時系列は最終回からMEGAMAXまでの間のお話です。
闇、果てしない闇が広がる洞窟。そこに男が歩いている、壮年の目付きが鋭い男だ。
「――まさか、私のように幻想の郷に流れついていたとは思わなかったよ」
年相応の落ち着いた――だがどことなく浮かれている――声で喋る男。
男の眼前には円盤状の石盤が二つ、石台に鎮座していた。男は石盤の蓋(ふた)をゆっくり開ける。そこには橙色のメダルと黒色のメダルがそれぞれ十枚ずつあった。
男は中央に存在するメダルに手をかける。
「この一枚を抜くことによって10と言う完全な数から9と言う欠けた数になる――」
男は詠うように言葉を紡ぎ、メダルを一枚ずつ抜いた。するとメダルが妖しく輝きだす。その様子を見た男は気持ちが昂り、声も大きくなる。
「そして『欠けた数を埋めたい』という欲望が産まれ!! その欲望から――」
輝きがさらに勢いをまし、宙に浮かび上がるメダル。すると石台の隙間から銀色のメダルが大量に溢れだし、橙と黒のメダルを取り囲む。
「――“グリード”が誕生するッッッ!!!」
メダルの河は人の形を取り、やがて二つの異形が産まれ落ちた。
一つは蛇のような毒牙を持ち、亀の如き頑強な鎧。鰐(わに)の強靭な身体を持つ橙色の異形。
もう一つは蠍を思わす猛毒の針、あらゆるモノを切り裂く蟹のハサミ。海老の頑丈な甲殻を持つ黒色の異形。
「ハッピーバースデー……! 忘れ去られたグリードッッ!!」
男の高笑いが闇に包まれた洞窟にどこまでも響いた――――
◆
夜の闇が白み始め、あと二時間くらいもあれば朝がくるであろう時間帯。
聖徳道士――豊聡耳神子(とよさとみみのみこ)はそんな微妙な時間に目が覚めた。無論、好きで目覚めたわけではない。みょんな夢を見たせいだ。
夢の内容は右腕の妖怪と一人の男の物語……だった気がする。殆ど忘れてしまった。――夢のことはどうでもいい夢のせいか変に目が冴えてしまい、二度寝をしようとしても寝付けない。
この時間帯だ。他の者はまだ寝てるだろう。
――――皆(みな)が起きるまでの間、どうしようか……。
「(……散歩でもするか)」
そう考え、寝間着から着替え愛用の耳当てを付け神子は外に出向いた。
◆
神子らが住む道場は仙術によって作り出した異空間――仙界に存在する。
異空間と言っても普通の空間とさほど変わりはなく、動物がいないのが普通の空間と違うところだろうか。
神子はある程度舗装された道を歩いていた。散歩なので目的地はない。時間がたったら戻ろう……と考えていた時――
――前方になにかの気配を感じた。
この仙界には動物は存在しない。皆もまだ寝静まっている。
つまり誰かがここに侵入して来たのだ。考えられる侵入者は妖怪の賢者だが、それにしては妖気が感じられない。
気配がどんどん近づいてくる、神子は念のためにスペルカードを構える。そして遂に仙界に侵入してきた不届き者の姿が見えた――
「あ! すいませーん!!」
なんとも気の抜ける人の好さそうな声と共に人間の青年が駆け寄ってくる。
異国風の服を纏い、下着がぶら下がっている木の枝を持つ人が好さそうな青年。だが、彼は簡単に入り込めない仙界に入ってきたのだ。神子は警戒を解かず青年に話し掛ける。
「君は……?」
「あ、俺は火野映司です。貴方は?」
「私は豊聡耳神子。――君はどこから来たのですか? ここは簡単には来られはずなのですが……?」
神子の問いに青年――火野(ひの)映司(えいじ)はウーンと考え込む仕草を取りながらゆっくり喋り出す。
「俺も未だによく分からないんですけどエジプトの砂漠を歩いていたら、急に景色が歪みだして気づいたらここに居たんですよ。それで歩いていたら神子さんにあったんです」
「……目玉が沢山ある空間の裂け目は見ましたか?」
「うーん…………あ! 一瞬だけですけど見ました!」
――やはりアイツか……。
妖怪の賢者の持つ力、それで映司はここに連れてこられのだ。
「それで、神子さん。ここはどこなんですか?」
「……ここは幻想郷。――分かりやすく言うと異世界です」
「ええぇぇぇ!? 本当ですか!?」「嘘をついてどうなるんですか……。それにしてもあまり驚かないのですね?」
いきなり異世界に来たのなら普通はもっと驚き、戸惑う。だが、目の前の青年は驚きはしたが戸惑ってはいないむしろ落ち着いている。
「いや~、こういう非現実的なことには慣れてるんで」
「……どう言う暮らしをしてたんですか君……」
やや能天気な映司に思わず苦笑してしまう神子。
「さて、詳しい話は私の道場でしましょう。付いて来てください」
「はい、分かりました」
映司を自分の道場に案内する神子。
だが、神子は映司に違和感を感じていた。――――欲が聴こえないのだ。
欲は万物に宿るモノ。しかし、映司にはその欲が聴こえない――いや、聴こえるには聴こえるのだが極端に薄いのだ人間とは思えない程に。そんな違和感を抱える映司、しかし外来人である以上放っておくわけにもいかない。
映司にたいして警戒を緩めず、神子は歩き出した――――
やってしまったエタる未来しか視えないSS。奇跡が起きたら続く