「あーもうムラサのヤツ~……」
命蓮寺の廊下をぬえが歩いていた。村紗のオクトパス・ホールドのせいか、体の節々がまだ痛い。
自業自得だし、ぬえもその事をちょっぴり反省はしているのだがいくらなんでもやり過ぎだ! と言うのがぬえの言い分だ。気晴らしに外に出て誰かにイタズラを仕掛けてやろうかと思った時、
――――不意に誰かの視線を感じた。
「?」
視線を感じた方向は天井。ぬえは上を見上げるが誰もいない。
ぬえは疑問に思いしばらく考え込むが、
「気のせいか」
自身の気のせいだと判断し、再び歩き出す。
誰も居ないはずの天井、しかしそこに異形が居た。ザリガニを人型にしたような異形が。
『『『…………』』』
――――そうぬえが感じた視線は気のせいではなかったのだ。
ザリガニの異形、ザリガニヤミー――それも一体ではなく十数体も――は今は息を殺し潜んでいる。主の命があるまでひたすら隠れている。
◆
トカゲヤミーの襲撃から翌日。
不安まだ残るが住民たちはいつも通りに暮らしていた。たくましいのだ|ここ(幻想郷)の人々は。そんな人里で怒号が響いた。
「――エェェェェェェェェーーーーーーージィィィィィィィィィッッ!!!」
怒声の主こと神子は映司に駆け寄り(チーターレッグ並)そのまま聖から引き離す。
そして胸倉を掴み、怒鳴り声を上げる。
「なにやってるんですか君はぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!?」
「み、神子さん……? ど、どうしたんですか……?」
神子の様子に若干怯みながらも映司はどうしたのかと聞いてみた。
「どうしたもこうしたもないですッ! 聖白蓮はいわば私の商売敵なんですよ!! いくら君が聖白蓮のことを知らなかったとはいえッ! なんであんな仲良くなってるんですかぁぁぁぁぁーーーーッッ!?」
「み、みこ、神子さんッ! お、おち、落ち着いてーッ!?」
映司の胸倉を掴みながら、前後に激しく揺らす神子。
……なるほど、神子と聖はそんな関係だったのかだったらある程度の納得はつく。しかし、そこまで過剰に反応するものなのだろうか? そこが解せない。
ともかく、神子をどうにかして落ち着かせなければ、しかしどうやって落ち着かせようか……映司が考えていると、渦中の人物である聖が二人に声を掛ける。
「まぁまぁ、ひとまず落ち着いてください神子さん。火野さんも困ってますよ?」
「貴方が――」
「このままだと火野さんもお話できませんし……だからまずはその手を除けましょう?」
「ぐぬぬ……」
聖は神子を諭すように言う。
確かに聖の言うとおりだ、このまま怒っていても仕方がない。いったん冷静になるべきだ。神子はそう結論付け映司から手を離す。
「すいません……少し取り乱してしまいました……」
神子は落ち着くために一つ深呼吸をし、
「――でも、理由はキチンと聞かせてもらいますよ?」
冷静なったあとはややねめつけながら映司に問い詰めた。
「分かってますって、ハハハ……」
その様子に映司は苦笑するしかなかった。
◆
話は一時間前に遡る。
「あ、あれ……?」
映司は見たこともない建物――良く見れば寺のようにもみえる――の中に立っていた。
おかしい、神子の話だと人里に行けるようにされていたハズなのだが……。どういうことだろうか?
ともかく土地勘もない映司が下手に動けば迷うハメになる、その前にまた仙界に帰って神子にこのことを話そうと思ったとき、
「――誰ですか? 貴方は?」
後方から声が掛かる、映司が後ろを振り向くと不思議な髪の女性――聖白蓮が不思議そうに映司を見ていた。
……まさか、見られた?
「えっと……見てました……? さっきの……?」
「はい」
……どうしようか?
隠すべきか……? いや素直に話そう。幻想郷の住人なら信じるだろうし、なにより隠すようなやましいことはなに一つないのだから。
「俺は火野映司。外来人ですけど今は神子さんの道場でお世話になってるんです。それで、その神子さんに買い出しを頼まれて人里に行こうとしたら何故かここに来ちゃったんですよ」
「つまり迷子ってことですか?」
「はい、そういうことになりますね……」
この年になって迷子は中々恥ずかしいが、事実なのが悲しい。
そのことを聞いた聖は「ふむ……」と少しの間考え、一つの提案を出してきた。
「だったら私が人里まで案内しましょうか? 私もお夕飯の買い物をしなきゃいけませんので」
彼女の好意を無碍にするわけにもいかない。
映司は聖の提案に乗ることにした。
「えっと、それじゃお願いします」
◆
「――と言うワケで……それで聖さんの買い物も手伝ってたら、遅くなっちゃて……すいません」
「いやもう気にしてません。それより謝らなければならないのは私の方です、まさか失敗作を君に渡すとは……」
遅れたことに関してはもう気にしていない。
しかし、やはりあの札は失敗だったらしい……自分の力にはそれなりに自信を持っていた神子はややショックを受けてしまう。
……しかし、なぜ失敗したのだろうか? まぁ、単に自分の力不足だろうが妙に引っ掛かる。神子はショックを受けた事など忘れ深く思考する。その時だ、聖が神子の口に何かを突っ込んだ。
「えいっ」
「むぐっ!?」
突っ込まれた物の正体は揚げ饅頭だった。それもアツアツの出来立てなので思わずむせてしまう。
「げほっ……ごほっ……何するんですか!?」
「考える時には甘い物が一番ですからね♪」
「だからっていきなり口に突っ込まないでください! 火傷しますよ!!」
「……アイスキャンディーを突っ込んだ方が良かったのでしょうか?」
「まずは突っ込む事から離れなさい貴方は!」
「それよりも冷めてしまいますよ? 揚げ饅頭」
「話をそらすなっ!」
聖がからかい、神子がそれをツッコむ。
傍から見れば仲が良さげにも見える二人の会話、商売敵同士には見えない。しかし、先程の神子の様子を見ると神子は聖が苦手なのだろうか?
映司は先程、聖から貰った揚げ饅頭を頬張りながらそんな事を思っていた。
――――その時、神子の表情が変わった。
「――ッ!」
そして、それが意味するのは、
「映司っ! ヤミーが現れました!」
ヤミーが幻想郷のどこかに現れたことだった。
「神子さん! ヤミーはどこに、――ッ!?」
映司は神子にヤミーの所在を聞こうとした矢先、閃光が走る。
その眩しさに二人の視界は一時的に奪われた、そして視力が回復する頃には周りの景色は一変していた。
「ここは……?」
映司は辺りを見渡す、さっきまで人里のはずなのに今は荒れ地になっている。
生き物の気配すらしない、映司と神子の二人だけだ。
「――恐らく仙術で異空間を造り出したのでしょう、気を付けてください」
困惑する映司に神子が説明する。
異空間の創造。それは仙術をある程度学べば使用できるわりと簡単な術らしい。もしそうならかなり厄介だ、敵に仙術を扱う者がいるのだから。
ともかく、まずはここから脱出するのが先決だ。この異空間が仙術により造り出された物なら同じ仙術でなんとかなるはずだ……神子はそう思いさっそく実行しようとその直後――――二人は敵意と殺意を感じた。
『――お前が今代のオーズか……』
敵意を放った主は二人の目の前に居た。
あらゆる爬虫類の特徴を取り入れたかのような橙色の異形。映司は外見的な特徴から、神子はその異形が発するヤミーとは比べ物にならない強い、強い欲から即座に理解した。あれはヤミーではないあれはヤミーよりも上位の存在――――
「グリード……!?」
眼前に居る爬虫類のグリードは敵意を露わにしながら静かに佇んでいた。外の世界での戦いでもグリード達とは何度も相対した、どのグリードも生物の王の称号にふさわしいプレッシャーを発していた。そしてこの爬虫類のグリードも変わらないプレッシャーを持っていた。
爬虫類のグリードに神子は冷たい声で問う。
「君か? 幻想郷にヤミーを放ったのは?」
その質問に爬虫類のグリード――ゴーシュは答えた。
「ああ、そうだ。ヤミーを作り、この幻想郷に放ったのは俺だ」
(……?)
あまりにあっさり答えるゴーシュに訝しげに思いながらも続けて問う。
「この異空間は仙術で造り出すモノなのだろう? 君が造ったのか?」
『違う、使ったのは俺だがこの空間を造ることが出来る道具は違うヤツが作り出した』
――やはり仙術を知る者が敵側に居たのか……。
神子の予想は当たっていたようだ。
「そのヤツについても詳しく聞きたい所だろうが……君は答えないのだろう?」
『当たり前だ。敵にそんな情報をやるほど俺は阿呆ではない。――――さて、問答はもう良いだろう? 今代のオーズ、お前の持つコアメダルを貰うぞ』
そう言いゴーシュは構える。敵意も更に増した。
「やっぱりね!」
「相手はグリードです。油断は禁物ですよ」
「わかってますって!」
映司もオーズドライバーを取りだし、変身の構えを取る。
「変身ッ!!」
――タカ!
――トラ!
――バッタ!
――――タ・ト・バ! タトバ、タットバ!!
「ハアッ!」
変身したオーズは早速、ゴーシュに向かって駆け殴りかかる。
しかし――
「か、堅い……ッ!」
先日交戦したトカゲヤミーより遥かに堅い装甲を持つゴーシュ。逆に攻撃を仕掛けたオーズの拳が痛んでしまった。
『こんなものかッ! 今代のオーズ!』
オーズに生じた僅かな隙をゴーシュは逃さずにオーズの胸部に向かって強烈な拳の突きを食らわす。
「ぐあぁっ!?」
たったの一発だがその威力は凄まじくオーズは吹っ飛び、近くにあった岩に激突した。
「映司ッ! クッ!」
――眼光「十七条のレーザー」
神子はオーズ――映司を助けるべくスペルカードを発動させる。
ゴーシュに向かい、レーザーが襲い掛かる。
『甘い!』
だが、ゴーシュはその弾幕を腕をクロスことにより防いだ。
「セイッ!」
オーズはメダガブリューを召喚し、ゴーシュに斬り掛かるがそれもゴーシュの亀の甲羅を模したかのような腕に防がれ、ダメージを与えるには至らなかった。
オーズは反撃をくらう前にバッタレッグの跳躍で一旦距離を取り、後方にある岩を蹴りつけその勢いを利用した飛び蹴りを放つ。
――――仙符「日出ずる処の天子」
神子もスペルカードを発動させ、オーズを援護する。
キックはゴーシュの腹部に命中。更にそこを踏み台にしてゴーシュの背後へクルクルと飛び、すれ違い様にあらかじめ展開したトラクローとメダガブリューで斬りつけた。
そして地上に降りるとそのままメダガブリューを投擲。そのメダガブリューに向かって神子が弾幕を撃つことにより、メダガブリューに弾幕の力が宿る。
メダガブリューはゴーシュに向かって回転しながら飛び腹部に命中する。
『ぐおッ!?』
初めてゴーシュの口から苦悶の声が上がる。やっと堅牢なゴーシュにダメージが入ったのだ。
『……フンッ!』
「うわあっ!」
しかしその次の瞬間、ゴーシュはかざした掌から大蛇を顕現させる。大蛇はオーズに巻き付き、主であるゴーシュの元へ引き寄せた。
苦手な蛇に巻き付かれて、若干怯んでいるオーズにゴーシュは容赦なく拳打のラッシュを叩き込み、最後に蹴りを決めた。
『ハアァァァァッ!!』
「ぐあああっ!?」
火花を散らしながら吹っ飛ぶオーズ。
地面に激突し、ゴロゴロと転がりダメージの大きさに呻く。
「映司っ!?」
神子は倒れたオーズに向かって叫ぶ。
『さて、コアメダルは頂くぞ。今代のオーズ』
「ぐっ……!」
そう言い、ジリジリと近寄るゴーシュ。立ち上がろうにもダメージが大きく立つことさえままならないでいた。
ゴーシュに対しては神子の弾幕も蚊が刺す程度だろう。
まさに絶体絶命の状況であった。その時――――
――光魔「スターメイルシュトロム」
ゴーシュ達の背後に弾幕が放たれた。
その攻撃が不意打ちだったためか、ゴーシュは弾幕を受けて僅かながらよろめいた。 空から弾幕を撃った人物が降りてきた。
「――その人から離れてください」
その人物とはゴーシュに毅然とした目で見る不思議なグラデーションの髪をした女性、――聖白蓮だった。
「なんで貴方が……っ!?」
神子が驚きながら当然の疑問を言う。
聖は微笑みながらその疑問に答えた。
「あの眩い光を見たと思ったらここに居たのですよ。それでしばらく飛んでいたら貴方達を見かけたんです」
異空間に閉じ込められたのは神子と映司だけではなかったのだ。
聖は説明を終えると、表情を真面目な顔に変えゴーシュを見やる。
「なぜ貴方はこの人達を襲ったのですか?」
『……コイツの持つ物が必要だからだ』
「そうですか……」
聖はそう言うと不思議な形の巻物――魔人経巻を取りだし、構えを取る。
「――私は詳しいことは分かりません。でも、貴方を見過ごすワケにはいきません!」
魔人経巻から光が輝き、スペルカードを発動させる!
――――超人「聖白蓮」
オリグリードが今回、戦闘したのでゴーシュの軽い説明を
ゴーシュ、爬虫類系のグリードである。彼の造るヤミーは時間が経つことにより、脱皮し力が増すと言う特徴がある。そして、ゴーシュの最大の特徴はその防御力、とにかく硬いひたすら堅い、グリードの中では一番の防御力を持つ。ぶっちゃけタトバじゃまともにダメージを与えられません、堅くて。