次回の更新は未定。
「起きて、一誠君!!」
深夜。
日はとっくに沈み、宛てがわれた自室で睡眠を取ろうとしてウトウトしていた一誠は飛鳥の来訪によって叩き起された。
「…………なんのようだ、飛鳥」
もう少しで夢の国へと旅立とうとしていた一誠は、それを邪魔した飛鳥をジト目で見ながら不機嫌そうに問いかける。
しかし緊急事態なのも事実なので、飛鳥は一誠の不機嫌そうな表情を無視して言う。
「今から白夜叉の所へ行くのよ。一誠君もすぐ支度して」
その言葉を聞いて、一誠は面倒くさそうにしながらも、渋々支度を始める。
支度をしながら、一誠は思う。
(さっき十六夜たちとドンパチしていた奴らが原因か…………コロス)
例え修羅神仏魔王であろうとも、自身の安眠を妨げるものは最低でもブチのめす事にしているのである。
ただでさえ色々と濃い一日だったのだ。
はっきり言って、今の一誠はかなり機嫌が悪い。
それこそ元居た世界だったら、ストレス発散に各神話体系を壊滅状態にしそうな程度には機嫌が悪い。
◆
「ふぅん。透明になる兜に空飛ぶ靴。それにコミュニティ“ペルセウス”ねぇ」
“サウザンドアイズ”の支店に向かう途中に事の顛末を聞いた一誠は最初、興味なさそうに相槌を打っていたが、“ペルセウス”という言葉を聞いて、うんざりした様に黒ウサギに問いかける。
「ひとつ聞くが黒ウサギ。その“ペルセウス”ってギリシャ神話のペルセウスか?」
「YES! 一誠さんがおっしゃる通りの“ペルセウス”でございます」
「まさかとは思うが…………“ペルセウス”のリーダーは神話に書かれているペルセウスの子孫か?」
「はい、その通りでございますが」
それがどうかなさいましたか? と聞いてくる黒ウサギを無視して一誠はげんなりしながら思う。
(また英雄の子孫かよ。あれか? 俺は英雄の子孫と必ず関わるようにでもなってんのか? つーか、いつかゼウスのクソジジイをぶち殺す)
今まで一誠が関わってきた英雄の子孫は碌でもない奴らばかりだった。
今までの経験から絶対にマトモでない奴とこれから合わなければならないのだ。
どうせ英雄の子孫ということに無駄にプライドを持った、人の話を聞かない馬鹿なのだろう。
しばらくして“サウザンドアイズ”の門前に着いた四人を迎えたのは例の無愛想な女性店員だった。
「お待ちしておりました。中でオーナーとルイオス様がお待ちです」
「黒ウサギたちが来ることは承知の上、ということですか? あれだけの無礼を働いておきながらよくも『お待ちしておりました』なんて言えたものデスネ」
「…………事の詳細は聞き及んでおりません。中でルイオス様からお聞きください」
定例文にも似た言葉にまた憤慨しそうになる黒ウサギだが、店員に文句を言っても仕方がない。
店内に入り、中庭を抜けた先にある離れに黒ウサギたちは向かう。
中で迎えたルイオスは黒ウサギを見て盛大に歓声を上げた。
「うわお、ウサギじゃん!! うわー実物は初めて見た! 噂には聞いていたけど、本当に東側にウサギがいるなんて思わなかった! つーかミニスカにガーターソックスって随分エロいな! ねー君、うちのコミュニティに来いよ。三食首輪付きで毎晩可愛がるぜ?」
地の性格を隠すことなく、黒ウサギの全身を舐め回すように視姦してはしゃぐルイオス。
そんな彼を見て、一誠は半ば予想通りのルイオスの存在にげんなりしたように頭を振るう。
まさか、今度の英雄の子孫がゲス野郎だとは予想だにもしていなかったである。
◆
「―――ほらほら、君は“月の兎”だろ? 仲間の為、煉獄の炎に焼かれるのが本望だろう? 君たちにとって自己犠牲は本能だもんなあ?」
あれからコントを挟み、場所を座敷へと移した一同。
元“魔王”にして吸血鬼の純血“レティシア・ドラクレア”を取り戻そうと、レティシアの現所有者である“ペルセウス”に決闘を申し込んだ黒ウサギ。
しかしその目論見は外れ、このままでは白夜叉に迷惑をかけることなりそうになり、口を噤んだ黒ウサギ。
そんな黒ウサギにルイオスはある取引を持ちかけた。
黒ウサギが“ペルセウス”に所属する代わりにレティシアをノーネームに返すと言ってきたのだ。
「…………っ」
自身か、魂の一部を“魔王”に渡してまで自分たちの下まで駆けつけてくれたレティシアか。
黒ウサギの瞳は困惑しおり、この申し出に悩んでいることは明白だった。
それに気づいたルイオスは更に厭らしい笑みで捲し立てる。
「ねえ、どうしたの? ウサギは義理とか人情とかそういうのが好きなんだろう? 安っぽい命を安っぽい自己犠牲ヨロシクで帝釈天に売り込んだんだろう!? 箱庭に招かれた理由が献身なら、種の本能に従って安い喧嘩を安く買っちまうのが筋だよな!? ホラどうなんだよ黒ウサギ―――」
「
ガチン! とルイオスの下顎が閉じ、困惑する。見かねた飛鳥の力が原因だ。
「っ…………!?………………!!?」
「貴方は不愉快だわ。そのまま
混乱するように口を抑えたルイオスの体は前のめりに歪む。
しかし、命令に逆らって強引に体を起こす。
何が起こったのかを理解したルイオスは強引に言葉を紡ぐ。
「おい、おんな。そんなのが、つうじるのは―――格下だけだ、馬鹿が!!」
激怒したルイオスは、取り出したギフトカードから鎌を出現させ、飛鳥に向けて振り下ろす。
しかし、振り下ろされた刃は十六夜の二本指で受け止められた。
「な、なんだよお前…………!」
「十六夜様だよ色男。喧嘩なら利子つけても買うぜ? 勿論トイチだけどな」
鎌・ハルパーを受け止められたルイオスは驚いて距離を置く。
距離を置いてから追撃を仕掛けようとするルイオス。
しかし、白夜叉に扇で鎌を押さえつけられる。
「いい加減にせんか戯け共! 話し合いで解決できぬなら門前に放り出すぞ!」
「…………っち。けどその女が先に手を出したんだけどね?」
尚も殺気立つルイオスに黒うさぎが間に入って仲裁をした。
「分かっています。これで今日の一件は互いに不問ということにしましょう。…………あと、先ほどの話ですが…………少しだけお時間をください」
黒ウサギの返事に驚く飛鳥は、堪らず叫んだ。
「待ちなさい黒ウサギ! 貴女、こんな男の物になってもいいと言うの!?」
「レティシア様は助けを求めもせず、ただ、
「だけど、貴女が身代わりになってどうするの!?」
「だってそうするしか―――」
「
飛鳥と黒ウサギはそれ以上言葉を発する事ができなかった。
先程まで黙って事の成り行きを見ていた一誠は、ついに見かねたのか口を出す。
「さっきから黙って見ていればぎゃーぎゃー騒ぎやがって。俺らは交渉するために来たんだろうが」
ただでさえ寝不足なのに、更に周りでぎゃーぎゃーと騒がれる。
一誠ははっきりと言って、ブチギレていた。
この場にいる誰もが一誠の怒気に当てられて、声も出せない。
「とりあえずテメエら全員
その言葉に、白夜叉を含めた全員が強制的に座らせられる。
これが一誠のギフト“王の威光”の力。
このギフトの能力は大雑把に分けて二種類の力がある。
一つ、自身より霊格の劣る者の支配。
二つ、自身より霊格の劣る“
霊格とは世界に与えた影響や功績によって大きくなる。
一誠が世界に与えた影響や功績は、それこそ莫大なものだ。
幼少期に神話体系を含むあらゆる勢力を降し、無限の龍神と夢幻の真龍をも打破し、更には箱庭に存在する“
こと霊格の大きさで一誠を凌駕する存在は、今の箱庭には存在しない。
「先に黒ウサギ。“家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて箱庭に来い”―――なんて手紙で俺たちを焚きつけ、“
「それは…………ッ」
少なくとも一誠は十六夜と違い、既に箱庭に呼び出された分の義理は“ノーネーム”に返している。
建物は直したし、土地も耕して水を引き、種を植えれば植物が育つ位には修復をしておいた。
これで黒ウサギが責任を放棄してコミュニティを抜けるようなら、一誠は本気で“ノーネーム”を抜けるだろう。
例えそれが原因で“ノーネーム”の子供たち食べるものにも困り、野垂れ死ぬことになろうとも一誠は興味の欠片もないのだから。
一誠の口調から本気だと感じたのだろう、ウサ耳を萎れさせてシュンと落ち込む黒ウサギ。
「次にお前、ルイオスだったか? これ以上騒がれても迷惑だからな。ギフトゲームで決着を着けようじゃねぇか」
「はあ!? それは嫌だってさっき言っただろ!」
一誠の拘束はとっくに解けているので、ルイオスは一誠の提案に嫌そうな表情をしながら拒否する。
しかし拒否されるのをわかっていた一誠は、面倒くさそうにしながらも話を続ける。
「勿論、タダでとは言わない。“純潔の吸血鬼”に見合うだけの
「“名無し”風情にそんな物が用意できるとは思えないけど」
一誠の発言に厭らしい笑みを浮かべながら敵意全開でそう言うルイオス。
一誠はそんなルイオスを無視して、亜空間から黄金の腕輪を一つ取り出す。
「そんな腕輪一つで…………ッ!?」
ルイオスは鼻で笑って罵声を浴びせようとしたが、その腕輪がなんであるのか理解し口を噤む。
そんなルイオスの様子に、意外そうな表情をする一誠。
「へぇ、これがなんなのか分かるのか。見る目だけはあるようだな」
「“
「いいだろう、ゲーム内容もそっちで決めていい。その代わり日取りだけはこっちで決めさせろ」
「良いよ。ただし、こっちも取引の関係で一週間が限界だ」
「なら一週間後でいい。こいつらの頭を冷やすために時間が欲しいだけだからな」
ギロリとイラついた瞳で飛鳥と黒ウサギを一瞥する一誠。
飛鳥は不貞腐れたようにそっぽを向き、黒ウサギは申し訳なさそうに俯いている。
ルイオスは先ほどとは打って変わって、機嫌が良さそうな足取りで帰っていった。
◆
あれから一週間。
その間に耀も回復し、黒ウサギも皆に謝罪し和解した。他にも色々とあったが、そこら辺は割愛する。
“ノーネーム”一同は“ペルセウス”のゲーム盤である白亜の宮殿の門前にいた。
門前に張り出されている“契約書類”にはこう書かれていた。
『 ギフトゲーム名 ”FAIRYTALE in PERSEUS”
プレイヤー一覧
・逆廻 十六夜
・久遠 飛鳥
・春日部 耀
・兵藤一誠
・”ノーネーム”ゲームマスター ジン=ラッセル
・”ペルセウス”ゲームマスター ルイオス=ペルセウス
・クリア条件 ホスト側のゲームマスターを打倒
・敗北条件 プレイヤー側のゲームマスターによる降伏。
プレイヤー側のゲームマスターの失格。
プレイヤー側が上記の勝利条件を満たせなくなった場合。
・舞台詳細・ルール
*ホスト側のゲームマスターは本拠・白亜の宮殿の最奥からは出てはならない。
*ホスト側の参加者は最奥に入ってはいけない。
*プレイヤー達はホスト側の(ゲームマスターを除く)
*姿を見られたプレイヤー達は失格となり、ゲームマスターへの挑戦権を失う。
*失格になったプレイヤーは挑戦権を失うだけでゲームを続行することは可能。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。
“ペルセウス”印 』
一誠は“ギアスロール”を手に取り、一瞥する。
(FAIRYTALE in PERSEUS…………“
箱庭で初めて経験するギフトゲームがFAIRYTALEとは、と一誠は面白そうに笑う。
『妖精に尻尾はあるのか無いのか? 永遠の謎、故に永遠の冒険』
この言葉を知ったのを何時だったのか、もう覚えていない。
だが、その言葉に一誠は幼いながらも感銘を受けたのを覚えている。
だからこそ世界中を旅して回った。
あらゆる神話関係のみならず、万人が神秘を感じられる所も見て回った。
少しばかり昔の事を思い返していたい一誠は、十六夜たちの会話で我に返る。
「姿を見られれば失格、か。つまりはペルセウスを暗殺しろってことか?」
「それだとルイオスも伝説に習って睡眠中だということになりますよ。流石にそこまで甘くはないと思いますが」
白亜の宮殿を見上げ、いつもよりテンション高めな声音でそう呟く十六夜に、ジンはそう応える。
「YES。そのルイオスは最奥で待ち構えているはずデス。それにまずは宮殿の攻略が先でございます。伝説のペルセウスとは違い、黒ウサギ達は“ハデスの兜”を持っておりません。不可視のギフトを持たない黒ウサギ達には綿密な作戦が必要です」
黒ウサギが人差し指を立てて説明する。
しかし、そんな黒ウサギをからかう様に一誠は言う。
「あるぞ」
「…………はい?」
「“ハデスの兜”なら俺も持ってる」
亜空間から“ペルセウス”の連中が使っていたのとは少しだけ形が違う兜を一つ取り出す。
そしてそれを、ほれっと軽い調子でジンに投げ渡す。
それを横から手を伸ばし、掴んだ十六夜はそのままジンに兜を被せる。
「おお、本当に姿が消えやがった」
「…………臭いも気配もしない」
「すごいわね」
「これ、レプリカじゃなくて本物の“ハデスの兜”ですよ!?」
「な、なんで一誠さんがハデスのギフトを所持しているのですか!?」
問題児三人組は“ハデスの兜”の能力に関心と驚き。
黒ウサギとジンは何故一誠がレプリカではなく、本物の“ハデスの兜”を持っているのか驚く。
十六夜はジンからハデスの兜を取り上げ、手元で弄びながら一誠に問いかける。
「なあ、一誠。この前ルイオスに見せた腕輪。あれ、ドラウプニルじゃないのか?」
「確かにその通りだが、よくわかったな」
十六夜の質問に肯定した一誠、黒ウサギとジンは更に驚く
「っは、簡単な推測だよ。箱庭の外とはいえ、国家規模のコミュニティが大枚はたいてまで手に入れようとしたんだ。確かにあの腕輪は黄金で出来ていたし作りも見事だった。が、あれ一つでレティシアほど価値が在ったとは思えねえ。なら、ほかに何か理由があったはずだ」
ドラウプニル。
北欧神話において、主神オーディンが持つとされている黄金の腕輪。
その語義は『滴るもの』を意味し、その名の通り9夜ごとに同じ重さの腕輪を8個滴り出すとされる魔法の腕輪。
この箱庭においても金は貴重品であるし、更に腕輪から造り出される模造品とは言え“ドラウプニル”程の物となれば美術的価値も高い。
それだけの代物が無尽蔵に手に入るギフトだからこそ、ルイオスは一誠の要求を呑み“
「パーフェクト、100点満点だ。十六夜」
お見事、と言うように肩を竦めて笑う一誠。
そんな一誠の様子に、やははと楽しそうに笑う十六夜。
ドラウプニルが何なのか知らない飛鳥、耀の二人は頭上にクエスチョンマークを浮かべていた。
一誠がドラウプニルを所持していると知り、何かを言いかける黒ウサギとジン。
しかし、二人が口を開くよりも早く十六夜が発言したことによって言葉を出すことができなかった。
「話を戻すぞ。見つかった者はゲームマスター、ルイオスへの挑戦資格を失ってしまう。同じく俺たちのゲームマスター―――ジンが最奥にたどり着けずに失格の場合、俺たちプレイヤー側の敗北。これは一誠が“ハデスの兜”を貸してくれたから問題ないだろう。なら大きく分けて三つの役割分担が必要になる」
飛鳥と耀が頷く。
本来ならこのギフトゲームは百人、少なくとも十人単位でゲームに挑み、その中でも一握りだけがゲームマスターにたどり着けるというもの。
そんなゲームを五人で挑まなければならない彼らにとって、役割分担は必須だ。
「うん。まずはジン君と一緒にゲームマスターを倒す役割。次に索敵、見えない敵を感知して撃退する役割。最後に、失格覚悟で囮と露払いをする役割」
「春日部は鼻が利く。耳もいい。不可視の敵は任せるぜ」
十六夜の提案に耀が頷き、黒ウサギが続ける。
「黒ウサギは審判としてしかゲームに参加することができません。なので、ゲームマスターを倒す役割は十六夜さんか一誠さんにお願いします」
「あら、それじゃあ私は囮と露払い役にならなきゃいけないかしら?」
むっ、と少し不満そうな声を漏らす飛鳥。しかし、実際のところ飛鳥のギフトはルイオスを倒すには至らない。
支配するにしても、ルイオスを拘束できるのはごく短い時間のみだという事は、前回の交渉の際に判明している。
今回の場合、不特定多数の敵を飛鳥に任せる方が一番効率がいい。
しかしそれが分かっていても不満なものは不満なのだろう。少し拗ねた口ぶりの飛鳥を十六夜が軽くからかった。
「悪いなお嬢様。俺も譲ってやりたいのは山々だけど、勝負は勝たなきゃ意味がないんだ。あの野郎の相手はどう考えても俺か一誠の方が適してる」
「……ふん。いいわ、今回は譲ってあげる。ただし、負けたら承知しないから」
「あいよ」
飄々と肩をすくめる十六夜に一誠は言う。
「十六夜。俺は飛鳥と一緒に行動する」
「おいおい、俺と一誠が両方ルイオスを目指したほうが勝率は上がるんだぜ? なのに何でお嬢様と一緒に行動するんだよ」
一誠の発言に不機嫌そうな表情をしながらそう問いかける十六夜。
そんな十六夜に対し、一誠は肩を竦めながら応える。
「あのルイオスとかいうゲス野郎を倒すだけなら十六夜一人でも問題ないだろうからな。なら、今回は譲るさ。飛鳥に付く理由は、呼び出されたメンバーの中で一番弱いから」
「っな!?」
まさか、いきなり弱いと言われるとは思っていなく、飛鳥はしばし唖然としたあと、こみ上げてくる怒りを溜め込みながらも一誠を睨む。
「私が一番弱いですって? 理由を聞かせてもらえるかしら?」
「…………ああ、すまん。弱いといっても戦力的にという意味だ。ジンには兜を渡してあるから問題ないし、耀はケモノから手に入れたギフトと、一時的にフェンリルを貸し出しているからな。十六夜は出鱈目だから心配する必要はない。まぁ、今現在のメンバーの中で飛鳥が一番危険だからな。最低限、致命傷にならない程度には守ってやる」
お前にだけは出鱈目だと言われたくねえ! と騒いでいる十六夜を無視して、一誠は理由を飛鳥に説明する。
一誠が自分と違い、箱庭に来るよりも前から神秘に関わっていた事は聞いているので理由を説明されれば理解はできる。
しかし、頭では理解できても理性では納得できないのか、飛鳥はつい言い返してしまった。
「もしそれで十六夜くんが敵に見られて失格になった場合、どうするつもりなのかしら?」
「守ってやるとは言ったが、俺は基本的に飛鳥の近くで見守るだけだ。この宮殿内にいる奴らに姿を見られなければいいわけだからな。もし十六夜が失格になるようなことがあれば、最悪俺一人でこのゲームをクリアするさ」
「ソロプレイでこのゲームをクリアできるのか?」
少なくとも今回のゲームはソロプレイではクリアできない様になっている。
十六夜達が一人だけだったら確実にクリア不可能だが、一誠にとっては簡単にクリアできるイージーゲームでしかない。
「まぁ、正直に言えば今すぐにでもゲームをクリアすることは可能だ。この場から“ペルセウス”を皆殺しにすればいいだけなんだからな。殺しがルール違反だって言うのなら、宮殿ごと氷漬けにしてもいい。それが卑怯だって言うのなら…………まぁ、面倒ではあるがゲームマスター以外の“ペルセウス”の連中を気絶させてから最奥に向かえばいい。俺が敵だと認識した者だけを攻撃対象にする魔法なんかもあるしな」
一誠の淡々とした発言に、黒ウサギはやや神妙な表情で不安を口にする。
「残念ですが、必ず勝てるとは限りません。油断しているうちに倒さねば、非常に厳しい戦いになると思います」
五人の目が一斉に黒ウサギに集中し、やや緊張した面持ちで飛鳥が問う。
「……あの外道、そんなに強いの?」
「いえ、ルイオスさん自身の力はさほど。問題は彼が所持しているギフトなのです。もし黒ウサギの推測が外れていなければ、彼のギフトは──―」
「隷属させた元・魔王様」
「そう、元・魔王の…………へ?」
十六夜の補足に黒ウサギは一瞬、言葉を失った。だが、十六夜はそれに構わず続ける。
「もしペルセウスの神話通りなら、ゴーゴンの生首がこの世界にあるはずがない。あれは後で戦神に献上されているはずだからな。それにも関わらず、奴は石化のギフトを使っていた。星座として招かれたのが箱庭のペルセウス。なら、さしずめ奴の首にぶら下がってるのはアルゴルの悪魔ってところか?」
「…………アルゴルの悪魔?」
十六夜の話に一誠と黒ウサギを除いた残り三人が首を傾げた。
アルゴルの悪魔と聞いて、一誠は珍しく驚愕していた。
(まさかメドゥーサじゃなくてアルゴルの悪魔とはな。あれはただの伝承だと思っていたんだが…………まさか、箱庭に実在していたとは。星としての悪魔だとしたら、本質は白夜叉と同じ星霊か。…………十六夜に譲ったのはもったいなかったか?)
一誠が元居た世界では、ゴーゴン……メドゥーサは種として確立しており、普通の幻獣と同じく繁殖している。
人体に簡単に適合する上に強力な石化の力を持つメドゥーサの目は、裏に関わっている者の間では高値で取引されていた。
黒ウサギは驚愕したまま十六夜を見つめていた。
「い、十六夜さん……まさか、箱庭の星々の秘密に?」
「まあな。この前星を見上げた時に推測して、ルイオスを見た時にほぼ確信した。後は手が空いた時にアルゴルの星を観測して、答えを固めたってところだ。まあ、機材については白夜叉が貸してくれたし、難なく調べることができたぜ」
フフンと自慢げに笑う十六夜に、黒ウサギは含み笑いを滲ませて十六夜の顔を覗き込んだ。
「もしかして十六夜さんってば、意外に知能派でございます?」
「何を今更。俺は生粋の知能派だぞ。黒ウサギの部屋の扉だって、ドアノブを回さずに開けられただろうが」
「…………。いいえ、そもそもドアノブが付いていませんでしたから。扉だけでしたから」
黒ウサギの冷静なツッコミに、十六夜も気が付いて補足した。
「あ、そうか。だけどドアノブが付いていても、俺はドアノブを使わずに扉を開けられるぜ?」
「……………………。参考までにお聞きしますけど、どのような方法で?」
冷ややかな目で十六夜を見つめる黒ウサギ。
十六夜はヤハハと笑って、黒ウサギの期待に応える様に門の前に立ち、
「そんなもん―――
そう言って、轟音と共に白亜の宮殿の門を蹴り破るのだった。
楽しそうに笑いながら中へと入っていく十六夜。
脳筋じゃねぇかと言いながら、続くように中に入る一誠。
前の二人に続いて黒ウサギたちも白亜の宮殿に入り込む。
久々の更新ですのでおかしな所もあると思いますが、ご容赦のほどよろしくお願いします。
誤字脱字報告は大歓迎です。
次こそペルセウス戦本番。