*誤表現があったので修正しました
「――――忘れ去られたモノが集う地、幻想郷……ですか」
あれから道場兼住まいに案内された映司は神子と起床した蘇我屠自古(そがのとじこ)――映司は彼女の足を見た時、少し驚いたがすぐに慣れた――、物部布都(もののべのふと)と共に朝食を摂っていた。
彼女らの話によると幻想郷とは日本のとある山奥に存在する外とは結界によって隔離された世界であり、外の世界では空想の存在とされてる妖怪、妖精、神などが住んでいるらしい。そして神子らは尸解仙(しかいせん)の術をつかい千四百年もの時から復活した人間らしい。
そして神子は聖人であり仙人でもあり神霊であるスーパーハイブリッドな人物なのだ。
「それにしても驚きました。神子さんがそんなに凄い人だったなんて」
「ふふーん、そうじゃろそうじゃろー」
幻想郷の説明と共に布都から神子の武勇伝――かなり語り手の主観が入ってるが――を聞き、映司はそう言いその言葉を聞いた、布都は自慢気だ。
「ふふっ、それほどでもありませんよ」
その様子を見た神子は笑みを零(こぼ)す。
しかし、未だに映司への警戒を解いてない。出会って数時間くらいしか経ってないが映司は好青年とも言うべき人柄だ。しかし、欲が一切聴こえないと言う異常が否応もなしに警戒してしまう。あの半人半霊の庭師でさえ欲は聴こえたと言うのに。
そんな神子の異変に気づいた屠自古は映司にバレないよう神子にヒッソリと話し掛ける。
「どうしたのですか太子様? 少し変ですよ」
「……気づいてたのですね」
「当たり前です。何年、貴女の元に仕えてると思ってるんですか」
それを聞いた神子は、屠自古に映司の抱える違和感について話し始めた。ちなみに当の映司は布都と一緒に遊んでいる。
「実はあの者――映司から欲が聴こえませんでした」
「えぇぇぇ!?」
『欲が聴こえない』と言う言葉に驚愕する屠自古。だが、すぐに落ち着きを取り戻し、話を続ける。
「でもそれっておかしいですよ。まえ見かけた半人半霊のヤツならともかく、あの人はどうみたって人間ですよ」
「だから分からないのですよ。人間である以上、欲は持っているはずなのに彼からは全く聴こえない……」
「……それで彼はどうするつもりなのですか?」
「博麗神社に送るつもりですが……まずは本人に聞いてからね」
神子は映司の方を見やる。そこには、
「あ! 太子様! どうですか似合いますか! この帽子!」
「布都ちゃーん! ソレは被る物じゃなくて履く物ー! てか俺の明日ーっ!!」
映司のパンツを帽子か何かと勘違いし、頭に被ってる布都とそれをどうにかしようとする映司の姿があった。その光景に屠自古は思いっきり吹き出し、神子も笑ってしまった。 シリアスの台無しである。
◆
「さて、映司。君はこれからどうしますか?」
朝食を済ました映司はこれからの予定を話し合っている最中だった。
ちなみに布都は映司からパンツを一枚貰った。気に入ったらしい。
「俺としては幻想郷を旅してみたいところですが……」
「結構危ない所ですよ? ここ」
「ですよねぇ……俺だって食べられるのは嫌ですし……やっぱり帰ることにします。あ! でも人里は寄ってみたいかも!」
相変わらずややノーテンキな映司。神子はため息を付きながらもそれを了承する。
「……分かりました。では、案内は私がしましょう」
「(えぇっ!?)」
「わー! ありがとうございます!」
神子の発言に内心驚く屠自古と対照的に喜ぶ映司。
「では私は準備がありますので君は先に外に出てください」
「はーい」
映司は外に出、神子と屠自古、布都の三人が残った。
そして屠自古は心配そうな顔で神子に聞く。
「大丈夫なのですか太子様……?」
「?」
事情が分かってない布都はきょとんとしているが、事情を知る屠自古は心配している。
ただの人間なのに欲が欠落しているある意味イレギュラーな存在である映司、そんな彼が神子に害を為さないか不安なのだ。
「心配症ですね屠自古。でも大丈夫ですよ。もし仮にあの者が私に仇なす者なら相応の対処をするだけですよ」
「ですが……」
神子に宥められるも、まだ何か言いたげな屠自古。そんな彼女に神子は優しげな口調で話す。
「だから大丈夫ですよ、私を信用してください」
「はい……」
「さて、映司を待たせるてるので。布都、屠自古、留守番を頼みましたよ」
「おー! 任せてくだされ!」
なんとか納得した屠自古を見ると、二人に留守を任せ外へと出た。
◆
映司と神子が出会う少し前、幻想郷のとある森。
そこに一匹の妖怪が歩いていた。
「あー……腹が減った……」
彼は人喰い妖怪であり割と凶暴な部類の妖怪なのだが……今の彼は空腹に悩まされている。その理由は外来人がてんで喰えないのである。本来なら最低でも二ヶ月に一人くらいは喰えてたのだが、ここ最近は他の妖怪に取られたりして食事にありつけていない。
だから今日も空きっ腹を擦りながら、外来人を捜しているのだ。
「碌(ろく)にいやしねぇ……もうオレは餓死でもすんのかぁ?」
などと言っていた時である。
――目の前に橙色の異形が唐突に現われた――
異形の姿はまるで、
亀のようでもあり、
蛇のようでもあり、
鰐(わに)のようでもあり、
蜥蜴(とかげ)のようでもあり、
ヤモリのようでもあるその異形。
それは足音もなにも無く、まるで始めからそこにいたかのように現れた。異形は妖怪にこれまた唐突に語りかける。
「――――貴様は腹が減っているのか?」
意図不明なその質問に妖怪は訝(いぶか)しげながらも、答える。
「あ、ああ、最近は人間を全然喰えなくてよぉ……」
「そうか……」
その回答に異形はニヤリと笑い、懐から見たこともない銀貨を取り出しこう言った。
「ならその欲望。――――解放しろ」
異形が投げ出した銀貨はチャリンと言う音と共に、妖怪の中に入り込んだ。
するとどう言うことか妖怪の中から、包帯に包まれたような人型の異形が這い出てきた。包帯の異形は呻き声を上げながらフラフラと歩いている。
「ななななんだ! コイツぁ!?」
「貴様が知る必要はない」
驚愕する妖怪の質問に橙色の異形は答えずに殴り飛ばす。妖怪は木に激突しそのまま気絶してしまった。
そして包帯の異形は相変わらず呻き声を上げながら辺りのモノを喰い始めた。木の実などは勿論、木や草、石に毒キノコ。果ては不運にも通りがかった妖精すらも無差別に食べる包帯の異形。すると包帯の異形は脱皮するかのように変化し、人型の蜥蜴に人間の顔が付いたような姿になった。
蜥蜴の異形は辺りにめぼしい物が無いと確認するやいなや、自らの欲望のままに『人里』へと向かった。
「この調子だとセルメダルはそれなりに期待できるな……」
橙色の異形は満足気に笑うとゆっくりとこの場から去った……。
◆
そして時間は戻り。
「ふふふ……」
今日の藤原妹紅(ふじわらのもこう)はご機嫌だった。なぜなら今日は妹紅の好きなアイスキャンディーの特売日だからである。この日の為にお金を貯めてきたのだ。
親友である上白沢(かみしらさわ)慧音(けいね)からは「冷たい物ばかり食べると体を壊すぞ」と言われているが今回ばかりはいくら親友の頼みとは言え聞けない。
「今回は二十本くらい買おうか……」
自然と足並みは軽くなる。あと数分もすれば人里に着く、妹紅は前回食べたアイスキャンディーの味を思い出しながら歩いていた。
――しかしアイスキャンディーのことで浮かれていたのか、妹紅は突然の襲撃に対応できなかった。
『グアアァァァァーーーーーッッ!!!』
「んな!?」
近くの茂みから突然に飛び出た蜥蜴の異形。
蜥蜴の異形は妹紅に組み付き、押し倒す。
「こんの……離せっ!」
妹紅は妖術の炎を纏った蹴りを繰り出し、抵抗を図るが丈夫な鱗に包まれた蜥蜴の異形には黒い焦げを作るだけだった。
そして、蜥蜴の異形は妹紅の右腕を――
『オマエウマソウダナァァァァ!!』
「ァ、アアァァァァア!?」
噛み千切った。鮮血が舞い、妹紅の顔や異形の体に大量の返り血が付着する。
永遠の宿敵との殺し合いで痛みには慣れているとは言え、やはり痛いものは痛い。思わず苦痛の叫び声を上げる。更に異形は噛み千切った妹紅の右腕を嫌な音と共に喰い始めた。
右腕を食べ終えた異形は更なる食糧(にんげん)を求め、かなりのスピードで走り去った。
「ックソ……! あっちには人里が……!」
あんな危険な者を人里に入れるわけには行かない。妹紅は激痛を堪(こら)えながら人里へと飛んでいった。