規格外が異世界から来るそうですよ?   作:れいとん

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遅くなってごめんなさい。

前回削除したのとたいした違いはないです。

最後の方が少し違うだけで。


ノーネームVSフォレス・ガロ

次の日。

ガルドとのギフトゲームをするために“フォレス・ガロ”の居住へ向かう一同。

その途中で、昨日飛鳥達がガルドと出会ったカフェテラスの店員から熱烈なエールと共に情報をもらう。

その情報は、ガルドが傘下に置いているコミュニティの者達を全員放り出し、舞台区画ではなく居住区画でゲームを行おうとしているという物だった。

それを疑問に思う一同は、今は気にしても仕方がないと居住区を目指す。

居住区に辿り着き、一誠を除いた“ノ―ネーム”一同は其々が自分の目を疑った。

なぜなら、居住区は森の様に豹変していたからだ。

ツタの絡んだ門をさすり、鬱葱と生い茂る木々を見上げながら耀は呟く。

 

「…………ジャングル?」

「虎の住むコミュニティだからな。おかしくはないだろ」

「いえ、おかしいです。“フォレス・ガロ”のコミュニティの本拠は普通の居住区だったはずです。…………それにこの木々はまさか」

 

そんな会話をしている飛鳥達をよそに、一誠は木々を観察する。

その樹枝はまるで生き物のように脈打っていた。

 

(鬼……いや、この感じからして吸血鬼か)

 

一誠は片手でそっと木々に触れながら観察を続ける。

 

(カミーラのババアかヴラドのクソジジイか、はたまた俺の知らない箱庭の吸血鬼か。…………どちらにしろ、この規模で力を扱える吸血鬼が相手側に居るなら……あいつらじゃ勝てないだろうな)

 

ちらりと飛鳥、耀、ジンの三人に視線を向ける一誠。

しかし直ぐに視線を木々へと視線を戻す。

 

(もし、これをやらかした相手が『幽世の聖杯』だったら最悪だな。『神滅具』が相手となると、十六夜でも勝てないだろうし)

 

一誠から見た十六夜、飛鳥、耀の三人は宝石の原石だ。

才能(ギフト)は人類でも最高クラス。

しかし、それは少しも磨かれていないものだ。

飛鳥、耀はよくて中級悪魔、堕天使クラス。

十六夜はギリギリ最上級悪魔クラスだとみている。

三人とも自身の力を使いこなせておらず、逆に振り回されている。

きちんと修練を積んでいれば、少なくとも三人の実力があの程度などあり得ない。

 

(まぁそれは、今まで過ごしてきた環境の違いなんだろうけど……)

 

先ほどと同じ様に、飛鳥、耀、十六夜の三人を一瞥する一誠。

 

(あいつ等の居た世界には神も魔王も……それこそ魔獣や魔物の一匹も居なかったんだろうな)

 

十六夜達とは普通に会話できるし、価値観も似ている。服装だって一誠の居た世界とさほど変わらない。

いや、違いが無いと言っても過言ではない。

飛鳥、耀、十六夜の三人はアジア人……と言うよりも日本人特有の幼い顔つきをしている。

箱庭に呼ばれた四人が違和感なく言葉を交わし、過ごせているのもそのためだろう。

しかし、一誠と彼等三人組とは決定的な違いがある。

 

(もし、神や魔王が存在していれば、あいつらの力があの程度ってのはありえない)

 

確かに十六夜、耀、飛鳥の三人の才能は最高級のモノだ。

しかし、それだけでどうにかなる程、一誠が居た所は生温い世界では無かった。

それでも尚、あの程度で満足していると言うことは……、

 

(あいつ等三人とも、まともに力を磨きあげる必要性が無いほど生温い世界で生きてきたんだろう)

 

一誠だって、並はずれた才能が有った。

しかし、それでも力を制御するのに三年以上はかかった。

制御ができるようになった後も、実戦を数百、数千とこなしたからこそ、今の出鱈目な実力があるのだ。

それを思うと、一誠は三人がほんの少しばかり不憫に思えて仕方なかった。

人間にとっては異質な『才能』を活かせる事ができない世界しか知らなかった三人が……一誠にはどうしても哀れにしか思えなかった。

確かに一誠は今まで力を満足に振るったことは一度しかない。

全力の『ぜ』の字も出ないほどの僅かな力しか使えてなかった。

それでも、それでもほんの少しばかりとは言え、力を扱う機会のなかった三人に比べれば恵まれているのではないのだろうか。

 

「ジン君。ここに“契約書類(ギアスロール)”が貼ってあるわよ」

 

 飛鳥が声が上げる。門柱に貼られた羊皮紙に今回のゲームの内容が記されていた。

 

『ギフトゲーム名”ハンティング”

 

・プレイヤー一覧  

・久遠 飛鳥

・春日部 耀

・ジン=ラッセル

 

 ・クリア条件 ホストの本拠内に潜むガルド=ガスパーの討伐。

 ・クリア方法 ホスト側が指定した特定の武具でのみ討伐可能。指定武具以外は契約によってガルド・ガスパーを傷つけることは不可能。

 

 ・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 ・指定武具 ゲームテリトリーにて配置

 

 宣哲 上記を尊重し、誇りと御旗の下、ノーネームはギフトゲームに参加します。 “フォレス・ガロ”印 』

 

「ガルドの身をクリア条件に…………指定武具で打倒!?」

「こ、これはまずいです!」

 

 ルールを読むとジンと黒ウサギが悲鳴のような声を上げて慌てていた。飛鳥は心配そうに2人に問う。

 

「このゲームはそんなに危険なの?」

「いえ、ゲームそのものは単純です。問題はこのルールです。このルールでは飛鳥さんのギフトで操ることも、耀さんのギフトで傷つけることもできないことになります」

 

飛鳥が険しい表情で黒ウサギに問う。

 

「……どういうこと?」

「ガルドは“恩恵”ではなく、“契約”によって身を守るつもりです。これでは神格であろうと手が出せません。彼は自分の命をクリア条件に組み込むことで御二人の力を克服したのです」

「すみません、僕の落ち度でした。初めに“契約書類”を作った時にルールもその場で決めておけばよかったのに」

 

ジンが申し訳なさそうに呟いた。

ルールを決めるのが“主催者”である以上、白紙のゲームを承諾するというのは自殺行為に等しい。

ギフトゲームに参加した事のないジンは、ルールが白紙のゲームに参加する事が如何に愚かで、危険な事か理解していなかったのだ。

 

「敵は命懸けで五分に持ち込んだってことか。観客にしてみれば面白くていいけどな」

「気軽に言ってくれるわね…………条件はかなり厳しいわよ。指定武具が何かも書かれていないし、このまま戦えば確実に苦戦するわね」

 

飛鳥は険しい表情のまま“契約書類”を覗き込む。

彼女が挑んだゲームだからか責任を感じているのだろう。

そんな飛鳥に大丈夫だと言うように、黒ウサギと耀は、飛鳥の手をギュッと握って励ます。

 

「だ、大丈夫ですよ! 契約書類には『指定』武具としっかり書いてあります! つまり最低でも何かしらのヒントがなければなりません。もしヒントが提示されなければ、ルール違反で“フォレス・ガロ”の敗北は決定! この黒ウサギがいる限り、反則はさせませんとも!」

「大丈夫。黒ウサギもこう言ってるし、私も頑張る」

「…………ええ、そうね。むしろあの外道のプライドを粉砕するためには、これぐらいのハンデが必要かもしれないわ」

 

愛嬌たっぷりな黒ウサギと、やる気満々な耀に励まされ、飛鳥も奮起する。

なにしろコレは、こちら側から売った喧嘩だから負けられないというプライドもある。

そんなヤル気満々な女性陣とは裏腹に、男性陣はコソコソと会話を交わしていた。

 

「この勝負に勝てないと俺達の作戦は成り立たない。だから負ければ俺はコミュニティを去る。予定変更はないぞ。いいな御チビ」

「…………分かっています。絶対に負けません」

「まぁ、気張らずに頑張れ」

「ハイ!」

十六夜と一誠の言葉に、飛鳥や耀に負けず劣らずのやる気を見せるジン。

こんなとこで躓くわけにはいかない。参加者三人は門を開けて突入した。

 

 

「…………へぇ、やっぱり十六夜の居た世界には存在しないのか」

「ああ、神様だの魔物だの、そう言ったのは全部空想上の存在だったな」

 

飛鳥、耀、ジンの三人がゲームを開始して数十分、十六夜と一誠は元いた世界の話しをしていた。

お互いに予想はしていたが、表の世界は殆ど変わらないのに、裏に入った途端に百八十度世界が違うことに驚きを隠せなかった。

そんな時だった。

 

『AAAAAAAaaaaaaa…………』

 

門前で待っていた黒ウサギと十六夜と一誠の元に、獣の咆哮が届く。

森に忍び込んでいた野鳥は一斉に飛び立ち、一目散に逃げていった。

 

「今の雄叫びは……」

「ああ、間違いない。虎のギフトを使った春日部だ」

「あ、なるほど。…………って、そんなわけないでしょう!? いくら何でも今のは失礼でございますよ!」

 

ウサ耳を逆立てて怒る黒ウサギに、本気で言ったわけでない十六夜は肩を竦ませて訂正した。

 

「じゃあジン坊ちゃんだな」

「ボケ倒すのも大概になさい!!!」

「そうだぞ。今のはどう聞いても、飛鳥の魂の咆哮だろ」

「この問題児さま方は!!」

 

専用のハリセンでツッコミを入れる黒ウサギ。よっぽど暇を持て余しているのだろう。

十六夜は門からはみ出ていた、鬼化した樹の枝をへし折って笑う。

 

「今の咆哮といい、この舞台といい、前評判より面白いゲームになってるじゃねえか。見に行ったらまずいのか?」

「お金をとって観客を招くギフトゲームも存在しておりますが、最初の取り決めにない限りはダメです」

「何だよつまんねえな。“審判権限”とそのお付きって事にすればいいじゃねえか」

「だからダメなのですよ。ウサギの素敵耳は、此処からでもおおまかな状況が分かってしまいます。状況が把握できないような隔絶空間でもない限り、侵入は禁止です」

 

十六夜は手の中でうごめく樹を握りつぶしながら呟く。

 

「…………っち、貴種のウサギさん、マジ使えね」

「せめて聞こえないように言ってください! 本気で凹みますから!」

 

ペシペシと十六夜を叩く黒ウサギ。

だが状況が分かってしまう黒ウサギは、内心はらはらしながら三人の無事を祈っていた。

 

(この鬼化植物…………必ず彼女が関わっているはずです。ならゲームは公平なルールで提示されているはず。…………三人とも、どうかご無事で)

(…………ん? 俺たち以外にも誰かが見ている)

 

飛鳥達三人が居る洋館の上空に気配を感じる一誠。

 

(金髪の少女。…………なんだ、箱庭でも吸血鬼は変わらないのか)

 

簡単な透視魔法で気配の正体を捉えた一誠は軽く注視する。

しかし、直ぐにその視線は飛鳥達の方に向けられる。

 

(あのガルドとかいう猫は下級悪魔クラス。才能だけでも飛鳥達が圧勝できるだろう……が、使い方がまるでなってない。)

 

一誠の瞳は、遥か先にいる飛鳥達三人を捉えていた。

 

(あのクラスのグリフォンの(ギフト)が使える癖に、どうしたらあんな重傷になれるんだよ)

 

一誠は若干呆れながら、大けがを負っている耀を視る。

まるで刀剣で斬られた様な傷口から、とめどなく出血している。

 

(“ギフト(才能)”が最高級でも使用者が三流じゃ、あの程度か)

 

それはギフトの使い方だけではない。

状況判断、戦闘の仕方、身のこなし。

その全てが最低レベル、コレが一誠なら無傷でガルドを惨殺していただろう。

十六夜も才能だけに頼った戦闘しかできないだろうが、他二人に比べたら遥かに強力だし機転が利くので、まず間違い無く圧勝するだろう。

黒ウサギも身のこなしだけなら十六夜とタメを張れるレベルなので、ガルドが認識するよりも速くに倒す事が可能だろう。

 

(飛鳥が何か仕掛ける気か……このゲームも、もうすぐ終わりだな)

 

一誠の視線の先で、飛鳥が燃えている洋館から、ガルドに追われながら走っていた。

多少拓けた所に出た飛鳥は、自身のギフトで鬼化している木々を操りガルドを拘束、そして“指定武具”である白銀の十字剣でガルドに止めを刺した。

 

(終わったか。やれやれ、あの程度の奴相手に大苦戦だったな)

 

ゲーム終了を告げる様に木々は一斉に霧散した。

気によって支えられて居た廃屋が倒壊していく音を聞き、十六夜と黒ウサギ、一誠は一目散に走り出す。

 

「おい、そんなに急ぐ必要ねえだろ?」

「大ありです! 黒ウサギの聞き間違いでなければ、耀さんはかなりの重傷のはず…………!」

「ああ、このまま何もしなければ出血多量で死ぬだろうな」

「黒ウサギ! 早くこっちに! 耀さんが危険なんだ!」

 

風よりも速く走る三人は瞬く間にジン達の元に駆けつけた。廃屋に隠れていたジンは三人を呼びとめるために叫ぶ。

黒ウサギは重傷な耀の容態を見て思わず息を呑んだ。

 

「直ぐにコミュニティの工房へ運びます。あそこなら治療用のギフトが揃っていますから。御三人は飛鳥さんと合流してから帰ってきてください」

「わ、わかったよ」

 

黒ウサギは耀を抱えて走りだそうとすると、それに一誠が待ったをかけた。

 

「どけ、黒ウサギ」

「なぜですか? 耀さんを急いで治療しないと……」

「だからどけって言ってんだよ」

 

一誠は黒ウサギを無理矢理退かすと、空間を歪ませてそこから一つの小瓶を取り出す。

その瓶の中に入っている透明の液体を耀の傷口へと降りかける。

 

「へぇ」

「うそ……」

 

十六夜は興味深そうに、黒ウサギとジンは信じられないといった表情で、目の前の現象に驚いた。

先ほどまで止めどなく溢れていた血は収まり、大きく切り裂かれた傷口は綺麗に治っていた。

 

「い、一誠さん。今のは一体?」

「これか? これは“フェニックスの涙”だ」

「「なっ!?」」

 

今度こそ黒ウサギとジンは絶句した。

フェニックス、不死鳥、火の鳥などと呼ばれるそれらは、メジャーな存在だ。

幻獣種の中でもグリフォンを容易く凌ぐ、最強種の一つ。

百年に一度、自ら香木を積み重ねて火をつけた中に飛び込んで焼死し、その灰の中から再び幼鳥となって現れるという。

その涙は癒しを齎し、血を口にした者は不老不死の命を授かると云われている

キリスト教においてもフェニックスは再生のシンボルとみなされおり、この鳥は多くの神話に『生命』を生きながらえさせる聖鳥と認識されている。

『不老不死』を与え、『命』を生きながらえせるフェニックスは、多数の神話の宇宙観(コスモロジー)に影響を及ぼしかねない存在だ。

“フェニックスの涙”は、文句の付けようがないくらいに超一級の“恩恵(ギフト)”。

少なくとも箱庭の、それもこんな下層の端っこで御目にかかれるような代物ではない。

 

「傷はこれで治ったが、血を流しすぎだ。最低でもひと晩は安静にさせておけ」

「は、はい!」

 

一誠に促され、黒ウサギは耀を抱えて全速力で工房へと向かった。黒ウサギの踏み込んだ地面にはクレーターの様な亀裂が走り、通った後には土埃が渦巻いて立ち昇る。

昨日十六夜と一誠の二人を追いかけてきた時とは比べ物にならない脚力を見て、十六夜は獰猛な微笑を浮かべた。

十六夜の興味の対象はコミュニティや同郷の二人よりも、一誠や黒ウサギに注がれていた。

黒ウサギは“ノ―ネーム”の中では明らかに別格だし、一誠はもう同じ人間なのかと疑いたくなるレベルである。

(『人間』かどうかと言うのは、一誠も十六夜も五十歩百歩である)

そんなことを考えていた十六夜と手元の空きビンを亜空間にしまう一誠に、ジンは申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「すみませんでした。十六夜さん、一誠さん」

「ん? どうして頭を下げる?」

「僕は結局……何も出来ず仕舞いでしたから」

「ああ、そういうこと。でもお前達は勝っただろう?」

 

十六夜の声は皮肉だとか称賛などではく、嘲りや慰めでもない。

ジンは不思議そうに十六夜を見上げると、彼は続けて言う。

 

「勝ったんなら、御チビにも何か要因があったってことだ」

「……は、はい」

「なら、それでいいんじゃねえの? それより、初めてのギフトゲームは楽しめたのか?」

「…………いえ」

 

苦いかをで首を横に振るジンは自分自身の無力さに失望していた。

それは彼自身の幼さのせいでもあっただろうが、それでももっと何か出来たはずだ。

そう、彼は思う。

確かに耀が生き残ったのは、ジンが適切な処置を施したからだ。

しかし、コレが十六夜や一誠、黒ウサギなら怪我すらさせなかっただろう。

こんな自分よりも、十六夜や一誠の方がコミュニティの長となった方が良いのでなないだろうか?

そう少しでも思ってしまったが故に、こんな事を呟いてしまった。

 

「昨夜の作戦…………本当に僕を担ぎあげて、やっていけるのでしょうか?」

「他に方法はないと思うが、御チビ様が嫌だと仰るのなら、止めますデスヨ?」

 

からかうように尊敬語で話す十六夜にジンは一拍黙り、一度だけ首を横に振った後にはっきりと答える。

 

「……いえ、やっぱりやります。僕の名前が全面的に出ていれば、いざという時に皆さんの被害が軽減できるかもしれません。僕でも皆の風よけぐらいにはなれるかもしれない」

「…………あっそ」

 

十六夜はちょっと意外に思いながらも、本当におもしろい場所に来たと哄笑を必死に噛み殺していた。

一誠はそんな様子のジンを、どこか眩しいモノを見る様な瞳で見ていた。

 

 

十六夜とジンと別れて、飛鳥と合流した一誠は一足先に本拠へと戻っていた。

飛鳥は春日部の容態が気になるからと、本拠について直ぐに医務室の方へと向かった。

一誠は自分に割り当てられた部屋で寛いでいた。

 

『随分楽しそうだな?』

「なんだドライグ、起きたのか」

 

突如話しかけてくるドライグ。

ノーネーム本拠にある図書館から持ってきた本を読んでいた一誠は、本を閉じるとゆっくりと背もたれへと体を預ける。

 

「なぁ、ドライグ。お前はこの世界のことを知っていたか?」

『いや、知らん。少なくとも俺はな。グレートレッドならば何かしら知っているかもしれんが……。だが、ここ(箱庭)の空気は懐かしく感じる』

「懐かしく?」

 

知らないと言いながら、懐かしいと言い切るドライグに眉を寄せる一誠。

そんな一誠の反応をどこか楽しみながら、ドライグは話を続ける。

 

『ああ、ここは神代の時代と似た空気がある』

「へぇ……」

 

ドライグのその言葉を聞き、一誠は壮絶な笑みを浮かべる。

神代の時代とは魔物や魔獣がそこらを闊歩し、神仏が人間たちを直接支配していた。

神々は今とは比べ物にならないくらいに信仰を集め、最も力を振るう事ができていた。

人間たちは神々を恐れ、跪き頭を下げ、神々の加護と知識により生きていた。

そんな、オカルトが世界を覆っていた時代。

 

「つまり、この世界にいる神仏は“神話”通りの力を持っていると思っていいのか?」

『そこまでは分からんさ。ただ、神代の時代の方が多少強かった程度であって、劇的に強かったわけではない』

 

神々の力は信仰によって左右される。

現代において、信仰はしても神を信じていない人間は多い。

信仰にも質と言えるものが存在する

現代の信仰はかなり質が悪い。

それ故に神々の力も神代の時代に比べれば少しばかり劣るところがある。

だが、ドライグの言うとおり、対して違いはない。

多少力の規模が違うだけなのだ。

 

「そんなものか」

『そんなものだ。第一、そうでなければ封印される前の俺が最強なわけないだろう』

 

ドライグはアルビオンと共に神や魔王すら超えると言われていた二天龍の一角。

その力は強大で、グレートレッドとオーフィスを除けば文句なしで世界最強だった。

 

「それもそうか」

『そうだ。所詮、神話なんぞ人間に神々の偉大さを伝え、信仰を獲るために生まれたものだからな。一部の神話体系では他の神話を貶めるために過大に書かれている物もある』

 

ここで有名どころを上げるとしたらギリシャ神話のゼウスと聖書のミカエル辺りが有名だろうか。

ゼウスの雷霆は全宇宙を焼き尽くしたと書かれており、ミカエルも聖書なら単独でグレートレッド以上の力を持っている。

しかし、実際にはそれ程強大な力を持ってはいなかった。

いや、表の人間社会を何度でも滅ぼせるだけの力はある。

だが、それは一誠の期待通りというわけでな無かっただけなのだ。

 

『まぁ、幼い頃の相棒は神話通りの力を持った神々と戦える事を期待していたからな。拍子抜けだったのも無理はない』

 

幼い頃の一誠は、それこそ自分が負けること前提で神々に挑んだ。

力の制御をする傍らで各神話を調べ、自分の力がどれだけ通じるか楽しみにしていた。

だが、実際には拍子抜けするほど神々は弱かった。

ゼウスの雷霆は簡単に弾くことができ、ミカエルの光力は一誠にかすり傷一つ付けることができなかった。

実際に最強だったオーフィスとグレートレッドも一誠の敵ではなかった。

 

『だが、元の世界に比べ、“箱庭(ここ)”の神仏どもが強力なのも事実なのだろう』

 

一誠が知る帝釈天の眷属に月のウサギは存在していたが、黒ウサギほど強力なのは極小数だった。

箱庭で他のウサギを見ていないので確実とは言えないが、黒ウサギが平均的な月のウサギならば、それだけで帝釈天が元の世界よりも強大な存在だと断言できる

そしてこの“箱庭”において、“魔王”とは“主催者権限”を悪用するものを指すと言っていた。

更に元“魔王”すら含める前“ノーネーム”を完膚なきまでに叩き潰した“魔王”を討伐し、名と旗印と仲間を救うことがが現“ノーネーム”の最終目標。

 

「…………さて、十六夜たちは今頃上手くやっているかな?」

 

これから打倒魔王を掲げるコミュニティとして訪れるであろう“災厄”を想像し、一誠は歪んだ笑みを浮かべる。




リアル事情が忙しく、目の回りそうな毎日を送っております。

それとすみません、次回の話は全然書いていません。

下手したら、また一ヶ月以上間が開くかもしれないです。

たぶん、問題児の新刊が出る前に1~2話くらいは更新できると思いますが。
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