウサギの熱っぽい吐息を傍で感じながら腕を離さずに言う。

 

「いざって時は受け身をちゃんととれよ」

 

はい? と疑問を抱いた次の瞬間には、黒ウサギはものすごい速さで貯水池の真ん中、水柱目掛け投げられていた。

 

「ちょっええええぇぇぇぇぇぇ!?」

 

先ほどとは一転、黒ウサギは絶叫を上げながら、ものすごい勢いでドボンと水柱の中に突っ込む。

そこに一誠は両腕を前へと突き出して左手を下に、手の平の上に右拳を重ねる。

すると、水柱はその姿を変化させて凍りついた。

巨大な茨の蔓が螺旋状に周りを囲み、巨大なドラゴンがその両手で一輪の巨大なバラを持っている。

そのバラの真ん中に呆然とした様子の黒ウサギが立っていた

一誠はいつの間にか水面に降り立ち、そしてその場にいる全員に聞こえる様に言う。

 

「これで終了だ」

 

そう言って指をパチンと一度だけ鳴らすと、次の瞬間にはその場にいる全員が水門近くの石垣に立っており、さらに貯水池の真ん中に現れた見事な彫刻は一瞬で砕け散る。

その砕け散った氷がキラキラと辺り一帯に散る。

 

「綺麗」

「うん」

「良いモノを見せてもらったぜ」

 

飛鳥、耀、十六夜の三人はその光景に視線を奪われ、子供達ははしゃぎながらその光景を見てる。

黒ウサギも、先ほど投げられた事に何か文句を言おうと思っていたが、この場の光景を見てそんな考えは吹き飛んでいた。

 

 

「遠目から見てもかなり大きいけど…………近づくと一層大きいね。どこに泊まればいいの?」

 

まるでホテルの様に巨大な本拠を見て、耀は感嘆したように呟いた。

 

「コミュニティの伝統では、ギフトゲームに参加できる者には序列を与え、上位から最上階に住む事になっております…………けど、今は好きな所を使っていただいて結構でございますよ。移動も不便でしょうし」

「そう。そこにある別館は使っていいの?」

 

飛鳥は屋敷の脇に立つ建物を指す。

 

「ああ、あれは子供達の館ですよ。本来は別の用途があるのですが、警備の問題でみんなここに住んでいます。飛鳥さんが一二〇人の子供と一緒の館でよければ」

「遠慮するわ」

 

飛鳥は即答で断った。

苦手ではないにせよ、そんな大人数を相手にするのは御免なのだろう。

四人は箱庭やコミュニティの質問などはさておき、それよりも風呂に入りたいと言う要望の下、黒ウサギは湯殿の準備を始める。

が、しばらく使われていなかった大浴場を見て、真っ青になる。

 

「一刻ほどお待ちください! すぐに綺麗にいたしますから!」

 

流石にそんなに待ちたくないのだろう。一誠が軽く指を振るうと、大浴場は一瞬で綺麗になる。

 

「湯はそっちで沸かせ」

「はい……」

 

今日来てもらったばかりの一誠に雑務をやってもらい、ウサ耳をへにょらせながら黒ウサギは申し訳なさそうに一誠に頭を下げる。

湯を沸かしている間、四人はそれぞれに宛がわれた部屋を一通り物色し、来客用の貴賓室で集まった。

 

「にゃ…………にゃ~?」

「駄目だよ。ちゃんと三毛猫もお風呂に入らないと」

「……ふぅん? 話には聞いてたけど、お前本当に猫の言葉がわかるんだな」

「うん」

「フシャーーーッ!!」

「駄目だよ、そんなこと言うの」

 

ニャーニャーとしか聞こえない猫の声に耀は反応する。

その様子は傍目から見ると不気味に見える。

飛鳥は聞きにくそうに質問する。

 

「…………春日部さんに友達ができなかったのはもしかして」

「友達は沢山いたよ。ただ人間じゃなかっただけ」

 

それ以上の詮索を拒否する声音に、飛鳥は口を塞ぐ。

動物の言葉が分かり、人間の友達を作らなかった耀。

しかし、この場には人間の友達はおろか、知り合いすら殆ど居ない者も居る…………誰とは言わないが。

廊下から黒ウサギの声がしたのはそれからすぐの事だった。

 

「ゆ、湯殿の用意ができました!女性様方からどうぞ!」

「ありがと。先に入らせてもらうわよ、2人共」

「俺は二番風呂が好きな男だから特に問題はねえよ」

「何番風呂とか特に気にしないからな。色々あって体冷えてんだろうから、しっかり温まってこい」

 

湖に落ちたり、一誠の水芸で長時間冷気に当たっていた二人はすっかり体が冷えている。

一誠の気遣いの言葉に飛鳥と耀は頷き、女性三人は真っ直ぐに大浴場に向かう。

女性陣が居なくなったあと、一誠と十六夜はしばらく貴賓室で寛ぎ、

 

「そろそろ行くか? 十六夜」

「そうだな―――今のうちに、外の奴らと話しをつけないとな。一誠」

 

 

「おい。襲うにしろ帰るにしろ、とっとと決めろ。風呂に入れねぇだろうが」

 

風に揺れる木々に向かって、一誠はそう話しかける。

一見して誰も居ないように見えるが、実際にはかなりの人数が隠れている。

十六夜は呆れたように石をいくつか拾う。

 

「いいかげんにしろ………よっ!」

 

軽いフォームからは考えられない出鱈目な爆音と共に、辺り一帯の木々もろとも隠れていた人影を吹き飛ばす。

 

「出鱈目なことすんなぁ……」

「お前にだけは言われたくねえよ!」

 

呆れながらそう呟く一誠に、十六夜はそう言いかえす。

別館から慌てて出てきたジンが二人に問う。

 

「ど、どうしたんですか⁉」

「侵入者だよ」

「例の“フォレス・ガロ”の連中じゃねえか?」

 

空中からドサドサと落ちてくる瓦礫と黒い人影。

 

「なんという出鱈目な力だ…………蛇神を倒したというのは本当の話だったのか」

「ああ…………これならガルドの奴とのゲームに勝てるかもしれない…………!」

 

侵入者の視線に敵意らしいものは感じられなかった。それに気づき、十六夜は侵入者に話しかける。

 

「おお? 何だお前ら、人間じゃねえのか?」

「我々は人をベースにさまざまな“獣”のギフトを持つ者。しかしギフトの格が低いため、このような半端な変化しかできないのだ」

「へえ…………で、何か話しをしたくて襲わなかったんだろ? ほれ、さっさと話せ」

 

にこやかに話しかける十六夜。

侵入者はお互いに目配せをした後、意を決するように頭を下げ、

 

「恥を忍んで頼む! 魔王の傘下であるコミュニティ"フォレス・ガロ"を完膚なきまでに叩き潰していただけないでしょうか!!」

「嫌だね」

「断る」

 

決死の言葉は即答で拒否される。

一誠と十六夜の言葉に絶句し、固まる侵入者とジン。

 

「どうせお前らもガルドって奴に人質を取られている連中だろ?」

「そんで、命令されて攫いに来たんだろ?」

「は、はい。そこまでお見通しとはだとは露知らずに失礼な真似を…………我々も人質を取られていて、逆らうこともできず」

「その人質もうこの世にいねえから。はいこの話題終了」

「―――…………なっ」

「十六夜さん!!」

 

ジンが慌てて十六夜に詰め寄る。しかし、十六夜は冷たい声音で接する。

 

「隠す必要はねえだろ?どうせすぐに知れることだ」

「それにしたって言い方というものがあるでしょう‼」

「気を使えってか? 冗談きついぞ御チビ様」

「そもそも殺された人質を攫ってきたのだってこいつ等なんだろ? 気を使う必要なんて皆無じゃねぇか」

 

一誠の言葉にはっとジンは振り返る。

人質を救うために新たな人質をこの侵入者たちが攫ってきたというのなら、人質の大半は彼等が殺したと言っても過言ではない。

 

「そ、それでは本当に人質は…………」

「ガルドとか言うクソ猫は攫ったその日に殺していたそうだぞ?」

「そんな…………!」

 

侵入者は全員、その場に項垂れる。

ふっとある事を思いついた十六夜は、侵入者たちに話しかける。

 

「お前ら、“フォレス・ガロ”とガルドが憎いか? 叩き潰されてほしいか?」

「あ、当たり前だ! 俺達がアイツのせいでどんな目にあってきたか…………!」

「そうかそうか。でもお前達にはそれをするだけの力を持たないと?」

 

唇を噛み死ねながら悔しがる男達。

 

「ア、アイツはあれでも魔王の傘下。ギフトの格も遥かに上だ。俺達がゲームに挑んでも勝てるはずがない! いや、万が一勝てても魔王に目を付けられたら……」

「その“魔王”を倒すためのコミュニティがあるとしたら?」

 

え? と顔を上げる男達に見える様に、十六夜はジンの肩を抱き寄せると、

 

「このジン坊ちゃんが、魔王を倒すためのコミュニティを作る(・・・・・・・・・・・・・・・・・)と言っているんだ」

「なっ!?」

 

侵入者一同含め、ジンでさえ驚愕した。

一誠は十六夜のしようとしている事に気がついたのだろう、面白そうに成り行きを黙って見ている。

 

「俺達は魔王のコミュニティ、その参加も含めて全てのコミュニティを魔王の脅威から守る。そして守られるコミュニティは口をそろえてこういってくれ。“魔王関係で困ったことがあったら、まずはジン=ラッセルの下にお問い合わせください”」

「じょ、」

 

冗談でしょう!? と叫びそうになるジンの口を十六夜は塞ぐ。

十六夜は立ち上がると、腕を広げて大仰な口調で語る。

 

「人質の事は残念だったな。だが、安心していい。明日ジン=ラッセル率いるメンバーがお前達の仇を取ってくれる。その後の事も心配しなくていい! なぜなら俺達のジン=ラッセルが“魔王”を倒すために立ちあがったのだから!」

「おお…………!」

 

十六夜のその言葉に希望を見出す侵入者一同。

 

「さあ、コミュニティに帰るんだ! そして仲間のコミュニティに言いふらせ! 俺達のジン=ラッセルが“魔王”を倒してくれると!」

「わ、わかった! 明日はがんばってくれジン坊ちゃん!」

「待っ…………」

 

ジンが叫ぶ前に、侵入者たちはあっという間に走り去ってしまった。

 

 

本拠地の最上階で、ジンはたまらず十六夜に怒鳴りかけた。

 

「どういうつもりですか⁉」

「“打倒魔王”が“打倒全ての魔王とその関係者”になっただけだろ。“魔王にお困りの方、ジン=ラッセルまでご連絡ください”────キャッチフレーズはこんなところか?」

「冗談じゃありません!入口を見て魔王の力は理解できたでしょう⁉」

「勿論だ。あんな面白そうな奴らと戦えるなんて最高じゃねえか」

 

十六夜のそのあまりの言い草に、ジンは絶句して十六夜の行動を問いただす。

 

「お…………面白そう? では十六夜さんは自分の趣味の為にコミュニティを滅亡に追いやるつもりですか!? 一誠さんも黙っていないで、なんとか言ってください!!」

 

ジンは一誠に助けを求めるが、いかせん助けを求めた相手が悪かった。

 

「何にも問題ないだろ。むしろ問題があるのはお前の方だ」

「なっ…………!」

 

まさか、十六夜ではなく自分が責められると思っていなかったジンはまたも絶句する。

そんなジンを無視して、一誠は十六夜に目配せする。

十六夜は軽く頷いてから、口を開く。

 

「これはコミュニティを発展させるのに必要不可欠な作戦だ」

「作戦?…………どういうことです?」

「先に確認したいんだがな。御チビは俺たちを呼び出して、どうやって魔王と戦うつもりだったんだ? あの廃墟を作った奴や白夜叉みたいな力を持つのが“魔王”なんだろ?」

「それは…………まずは水源を確保するつもりでした。新しい人材と作戦を的確に組めば、水神クラスは無理でも水を確保する方法はありましたから。けど、それは十六夜さんのおかげでどうにかなりました、そこは素直に感謝します」

「おう、感謝しつくせ。それで?」

 

ケラケラと笑う十六夜に促され、ジンは続ける。

 

「次はギフトゲームに参加して堅実にコミュニティの力を高める予定でした。皆さんの力あれば必ず強くなります。例え力のない同士が呼び出されたとしても、力を合わせればコミュニティを大きくできます。まして、これだけの才有る方々が揃えば…………どんなギフトゲームにも対抗できます。なのに、十六夜さんは魔王を倒すためのコミュニティなんて言い出して、コミュニティを危険に晒し陥れる様な真似をした。一体どういうつもりなんですか!?」

「期待一杯、胸一杯だったわけか」

 

全く悪びれた様子のない十六夜に、ジンは我慢できずに口調を崩して叫んだ。

 

「魔王を倒すためのコミュニティなんて馬鹿げた宣誓が流布されたら最後、魔王とのゲームは不可能になるんですよ!? その事を本当に貴方は分かっているのですか!?」

「はぁ……」

 

一誠はため息を吐き、ジンに失望した瞳を向ける。

 

「お前、本当にそんなので再建だの、誇りがどうだの言っていたのかよ」

「ああ、まったく。失望したぜ御チビ」

「な、」

「ギフトゲームに参加して力を付けるなんて大前提なんだよ。十六夜がお前に聞いているのはどうやって魔王に勝つ(・・・・・)かだ」

「だ、だからギフトゲームに参加して力を付けて」

「前のコミュニティはゲームに参加して、力を付けてなかったのか?」

「そ…………それは」

 

ジンはそこで言葉に詰まる。しかし一誠は容赦なく畳み掛ける。

 

「それに、前のコミュニティが大きくなったのはギフトゲームだけだったか?」

「…………いいえ」

 

コミュニティを大きくしたのは強大なギフトと、強大なギフトの所持者。つまりは人材だ。

 

「いいか? 俺達には名前も旗も無い。コミュニティを象徴できる物が何一つ無いわけだ。そんなコミュニティなのだから周りが“ノ―ネーム”を信用するわけがない。“サウザウンドアイズ”が“ノ―ネーム”を客として扱わないのも当然だ。“ノ―ネーム”なんてのは名前のないその他大勢でしかない。名前が無いんだから信用するなんて危険でできるわけがない。お前はそんなハンディを背負ったまま、先代を超え無ければならないんだぞ?」

「先代を……超える…………!?」

 

ジンはその言葉に、頭を金づちで叩かれた様な気がした。

それは今まで黒ウサギに甘えっぱなしで、何一つしてこなかったジンが目をそむけていた“現実”なのだ。

 

「お前、マジで何も考えていなかったんだな」

「………………っ」

 

ジンは悔しさと、言葉にした責任の大きさで顔を上げられなかった。

 

「名も旗も無い―――なら、俺達のコミュニティはリーダーの名前を売り込むしかないよな?」

 

十六夜のその言葉に、ジンはハッと顔を上げ、同時に十六夜の意図に気づいた。

 

「僕を担ぎあげて名前を広めることで他の“ノ―ネーム”との差別化を図り、尚且つコミュニティの存在をアピールすると言うことですか?」

「ああ。悪くない手だろ?」

 

白夜叉のように名の売れた者と言うは、それだけで信用するに値する。それは、時に旗印に匹敵する程に。

十六夜に続くように、一誠もジンに話す。

 

「更に、だ。ここみたく“魔王”に潰されたコミュニティにその噂が広がれば、同じく“打倒魔王”を胸に秘めた奴らが集まってくるってわけだ。このコミュニティで一番足りないのは人材だろう。せめて十六夜の足元並みの奴が数人は欲しい」

「結構いい案だろ? これ以上にいい作戦があるなら、俺は協力を惜しまないぜ?」

「まぁ、確かにお前が懸念するように他の魔王を引き寄せる可能性は大きいだろうな。だが、問題無いだろ?」

「な、なぜですか?」

 

一誠の言葉に、ジンは聞き返す。

強大な力を持つ魔王を引き寄せても問題ないと、一誠は言い切ったからだ。

 

「白夜叉は魔王の時に“最強の魔王”と言われていたんだろ?」

「ええ、ですが白夜叉さまが魔王と呼ばれていたのは随分昔の事らしいです。魔王とは“主催者権限”を悪用する者達の事ですから」

「へぇ、そうなのか。―――白夜叉は魔王時代、最強と言われるくらいに強いって事だろ? それは逆に言えば、白夜叉以上に強い魔王が居なかったって事だ。白夜叉程度が最強を名乗れるくらいに箱庭の魔王は弱いんだろ(・・・・・・・・・・・)?」

 

そう言って嗤う一誠。

その姿を見て、ジンは恐ろしさと共にそれ以上の頼もしさを一誠に感じる。

そんな一誠の隣でニヤニヤと笑いながらこちらを見ている十六夜の姿を見て、ジンも決意する。

 

「分かりました。しかし、一つだけ条件があります。こんど開かれる“サウザウンドアイズ”のギフトゲームに御二人だけで参加してもらえませんか?」

「なんだ、俺等の力でも見極めるつもりなのか?」

「それもあります、ですけどそれだけじゃありません。そのギフトゲームには、元・魔王の昔の仲間が出展されるんです」

「へぇ…………」

「彼女を取り戻すことができれば、大きな力になるはずです」

「なるほど。元・魔王ってことはソコソコ期待できそうだ。いいだろう、出てやるよ」

「ありがとうございます。それができれば魔王に対抗することもできますし、十六夜さんの作戦も支持します。ですから黒ウサギにはまだ内密に…」

「あいよ」

 

話が終わって大広間を出ようとした時、十六夜はふと思いついたかのようにジンに声をかけた。

 

「明日のゲーム、負けるなよ」

「はい」

「負けたら俺このコミュニティ抜けるから」

「はい。…………え?」

 

十六夜は扉を閉めてそのまま出て行った。

最後の十六夜の言葉にジンはしばらく茫然と立ち尽くすのだった。

ちなみに一誠は十六夜とジンに気づかせる事無く、自分に宛がわれた部屋へと転移していた。




前書きに書いたとおり、全然執筆ができませんでした。

(ま、まぁ、カンピオーネ! に嵌ったり、久々にムジュラの仮面に嵌ったりと遊んでいた感は否めないですが……)

次回こそフォレス・ガロとのギフトゲームですよ……たぶん。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告