魔神と魔女とさとり妖怪   作:菅野

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導入回
今回のみ東方要素が強いです。


TURN 0 旅立ち の さとり

通常の会話は「」で括り、内心は[]でくくります

 

 

 

 幻想郷 科学が発達しオカルトが駆逐された外の世界から切り離された、妖怪や妖精といった存在にとっての最後の楽園。そんな幻想郷の中でも更に隔絶された、地底の旧地獄、そこにおいて一際目立つ建物である地霊殿。その一角にて少女が物憂げに溜息を零していた。

 

「はぁ・・・・」

 

 

 少女の名は古明地(こめいじ)さとり。この地霊殿の主にして旧地獄の管理者でもある。桃色とも紫ともつかない短く切りそろえた頭髪に、理知的ながらも幼い顔つき、更には身に纏っているスモックのような衣服から管理者には似つかわしくないようにも思えるが、妖怪である彼女は普通の人間ではないため、そこから年齢を推察することはできないのである。

 

「全く……、どこへ行ってしまったの。こいし……?」

 

 さとりが悩んでいるのは管理者としての職務についてではない。彼女の最愛の妹、古明地こいしが行方不明なのである。

 

[こいしが自身の「無意識を操る程度の能力」の影響でフラっとどこかへいなくなってしまうことは確かに珍しくないわ。前回だって3ヶ月以上私の前から姿を消していたのだから。でも、今回はその比ではない…………。]

 

 

 そう。現在こいしは一年以上この地霊殿を離れているのである。単にいなくなっているだけならまだいい。もしかしたらとある事件以降交流が出来た地上の巫女や魔法使い、吸血鬼の所にいるだけかもしれないからだ。だが、そういった伝手を辿ってみても、こいしが姿を現したという話を聞くことはなかった。

 

 

[耳聡い鴉天狗の新聞屋もこいしについての情報を何も持っていなかった。確かにこいしは他人から認識されにくいけれども、誰からも手掛かりを得られないとは思わなかったわ。]

 

 

 そのため流石に妹の奔放さを誰よりもよく知っているさとりであっても、無視できない事態となっていたのである。その能力故に疎まれてきたさとりにとって、まず第一に信頼するのは血を分けた妹であり、その妹が本格的に行方知れずとなってしまえば動揺するのも無理はないと言えよう。

 そのため、管理者としての業務をこなして後は自身が疎まれていることを厭わず、毎日のように外へと赴き、手掛かりはないかと歩き回っているのであった。今日は魔女の力を借りて妹の場所を探り当てる秘術を試してみたが、やはり結果はなしのつぶてであった。

 

[魔女の秘術で探り当てられないのならば次はどうすればいいかしら。伊吹さんに頼んで幻想郷の一体を観測してもらうことはもう試した。河童の発明品も効果はなし。月の賢者には手掛かりがあれば伝えてもらうように頼んだけれど音沙汰はなし。望み薄かもしれないわね。]

 

 

 多忙によって困憊しているさとりを慮ったペット達が諫めるのも気にせず、さとりが夜を徹して次なる手立てを考案しようとしている時、ふいにそれは訪れた。

 他に誰もいるはずのない彼女の部屋のなにもない空間に、唐突に切れ込みが入ったかと思えば、それが開いて切り口となり、その向こう側から金髪の女性が顔を見せた。

 

 

「はぁ~い。古明地さとりさん。御機嫌よう。」

 

 

「八雲紫(やくもゆかり)さんですか。今集中しているところなので、ご用があれば後で伺いたいのですが。」

 

 

 道士服を着た女性-八雲紫-は、この幻想郷を創り上げた賢者であるが、彼女に構っている暇はない。確かにその能力と知力は目を見張るモノがあるが、その性格はひん曲がっており、あまりあてにしてはならない存在であることは確かであった。しかし、さとりの第三の目(サードアイ)は、聞き逃し得ない彼女の声を捉える。

 

 

[あなたの妹に関する情報だけど、それも後回しでいいのかしらぁ?]

 

 

「!? ……申し訳ありません。お聞かせ願えますか?」

 

 

 どうせ心を読むなら同じ事だが、重要な情報を伝える相手には礼を払う。疲労困憊により判断力が鈍っていたさとりだが、そのくらいの機微は勿論わきまえていた。相手が全く意識していない情報を読み取る事は困難となるし、この賢者ならばそのくらいの心術は当然身につけているだろうという打算もあったが。

 

 

 そして紫の心から読み取ったことには以下のようなことであった。

 

・ こいしが幻想郷の外にいるらしいこと

・ こいしの正確な位置、状況まではわからないこと

・ 現在幻想郷と外の世界の境界に異変が起きていること

・ そのためその異変の調査を誰かに頼もうと思っていること

・ 異変のため、現在幻想郷の外に送ることができるのは一名が限界であること

・ 更には一度外へと送ったら異変が解決されるまでは戻ってこられない可能性があること

 

 

 

「大体の事情は飲み込めました。あなたがこのことを私に伝えに来たのは、私に外界に赴いてほしいためだと理解していいのですか?」

 

 

[そこまでは思っていないけれど、少なくとも結界を守る博霊の巫女に任せる訳には行かないとは考えているわね。彼女は幻想郷にいてもらわないとならない存在だし。]

 

 

「それはそうですね。では私が断れば他の実力者に任せるつもりだと。」

 

 

[まあ、あなたである必然性はありませんからね]

 

 

 紫はすこし意地悪げに微笑んでいるようだが、彼女は扇子で口元を覆い隠しているため、厳密な表情を読み取ることは出来ない。ここにおいてさとりは自分が異変解決を頼まれる側ではなくて、お願いする側であることを自覚した。幻想郷と内と外の境界に異常があるということは、こいしが戻って来られなくなる可能性を示唆しているのであり、更には外に行けるのが一名のみであるということは、紫がさとり以外のものに任せてしまえば、自分は固唾をのんで待ち望むことしか出来ない立場に陥ることを示していた。

 

 

[これ以上待つだけの立場に甘んじる訳にはいきませんね……………]

 

 

 すくなくともこの賢者の一存で、自分がこいしを助けに行けるか否かが決まってしまうことは間違いない。そのためにどんな無理難題を突きつけてくる積もりなのか。

 

 

 

「別に、あなたがすぐ引き受けてくれるならばそれで十分ですわ」

 

 

 逆に心を読まれたかのような一言にさとりは狼狽えるが、気を取り直して問いかける。

 

 

「それでは、私を外の世界に送ってくれるのですか?」

 

 

 そうさとりが問いかけるや否や、紫は自分が半身を覗かせている切り口の横に、別の切り口を開く。縁には目玉のようなものがいくつもついていて不気味だが、さとりが怯むことはなかった。

 

 

「地霊殿のことならお気になさらず。外の生活で役立つかもしれない道具一式を渡しておきます。あちらについたらすぐ、中の薬を服用することをおすすめしますわ。」

 

 

 疲労による思考力の低下と、初めて得られた最愛の妹(こいし)についての情報の衝撃、そして制限時間ありの通販のような紫の手口によって、リスクについて考慮する余地はなくなっていた。紫から小さなハンドバッグを受け取ると、お役目や自身の能力のことについて、外界の異変とは一体何なのかについても特に思い悩むことなく、さとりは未知なる世界への入り口を潜った。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、旧地獄の管理者であったさとりが降り立ったのは、旧日本、ブリタニアの植民地としてエリア11と呼ばれる地域であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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