魔神と魔女とさとり妖怪   作:菅野

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TURN 1.5 さとり が 出会った 日

 皇歴2010年8月10日。神聖ブリタニア帝国は、日本に宣戦布告した。極東で中立を謳う島国と、世界唯一の超大国ブリタニア。両者の間には、日本の地下資源を巡る、根深い外交上の対立があった。本土決戦において、ブリタニア軍は人型自在戦闘装甲機「ナイトメアフレーム」を実戦で初めて投入。その威力は予想をはるかに超え、日本側の本土防衛線は、ナイトメアによって尽く突破されていった。日本は帝国の属国となり、自由と権利と、そして名前を奪われた。「エリア11」--その数字が敗戦国・日本の新しい名前だった。

 

 

 

 

 トウキョウ租界 アッシュフォード学園

 

 

「もう!ルルったら電話いきなり切っちゃうなんて。信じらんない!!」

 

 

 頬を膨らませ怒りを表現しているのはアッシュフォード学園高等部二年生にして生徒会メンバーのシャーリー・フェネット。もっとも、彼女の怒りは本気のそれではなく構ってもらえないことに起因する不満の発露でしかないことは、心を読めない人間にとっても一目瞭然だった。もし彼女が自分の電話のせいでルルーシュが死にかけたと知ったらどんな表情をしているだろうか?もちろん、そんなことをこの場にいる誰も知る余地はなかったが。それに対して桃色の髪の少女が質問を投げかける。

 

 

「立て込んでいるということですかね。リヴァルさんからは何かお話は聞いていないのですか?」

 

 

 

 それに対して金髪の女生徒、生徒会長にして学園理事長の孫であるミレイ・アッシュフォードが答える。

 

 

 

 

「なんかね〜。リヴァルが言うには、トラック事故の現場ではぐれちゃったみたいなのよ。まあどっかで遊んだりしてるんじゃないの?」

 

 

 

[でもテロがあったという話も聞くし、結構心配なのよね〜。早く帰ってこないかしらルルーシュ]

 

 

 

 

 

 ミレイは何の気無しに述べるが、そこにルルーシュに対する配慮が込められていることは、賢者の薬により不可視となったさとりの第三の目(サードアイ)に対しては筒抜けなのであった。それよりも見逃せないことがある。

 

 

 

[テロですか……。総督自ら厳戒態勢を敷くことを宣言する程なので重大事項なのでしょうが、それにしては報道が途切れがちですね?]

 

 

 

 

 そう。テロリストに対する遺憾の意を表明して厳戒態勢を敷き、市街地も含めた軍事行動を行うことを宣言したにも拘らず、それ以降の情報が殆ど伝えられていないのだ。テロリストを鎮圧したならそう宣言すべきだし、何か事故が発生したならそれはそれで安全のために告知すべきである。軍事行動において秘密主義は欠かせないが、現在テロリストがどこに潜んでいて何を狙っているのかもよく分かっていないのである。

 

 

 

 

「あっ、じゃあ私はそろそろ部活に行きますね!!お疲れさまでした〜!!」

 

 

 

 元気印である水泳部のシャーリーが去ると、ミレイやニーナといった他の生徒会メンバーも退散していく。そこでさとりはネットに接続し、ブリタニア人向けのSNSへと接続する。アッシュフォード家の世話になって以来、さとりは現代において生活をする作法を身につけていき、インターネットも、こいしの情報を少しでも得るために不可欠だと考え、多少は扱えるようになっていた。

 そうして、トラックに関連する書き込みを調べてみると、トラック事故に際して学生が運転者を救出しようとしたこと、そしてそのままトラックは走り去っていたということを記しているものがいくつか見つかった。写真つきの投稿では、アッシュフォード学園の制服を着た男子生徒がトラックに走っていく画像も見受けられた。

 事故に関して情報を集め始めて少し経った時、さとりは異様な気配を察知する。まるで世界そのものが組み変わっていくような、誰かの心のあり方が大きく変わっていくような、今まで経験したことのないような違和感である。

 

 

[これは……、一体……!?]

 

 

 それほど時間を経ずに、違和感の襲来は収束する。だがさとりの心には大きな気がかりが残されている。八雲紫が渡したハンドバッグに入っていた手紙には、こいし自身が幻想郷と外の世界の境界に関する異変に関与しているかもしれないとのことが書かれてあった。であるならば、先ほどのような違和感について調べることはこいしに辿り着くための手がかりとなるかもしれない。そう考え、さとりは学園の外に飛び出していった。

 

 

 

 

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シンジュクゲットー 近郊

 

 

 遠目にはナイトメアフレームの軍隊が展開しており、総督専用車両も眼前には見えている。多少時間がかかったが、完全なビンゴをさとりは引き当てていた。

 

 

 

 まずさとりが思い至ったのは、トラック事故とテロの関係である。さすがに無事だったとはいえ、建物に衝突する事故を起こしたトラックを警察が放置しているとは考えづらい。だが、事故現場においても警察車両が入ってくることはなかったようだ。さとりは自らの「心を読む程度の能力」を発揮して道端の警察官から話を聞く。警察組織ならば末端であってもそれなりに情報が行き届いているかもしれないとの考えからだ。流石に誰もが知っているということはなかったが、さとりがトラック事故の画像を何人かの警官に見せたところ、口では交通事故として対処中と述べている警官が、軍の介入により操作が打ち切りとなったこと、トラックがテロリストの使用していたものであったことを教えてくれた。

 

 

 そこで確証がとれたさとりは軍における兵站を担う部署へ赴いた。戦略計画を担っているような部署は警備も敷かれており、忍び込むことも容易ではなかったが、どこで事態が発生しているのかを知りたいだけなら、モノの動きを見ればよかった。そしてそれは、休憩中に離席した職務のことで頭がいっぱいの職員の心を読むだけで簡単に達成できたのである。

 

 

 

[警戒されている中でどうにかして接近することに一番時間がかかってしまいましたね。透明化の術でも使えれば良かったですが。]

 

 

 無い物ねだりをしてもしようがないので、まずは目標を見つけなければならない。シンジュクゲットーについてから、さとりは不思議な気配を察知している。まるで幻想郷にいる長命の妖怪や神のような、不思議な精神の持ち主の気配である。外の世界に来て以来同様の気配を感じることはなかったので、とても察知がし易い。さとりはこの気配の持ち主こそが先ほどの違和感に関係があるのだろうとアタリをつけていた。

 

 

 だが、ナイトメアフレームが多数展開している現在、迂闊に近寄る訳にはいかないだろう。どうやら兵士たちは民間人も含めて無差別に襲撃しているらしい。弾幕ごっこは望むところだが、この世界では能力は極力伏せるべきだと考えているさとりはその選択肢を封じた。

 

[日を改めて忍び込むということも考えるべきでしょうが、おそらくこの軍を動かしている方の目標は私と同じでしょうからね……。]

 

 

 そのため、多少のリスクを背負ってもさとりは侵入する道を選んだ。未だに軍が目標を察知できていない以上、この不思議な気配を感知することは少なくとも現在は出来ないのであろうから、こちらにアドバンテージがある。そう考えシンジュクゲットー構内に侵入したさとりだったが、第三の目(サードアイ)は多数の犠牲者の心の声を拾い上げる。

 

 

 

驚愕

 

無念

 

怒り

 

悲しみ

 

嘆き

 

 

 

 [怨霊と接する事が多かったので平気かと思っていましたが、こうも生身の死を見せつけられるとなかなか堪えますね……。]

 

 

 

 確かに特異な環境で生きていたさとりであったが、鉄火場に対する耐性はそれほど高くはなかった。幻想郷での争いは基本的に死をもたらさない仕方で行われるように規律されていたこともあり、自分とは無関係な人たちとは言え無辜の者たちが犠牲となった際の心の悲鳴は想定していた以上にさとりの心にも影響を与えていく。

 

 

 

 そうして身を伏せながら探索していると、唐突に総督専用車両から停戦の命令が下る。目標を達成したというのだろうか?同じものを探していたというのは勘違いだったのか?疑問は残るが探索がし易くなったことは間違いない。ブリタニア軍の撤収を見送った後、さとりは未だ残っている気配に向かって憚ることなく真っ直ぐと進んでいく。

 

 

 

 

 

 

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 暗い地下道に入り数十分が経過した。侵入する前に通ったコンテナで倒れ伏していたブリタニアの小隊から小銃を拝借し、警戒しながら進む。

 

 

 時々心を拾い驚かされるが、多くは地下道に潜むネズミやコウモリといった動物であった。足場もあまり良くなく、肉体派ではないさとりは大きな段差を越えるのに一苦労だった。電線が剥き出しになっているところもあり、触ってしまえば痺れる程度では済まされないだろう。

 

 

[どうせ人の目もありませんし、飛んでいってもいいですかね……。]

 

 

 と考えていると、会話をするような声が聞こえて来た。ただし、耳からではなく第三の目(サードアイ)から読み取れる情報なのであり、尋常の雰囲気ではない。心での会話は覚り妖怪のみに許された特権のはずである。さとりは足を早める。

 

 

 

 そして、眼前に飛び込んで来たのは妹を思わせる緑の頭髪。周囲への警戒も忘れて思わずさとりは目標の人物へと飛びつく。

 

 

 

 

「よかった……!!こいし!!」

 

 

 髪も随分と伸びているし、服もよくわからないスタイルに変わっている。更には姉である自分よりも随分と身長が高くなっているようだが、やっと見つけたのだ。たった一人の私の妹。顔も随分と大人びてしまったが……。とここまで身体的特養を鑑みてさとりはやっと冷静になる。

 

 

 

 

「うわっ……、お前は……??」

[マリアンヌの宿主か?流石に見つけるのが早すぎるぞ……!!]

 

 

 

 驚いた様子の緑髪の女にふと我に帰ると、さとりは顔を赤らめてしがみ付いていた身体を引き離し咳払いをする。そして、両手を挙げ冷静な面持ちで咳払い言葉を紡ぐ。

 

 

 

「人違いで抱きついてしまい大変失礼しました。あなたに対する敵意はなく、私はブリタニア軍でもテロリストでもありません。私の名は古明地さとり。あなたを探しにやってきました」

 

 

 

 

 

 

 こうして、魔女とさとり妖怪は邂逅を果たす。

 

 

 

 

 

 

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